第34話 報告
コンコン
「天野です」
「入れ」
天野達が再び加賀見助教授の教職室に入った時、彼女は少し不満げなように二人は感じた。
タカミを継続して使用することに対してだろうが、天野は気にしない事にした。
「タカミのシステムが完成しました」
「説明してくれ」
「はい、タカミ」
天野の横に光の粒子を纏いタカミが姿を現す。
「……… 」
しばらく、加賀見助教授はジッと見ていたが、やがて口を開いた。
「細かくは豊野にレポートを提出してもらうが、私の意見に反対してまで使用することとなった、このAIの仕様は…… 」
その時、タカミが横から言葉を重ねた。
「その事については、申し訳ございませんでした」
いきなりのタカミの発言に、加賀見助教授は目を見開く。
本来、AIが人の発言を抑えるような行動を〈取れるはずが無い〉のだ。
「それと、加賀見助教授は私の新しいシステムの詳細をお求めのようですが、いま作成したものをアシカビさまのフォルダーに転送いたしましたので、そちらをご覧ください」
「あ、ああ」
らしくない言葉が加賀見助教授の口から漏れる。
「それから可能性は低いのですが、今回のように私が行動を取れなくなる事を想定して、学園の共有フォルダーにマスターの対応マニュアルとシステムの一部を、移す事を提案・実行しようと〈思います〉」
「そこまでは必要ない…… 天野」
加賀見助教授は疑問の表情を浮かべ、天野を呼ぶ。
「はい」
「これはどう言う事だ?」
「どうと言われましても」
加賀見女教授の疑問は天野にも感じていた。
「自分はアシカビを通してカムスに、タカミにモジュールの思考に並行性を持たせたい、とは言いましたが…… 」
「並行性?」
「カムスを表層心理、タカミを深層心理的なモノをと…… 」
「…… まったく説明が、つかないのだが」
「すいません」
いや、天野の言わんとする事は、加賀見は分かるのだ。
だが、タカミがこの様な自立思考を持つ事が理解出来ない。
「タマチム、それに[自我]を持ったような、発言があったの」
隣の久美が、天野の横にいるにもかかわらず、友人言葉で興奮気味に言う。
「それは、どんな事だ?」
加賀見に言われて久美はマズいと思った。
天野のプライベートな事に非常に線密だからだ。
「それは…… ちょっと…… 天野君の、今回の件を含んでいるから」
チラリと天野の方に視線を向ける。
「いや、自分も知りたいから。話してくれ」
その言葉に久美はコクンと頷くと、彼女で起こった事を話し始めた。
なるべく天野の過去には触れず、タカミが[葛藤]を口にした経緯を伝える。
話を進めるうえで、天野が発作を起こしかけた事に、加賀見は憤慨しかけたが、話を聞くにつれて治っていった。
「[葛藤]か…… アシカビ」
「はーい」
元気な声と共にアシカビが参上する。
「タカミのレポートを出してくれ」
「ういうい、それと国際メールが一件来ているよ」
「またか…… 」
「返事はどうする?」
「まあ。ちょっと待て。今はレポートが先だ」
そう言うと、加賀見はファイルを展開する。
横から久美が覗き込むと、軽く見積っても分厚い本一冊分ありそうだ。
それを自分が書かなきゃならなかった事を考えてか、彼女は安堵のため息をはいた。
「結構あるな、今日はこれを確認するから、もう戻っていいぞ」
この段階で、すでに加賀見助教授はパソコン画面に釘付けになっている。
「なんか…… 凄いオーラ出てる…… 」
その姿を見た久美は、ちょっと身を引いた。
「出よっか」
天野は久美に囁くと、二人はそそくさと部屋を出て行った。
陽が落ち、夕日が差し込む廊下を並んでる歩く天野と久美。
「国際メールでのやり取りを普通にやってるって。やっぱり凄いよな」
そんな天野に久美は首をかしげる。
「そう? 今どき海外とのやり取りなんかゲームでもやっているじゃない」
「一緒にしちゃ失礼じゃないか?」
そんな事を言いながら、二人は研究室へと戻って行った。
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加賀見は廊下を歩いている、窓の外はすでに暗く、雲のかかった月が夜空に浮かんでいる。
システム課と書かれた表札のある扉に手をかけると、中に入り一台のパソコンの前に座った。
「アシカビ、タカミのシステムの全容を表示してくれ」
彼女の横にある3Dディスプレイで立体的に表示されたそれは、かなりの大きさだったが彼女はさほど気にしていない様子だった。
「似ているな」
それは天野が加賀見に最初に見せた、彼の自立思考システムに非常に似ていた。
しばらくそれを見ていたが、何かを思い付いた表情をすると、一つの命令をアシカビに下した。
「[曖昧システム]が、どのように干渉しているかを、色を分けて表示」
菅を伝う液体のように、赤いラインが下から表示される。
それをジッと見つめていたが、段々とその表情が険しくなっていく。
そして……
「何だ…… これは…… 」
それが、加賀見の口から出た言葉だった。
天野刀那の設定としては、特別な能力を持ってるわけではありません。
確かにコンピューターを扱う事に対しては、常人以上の能力があるとはおもいます。
ですが私としては、[心に傷を負った、普通の青年]です。




