第12話 パートナー
トントン
机の上で、久美が書類をまとめる。
それをクリアファイルに入れながら、彼女は天野に質問した。
「ところで、どんなシステムを動かすの?」
「まぁ、ちょっとね」
答えになってない答えを返す天野。
久美は眉毛をピクッと動かすと、天野に詰め寄った。
「何よ、見せたくないってわけ!」
口を尖らせ、据えた目で問い詰める。
「いや、そう言うわけじゃあないけど」
「今回、トナチムの研究に協力する事になったんだし、ガイアに組み込むにしてもシステムの方向性がわかれば、楽に組み込めるかもしれないじゃない」
確かに彼女の言う通りである。
天野は気迫に押され、ポツポツと喋りだす。
「自立思考アルゴリズのシステムってのがメインになるんだけど…… 」
その言いように、久美は業を煮やした。
「いいからどんなものか見せてちょうだい! 」
「…… はい」
小さな返事を返すと、天野は近くのパソコンを操作する。
「タカミ…… よりカムスがいいか…… 」
ポツリと呟くと、パソコンに置かれている小型のマイクに向かって声を出した。
「カムスシステムオン、天野ファイルより自立思考システムのルーティンを、2番のディスプレイに表示してくれ」
言葉と同時に隣の3Dディスプレイが、電源が入ってことを示す緑色のLEDライトが光を灯す。
その様子を見ながら、久美は天野の背中越しに声を出そうとする。
「そうそうそれでいいの、なんせこれから私はトナチムのパートn…… 」
(パートナー)と言いかけて口を噤む久美。
「ん? 何か言ったか?」
振り返ることなく、天野は質問を口にした。
「なな、何でもないわよ」
顔を真っ赤にしながら久美は答える。
「変なヤツだな」
その言葉に一気に我に返り、冷めた表情を浮かべる久美。
「…… (こやつは)」
据わった目で、文句の一つも言ってやろうかと構えた久美は、その言葉を発する前に天野の言葉でかき消された。
「これ」
3Dディスプレイに映し出された、〈それ〉は彼女を絶句させるには充分だった。
巨大な柱を思わせる〈それ〉は、彼女の思考をさらに複雑にする。
見た瞬間、彼女が抱いたものは、〈凄い〉という驚愕の感情、これから組み込むことを考えての〈げんなり〉とした怠惰感、そして先ほどの〈文句を言ってやろう〉とした立腹感。
それらが交差して、彼女の口から出た言葉は……
「何これ…… バカじゃない?」
であった。
最後の言葉は、しっかりと天野を見据えての発言である。
椅子から腰を落としそうになり、血の気が引いた表情の天野。
それを見て久美は我に変える。
「きゃー、ちがうちがう!」
「見たいと言って、言うことはそれか?」
「違うって! 最初は本当に凄いって思ったの! でも同時にこれから組み込む事を考えたら大変だなと、それから…… 」
そこで口を開けたまま、動きが止まる久美。
「…… それから?」
だんだんまた顔が赤くなってくる。
「何でもいいじゃない! 言わせないでよ!」
こうなると最早〈逆ギレ〉である。
天野は目を閉じて諦め顔で、その言葉を耐えた。
「…… もう、いいよ」
ちょっとの間を開け、そう言うと話を続けんと気持ちを切り替え、久美に説明をはじめる。
「実際、残りの期間でこれを組み込むのは無理と思っているんだけど、加賀見助教授から〈やれ〉と言われているし、出来ると思われているから〈やる〉しかないんだよ」
落ち着いた久美は少し呆けた表情で天野を見ていた。
そんな彼女に天野はお願いをする。
「頼むよ、これからパートナーのようなもんになるわけだし…… 」
少し照れた表情の天野。
それを聞いた彼女は、えもしれぬ高揚感に包まれた。
気恥ずかしさもあるが、それ以上の〈やる気〉が彼女の内より発散される。
「わかったわ! まかせなさい!」
鼻息荒く、天野に宣言する久美。
それを見てちょっとびっくり顔の天野だったが、すぐに笑顔を浮かべる。
「ああ、よろしく頼むよ」
それを見て、また頬を赤らめる久美であった。
宇摩志阿斯訶備比古遅神…… ウマシアシカビヒコヂノカミ
造化三神(天之御中主神、高御産巣日神、神産巣日神)の後に出現する神様。
この神様と、後に出現する天之常立神までの五柱が、別天津神とされます。
この神様は、旺盛に萌え騰がる葦のように〈生命力〉や〈育成〉を神格化した神様と言われています。
ヒコの字があることから、男神とされている地域が多いみたいですが、説明文にあった萌えの字から幼女にさせてもらいました。
物語のなかでは、アシカビをあてています。




