第30話 手紙
目を開けると視界は暗く、知らない景色が辺りを覆う。
ぼんやりとした表情から目を見開くと、天野はガバッと上半身だけを勢い良く起こす。
だがそれも一瞬、肩の力を抜くと、そのまま倒れ、そして枕に後頭部を預けた。
片腕を額で預け呟く。
「やっちまったか…… 」
ふと横を見ると椅子が置かれており、その上に封筒が置いてある。
腕を伸ばしそれを取ると、中にある手紙を抜き出し、それに目を通した。
「母さん…… 」
手紙を掴んだまま、さっきと同じような格好で、腕を額で預ける。
だが、しばらくすると天野はゆっくりと起き上がりナースコールのボタンを押した。
〜〜〜・〜〜〜・〜〜〜・〜〜〜
翌日。
気が重いまま研究室に向かっていた天野は、その扉に手をかけた時、聞き慣れた声に呼び止められた。
「よ〜、天野。もういいのか〜」
片手を上げて近づいてくるクニヨシの姿があった。
つい先日の事が頭をよぎる。
記憶はないがかなり迷惑をかけただろう。
申し訳ないと思う気待ちが、言葉として口から溢れる。
「ああ、心配かけ…… 」
「発表会でぶっ倒れるって前代未聞だってよ〜」
通りすがりの学生がチラチラとこちらを見ている。
「………… 」
「お? 口開けてどうした?」
「…… なんでもない」
先ほどの気持ちなど憮然とした顔と共に飲み込んだ。
周りを気にする事なく発言するクニヨシだったが、次の言葉は囁くようなものだった。
「それとな…… お前の母さん来てたぞ」
「ああ…… 」
「会ったのか?」
ガチャッ
「いや、手紙で知った」
扉を開け、通りすがりに受け答えをする。
部屋に入ると、すでに中にいた人物からの声が飛び込んできた。
「天野君!」
久美は気付くやいなや、席から立ち上がり天野に足速に近づく。
「もう大丈夫なの?」
「ああ、心配かけた」
天野は軽く笑うが、久美はまだ心配そうだ。
そんな二人を見ていたクニヨシは、またいらぬ、お節介を考え付く。
「そういや、病院でな、お前の母ちゃんと会った時、こいつ彼女と間違われてテンパってたぞ」
「え?」
久美の顔が急に赤くなる。
「な、な、なんでこんな時にそういう事を、ば、バカじゃない!」
「いやだってコイツ倒れてたんだし、報告だ報告」
「そんな報告いるわけ無いじゃない! バカ!」
ギャアギャアと言い争いを始める二人に苦笑の表情を浮かべていたが、母の手紙の言葉が脳裏をよぎる。
(友達は、大事にしなさい…… )
天野は口元を綻ばせると、その言い争いの中に入っていった。
〜〜〜・〜〜〜・〜〜〜・〜〜〜
「ところでだ」
クニヨシが話を切り出す。
「何だ?」「何よ!」
言い争いからしばらく経つが久美の機嫌は悪いままのようである。
「タカミの件で話がある」
だが、この言葉に久美も態度を改めた。
「タカミの件? 何だ?」
天野は何のことかサッパリ分からない、当然である。
そんな彼に応えたのは久美だった。
「実はね、今回の件で…… 」
今回の件でタカミはエデンから外され、別のAIが新たに作られる可能性を示唆した。
「加賀見先生はタカミを元に戻そうとしてたんだけど、私が反対したの」
「それで?」
それまでだけで眉をひそめ怪訝な表情を浮かべる天野は、続きの話を催促する。
「天野君のお母さんが、みんなで決めなさいって」
ここで母が言ったことに少し驚く、絶対に元へ戻せと言うものだと思っていたからだ。
「本人のいない所で決めちゃダメって」
「…… そうか、それならこのまま続ける」
その言葉に久美はホッとした表情を浮かべるが、クニヨシは頭をボリボリ掻きながら気になる事を口にした。
「んでもよー、それならそれで加賀見先生に連絡しに行かなきゃな。こっちから何も連絡も報告も無かったら、勝手に作りそうな感じだったぞ」
その言葉には久美もうなずき同意した。
「それじゃあ、今から行くか」
言うと同時に席を立つ。
キィ
その時、扉から音がした。
扉のわずかな隙間が、今まさに閉じようとした瞬間にフッと人影がよぎる。
「うん?」
扉に近づき開けて見渡すが誰もいない、階段の方で足音のする感じはしたが……
「どうかしたのか?」
「いや、誰かいたのかなと思って」
二人して不思議な表情をしている中スマートフォンを閉じた久美が声を掛けた。
「うん、今の時間ならタマチム空いているって…… どうしたの?」
「いや、何でもない、行こうか」
そうして三人は揃って、加賀見の元へむかうのだった。
久美の言葉が戻るの早過ぎるかなぁ〜と思いつつ投稿。
ここら辺の感覚って難しいです。




