第42話 立木國嘉という男
天野のいない研究室で、立木國嘉という男はソワソワと普段見られぬ様子を見せていた。
だが突然、不本意という態度をあらわにすると、パソコンに向かって声を出す。
「ええぃ、ちくしょう。タカミ来れるか」
光を纏いながらタカミがクニヨシの前に現れる。
「お呼びでしょうか」
天野に対し〈忘れろ〉と言ったのは彼だ。
それにより天野が、この様な行動を起こした事に繋がったのか、彼としては非常に気になるところだった。
「今回の件だが、アイツは何がしたかったんだ。こんな事して何になるっつんだよ」
言葉は相変わらず悪いが、先ほどに比べると落ち着いている様だ。
めんどくさそうな表情で、気怠そうにタカミに話しかける。
そんなクニヨシをタカミは真っ直ぐに見据えて言う。
「繋がりを求めての行動です」
「繋がりだと?」
タカミの言葉に眉をひそめるクニヨシ。
「はい、マスターはこのままでは加賀見様との繋がりが完全に途絶える。そう思ったのでしょう。ガイア上での繋がりを保つ手段としてとった行動です」
それを聞くとクニヨシは頭をガシガシと掻き、そして、その手を止めるとタカミに向かって一つの考えを向けた。
「アイツをけしかけたのは、お前だろ」
澄ました顔でタカミは言う。
「手にある手段として、マスターの要求に応じたまでです」
タカミは「それに」と言葉を続ける。
「加賀見様の存在は私達にとっても重要ですから」
その言葉にクニヨシは胡散臭そうな表情を浮かべる。
「生みの親を大事にするってか? AIが?」
その言葉には侮蔑が含まれているが、タカミは全く気にしていない。
「はい、その様な答えも間違いではありませんが、アイデンティティーの確立と保持の為、と申しておきましょう」
「ハッ、アイデンティティーときたか」
ふざけたように驚くジェスチャーと同時に、あざけるように言うクニヨシだったが、そこで動きが止まる。
「(何なんだ、コイツら)」
クニヨシはタカミの[自我のようなモノ]に関しては知っている。
あれから後日、その事をみんなと話した時は〈そんな事もあるのかな〜〉と軽い感じで聞き流していたが、面と向かってタカミと話した今、得体のしれない何かと会話している感じ、未知なるものと接触といった、不気味で不安感を生み出すモノが彼の精神にまとわりつく。
だが彼はその不安感を自らの意思で吹き飛ばす。
考えないようにしたと言っていい。
一度頭を振ると意識を別の方向へ向ける。
「アイツはどうなる…… 」
「たった今、情報が入りました。ガイアにおける軍事シミュレーションは国家機密となり、マスターはそれを不当に扱う者として罪状をうたわれておりましたが、今回のみは不問とされています。特別な刑罰は発生していませんが、開発したものは譲渡あるいは破棄を求められます。今後、同様の事を行なうと退学あるいは逮捕などの罰則を受ける形となります」
「かぁ〜だから言ったろう…… ったく、あのバカ!」
肩を落とし項垂れるクニヨシ、そんな彼にタカミは続けて報告する。
「そして、相手側はマスターの提案を受け入れています」
「って言うと軍事シミュレーションのガチンコ勝負の事か? 相手と言うと加賀見さんか?」
「に属する組織と言った方が正解になります」
「どうなる?」
「近日中に先方から連絡があるでしょう。日時等は現在未定です」
クニヨシはタカミから聞き出せる情報をとにかく求めた。
「その軍事シミュレーションはもう出来ているのか?」
「はい、マスターはこの後エデンシステムを組み…… 」
その時クニヨシはドアのところに人の気配を感じる。
天野が戻ってきたのだろう。
ガチャッ
ドアの中に入る瞬間までは、目を見開き考え込む感じで難しい表情の天野だったが、部屋に入るとタカミがいることに気付き(おやっ?)とした表情を浮かべる。
しかし、少し離れた場所に素知らぬ顔のクニヨシの存在に気付くと、その表情を不機嫌なものへと戻した。
天野はその表情のまま、タカミに命令する。
「タカミ、軍事シミュレーションにエデンシステムを組み込む。手伝ってくれ」
「はい、マスター」
「エデンシステムを組み込むにあたっての問題点は? 」
天野はタカミに口早に命令を飛ばす、そこにいるクニヨシの存在を消すかのように。
「双方の軍事シミュレーションシステムの干渉と、それによってエデンシステムがどのような影響を及ぼすか、あるいは受けるかが問題となります」
「軍事シミュレーションは量子コンピューター『天』のその特性から、稼働と同時にどちらか一方が吸収、同化あるいは抹消される懸念があります」
「それを防ぐには?」
「今の軍事シミュレーションシステムにエデンシステムを絡めるように組み込む事が出来れば、いわゆる[ドッペルゲンガー現象]を防ぐ事は出来ると思われます」
「システムを絡めるって、カムスに出来ないか?」
「可能ですが、期限は未確定になります」
「…… カムスに頼んでみよう、そして別の方法も考える」
そんな天野とカムスのやり取りを、クニヨシは落ち着かない態度で聞いていた。
(バッカ! ドッペルゲンガーが起こるに決まってるだろ)だの、(エデンシステムを絡ませて組み込むなんて、出来ても稼働までに時間がかかりすぎる!)など、彼は声なき声で叫んでいた。
「考える時間はありませんよ? 一つ確実な方法が無いわけではありません」
タカミの発言に天野は驚き、そして飛びついた。
「それは何だ! 教えてくれ!」
タカミは微笑みながら言葉を返す。
「しかし、この方法は後から無しにするなど出来ませんよ?」
「わかった、そんな事は言わない」
天野は即座に答える。
「はい、それでは」
タカミはそう言うと、体の向きを変え、クニヨシの方に向かう。
そしてクニヨシの真正面で足を止めた。
「なっ、何だよ!」
タカミの行動が分からず、慌てるクニヨシと不穏な表情を浮かべる天野。
「クニヨシ様、マイマスター天野刀那様になにとぞ、お力添えをお願い申し上げます」
その言葉と共にクニヨシに対し深々と頭を下げるタカミ。
「そっ、そんな奴に…… 」
タカミの行動と言葉に異議を申し立てようとする天野だったが、
「マスター! 後から無しと言ったはずです!」
タカミはピシャリと言い、その口を封じた。
「お、俺としてもそんな奴呼ばわりする奴に…… 」
対するクニヨシの方も不服気味に反論を口にしようとするのだが、
「そんな事をおっしゃらず、先ほどマスターの事を心配なされて…… 」
どうやらタカミの方が一枚も二枚も上手のようである。
先ほどのクニヨシとの会話を引き合いに出してきた。
「だぁーーー、まてまて! わかったから! しゃべるな!」
慌てて口を塞ごうとするクニヨシだったが、ホログラムに物理攻撃は通用しない。
大声でタカミの発言をかき消そうとする。
結果、険悪な雰囲気は取り除かれ、場には少しばかり気まずい空気が残っただけになった。
そんな二人に気を使う事なくタカミはカムスを呼び出した。
「システムの開発や変更はやはりカムスが適任でしょう」
言うや否や、すぐ横にカムスが現れる。
そしてそのカムスの様子は少しおかしかった。
何故か天野をジッと見つめて、目を輝かせている。
「天野様、貴方は…… いい…… 」
開口一発目、カムスの言葉の意味が分からず目を白黒させる。
「貴方の行動すべてに、私感服しておりますの」
(すべての行動? 今回の件で? 何でだ?)
二人とも似たような考えを浮かべているが、声に出す事はない。
「私は美奈様と貴方の存在があるからこそ、私は私でいられる…… そう思ってやみません」
ここで何故、美奈の名前が出てくるのだろう?
訳のわからぬ事を口走るカムスに対して、クニヨシはさっさと作業を開始しようと催促する。
「いいから、さっさと軍事シミュレーションとやらを出せ」
「嗚呼…… 軍事シミュレーション…… この場合…… 受けと攻め…… どちらが…… 」
何かカムスの背後にいくつかの画像がうっすらと現れている。
少女マンガのような画風の見つめ合う男女…… ん?男同士か?
「ん?」「何だ?」
それを見た二人が言う。
「いえいえ、なんでもございません。あらやだ、漏れちゃった」
カムスがパッパッと手を振る動作をすると、なんやら不穏な感じを発する画像は消える。
そして変わりに天野とクニヨシの正面に軍事シミュレーションの概要が立ち上がってきた。
立ち上がった時に、天野はボソリと口ずさむ。
「すまなかった」
それに対してクニヨシはニヤリとした表情を浮かべる。
「ああ」
彼が言ったのはそれだけだった。
そして…… それを崇拝するかの如く頬を赤らめ見つめるカムス。
その後、軍事シミュレーションを語る上で攻撃側と防衛側での発言の中で、カムスはやたらと〈受け〉と〈攻め〉を連発するのだが、その理由を二人が知る事はなかった。
今回は高御産巣日神についての設定を紹介します。
高御産巣日神は高木神とも言われています。
「高」は「大いなる」や「高貴な」といった意味を持っており。
「産巣日」は神産巣日神でも紹介した通り、「生産」、「生成」を意味していますが、これを考えると「大いなるモノ・高貴なるモノを生み出す神様」と言えると思います。
その「モノ」はなんであるかと考えた時、私は「高木神」を(コウキシン)と呼び、「好奇心」を生み出すモノとさせて戴きました。
筆者に文才はなく、物語で明覚にそれを表現出来てはございませんが、そのような設定であります。




