第11話 推薦状
「システムを組み上げるにあたって、アシカビは付けるがあくまで協力という形だ。お前の使用する二体のAIでも今ならば有効に活用できるであろう、フルに使え」
と、言われたのが半刻ほど前。
研究室に設置されている3Dディスプレイの前で、天野は唸っていた。
「そうは言うものの」
自身の支援AIであるタカミと、研究室所属のAIであるカムスのガイア内での扱いにちょっと困っていた。
ガイアに降り立った際、アシカビによりもたらされたシステムのおかげで、二人のAIは有効に機能している。
だが実際のところ、外部から欲しい資料などの情報をガイア内で得ようとすると、タカミやカムスのシミュレーション作業が止まるなどの支障が出ていた。
並列演算・融合演算などの言葉をモノにするガイアで「何故? 」と思ったが、よくよく調べてみるとタカミもカムスもガイア内では〈並列処理される対象〉であって、彼ら自ら並列処理を行なっている訳ではなかったのだ。
なのでガイア内で彼らに命令したことは、実際はアシカビが実行しているようなものであり。
簡単に言えば、要件が多すぎてバテてしまっているような状態らしい。
この件で加賀見助教授の元へ向かい、相談すると彼女から言われたのが冒頭の言葉であった。
この事から推測すると、彼女の言う「自分のAIを使え」とは「自分のAIのシステムを組み直せ」と同意語であった。
「アシカビのコピーじゃあ、ウンと言わないだろうなぁ」
そうぼやく。
(と言うか出来ないだろう)
ガイアで使用するシステムは基本プロテクトの塊だ。
それはAIにも言えることだろう。
恐らくコピー防止対策が組み込まれているはずだ、お札をコピー機で印刷すると防犯システムが稼働する、それに似た機能を付けていると以前聞いた事があった。
「当たり前じゃない!」
背後から声がする、豊野久美のものだ。
「あれ? どうしたんだ?」
「研究課題が変わったの!」
怒った口調で喋るが、目は笑っている。
まぁ、何というか分かる人が見れば分かりやすい、久美の態度だったが……
「ははは…… 」
天野の口からは乾いた笑いが出る。
残念ながら彼は、全く分からない部類の人間であった。
単純に今時期に研究課題が変わった事に対して、不憫だなと思っただけである。
「ははは、じゃないわよ。こっちはまさかタカチムと、カムスンの事まで任されると思わなかったわよ。誰かさんの為にね」
「え?」
キョトンとした顔で天野は久美に向かって言う。
それを聞いて、久美も目をパチクリさせた。
「え? って聞いてないの? 私がサポートに付いたの?」
小さくコクンと頷く天野。
それを聞いて久美は、頭を抱えながらハァ〜と大きなため息を吐いた。
(タマチムは思い付きからの行動が早くて、読めないんだよなぁ)
久美はポーチに手をやると、中からスマートフォンを取り出し、画面を天野に向けた。
『豊野久美へ、アシカビの感情パラメーターの調整はもういい。同じ課の天野刀那の持つAIをアシカビと同系列に置く。サポートに回ってくれ、組み込むにあたり、必要なシステムと書類をファイル形式で添付しておく。外部秘によりプロテクト管理と手続きをするように。 加賀見玉緒』
その内容を見て呆気に取られる天野、自分のAIを組み込めと言いながら、彼女は最初からガイアに組み込むつもりでいたのだ。
人の持ち物を、勝手に使われている様な気もしたが、直ぐにその考えを削除する。
彼自身がタカミをアシカビの様に、並列演算が出来ればなあと思っていたからだ。
「なぁ、学生だけで組み込めるものなのか?」
「内容見てみる?」
そう言うと久美はメールと一緒に添付されたファイルを開く。
細かい文字がずらずらと流れる様に、小さな画面いっぱいに表示されていく。
横から覗き込んでいた天野の顔は、どんどん蒼白になっていく。
「む、無理じゃね?」
久美はジッと小さな画面を見ていたが、数回指で画面内容を上下に動かすと、顔を天野のほうに向けた。
「うん、前とあまり変わらない。学園への手続きがちょっと増えただけだよ」
久美の出した言葉に、今度は天野が目をパチクリさせた。
〜〜〜・〜〜〜・〜〜〜・〜〜〜
部屋に設置されているコピー機から、数枚の用紙が出てくる。
久美はそれを取ると直ぐに、天野の方に差し出した。
「はい、誓約書。取りあえずサイン頂戴」
「そんなものまで必要なのか?」
久美は呆れ顔を天野に放つ。
「当たり前じゃない! これは〈ガイア〉の使用許可じゃ無くて、量子コンピューター〈天〉の使用許可になるんだから」
「それが、何で?」
「あのねー、〈天〉は高木研究室だけじゃ無く、他の研究室や外部の研究機関も取り扱っているの! 研究内容の流失とかの防止対策よ。はい!」
久美は天野に差し出した用紙をピラピラと降り、受け取りを施す。
「なるほど…… 」
訝しげな表情で用紙を受け取ると、それを机の上に置く。
「間違ってガイアの情報を、外部にメールとかで送ったらどうなるんだ?」
「大丈夫、外でタカミにガイアの情報を喋らそうとしても、プロテクトかかるはずだから、普段の生活をするなら問題ないよ。だけど、ウイルスの混入とかで本気で外部に漏らそうとすると、すぐに通報されて莫大な賠償金額請求されるかもしれないからね」
体を支えるように、両肘を延ばした状態でサインをする天野。
両手を机の上に添え、それを見ている久美。
「怖いな…… 」
そう言いながら最後の書類をめくる、それには推薦状と書かれてあった。
ざっと目を通していくが、最後の最後でふと目が止まる。
…… 以上の者を推薦する。
この言葉で締め括られた文章の後には……
高木研究室ガイア開発助教授 加賀見玉緒
そう書かれていた。
神産巣日神…… カミムスヒノカミ
天御中主神、高御産巣日神と並ぶ、造化三神の内の一柱。
この神様は古事記においては後の物語で出てきますが、やはり出番は少ないです。
この神様も高御産巣日神と同様「創造」を神格化させたものと言われています。
この物語では研究室のAIであるカムスをあてています。
オカマ設定なのは、男神とも女神言われていて、はっきりしていないところがありまして……気分で




