第17話 合宿へGO
天野が研究室を出て向かった先、それは学園の駐車場だった。
今日から夏季合宿だからである。
ノートパソコンを入れたショルダーケースを肩に掛け、着替えなどを入れたバッグを背負い気怠そうに歩いていく。
「暑っ〜」
建物の影を抜けると、駐車場の外周に植えられている垣根越しにバスと十数名の学生の姿が見える。
天野は駐車場と隣接した駐輪場に差し掛かった時、角に設置されている自動販売機からペットボトルを取り出す人物に気付いた。
クニヨシだ。
向こうもほぼ同時に天野に気付いたようである。
「おっ、来たな。みんな集まってんぞ。ほれっ」
クニヨシは取り出したばかりのペットボトルを、ヒョイと天野に向かって投げる。
天野は難なく、それを受け取る。
「サンキュッ」
受け取るとすぐにキャップを開き、口に含ませた。
「ふ〜、今日も暑いな」
「朝ちょっと雨が降ったから、蒸す分よけいにな」
二人は集合場所に向かって歩き出す。
クニヨシは飲みながら歩き。
天野はキャップを閉め、ショルダーケースの外側に取り付けられている、ネットケースの中にペットボトルを直したため、少し遅れたかたちとなった。
そんな二人に向かって声が飛ぶ。
「二人とも遅ーい」
声の主は豊野久美だった。
ピョンピョン飛び跳ねながら、こっち来いと手を振っている。
「集合時間には間に合っていると思うけど?」
何か急ぐ必要あるのか? と言った感じでひょうひょうと答える天野に、ムッとした表情を久美が返す。
「こういう時は全員集合したら、すぐに次の行動に移れるから早めに来るものなの!」
「そうか、悪い」
バツが悪そうに答えはしたが、周りの人達はさして気にしているわけでもない。
みんなワイワイ、ガヤガヤと楽しそうに喋っている。
「先生〜、全員そろいました〜」
久美はバスの昇降口まで早足で向かうと、中にいる高木教授に声をかける。
「はい、そろいましたか」
高木教授はそう告げると、のっそりと腰を上げバスから降りて学生達の前に立つ。
「それではー、えー移動したいと思います。あー各自、えー発表に必要なものは忘れていないでしょうか?」
高木教授の声を受けると、皆は一斉に声を上げる。
「「「はーい」」」
その声と同時に学生達は、色々なものを取り出した。
サーフボード・釣り竿・ビーチボール・クーラーボックス・水着…… 遊びに行く気、満載の準備である。
だが、高木教授はニコニコした笑顔で、気にした様子は無い。
「それでは、行きましょう」
「「「おーーー!」」」
そうして、夏季合宿は始まったのであった。
〜〜〜・〜〜〜・〜〜〜・〜〜〜
学生達はバスに乗り込む。
「おぉ、すげぇー」「わ〜、すごーい」
時折、バスの中からそんな声が上がる。
何だろう? と思いつつも、天野は最後にバスに乗り込んだ。
一段ステップを登ると、運転席とは思えないソファーシートに腰掛ける高木教授がいた。
「君が最後かね?」
ゆったりとした口調で天野に語りかける。
「えっと、はい」
チラッと後ろを振り返り、確認したのち答えると、高木教授は笑顔を浮かべたまま、ゆったりと天野に言った。
「それでは、好きな席へ座りたまえ、扉を閉めるよ」
「わかりました」
そう言ってバスに乗り込んだ天野だったが、中を見てちょっと驚く。
バスの前面部分は左右に小さなテーブルがあり、それを挟むようにシートが設置されている。
最後尾はコの字型にソファーがあり、中央にやや大きめなテーブルがあった。
ちょっとしたリビングルームにも見える。
そして中央部分の左側は、普通よりゆったりとしたシートがあり、右側は自動販売機とトイレが設置されている。
だが、ここで気になることが出てきた。
加賀見助教授の姿が見えないのである。
そんな様子を見て、高木教授は天野に声をかける。
「少し前に、学園のスポンサー企業から安く譲ってくれたんだよ」
高木教授はバスの設備に驚いていると勘違いしたのだろう。
「そうなんですか、ありがとうございます」
気になることの答えではなかったのだが、わざわざ教えてくれた事に礼を言い、軽く会釈して空いているシートへ向かう。
天野は中央のバスシートに座った。
高木教授は全員がシートに座ったことを確認すると、前面にあるタッチパネルに触れる。
「ドアが閉まります。ご注意ください」
車内アナウンスがながれ、音もなくドアが閉まると、バスはゆっくり動き出した。
〜〜〜・〜〜〜・〜〜〜・〜〜〜
天野は頬を右手で受け、ボンヤリと流れる外の景色を見ていた。
「ねー、そういえば加賀見先生見ないよねー」
「ん〜、なんか都合で別行動するんだってー」
それを耳で拾い(ああ、そうなんだ)と思いながらウトウトしだす。
耳からの情報で最後尾の席はシステム課の男子生徒が占領しているらしい、クニヨシの声も混じりカードゲームで盛り上がっているようである。
視界の左前のシートには久美を含めた女子学生が座っており、お喋りに夢中のようだ。
聞き耳をたてるつもりは無いのだが、勝手に入ってくる。
「…… で、クラブにCG画像専門科の子がいるんだけど、すっごく絵が上手いのよ」
「へー、CGで描くの?」
「CGもそうだけど直筆もすっごく上手くて、聞くと本の表紙を飾った事もあるんだって」
「ほー」
「私たちのいっこ下で、美奈ちゃんって子なんだけど…… 」
天野はバスシートに深くもたれかかり、半分目を閉じかけている。
(…… 聞いたことのある…… 名のような…… )
「ところでさー」
久美の友人の一人が話を切り出す。
「何で私たち彼氏いないのよ!」
天野はそこから目を閉じ、寝に入った。
目を閉じる寸前、視界の片隅で久美がこっちの方を見たように思え…… た……
〜〜〜・〜〜〜・〜〜〜・〜〜〜
まどろみのなか……
…… だれかが…… じぶんのなまえを…… よんでいる……
「…… ちゃん、トナちゃん…… おきて」
(…… だれ?)
「トナちゃん、おきて。ミ… ナも…… てるよ」
(…… みな?)
まぶたの裏側に、ぼんやりとした少女の顔が現れる。
その瞬間、天野は飛び上がるように勢いよく起き上がった。
「きゃっ!」
冷や汗をかき、心臓がバクバクと波打つ。
視界が歪んでぼやけている。
「ハッ、ハッ、ハッ」
荒く呼吸を数回繰り返すと、叙々に視界が鮮明になってくる。
隣には驚いた表情の久美がいた。
(そ、そうだここはバスの中、夏季合宿で…… )
(何で、あんな夢を…… )
乾いた唇を閉じ、ありもしない唾を飲み込む。
そこでようやく彼は言葉を口から出せるようになった。
「すまない…… 怖い夢を…… 」
「ビックリしたよ。もー、ほらみんなも降りてるよ」
バスの中には自分と久美しかいないようだ。
ドアの向こうに学生達の姿が見える。
久美の友人数名が、こちらを気にしているようだ。
「あれ? ケータイ鳴ってるよ?」
久美の言葉で初めて天野はスマートフォンのバイブレーターに気付く、間違いなくタカミのものだろう。
「ご、ごめん。先に降りてくれ」
青い顔のまま、焦りまじりの表情で言う天野に、どこか心配しそうにしながらも、久美は明るく声をかけた。
「じゃあ、先に降りているからね」
ピョンピョンと跳ねるようにバスから降りていく。
「あんなんじゃ、ダメだって〜」
「うるさいなぁ、もぉ〜」
そんなことを言いながら離れていく彼女たち。
天野はバッグを手に取りチャックを開く、中には『caution』の文字とともに黄色く点滅し振動するスマートフォン。
それをバッグから取り上げることなく操作すると、彼は力なく席を立った。
宇比地邇神、須比智邇神
豊雲野神の後に現れた神様、ならんで紹介したのは、夫婦神だからです。
独神であるこれまでの神様は、性別は無いとされる説もあります。
しかしこれ以降の神様は、男神・女神がほぼ明確にされています。
この神様は夫婦で一柱とされており、神世七代で最初の夫婦神で、この神様の名には泥土と砂の意味を持ち[大地の形成]を表すとされています。
物語ではまだ出てきていませんが、臼井大智(システム課)と那須比奈子(システム課)をあてています。




