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第23話 楽園 

 薄暗い部屋の中、カチャカチャとキーボードを打つ音のみが聞こえる。

 パソコンの画面にはいくつものプログラムが流れていき、それに向き合う目は真剣なものであった。

 キーボードを打ち込む音が止まると同時に、その瞳は閉じ、大きく息を吸うとゆっくりとそれを吐き出した。


「終わった…… 」


 一連の作業をしていた人物、天野刀那は自分が考え、組み上げたシステムの入力がようやく完成したことに安堵する。

 とりあえずではあるが。


「…… 豊野。システムの概要を3Dディスプレイで表示してくれないか」


「おめでとう。けど結構かかったね。ちょっと待ってね」


 彼女は嬉しそうに天野に応える。

 その彼女は以前に比べて、落ち着いた雰囲気に感じる。

 3Dディスプレイが淡い光を放つ。

 そして、下から順に小さく表示された、システムを表すファイルが表示されていく。

 表示されたファイルからラインが伸び、後に表示されるファイルに繋がっていく。

 そうして、天野たちの前に現れた()()は、天井に差し掛かるほどの巨大な(システム群)だった。

 ようやくここまできた…… だが。


「ようやくだね」


 (システム群)を見上げながら久美が呟く。

 そう、ようやくだ。

 だけどこれはまだ、組み上がっただけなのだ。

 これから()()がガイア上できちんと稼働するか、シミュレーションとして成り立っているのか検証をしていかなければならない。

 だが、今は組み上げた事に安堵する。


「ああ、ようやくだ」


「どうする? さっそくガイアに組み込むの? 」


「いや、まずは報告してくるよ。豊野も一緒に来る? 」


「ん〜、私はいいよ。暑いから」


「はは、わかったじゃあ行ってくる」


 そう言って天野は研究室から出て行く。

 その後ろ姿を久美は少し寂しげに見送った。


〜〜〜・〜〜〜・〜〜〜・〜〜〜


コンコン♪


 加賀見助教授の部屋をノックする。


「入れ」


 天野はドアを開けると同時に頭を下げる。

 そして、顔を上げた先には加賀見助教授は天野を正面に見据えていた。


「どうした?」


 彼女は恐らく何か問題が発生したと思ったのだろう。

 天野に向けた言葉は端的なものだった。

 だが彼は、そんな事を気にする様子もなく口を開く。


「報告します。現状における全てのシステムの組み立てが完了しました」


「…… 見せてくれるか」


 一瞬彼女は目を見開くと、身体を前のめりにして天野に言った。


「はい。カムス展開してくれ」


 言うと同時にカムスの姿がホログラムで映し出される。

 そして一度、加賀見助教授に向かって会釈すると、カムスの前方に先程の研究室と同様に、下部からゆっくりと()()が現れてくる。

 そして、()()が全容を現した時、天野は加賀見助教授に呟くように言った。


「これが出来上がったシステムです」


 ()()は一本の柱を思わせるように太く、長く表示され、それを織りなす小さな一つ一つのファイルは投射機の影響によりキラキラと光を放っていた。


「概要の説明を」


 加賀見助教授は()()を見つめながら天野に(うなが)す。


「はい、このシステムは当初AIによる人間のシミュレーションを行う目的として開発されました」


 天野はやや硬い口調で説明を始める。

 一つのAIによるものではなく、複数のAIを用いる事で多様性を持たせようとしていた事。

 外部情報により人間の特性・感情などを学習させて、それを反映していった事。

 そのうえで発生した問題を解決するにあたり[認識]と[曖昧(あいまい)さ]を持たせた事。

 そして、これは独自にシステムを改善・進化する事。


 以前、彼女にシステムを組み終えた際には、研究発表と同じように概要を説明するようにと言われ、用意した言葉を並べて行く。

 その説明の中でも彼女は()()に魅入るばかりであった。


「…… 以上になります。…… ですが加賀見先生。まだ検証も行われていない状況で、どのような結果になるかも分からない事ばかりです…… ですから」


 (システム)を挟んで天野は左から進み、彼女に話しかける。

 彼の言葉に対して、彼女はキョトンとした表情を浮かべる。

 そして天野は照れた表情を浮かべていたが、次の言葉は彼女を真っ直ぐ見据た真剣な目で放たれた。


「自分には貴女(あなた)が必要です。これを完成させるためにも力を貸してください」


 その言葉に加賀見はゆっくりと目をつむる。


「これまでに私が見たシステムやアルゴリズムに、これほどまで多岐にわたり因子(システム)を組み込んだ物を見た事は無い」


 そして、また目を開け天野のシステムを見る。


「これは、まったく新しい概念をもって創られていると言っていい。もはや[ガイア]とは別のものだ」


 加賀見は天野に顔を向ける。


「天野、このシステムは[ガイア]とは別の分野として捉え、研究されるべきだと私は考える」


 天野はジッと聞いていた。


「そこでだ。ガイアとは別に、このシステムに名前をつけて研究発表を行うように」


「はい?」


 告白にも似た言葉を投げかけた事で少しパニックになっているのか、天野はイマイチ理解していないらしい。


「わからんか? この(システム)に名付けをしろと言っているのだ」


 ちょっとムッとした表情で加賀見は天野に言う。


「ひゃい」


 焦った天野は思わず声が裏返しになる。

 その反応に彼女はクスクスと笑い出す。


「すいません」


 顔を赤くし、ふてくされたように謝る天野。

 そんな彼に優しげに彼女は言った。


「この(システム)を育てることに協力は惜しまない。私からもお願いするよ」


「あ、ありがとうございます。ところで…… どんな名前を付けたらいいのでしょうか?」


 煮え切らないというか、なんとも歯切れの悪さを感じる態度の天野だが、加賀見はさほど気にした様子も無く言った。


「お前の望む世界に、ちなんだ名前を付けたらよかろう?」


 それに対して天野は一瞬焦ると、考え込む。

 自分の望む世界、それにちなむ名まえ…………!

 脳裏に浮かんだ閃きと共に、それを口にする。


「……エデン(楽園)

 はい、今回のお話に関わりますが、神様は一人ひとり二人ふたりでは呼びません。

 一柱いっちゅう二柱にちゅうと言います。

 はしらです。

 昔の人も神様は世界を支える存在であると認識していたのでしょうね。

 この物語では(神様=システム)として表しています。

 つまり、ガイア(エデン)世界を支えているのがシステムなら、現実世界を支えるのが神様だといえます。

 

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