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第36話 おはよう

閑話になります

 朝 6:00

 ()()は目覚める。

 目覚めると言う言葉が[正しい]か[正しく無い]かを問えば、それは後者のほうであろう。

 タカミはAIであって人では無い。

 毎朝この時間になると、天野の部屋に置いてある小さなテーブルの上にに置かれた、スマートフォンの画面からその姿を現す。


ピッ! ピッ! ピッピッ!


 タカミが現れると同時に音を出す物もある。

 アラーム時計だ。

 するとその近くの布団の中から腕が伸び、その音を止める。

 布団の中の人物は、スヌーズ機能が動くたびに、同じ動作を五分おきに三回繰り返した。

 そして四回目のスヌーズ機能が作動する時、スマートフォンから声が聞こえる。


「遅刻しますよ。マスター」


 次のアラームが鳴ると同時に布団がめくり上がり、中の人物が顔を出す。


 髪の毛はボサボサ、目は半開きの天野である。


「ふぁ〜」


 天野の大きなあくびとを拾ってか、タカミが天野に言う。


「おはようございます。マスター」


 ボリボリと頭を掻きながら、天野はまだ眠そうな目でスマートフォンに顔を向けた。

 

 その時、彼はふと昔を思い出した。

 〜〜〜・〜〜〜・〜〜〜・〜〜〜

 

 「おまえなんか!」


 その後の言葉で、僕の頭の中は真っ白になり、気が付いたら病院のベッドの上だった。

 

 僕は自分で自分の手首をカッターで切った事を後で聞いたとき。


 僕はボクの事を怖く思った。

  

 ボクの中に誰かがいる。


 悪霊、亡霊、悪魔、呪い……


 そんな言葉が浮かぶと、ボクは僕の周りにいる人たちが怖い人たちに思えてきた。


 だれも、信ようで来ない……


 この世界はこわい……


 でも、死ぬのもこわい……


 どこか別のばしょに行きたい、この世界から抜けだしたい、この世界にいたくない。


 いつも、そう思っていた。


 学校でも……


「あいつ変だってよ〜」


「しゃべっても、何も言わないし」


 クラスメイトからの声が刺さる。


 学校の先生はしんせつにしてくれた……


 他の子と接している先生はとても楽しそうで、まぶしかった…… でも……


 その時気づいたんだ……


 先生は僕を哀れんでいると……


 ボクはやっぱり他の人とちがうんだ……


 そんな時に出会ったのがタカミだった。


「こんにちは」


 ボクよりちょっと大きいくらいの()()は、小さな画面から、りったいてきに現れて小さく、おじぎをした。


(なんだこれは?)


 さいしょに会ったとき、ボクはそう思った。


 そして()()が、人じゃないとわかると、ボクは安心していろいろしゃべったりした。


 だけど、だんだんキライになっていったんだ。


 だって、ボクが何かをするたびに、それは危ないとか、ちょっとした事でお父さんとお母さんに、連絡したりとか、うるさく思うようになったんだ。


 だから……


「おはようございます。マスター」


 ボクは無視することに、きめたんだ。


〜〜〜・〜〜〜・〜〜〜・〜〜〜


 それから僕は、中学生になった。


 クラスメイトからの腫れ物をさわるような視線にも慣れ。


 変わらない毎日を送っていた。


 ある日、僕に声をかける人物がいた。


「ちょっと聞いたんだが、お前自分のAI持ってんだってな、すげぇじゃん」


 それが立木國嘉との出会いだった。


「ちょっと、見せてくれないか? 俺、AIってのに興味あるんだよ」


 その時、僕はあまり関わりたくないと思ってたんだ。


 だけど、あんまりにもしつこいから、つい了承してしまう。


 カバンからスマートフォンを取り出す。


「こんにちは。マスター」


 スマートフォンの小さな画面から立体的に表示され、笑顔であいさつするタカミ。


「おぉ〜、すっげぇ〜」


 それを彼は食い入るように見ていた。


 その様子にクラスメイトも何人か近付いてきた。


 普段、人に囲まれる事はほとんど無く、僕は少し戸惑っていた。


 そんな中で僕はどこかに嬉しさを感じていたんだ。


 でも……


「お前のAI、医療用っぽいな」


 いつの間にか彼は、自分のスマートフォンを取り出して、タカミの事を調べていた。


 怖くなった。


 僕のことを、知られてしまう。


「うるさいな! ほっとけよ!」


 僕はスマートフォンをつかみ取り、僕が普段思っている事を机の上に向かって叫んだんだ。


「この世界と関わりたく無いんだ!」


 言ったと同時に〈しまった〉と思うも、同時に〈どうでもいいや〉とも思った。


「みんな、ほっといたら〜」


 離れた席からの女子の声で、集まっていたクラスメイトは離れていく。


 彼を残して。


「そっか〜」


 彼は気にした様子もなくそう言った。


 そして教室を出て行く。


 僕は拳を握りしめた。


 自己嫌悪の分だけ。


 しかし、しばらくすると彼はバッグを持って、目の前に立つ。


 そして、彼の口からでた言葉は、予測のつかない物だった。


「んじゃあ、別の世界に行かね?」


 そう言うと、バッグの中から何かをゴトッと置いた。


 それはVR機器のゴーグルだった。


「放課後開けとけよ、学校のブログでメール送っから」


 そうして彼は片手を上げ、それを振りながら教室から出ていった。



 家に帰り着くと同時にメールが届く。


「昼間は悪かった」


 それを見た僕は複雑な気持ちになる。


 放っておいて欲しい気持ちはあるが、僕の態度が礼を欠くものであった事はわかっている。


「いや、気にしてない」


 後から思えば、この言葉も無粋で失礼なものだった。


 だが、彼は気にしないで説明する。


 それは、VRゴーグルを使った、ネットゲームの内容だった。


「スマホのケーブル繋いでくれ、画面にゲームの選択画面があるから、一番左上のVRTOってアプリを選んで入ってくれ。俺のキャラクターネームは『卍隻眼の黒騎士 タッキー卍』ってんだ。入ったら呼んでくれ」


 スマートフォンから直接VRゴーグルにケーブルを繋ぐと、確かにスマートフォンの画面に幾つかのゲームアプリが表示されている。


 自分は言われたとおりに〈VRTO〉のロゴの付いてあるアプリをタップした。


 ゴーグルのライトがオレンジからグリーンに変わる、起動したようだ。


 そして、僕はゴーグルを装着した。


 Lord中……


  バーチャル・トーテムオンライン〜♪


 ゲームのタイトルが音声とテーマ曲と共に立体的に現れる。

 最初にやるのは、キャラクターの設定だ。

 人間(ヒューマン)・エルフ・ホビット・ダークエルフ・オーガ・竜人・獣人……

 色々な人種の中から僕は人間(ヒューマン)を選び、性別は男性にした。


「キャラクター名を入力して下さい」


 僕が付けた名前は……


『天ノ刀』


 自分の名前をもじっただけのつもりだったが、後からクニヨシレベルだと言われた。


「ゲームを開始します」


 音声と共に暗くなる画面。


 そしてその画面が明るくなった時、目の前には中世を思わせるような街並みと、色々な種族のコミカルなキャラクター達が行き来する風景だった。


 この時に受けた臨場感は初体験なこともあり、かなり衝撃的なものだった。

 だが、その感情を覆うべく自分に向かって呟く。


「こんなものか…… 」


(ゲームなんかで変われるわけない…… )


 その時は、そう思い込みたかったんだと思う。


 立っているだけでは、しょうがない。

 言われた通りにクニヨシを呼ぶ。

 音声入力が可能であり、その世界に向かって声を出した。


「タッキーいますか?」


 キャラクターの頭上に、文字が表示される。

 しかし、しばらく待つが変化は無い。


「タッキーいますか?」


 再度、声を出す。

 だがやはり変化は無いようだ。

 と思ったら、一人の獣人が近づいてくる。

 ネコ族の獣人だ。

 フリフリのローブを着て、シッポを揺らしながら目の前まで近づいてきた。


「キミはリア中の知り合いかにゃ?」


「リア中?」


「ごめんにゃ、タッキーって『隻眼の黒騎士 タッキー』のことかにゃ?」


「そうです」


「このゲームでは正確に相手の名前を言わないと、メッセージが伝わらないにゃん」


「そうなんですね」


「隻眼の黒騎士 タッキー、お友達来てるにゃ〜」


 猫人の頭上に文字が現れる。


(友達ってわけじゃ無いけどな)


 そんな事を思いながら、しばらく待つと二つの人影が現れる。


「ん? 二人?」


「このゲームの欠点にゃん。良くあることにゃ」


 近づくキャラクターの頭上にはそれぞれ、


「呼んだか?」と「わり〜、見つけられなかった」


と表示されている。

 その二人はちょっと離れた位置で向きを変え、お互い真っ正面に向き合う。


「「またお前か!」」


 どうやら同じ事が何度もあったらしい。


「気にする事はないにゃ、挨拶のようなものにゃ」


 二人は何事もなく離れ、黒い鎧につつまれた方が、こちらに近づいてくる。


「ギルマスすいません」


 そう言うと、その黒い鎧のキャラクターはカブトの面部分を解放させる。


「いいにゃ、この子もギルドに入るかにゃ?」


「ちょっと、誘っただけです。興味が湧いたら入れさせます」


 最後の言葉に不穏なものを感じる。


「わかったにゃ。じゃあ、またあとでにゃ〜」


 そう言うと、猫人はすぅ〜と消えていった。

 それと同時にキャラクター(クニヨシ)は天野に向き直る。


「待たせたな、じゃあちょっと説明しようか」


「それはいいけど、その姿…… 」


「おう、新ボスの新しい鎧だ。やっと出たんだぜ」


「いや、そうじゃなくってな」


「ん?」


「なんで女なんだ?」


 クニヨシのキャラクターはごっつい黒の鎧につつまれた、少女キャラだった。


 クニヨシの説明からわかった事。

 このゲームは異世界で生活するという事をコンセプトにしており、プレイヤーはまず初めに村人からスタートする。

 そこから、何をするか、何になるかは自由だった。

 モンスターを倒す冒険者でもよし。

 薬草、素材を採取採取して錬金術師になるもよし。

 畑を耕して農家、魚を取り漁師……

 魔法使い、商人、狩人、大工……

 プレイヤーがなりたいものになれる、自由度の高いこのゲームに、


 僕は没頭し(ハマッ)た。


 それは、逃げ込んだと言ってもいいかもしれない。


 だけど、ある時小さな変化に気づいたんだ。


 コミカルなキャラクターで描かれたプレイヤー達が、この世界(ゲーム)降り立つ(ログインする)


「こんにちわ」

「こんちわ〜」

「ちわ〜 」

「(=゜ω゜)ノ 」


 必ず行われる挨拶(儀式)

 そして……


「おやすみなさい」

「またね〜」

「じゃあね〜」

「乙!」


 ベッドに横たわったままの姿勢で、ゲームをやっていた。

 VRゴーグルを取り外し、〈夜更かしはしないように〉と手書きで書かれた用紙が張り付けられている、ベッドにある本棚にそれを置くと呟く。


「ライトオフ」


 それと同時に部屋は暗くなり、そのまま眠りに入る。


チュン! チュン! チッチッ!


 朝が訪れ、スズメ達が屋根に降りたかと思うと、すぐに飛び立ち去ってしまう。

 その屋根の下。


ピッ! ピッ! ピッピッ!


 目覚まし時計が鳴る。

 カーテンの隙間から陽の光が差し込む中、僕が起き上がると、タカミは変わらず僕に挨拶をしたんだ。


 それが、今と重なる。


「おはようございます」


 いま、ごく自然に普通に朝の挨拶(儀式)をかわす。


「ああ、おはよう」

 


 


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