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第24話 見学

 私は気になる事がある。

 同じ研究室の天野刀那君の事だ。


(口数の少ない、おとなしい人)


 それが、彼を初めて見た時の印象だ。

 彼と接するうちに気付いた事がある。


 それは、どことなく感じる疎外感。

 きちんと挨拶もするし、質問の受け答えもしてくれる。


 だけど、彼は感情を隠すかのように表には出さない。

 作ったように、わずかに笑うだけ。


 その笑みを私は知っている…… いや、知っていた。


 白い壁とカーテンに囲まれた病院のベッドの上の少年。

 頭髪はなく、鼻からはチューブが差し込まれており、横には点滴を打つための器具が置かれている。

 その少年は、力なく微笑みを浮かべる。


 だが、私の脳裏に浮かんだその風景は、友人である神谷郁美の言葉で消えてしまう。


「なぁ〜聞いとる?」


「あっ…… と、ごめん。ちょっと考え事していた」


 誤魔化すようにアハハと笑う久美。


「まったく〜 、あんたはそんなやから。ところで…… 彼とはどうなったん?」


 ピクリと指先が反応を示したが、また同じ表情を前に出す。


「え〜っと」


「ほ〜ら、またそうやってごまかす」


 神谷郁美はちょっとムッとした顔で、つまらなさそうに久美に指摘した。


「元カノってのがデマだった、っていうのは分かったんやけど。なんであの時、彼は怒ったん?」


 そうそれが分からない。

 私がした事と言えば、バーベキューを持って彼に呼び掛けただけ……

 トナチムって呼びかけも、それまで全然気にしていなかったようだし……

 カワイイと思われたくて、ワンピース着ていたんだけど……


「ま〜た、そうやって考え込む〜」


 その声にハッとして、前を見ると郁美にジト目を投げられていた。


「あんた重症やで」


 そう…… かもしれない。

 彼のことを考えると、気になることが湧くように出てくる。

 弱々しく笑う天野が脳裏に浮かぶ。

 そしてそれが、病室の少年の笑みと重なる。

 

 その時、彼女は何かしらの答えを掴んだように感じた。


「合宿からずっとそんな感じやないか。なんならウチが取り持って…… 」


「その事だけど、もういいの。たぶん恋愛とかの感情じゃあ無かったかもだし」


 郁美の言葉を遮るように久美は笑顔を向ける。

 その笑顔に呆気に取られる郁美。


「…… それってどういう事よ」


キ〜ンコ〜ン♪カ〜ンコ〜ン♪


「あっ、もうこんな時間。私、行くね」


 言うやいなや、久美は席を立ち足早に立ち去って行く。


「ちょっと、なぁ……!」


 後ろから声をかけるが、あっという間に人混みに(まぎ)れてしまった。


「ま〜ったく、立木の言う通りや」


 郁美は、手のかかる子供に向けるような苦笑を浮かべて呟いた。


「めんどいなぁ」


そう言うと彼女もまた席を立ち、そこから離れて行った。


〜〜〜・〜〜〜・〜〜〜・〜〜〜


 神谷郁美と別れた後、豊野久美は歩きながら自分の気持ちをまとめようとしていた。


(たぶん私は重ねていた…… 気付かぬうちに…… )


(いや、気付いていたのに、気付かないフリをしていたのかも知れない…… )


 廊下を歩きながらボンヤリと考え込んでいた彼女の目に、研究室の前でウロウロしている人影に気付いた。


(うん?)


 久美は近付き声を掛ける。


「あなた、ここに何か用?」


 うつむき加減で考え事をしているようであった、その女子学生は声をかけられ一瞬ビクッとした感じであったが、久美の姿を見るとその理由を口にした。


「あ、すみません。ゼミの見学をと思って」


 その言葉を聞いて久美は(ああ、もうそんな時期か、けどちょっと早いかな? )と思う。

 この学園では2年生になる段階でゼミを決めるようになっている。

 それで1年生は2年生になる二ヶ月前に、進むゼミを決めなければならない。


 そのため、年末から年明けにかけて学生たちは各ゼミを選別すべく見学を行うのだが、今はまだ十月に入ったばかり、かなり早い時期になる。

 だが、早い時期に来た理由が彼女にはあった。


「あなたの専攻は?」


「…… CG課です」


 それを聞いて(ああ、なるほど)と思う。

 この学園ではコンピューターに関わるあらゆる分野、ハードからソフトまで細分化した物を研究対象にしている。

 なので、必然的に最初に専攻した分野かそれに類似した分野を研究するゼミに進むのが一般的だ。

 CG課とAI課では、少なくともこの学園では大きく分野が異なっていた。


「あの、専攻が異なるゼミに入ろうとしたら…… 」


「解ってます。今、私は高木教授の授業を受けています」

 

 ただし、専攻の分野が異なっていても、入りたいゼミの教授の講義を二つ以上受け、すべての講義の単位を取り、編入の希望を述べたうえで許可を得たら、分野の異なるゼミへ入ることは可能であった。


「うん、でも今日は教授も助教授も会議で戻らないから…… あなた名前は?」


「はい、CG課1年、伊澤美奈(いざわみな)と言います」


「わかったわ、教授か助教授に会った時に伝えておくね」


「ありがとうございます」


 ほっとした表情で笑った後、久美に向かってペコリとお辞儀をする。


「それじゃあ、気をつけてね」


「はい」


 それまでの会話となり、久美は研究室の中へ、伊澤美奈は廊下を進んで行った。


「かわいい()だったな。伊澤美奈ちゃんか」


(ん〜?どこかで聞いたことのある名前のような…… ま、いっか)


 彼女は部屋の電気を付け、扉を閉じると。

 パソコンへと向かうのであった。

はい、三人目のヒロイン? の登場です。

伊澤美奈 イザワミナ → イザミナ → イザナミ と当初は彼女を伊邪那美神ととらえて物語を考えていましたが、重要な役割であるにもかかわらず、何らかの神様に当ててはいません(笑)。


打ち込み作業も時間がかかりますね。

本日移動があるので次の投稿は、時間と体力と気力があれば夜に行います。

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