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第10話 夏季合宿までに

閑話でちょっと短い章です。

「くわ〜」


 建物の外へ出たところで、クニヨシは背筋を伸ばすと共に大きな欠伸(あくび)をした。

呼び出しの連絡を受けたときには、説教を覚悟していたのだが、行ってみれば話だけで済んだ。

 まさに肩の荷が降りた状態の天野は、はじめこそ解放感にあふれていたが、これからのことを考えると少々頭が痛くなる。


「まぁ、しゃあないべ? 俺は講義いってくるわ」


 クニヨシは踏ん切りがついているのか、軽く受け流す。


「ああ、わかった。それじゃあ後で」


「おう」


 お互いに手をあげ、それぞれの方向を向く。


「合宿までにある程度、形にしなくちゃな…… 」


 天野もクニヨシの態度を見て、気持ちを引き締める。


(まずは加賀見助教授によって改良された物を組み込んでみよう)


「さて、自分は研究室に行くか」


 自分自身に呼びかけるように、そう呟くと足を研究室の方に向けた。


〜〜〜・〜〜〜・〜〜〜・〜〜〜


 学園内にある喫茶店の小さな野外テーブルに久美はいた。


「はぁ〜、最悪だったわ」


 深いため息を吐きつつ、豊野久美はぼやいた。


「ふふ、災難だったわね」


 そんな久美に話しかける女子学生がいる。

 彼女の名は砥部美佳子(とべみかこ)

 彼女も高木研究室だが、クニヨシと同じシステム課に所属している。

 容姿は清楚と言う言葉に形容されるが、彼女の一番の特徴は、その胸元にあった。

 タイトな衣装か? と言われれば決してそうでは無い。

 ヒラヒラと風に揺れる大きめな袖に、ボタン周りにレースの入ったゆったりした雰囲気の薄手のシャツとハイウェストのシンプルなスカートである。

 だが、そんな衣装は関係ないとばかりに強調する〈それ〉は、彼女が椅子に腰掛けると同時に暴れた。


「まったく大勢いる中で、なんであんな言葉出せるのよ! デリカシーの欠片も無いのよ! あの二人!」


 ムッとした表情で暴れる〈それ〉を見つめながら、久美は悪態を吐く。

 彼女の胸も小さいというわけでは無いのだが……


「あらあら、自分の事を棚に上げてはダメよ」


「なんでよ」


 久美は友人の言葉に片方の頬を膨らました。

 それを美佳子はやれやれと苦笑してから、諭す様に答える。


「聞けば、助教授に誤った報告をした事が発端でしょ?」


「ウソは言ってないもん」


 口先を突き出し拗ねた様に答える久美だったが、思うところがあるのだろう、先ほどよりは口調が小さくなっている。


「けど、正しく伝えたわけじゃ無いでしょう? 完全に根本な事が抜けているじゃない」


「むぅ〜」


「誤解される様な言い方をしたのは久美よ。その誤解がめぐって自分自身に降りかかってきた事を、二人だけのせいにするのは良くないわ」


「もぉ〜、この話やめ、やめ!」


(やれやれ…… )


 美佳子はゆっくりとアイスコーヒーのグラスを持ち上げると、ストローをくわえ一口コクンと飲む。

 そしてグラスを元の位置に置くと、別の話題をふてくされ気味の久美に振った。


「ところで、こんな時期に研究課題の変更ってどうゆう事なの?」


「私も寝耳に水でさぁ〜」


「私たちシステム課は基本的に、ガイアシステムの改善やデータ入力が、そのまま研究課題とされていて、与えられた物を組んでしまえば、それで単位が貰えるんだけど。AI課のテーマは【AI(人工知能)の進化・新たな可能性について】だっけ? ずいぶんと曖昧なテーマね。それに沿った研究課題を与えられるってきいてたけど?」


「うん、AI関連の研究に沿ったものなら、自分がやりたい研究を選ぶ事も出来るんだけどね。許可が必要だけど。私の場合は【外部情報による機械学習の並列化において、分類及び選別から導かれる行動の自立思考パラメータの調整による変位】ってやつだったんだ」


「え、えらい長いタイトルね。具体的にどんな事をしているの?」


「助教授の個人AIの調整」


「 簡単すぎる程にまとめたわね、助教授って…… 」


「うん、加賀見助教授のアシカビちゃんのこと」


「なんか凄いわね、個人のAIなんか普通は人に見せるものじゃ無いでしょう? それも加賀見助教授のだなんて…… 」


「そうかなぁ〜」


「加賀見助教授の研究データが外に漏れでもしたら、ちょっとしたパニックになるわよ。 それで? 新しい研究課題って何をするの?」


「ん〜、なんだか今度新しいAIをガイアに組み込むから、それに関するバックアップ作業を頼まれたの」


「ふーん、なんか助手みたいな扱いね。久美って加賀見助教授とは親戚か何かなの?」


 そう言いながら美佳子はストローを口に運ぶ。

 彼女は疑問というか不思議に感じるのだ。

 一学生が助教授に接する対応やその距離感が、立場を逆にしても非常に近く感じるのだ。


「うーん、それはねー」


 指を下顎に当てつつ、考える仕草の久美に対して、美佳子は澄ました表情でコーヒーを口に含む。

 ただし美佳子の耳は、久美の口から発せられるであろう言葉に集中していた。


「ひ・み・つ♪ 」


 ごめんねと手を合わせながらも、笑顔で答える久美に対して、どう思ったのか美佳子は口に含んでいるストローの先端から、泡をプクリと作り出す。


「…… まあ、いいわ。でもこっちも変なのよ、急に組み立てているシステムを完成させろだなんて」


「え? そんな話になっているの?」


「ホントいい迷惑よ。まあ、私は前任の引き継ぎだから、ほとんど組み上がっているけど」


「それって大戸先輩の?」


 その言葉に急に顔を赤くする美佳子。

 前任だったというその先輩、当時としては女学生に大変人気で憧れの的であった。

 久美も数回会った事があるのだが、確かに眉目秀麗といった好青年であった。

 その先輩は卒業しているはずなのだが、ことあるごとに彼女の前に現れて、研究を手伝っているという。

 大戸先輩と美佳子は付き合っているのか? と言う噂がちょっと前まであったが、彼女はそれを否定している。


「そ、そうよ。何かおかしい?」


「べつに〜、ただ羨ましいな〜と思って」


 実際におかしいいな? とは思う、彼女の狼狽えから見てもそう感じる。

 だけど、友人としてそれ以上は聞き出そうとは、久美は思わなかった。


(付き合っているとしても、隠す必要ないと思うんだけど)


 そんな事を思いながら、久美はグラスの中のオレンジジュースを飲み干した。


ピロピロ♪ ピロピロ♪


 久美のスマートフォンからメールの着信音が鳴る。


「誰からだろ?」


 スマートフォンを取り出し、着信表示を見ると悲壮感を持った声が出てきた。


「あ〜」


 それと同時にうなだれる久美。


「どうしたの?」


「加賀見助教授から、さっき言ったガイアに組み込むAIの概要みたい…… 」


 ちょっと不服そうな表場でメールの内容を確認し出したが、だんだんと目を見開く。


「ゴメン、ミカチム。用事ができちゃった」


 言うと同時に久美は席を立つ。


「ちょっと! どうしたの?」


「またね〜」


 そう言い残し、久美はタッタッタッと足早に、その場を立ち去っていく。


「ちゃんと連絡入れなさいよー」


 美佳子は立ち上がり、久美の背中に向かって叫ぶ。


「まったく、そそっかしい」

 

 苦笑混じりに呟くと、また席に腰掛けコーヒーを口にする美佳子だった。


高御産巣日神…… タカミムスヒノカミ


天御中主神の次に現れる神様。

造化三神の一柱。

古事記では、この神様も現れたと思ったら消えてしまう神様。

ウィキなどでは高木を神格したものとしており、生産・生成の言葉を含んでおり「創造」を神格化した神様とされています。


この物語では天野のAIであるタカミを当てています。

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