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第38話 火の誕生

「天野、どんなんだ?」


「ああ、今なお増えてる」


 研究室内でのクニヨシとの会話、今はカムスの開発したシステム類の進行状況を確認している。

 その向こうでは、久美と美奈が一台のパソコンに向かい合って操作してた。

 今のところ仲がいいようだ。

 そうあって欲しい……


「ちょっと、お手洗いに行ってくるね」


 そう言って、久美は席を立つ。

 残された美奈はパソコンの前で頭を抱えていた。

 その様子を見て天野は彼女に近付く。


「どうだ、やれそうか?」


「全然だよ〜、お兄ちゃん」


「その言い方やめろって」


 彼女達の間で何か取り決めをしたらしく、美奈は久美のいる前では絶対にこの呼び名を言わない。

 しかし、今の状態のように久美がいなくなると、わざとと思えるほどに言ってくる。

 そんな、やり取りをクニヨシはニヤニヤとした表情で見ていた。


 久美はトイレから出てハンカチをしまおうとした時に、ふと窓辺を見る。

 遠くてよく見えないが、教員棟の駐車場に見慣れない高級車が止まっており、今まさに車の中から背広を着た人物が降りるところだった。

 普通であれば、そのまま直ぐに立ち去るところなのだが、出迎えた人物が高木教授と加賀見助教授であることに気付き、大きく興味をそそられる事になる。


 研究室に戻った久美は、先ほどの光景をみんなに報告した。


「なんかねー、高木教授と加賀見先生にお客さんが来ているみたいなんだけど」


「研究発表会の後は、色々な会社や研究機関からの来客が多いからな」


 そう言ったのはクニヨシだが、久美はそれを軽く否定する。


「でもねー、そんな感じじゃなかったよー、えらく(いか)つい感じの車で、なんか見たことあるマーク付いてたんだよねー、何だったかなぁ〜 」


「もう直ぐ昼飯だから、ついでに覗いていかね? 」


 そのクニヨシの提案に、メンバー全員が向かうことになったのであった。


〜〜〜・〜〜〜・〜〜〜・〜〜〜


 四人は来客室に向かうべく歩いている。

 そして、駐車場に差し掛かった時、確かに高級車が停まっており、見たことのあるようなステッカーが貼られていた。

 

 「タカミにあのマークを、調べさせてくれ」


 そう言ったのはクニヨシだったのだが、その時の彼の目はいつものモノとは違うように感じた。


 教員棟の近くにベンチがある。

 ちょっと離れているが、来客室を見ることができる場所だ。

 そこに四人は座って、先ほど売店で買ってきたサンドイッチやオニギリを取り出す。


「高木教授の姿は見えない見たいね」


 その場所からだと、かろうじて人数と衣装から性別を判断出来るくらいだ。


「タカミ、教えてくれ」


 クニヨシがベンチに座ると同時に言う。

 そしてスマートフォンからタカミの声がするのだが……


「はい、確認しました。防衛省の物だと推測出来ます」


 タカミの言葉に驚きと疑問が声となって現れる。


「防衛省だって⁉︎ 」


 部屋の方を見ると、中には一人の女性とスーツを着た三人の男性がいる。

 男性のうち一人は、(たくま)しい感じで扉の前に立っており、残りの二人は来客のソファーに腰掛けている。

 その正面に座っているのは加賀見助教授らしい。

 扉に立っていた男は天野達がいる事に気付くと、窓際に移動しカーテンを閉めた。


〜〜〜・〜〜〜・〜〜〜・〜〜〜


「ガイアは素晴らしいモノだよ」


 加賀見助教授から見て左側のソファーに座る男が言う。

 年齢は五十を超えているだろう、しかしその体格はガッチリしており、威風堂々した態度をしている。

 かたや右側の男性は三十代前半で背が高く、几帳面な印象を受けた。


「お褒め頂き光栄ですが、私一人の功績ではありません」


 軽い絵釈と共に加賀見は言葉を返す。


「そうかも知れん、だが我々は貴女のエンジニアとしての技量を、高く評価している。気象シミュレーション上のガイアの予測率は一ヶ月でほぼ100%、半年でも約90%の精度だ、実に素晴らしい」


 加賀見は内心はうんざりとしたものだった。

 しかし、表上はそのような様子をおくびにも出さず口を開く。


「それで、私が呼ばれた理由とは?」


「ふむ、学者は結果を求める者だが、物事には順を追って説明が必要な場合があると思わないかね? 」


 男は顔を傾げ、値踏みするかの如く、逆に質問を飛ばす。


「申し訳ございません」


 加賀見は、少しも表情を変えることなく、謝罪の言葉を読み上げる。


「まあいい、ガイアのシミュレーションデータは環境庁にも提供して貰っているが」


 男はそこまで言うと、隣の背の高い男に目配せを送る。

 それを受けて、その右側の男は落ち着いた、ゆっくりとした口調で話を始める


「今年はガイアの予測では、猛暑と台風による被害が拡大しそうで、我が国は今の段階でアメリカやヨーロッパ諸国に小麦などの買い付けを行なっている最中なのです」


 そして左側の男は続けて言う。


「その台風などの影響は近隣諸国にも影響している。わかるかね? ガイアは我が国の…… 」


 そこに加賀見は口を挟む。


「国防を含んでいると?」


 その言葉を聞いて、男はさして気に留めることはなかった。

 それどころか、大いに喜ぶ表情を見せる。


「ハッハッハッ、噂に違わぬ人物だ。話が早くて助かる。そして我々は国家防衛構想の中に、ガイアを取り入れる準備がある」


 それを聞いた加賀見は小さなため息を漏らす。


「畑違いですね」


 その言葉に男は口調を強めた。


「いいや、そうは思わん」


 加賀見は静かにそれを聞き流す。

 今度は右側の男が口を開いた。


「これまではただの環境シミュレーターとの認識でしたが、これまでの結果により国防に見合うモノとみなされております」


 〈ただの〉と言ったところで、加賀見はさらに不快感を持ったのだが、それを表に出すことは無かった。

 そして、そのまま話を聞く。


「国家間の摩擦と称されるものは、常にくすぶり続けているものです。ガイアの導入により火の発生を事前に察知し、しかるべき対応が早期に出来ると我々は確信しております」


 加賀見は静かに口を開く。


「それは…… 軍事的な意味合いも含まれていますか?」


「もちろん、当然です」


 右側の男は静かに言う。

 その言葉を聞いて、加賀見は思うところを口にした。


「ガイアは日本だけでなく、海外の研究施設でも研究されています。軍事なシミュレーションを行えば、それこそ国家間の摩擦が発生するのでは無いでしょうか?」


 それには左側の男が声を上げた。


「だからこそ貴女なのだ」


 そしてそのまま右側の男が言う。


「これは我が国だけの話では無くてね、友好国からの話からでもあるのです。そしてその国からのオファーが貴女宛に来ていますね?」


 この言葉の内容には加賀見も悪寒が走った。

 だが、いたって冷静に話を進める。


「ええ、何度か…… しかし、それは私が在籍していた大学からのものです。それに…… 」


 ここで彼女は、一旦言葉を区切り、続きを明確に表した。


「先方にはお断りの旨を伝えています」


 そう、彼女が受け取っていたメールは、最初は通っていた大学の友人からのモノと思っていたが、内容は研究員の募集であった。

 思えば、その報酬は破格といえるモノだったが、この話を聞く限り……


「賢明ですね。我々は貴女が在籍していた大学が、新たに軍事的な研究部門を設立した事をつかんでいます」


 そこまで話すと、前の男達は頭を下げた。


「我々に協力して貰いたい。しかるべき席は用意してあります」


 先ほどまでの高圧的な態度から一転して、その様な行動をとった事に加賀見は驚く。

 だが、彼女は彼ら以上に今の状況を把握していた。

 そして、男は言う。


「貴女には拒否権があるが、どうするかね?」


 加賀見は顔を動かす事なく部屋の片隅にいるアシカビに目をやる。

 彼らが現れた時に、AIの紹介と称して置いていたのだが、そのAI…… アシカビは小さく横に首を振った。

 加賀見は目を瞑ると、静かに返答する。


「わかりました。お受けしましょう」


「おお、やってくれるかね」


「我々の試算では説得にもう少し時間が掛かると踏んでいたのですが喜ばしい事です」


 前の二人は揃って声を上げた。


(よく言う…… )


 加賀見は悪態をつく事を抑え、心の中で呟く。


「それでは、これをお渡ししましょう」


 背の高い右側の男は小さなジェラルミンのケースと一枚のカードを差し出す。

 渡されたカードをケースの差込口に入れるとカチッとした音と共にケースが開く。

 中にはタブレットが入っていた。


「その中に今後の予定が入っています。確認しておいて下さい」


「安心したまえ、機密的なものは入っていないよ。だが、大事にしたまえ。国民の大事な税金が使われているからな。ハッハッハッ! それでは我々はこれで失礼するよ。追って連絡する」


 そう言うと、二人は早々に立ち上がり足早に部屋から立ち去っていった。

 見送るべく立ち上がった加賀見であったが、扉に鎮座していた男が扉を閉める。

 扉を通じて先程の男の声が耳に入った。


「勧誘に応じてくれた。すぐに始めてくれ」


 加賀見は追いかける事を止め、アシカビの方に顔を向ける。


「アシカビ、どうだ…… 」


「ダメです。マスターの学園のIDコードではガイアに入れなくなっています。それに…… 」


「………… 」


「学園の在籍コードもたった今抹消されました。抗議はされないのでしょうか」


 この時点でこの様な行動が出来るという事は、学園側にはもう話が出来てしまっている事だろう。


「止めておこう、時間の無駄だ。それよりこちらに有益な譲歩を引き出す方が良い。アシカビ、私の個人PC内の論文と研究内容の全てにプロテクトを二重にかけてくれ」


「分かりました」


 加賀見は方向を変えると、長手のソファーにドサリと腰を落とす。

 そして、そのまま上半身を背もたれに預けるが、ズルズルと身体は横に傾いて、そのまま横倒しになった。

 髪の毛が顔に掛かるが、それを気にも止めない。

 その髪の間からは虚んだ瞳が見える。


 そして……


「私に…… ガイアに戦争の火を生み出せと言うのか…… 」


 彼女はそう呟いた。




はい、これからご都合主義がより多く発動すると思いますが、生暖かい目で見てください。

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