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第44話 願い

 「二週間後か、思ったよりは早いほうかな…… 」


 メールを見た天野は最初にそう言った。

 それを耳で拾ったクニヨシは顔をしかめる。


「エデンシステムを組み込むとしたら、ギリギリじゃねーか?」


 その彼の言葉に天野は答える。


「いや、カムスがいるから組み込むだけなら、そこまで掛からないと思う。ただ軍事に関する事をモジュールに学習させるには、時間が足らないかもしれない」


 戦場にいきなりモジュールを投入しても、逃げまどうか、武器の使い方も分からず倒されてしまうだろう。


「どうすんだ?」


「どうもしないよ。時間が来たら切り上げて、そのまま投入する」


 その回答に呆気に取られた表情のクニヨシは、体ごと天野に向き合った。


「負けたら…… いや、勝ってもお前はどうなる」


 このシミュレーション対戦は勝ち負けの戦いでは無い。

 しかし、相手側の意向は分からないままだ。


「分からないよ。ただ、こうなったらやるしか無い」


「まったく。お前は大物なんだか、ただのバカなのか分からねぇな」


 小さなため息の後、苦笑の表情を浮かべるクニヨシ。


「酷いな、けど否定はしないよ」


 その言葉に軽く笑い天野は答えた。

 いつもの雰囲気、空気に戻ってきた。

 気になる事はある。

 しかし、天野は目の前の事に集中する事にした。


〜〜〜・〜〜〜・〜〜〜・〜〜〜


 研究室から飛び出した久美は、今は廊下をトボトボとした歩調で歩いている。

 (うつむ)き、肩を落とした彼女の表情は今にも泣き出しそうだ。

 彼女はほんの数週間前の事を思い出す。


「天野にはあのシステムを完成させて貰いたい」


 彼女の中の加賀見は言う。


「豊野、大変だろうが今以上に彼に協力してくれ」


 それから久美にいかに天野が考えたシステムが素晴らしいモノであるのか、その発想と概念(コンセプト)がいかに優れているのかを、久美に嬉しそうに話す姿。


 そして……


「天野の持病の件を含め、私は出来る限りフォローしていきたい。私に気付かないことがあれば教えてくれ」


 そう言って心配げに微笑む。

 その時久美は気付いた、気付かされた。

 彼女は天野刀那に特別な想いを抱いていると……

 恋愛とは違うと思う、だけどそう思えてならなかった。


 そして久美は、その時の自分の気持ちを思い出さずにいられなかった。

 

 あの時、私は「諦めた」のだ。

 彼には彼女こそ相応(ふさわ)しいと思ったから。

 そして、私は「決めた」のだ。

 彼女こそ彼に必要だと感じたから。


 学園ではお互い生徒と教員という立場だけど、私は加賀見玉緒(タマチム)という人物に対しては友人でありたいと願った。

 昔のネットゲームで知り合った時のように、楽しく時間を共にしようと願った。


 学園を離れる時でさえ、ガイアがあれば、それさえ繋がっていればうまくいく。

 そう、思っていた…… そう思い込もうとして…… 願っていた。


 だけど……

 それはもう無理だろう……


 やがて、久美の視界はボヤけてくる。


「久美先輩」


 彼女の背中から呼びかけの声がする。

 声は美奈のものだ。

 久美は奥歯を噛みしめ堪える。


「な、何? 美奈ちゃん」


「大丈夫…… ですか」


 美奈はそっと久美に近付いた。


「わ、私は別に……」


 久美は小さく肩を震わせ、言葉を出した時には、涙を流していた。

 後輩である美奈に見せまいと、身体の向きを変え耐えようとする。


「…… 」


 美奈は何も言わず、それを見守る。


「天野先輩も酷いです」


 おもむろに久美は声を上げる。


「加賀見先生にあんなことして、天野先輩は昔から周りに迷惑かけてばかりなんだから」


 久美は美奈を優しい子だなと思う。

 自分を元気付けようとしているのがわかる。

 恋敵みたいな自分に向かって……


 そして美奈は優しく久美に言う。


「久美先輩は私が天野先輩と一緒になっているのを、嫌がっていましたよね。けど、それは加賀見さんの為にそうしたんじゃ無いですか?」


 その言葉に久美は驚く。

 泣き腫らした目で美奈の方に顔を向ける。


「私は最初から知っていました。天野先輩が誰のことを好きなのか」


「美奈ちゃん…… 」


 続けて美奈は話す。


「私は天野先輩の事が好きです。でもそれは子供の頃、私のお姉ちゃんがいた時の天野お兄ちゃんが好きだったからです。私が天野先輩はを好きと言うのは…… 楽しかったその時に戻りたいと思ったからなんです」


 そこからは美奈は少し(おど)けるように話を続けた。


「だから私も今の天野先輩には怒っているんです。先輩がバシーってやった時、少しスカッとしました」


 そう言って美奈は久美に向かってニッと笑う。

 彼女のその笑顔で、久美は気持ちが落ち着いたのを感じる。


「ごめんね。ありがとう」


 久美は袖で目を擦ると、赤い目のまま美奈に笑顔を返した。


〜〜〜・〜〜〜・〜〜〜・〜〜〜


「もう大丈夫ですね」


 久美の顔を見て、美奈は言う。


「うん」


 久美の言葉に張りが出てきた。


「それじゃあ戻りましょう」


 美奈はそう言うと久美の腕をムンズと掴み、研究室の方へ引っ張って行こうとする。


「えっ、ちょっちょっと!」


 慌てて手を振りほどこうとするが、思いのほか美奈は力が強く、振りほどけない。


「思うところはあると思いますが、久美先輩も天野先輩を手伝ってください」


 先ほどの天野に対してやった事を考えると気が重い。

 

「そ、そうは言っても…… 」


「大丈夫です! 絶対、先輩の力が必要になりますから」


「そう言うことじゃなく…… 」


 そうこうしているうちに、彼女達は研究室の前に到着する。

 美奈は扉に手をかけると同時にそれをを開ける。


「手伝いに来ました」


 その声に顔を向けた天野は、見ると同時に戸惑いを持つ、扉越しに久美の姿があったからだ。

 

「お〜、美奈ちゃん助かるわ〜」


 呑気な声でそう言ったクニヨシも久美の姿を(とら)える。

 そして次には久美に向かって親指を立て、グッドサインを送った。


「豊野。ナイスパンチ」


 その投げ掛けに顔を赤くする久美。


「な、何よ! バカじゃ無い」


 だがクニヨシは全然気にしないで、顔を別の方向へ向ける。


「そうだろう? な、天野」


 え? とした表情を浮かべる天野に対し、ニッっと笑顔を送るクニヨシ。

 そして天野は笑う。


「ああ、ナイスパンチだった」


 久美に向かって。

 その言葉にさらに顔を赤くした久美は二人に向かって叫んだ。


「何よ! 二人ともバカじゃない!」


 その様子に美奈はホッとした表情を浮かべると、久美の肘を取る。


「久美先輩時間がありません。入って入って」


 二人は滑り込むように部屋に入って行った。


 

明日からお仕事始まりますんで、投稿が遅れます。

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