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第40話 セミナー

 あれから天野は研究室でボーッとする事が多くなった。

 曲がりなりにも卒業論文となる研究なため、手を抜くわけでは無いのだが、実際には[エデンシステム]に必要なものはカムスに任せているようなものなので、やっている事はシミュレーションの状況確認ぐらいのものだった。


(元に………… )


 あれからずっと頭の中を巡る言葉。


「おい、天野」


 クニヨシの言葉に慌てて意識を切り替える。


「な、なんだ?」


「……もう、考えんじゃねぇ 」


 気持ちを見透かしたようにクニヨシは言う。


「…… 何の事だ」


 とぼけたふりをする天野に、クニヨシは言葉を続ける。


 「俺も加賀見先生がすき好んで向こうに行ったわけじゃ無いのは分かっている。けどな、こうなっちまった以上学生がどうこう出来るレベルじゃねぇんだ」


「………… 」


 あの後、AI課だけでなくシステム課から、加賀見助教授の復帰を求める声が多数上がっていた。

 その抗議の行き先は高木教授に向けてが多かったが、教授の言葉にハッキリしたものがなく、それに業を煮やしたシステム課の連中は、直接()加賀見先生のところに出向き、軽くあしらわれたのがつい先日の事だった。


(前任者の意思に従います…… )


 自分が放った言葉ではあるが、それだけでは……


「もう忘れろ…… 」


 再びクニヨシが声をかける、また考え込んでしまっていたらしい。

 そしてその言葉により、天野は自分の中で蠢くものを自覚する。

 怒り、後悔、失望そして諦め……


「………… 」


 天野の取れる行動は、無言しかなかった。


「チッ。飯行ってくる」


 そんな天野の態度に舌打ちすると、クニヨシは部屋から出て行った。

 気持ちを切り替えようとパソコンに向き合うが、しばらくすると何か問題が起こったようだ。


「システムがうまく結合してない所があるな…… 久美もクニヨシも今いないし…… 」


 しばらく考えていたが、おもむろに口を開く。


「タカミ、加賀見助教……さんと、コンタクト取れるか? 」

 

 パソコンかタカミの音声が返ってくる。


「いえ、不可能です。アシカビ様のラインを通しても出来ません」


「ああ、もういい」


 ダメ元で言ったことではあるが、その現状に天野は苛立つ。

 そして、憮然とした表情でいた天野だったが、目の前のパソコンのディスプレイ画面が切り替わった。

 何かのイベントの開催をお知らせするホームページだった。

 そしてその内容は、自衛隊の音楽隊による演奏会のお知らせであった。

 何故こんな物をと思っていると、縁取りされている部分がある。

 そこを見ると「防衛セミナー」と書かれており、その項目の中に加賀見玉緒の名前が記されている。


「このセミナーの内容は?」


「他の情報筋ですが、防衛シミュレーターの開発発表とされています」

 

 次第に天野の目の色が変わる。


「そのシミュレーションは…… 」


「もちろんガイアのシステム上で行われます」


 天野はうつむき、しばらく考えた後声を上げた。


「カムスを呼び出してくれ」


〜〜〜・〜〜〜・〜〜〜・〜〜〜


 セミナー当日……


 天野は自分でも場違いな所にいると思っていた。

 決して大きな会場という訳では無かったが、周りはほとんどスーツ姿の役人らしき人物か、カメラを持ったメディアの人達だった。

 幾人かは一般の参加者もいるようだが、天野のような学生はいないだろう。

 簡素な椅子に座りながら呟く。


「マスコミが多いな」


 スマートフォンからつながれたイヤホンを通してタカミが答える。


「加賀見様の事はメディアの方々が注目されています。それと、海外の目もあります」


 このセミナーは加賀見が公の場に初めて現れる事となる、公人として。

 これは、彼女がもはや一般の研究員で無く、他からの〈引き抜きの対象にはなり得ない〉という事を表しているのだが、天野はその事には気付いていない。


 セミナーが始まる……


「皆さま、お忙しいところ…… 」


 司会者からの挨拶が始まる。

 天野はその挨拶など聞きいる様子もなく、会場前方をジッと睨んでいた。


 その視線は一人の女性を捉えている。

 顔女は以前と印象が違っていた。

 濃いグレースーツに身を包み…… 髪も切っていた。

 今は首筋のところでバッサリ切っている。

 それはそれで似合ってはいるのだが、彼はそれを認めたくは無かった。


 セミナーが進むにつれ、時々メディア側から質問が出てくるが、主催者側は答える人が決められているようで、加賀見が表に出る事はなかった。

 そして、セミナーも時間的に最終となった頃、司会者が次の内容を発表する。


「続きまして、新しい部門の人事を紹介したいと思います。国家情報防衛部第6課 加賀見玉緒 室長です」


 その言葉を合図にスッと彼女は席から立ち上がった。

 同時にあちこちからカメラのフラッシュが焚かれる

 

「ご紹介に預かりました。国家情報防衛部6課 加賀見玉緒です」


 作ったような笑顔で話を切り出す。

 少なくとも天野にはそう感じた。


「この度、私が以前より研究、開発してきた〈ガイア〉こと地球環境シミュレーターは非常に高い評価を頂く事となり、多くの人の推薦により、この任につきました。昨今の異常気象などと言う言葉が世に現れるようになり、従来のように衛星からの情報で推測する方法では、正確性及び予測期間の短さ、あるいは台風などの被害予測など十分と言えませんでした。今ではこの〈ガイア〉により、年間の作物生産量や漁獲高予想、また火山噴火など自然災害に対する影響範囲の把握とその対策など、幅広い分野での働きを見せています」


 彼女は当てられるフラッシュを受け流し、涼やかにそれでいて力強く言葉を続ける。


「そして、それらを含め国防を視野に入れての活動を行うものとして、この部署を発足しました」


 それに対し、マスコミのいるブースからいきなり質問が飛び出した。


「それは、日本が戦争を行う事を前提としたモノですか?」


 司会者はすぐに発言を控える旨をマイクを通して伝える。


「この後、質問する場を用意していますので、この場での質問はお控え下さい」


 だが、質問した記者に対して、彼女は笑みを持って答えた。


「防衛としてです。あくまで国土を守る事を前提としたものであると断言します。我々の行う事はあくまでシミュレーションです。そしてこの中でも専守防衛の観点は外しません。仮に有事が起こった際、いかに我が国が立ち振る舞うかを模索する次第でございます」


 そして彼女は姿勢を正し、前を見据えて声を上げる。


「私とこの機関は、この日本が平和で安全な未来を開き、維持する事を目的としています」


 その発言に幾つかの拍手が沸き起こる。

 多くはスーツを着込んだブースからだった。

 パチパチと拍手が鳴る中、司会者が目配せを送ると次の言葉をだす。


「それでは質問の場を設けたいと思います」


 次々とメディアの人達から手が上がる。


「ハイッ!」


 天野は言うと同時に席から立ち上がる。

 加賀見がその姿を(とら)えた時、あきらかに彼女の目は見開いていた。

 同時に周りからの視線を浴びる。

 そんな彼に司会者は苦笑混じりに注意の言葉を言った。


「ここでは、挙手のみでお願いします」


 だが天野は目線を動かす事なく、そのまま発現した。


「失礼しました。自分は学生なので、この様な場所での立ち振る舞いは持ち合わせていませんでした。失礼ついでに質問があります」


 そして、彼は発言する。


「〈ガイア〉はシミュレーターです。防衛と(おっしゃ)っていましたが、軍事的戦略的シミュレーションと(とら)えてよろしいのでしょうか?」


 この質問にマスコミは食い付いてきた。

 天野に対してもカメラが向きフラッシュが焚かれる。

 今日は一般公開での場だ。

 部外者を退出させろと言う事は出来ない。


(何故いる、天野!)


 加賀見は心の中で叫ぶ、表には出さずに。

 彼は続ける。


「同じ〈ガイア〉を扱うものとして、()()について非常に興味があります。自分も軍事シミュレーションについて研究を進めているところです。自分はそれを貴女にぶつけてみたい」


 真っ直ぐな視線の天野にフラッシュの光が当たる。

 加賀見はその視線から逃れる様に、壇上から控え席へと足を向けた。


 怒りとも不安とも言える心境で加賀見は席に座ろうとする。

 そこに隣の席から声が掛かる。


「面白い、やらせてみたまえ」


 視線を彼女に向ける事なく、そう言ったのは学園に来たあの男だ。


「………… 」


 加賀見は無言で着席する。

 そして男は司会者に目配せを送った。

 司会者は少しうろたえるそぶりをしながらセミナーの閉会を告げる。


「し、質問の内容に不備があるようなので、返答は控えさせてもらいます。こ、これでセミナーを閉会させて頂きます」


 マスコミのブースからブーイングが起こる。

 その中を加賀見含める主催者達は席を外して行った。


 そして、気付いたようにマスコミの一人が、天野がいたほうに顔を向けたときは、彼はそこにいなかった。

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