第43話 詫び
クニヨシは軍事シミュレーションの概要を目の前にして確信を口にした。
「これはガイアシステムそのものだな。間違いなく[ドッペルゲンガー現象]を起こす」
対戦と同時にか、或いはその前にどちらかのシステムは吸収か抹消されると言うことだ。
天野は彼の言葉に顔を曇らせながら、タカミの提案を改めて言葉にする。
「タカミの言った、このシステムに[エデンシステム]を絡めるのは、やはり時間がかかるのか?」
「この内容なら、そこまで時間が掛かるとは思わないんだが、それがどれだけ効果があるのかが問題だな。エデンシステムが向こうのモジュールに影響を与えたら本末転倒だ」
クニヨシはそこで首をかしげる。
「どうした?」
その様子に天野は声を掛ける。
「いや、思ったんだがよ、これ必要か?」
指は軍事シミュレーションシステムに、顔は天野の方に向けて疑問を口にした。
天野は「当然だろ」と言いかけて口を噤む。
口を開く直前に彼も気付いた、いや違和感を感じ取ったと言うのが正しいのか、そこで考え込む。
…… この、対戦の目的は何だ?
戦闘の勝敗が目的では……無い。
演算処理能力を競うわけでもない……
ガイアは[完全なるシミュレーションの構築]を目的としている……なら。
「いや、必要無いな。この対戦は物理演算の処理能力を競うものでは無いし、勝敗など二の次だ。この戦いは現実世界と比べてどちらが遜色ないかが重要視される」
クニヨシは確認のため、一つ気になることを天野に聞く。
「向こうは何と言っているんだ?」
「わからないよ」
その回答に眉をひそめ、ため息を吐く。
「(まったく、考えなしが)」
顔に出ていたクニヨシだったが、先ほど改めてコイツに協力すると決めていた。
もう、とやかく言うつもりは無い。
「そうなると、この軍事シミュレーションシステム自体は絶対に必要なものでは無いんだな」
クニヨシは、もう一度確認をと言葉を重ねた。
「ああ、そうだ。これは軍事シミュレーションで動かす軍人…… 人モジュールに組み込むシステムこそが対戦の目的になる。こっちはエデンシステム、向こうはアシカビに似たシステムを使用するはずだ」
「何故言い切れる? 向こうがエデンシステムを使う可能性は?」
クニヨシの懸念はもっともである、同システムでは対戦の意味が無い。
「無い。エデンシステムは開発中のモノでこちらだけが所持している」
確かに天野の言う通りだろう。
加賀見はその概要は知ってはいても、新たに組み直す事は無いはずだ。
カムスのシステムが仮にあったとしても時間が足りない。
「なら、表面上は軍事シミュレーションシステムの激突だが、実際は人型モジュールを動かすシステムの対戦となるわけだ」
クニヨシは考える……
確かに向こうの外部情報演算処理システムと、天野のエデンシステムとは別物だ。
しかし、何らかの影響でシステムが混同し同化する、いわゆる[ドッペルゲンガー現象]が起こりうる可能性もゼロでは無い。
「あとは、お互いのシステムがどう影響するかだな」
クニヨシの言葉に天野も頷く。
「タカミはエデンシステムを絡めるようにすれば、ドッペルゲンガー現象を防げるような事を言ってたが…… 」
そこに横から笑顔でカムスが口を挟んできた。
「もっと簡単な方法がありますわ」
ほんのチョットの間を置いて、天野とクニヨシがその言葉に食い付く。
「何だ!」「どうしたらいい!」
カムスの顔に唾が飛び掛かるぐらいに近付き、「教えろ」とばかりに言いよる二人にカムスはニッコリ微笑んだ。
「モジュール達に名前を付けたら良いですわ」
「「……………… 」」
カムスの言った事はゆくゆく考えれば当たり前のことだった。
要は識別出来れば良いのだ。
AI課の天野はともかく、システム課のクニヨシは明かに肩を落としガックリしている。
だが同時にクニヨシは思う。
コレぐらいはタカミでもわかりそうな事だ。
部屋の隅でジッとしているタカミをチラリと見る。
澄ました顔でたたずむタカミ。
仲を取り持とうとでもしたのか? ……まさかね。
クニヨシはその考えを捨てた。
ガチャッ
ドアが開く。
二人は顔を向けると、そこには久美と後ろに美奈が立っている。
「天野君…… 」
久美は睨む目で真っ直ぐ天野に近付く。
「加賀見さんのこと、どう思っているの!」
久美から出た言葉に天野は顔を曇らせる。
しばらく口をつぐんでいたが、久美から視線を外し苛立だしげに吐き捨てる。
「もう、いいんだ。放っておいてくれ」
その天野の態度に彼女は小さく言った。
「そう」
そして……
バキッ!
次の瞬間には天野の頬にパンチが飛んできた。
思いっきりグーだ。
ただ女性の力だけに吹き飛ばされる事も、バランスを崩す事もなく、顔だけが横を向く。
美奈は顔を青ざめさせ、クニヨシは(おいおい、そこはビンタだろ)と呆れた顔を浮かべていた。
天野は顔を下げたまま、何も言わず力無く顔を久美の方に戻す。
「バカ!」
そう言うと、久美はそのまま部屋を出て行った。
美奈は天野と久美の去って行った方向を交互に見て、どちらに付こうか迷っている。
クニヨシはそんな彼女に顎をクイッと動かし、目配せを送る。
(久美に付いとけ)
美奈は小さくコクンと頷くと、久美を追いかけて行った。
そしてクニヨシはゆっくりと天野に近付いて言葉をかける。
「彼女に感謝しろよ。どうかすりゃ、俺がお前をぶん殴っていた」
天野はうつむいたまま何も喋らない。
そして近くの椅子を手に取ると、そのままそこに座った。
クニヨシはその様子をジッと見る。
「やるせねぇな…… 」
クニヨシは呟く。
その呟きは天野の耳に届いていた。
「もう…… いいんだ」
天野の繰り返す言葉に苛立ちを浮かべるが、ため息とともに気持ちを落ち着かせる。
「まだ終わっちゃいねぇぞ」
彼は言う。
「終わらなせなきゃ、ならねぇんだ」
天野に向かって。
「今回の件できっちりケリ付けろ! じゃなきゃぁ何も終わらねぇ詫びにもならねぇ…… 違うか、天野?」
その言葉を受け、天野はうつむいた顔をさらに下げ、肩を震わす。
(詫びにもならねぇ)
その言葉が天野の中で反芻する。
約束を守ろうと、共にガイアを続けようとして起こした行動が……
結果として、お互の溝を広げ、破滅的な関係になっている事が……
久美に殴られる事で気付かされた……
そして…… 交わした約束はもう守れないと知った。
自分は詫びなければならない、彼女に……約束を守れなかった者として。
自分は詫びなければならない、彼女への……この気持ちを終わらせるために。
天野は顔を真っ直ぐに上げる。
その様子をクニヨシはジッと見ているが、振り向く様子はない。
「ありがとうクニヨシ。これで終わらせるよ」
友の中で決着が付いたのだろう。
それを見て安堵すると共に感謝の言葉を受け取り、動揺するクニヨシ。
「お、おう」
…… その様子を、カムスは少し離れた位置からうっとりするような目で眺めていた。
そして同時にタカミが声を上げる。
「マスター、メールが届きました。防衛省国家情報防衛部6課からです」
今更、エッセイなどで文章の書き方・ルールなどを読んでる作者です。
こっぱずかしぃ〜




