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放課後

                          五 放課後


 

 僕は部活に入ってないから、暇なんだ。アハハ。

 ・・・もちろん、僕が部活に入ってたなら・・・例えば、僕がもしバスケ部に入ってたら、身長百七十センチ台なのにはバシバシダンクを決める男として、もうチームの花形だったろうね。間違いなく。それで、皆からは『小さな大巨人』とか、『リアル清田』と言われていたに違いない。(そういう漫画のキャラクターがいたんだよ。小さくても、ダンク決める奴がね。)

 そして僕は颯爽と、スリーポイントとダンクを相手のチームに叩き込んだ後、僕にぞっこん惚れ込んだ相手チームの一つ年下のマネージャーの所に行って、こう言うわけだ。

 「君の心にも、僕はスリーポイントを決めてしまったようだね」

 「ええ・・・。私のバスケットゴールは、あなたのためにだけあるわ」

 ・・・・・・・・・・・・下ネタじゃないよ。

 ほんとに。・・・いや、嘘じゃなく。そんな気はなかったんだよ。本当に。君も・・・あざといなあ。そんなところに目をつけるなんて。

 ・・・まあね、僕がもし部活に入ってたとしたら、そんなんだったね。僕は。間違いなく。まあ、僕も実は本当の所、ロシアのエカチェリーナ二世と、ハプスブルグ家の血を引いているんだよ。・・・本当はね。・・・こんなアジア顔だけど。貴種流離譚ってやつさ。折口先生だかがそう言ってたらしい。貴種流離譚。僕は貴種。そして、世界を流離する。

 こんな馬鹿な事を言うのはもう止めにしようか・・・?。僕はね、今日は掃除当番だったんだよ。それで、皆と掃除してた。廊下を掃いたり、拭いたりね。雑巾はやりたくなかったんだけどね。何故か、僕と泉が雑巾を拭くはめになった。他の連中は箒を掃いてね。・・・全く、いい身分だよ。それでさ、僕は泉にーーーあいつは下の階で、雑巾かけたんだけどさ、日頃から気になっている事を質問しだした。まあ、暇つぶしだよ。暇つぶし。

 「泉、聞こえるか?」

 と、僕は階段一つ分下にいる女子に声をかけてみた。・・・だが、反応はない。仕方なく、僕は一つ階段を下がって(階段一つ分の雑巾がけを丸々スルーして)、泉の近くに降りてきた。

 「おい、泉」

 と、僕は髪で見えない顔に向かって言葉を注ぎかけた。時は丁度夕暮れ時でね、夕日が廊下に窓越しに差し込んでいたよ。僕はその夕日を見てふと、次のように考えた。「ああ、学校と夕日というのは実に、素晴らしい組み合わせだなあ」と。そして、次のようにも思った。「多分、僕は将来、こんな一瞬、こんな風に廊下に夕日が差し込む一瞬というのを、未来のどこかできっと懐かしく思うに違いない。これは確かに、何気ない一瞬だけど、しかしなんというか、多分、大切な瞬間でもあるんだ」ってね。・・・なぜだか僕はそう思った。なぜだか、ね。

 だが、そんな詩的雰囲気を漂わせる十九世紀のフランス象徴派的高校生、現代のアルチュール・ランボー(この人の名前は泉に教えてもらった)ーーー即ち、僕の事を泉はまるで何も思わず、「何?」と暗い声で聞いた。・・・ったく、お前には詩はわからんよ。詩は・・・。

 「おい、泉。お前さあ、いつもあんなわけのわからない物ばっかり読んでいて、面白いのか?」

 と、僕は生真面目に雑巾を拭いている泉に向かって話しかけた。・・・ったく、そんなのは適当にやればいいんだよ。

 「どういう意味?」

 と、泉は手を動かしたまま、顔も上げずに聞いてきた。いや・・・まあ・・・そのままの意味だよ。そのままの・・・。

 「そのままだよ」

 と、僕は言った。僕はもう雑巾など持たずに、階段に腰掛けていた。

 「あんな難しい本ばかり読んで、何かの役に立つのか?。・・・受験にでも出るのか?」

 と、僕は聞いた。僕はそう聞いていて、何か、自分が嘘臭い事を言っているような感じに、ふいにとらわれた。嘘臭いな・・・何故か、僕が。

 「役に立てばいいわね。それより・・・・さっさと、掃除終わらせましょう。上の階、まだでしょ?」

 と、ふいに泉は顔を上げて、僕を見ながら言った。その顔はなんというか・・・あんまり普通の顔じゃなかった。なので、僕はその泉の顔に気圧されて

 「はいはい」

 と言いながら、自分の担当の場所の掃除を始めた。・・・やれやれ。



                             ※※※


 ・・・・・・・・。

 ・・・・・・・・という感じで、僕は教室の天井を見ていた。教室には僕一人である。

 僕は今、掃除を終えて、そして鞄を持って教室の外に出ようと思った。しかし、ふと、教室に僕以外の人間が誰もいない事に気付いて、ふとそこに残ってみる気分になったのだ。・・・僕がトイレでウンコしている間に、皆帰っちゃったんだな。

 僕は大人しく、自分の席に座る。そして、なんとなく・・・思いついて、教室の戸を閉めて、中が見えないように細工をする。そう、これで僕は一人だ。

 放課後の教室に、一人。僕は取り残された。ここは世界の果てだ。

 僕はその世界を想像する。 

 そう、僕はこの宇宙の果てに一人だ。そして、あのグラウンドに見える、ランニングしている生徒達は皆、実は自動ロボットであり、あれは永遠にあのトラックをぐるぐる回っている、そういう機械なのだ。

 僕は、そのように考える。それは放課後の怠惰な学生のくだらない愉しみなのだ。

 ・・・もういつか、世界は滅びてしまった。人類は消え、人類が残した遺産のみが残された。そう・・・。そうなのだ・・・。

 僕は、その世界に、自分でナレーションをつけてみる。それは凄く、物凄く虚しい行為だ。でも、僕はそれをやる。何故って?・・・・・。そんな事に、理由はないんだよ。理由は。

 理由なき、ナレーション。その時、『時』は動いたのだった。偉大なる『偉人』の手によって。


 「そう、世界は消えました。・・・遥か、一万六千年前に。しかし、人類が残した高度な管理システムと自動機械と、高度なプログラムだけは残されたままです。だから、世界はまるで平和で穏やかで、何の変哲もないようにも見えます。しかし、この今、生ある人類は一人も残されていないのです・・・」


 そうだ、と僕はつぶやく。その通りだ。それは、間違いない。間違いない事だ。僕は試しに、自分のスマートフォンをポケットから取り出し、そしてツイッターを開いてみる。様々な人間が様々な事をつぶやいている。しかし、それはそう見えるだけの事で、実はもう誰一人としてその中の人物はもう存在していない。それは今や、そのように発言するプログラムが、もういないその人の代わりに発言しているだけなのだ・・・。

 さて、この消えた人類の中で、残されたの僕一人だ。


 僕はそんな妄想をした。

 そして、その妄想は僕をどこにも連れて行かなかった。

 その代わり、世界には「別の形」での結末が訪れた。

 それは、ふいの訪れ。


 ・・・急に戸がガラッと開いて、担任教師が入ってきたのだ。そして、うちの担任は僕を見て、次のように言った。

 「お前、何をしているんだ。もう教室閉めるぞ。早く、出ろ」

 こいつはロボットだ、こいつはロボットだ・・・と僕は念じながら、鞄を背負って、教室を出た。

 あるいは、僕一人がロボットだったのかもしれないが。


 

                              ※※※


 三年前に、僕がいた中学の同級生が自殺した事があった。

 なぜだか、僕はそんな事を思い出した。ふと。風に誘われて。僕は、風に誘われてふと、そんな事を思い出したのだ。

 ふと。

 下校の道を一人で歩く。自転車から降りて。・・・そんな気分だったのさ。急ぎたくはなかった。自転車なら十分でつく。僕は時間をかけたかった。このかけがえのない時間という資源、人生という奇跡のこの大切な時を、僕は完全なる無意味として消費したかった。

 夕日が美しかった。

 それは僕の目を射抜いて、魂まで突き刺してきた。・・・なので、僕は夕日に言ってやったよ。「お前はどこまでも入ってくるんだな・・・」って。

 三年前、とある生徒が自殺した。僕はその事を思い出していた。

 僕はその生徒を何度か廊下で見た事がある。何か・・・暗いやつだったね。だから、そいつが自殺したのだと聞いて、納得する部分もあったわけだ。ああ、あいつか、と。

 それで、そいつは自殺した。何の脈絡もなく。 

 いじめがあった?・・・。なかったさ。そんなものは。でも、クラス中、誰もがそいつの事についてはもう話したがらなくなっていた。そいつのクラスメイトから後で聞いたんだけどさ。

 学校は・・・言ったよ。全校集会を開いてね。「マスコミに取材されたとしても、適当な事は決して言わない事」・・・。何せ、今は皆がネット上で、襲いかかる事のできる相手を、手ぐすね引いてじっと待っているからね。皆は、さながら飢えた狼といったところさ。これで、何か、「いじめ」やら、何やらの問題が発覚したとしたら・・・・・確かに、ぞっとするね。学校側としちゃあね。

 ところで、そいつが自殺した場所っていうのは、僕も知っている一つの古い廃工場だった。馬鹿でかい公園のそばに、茂みに隠れてひっそりとそれはあってね。僕はその中に昔、秘密基地を一人で作って遊んでた。・・・ダンボール集めてさ。わりと、家から近かったんだよ。・・・小学生の頃さ。

 で、その暗い奴ってのは、その中で刃物で手首を切って死んだんだ。・・・・全く、よくあんな暗く寒々しい場所で、そんな事できるな、って僕は思ったよ。そして、その封鎖された場所の前を通るたび、僕は不思議な気持ちになったんだよ。「ああ、あそこで手首切って死んだんだな」・・・って。不思議だよ。本当に、人が死ぬってのはさ、本当に妙なもんだよ。・・・できれば、死なないでもらいたいよね。変な話だけど。だって、何かこう・・・・そんな風に死なれるとさ、まるで生きてるこっちが否定されているみたいな気がするじゃないか。「どうして、お前、まだ生きてるんだ」・・・みたいな。

 でさ、その話にはまだ続きがあるんだよ。それはまるで通夜みたいな、そいつの自殺の後一週間くらいした学校で、とある友人からこっそり聞いたんだけどさ、そいつはどうやら遺書を残していったんだよ。で、その中身は、別に一般公開されたわけじゃないんだけどさ、その友達が何故か知ってて。・・・確かにそいつは情報通で、誰と誰が付き合ってるなんていう事は詳しかったけど、そこまで知ってるとは思わなかったな・・・。で、その教えてもらった遺書っていうのはこんな風に書いてあったんだって。


 「僕はこれから死にます。ですが、僕が死ぬのは誰かのせいではありません。これは、僕が一人で勝手に決めた事です。僕はいじめられたとか、両親の愛情が足りなかったとか、そういう事は全然ありません。全ては僕の責任です。全ては僕という人間が身勝手に死ぬ事を選んだというただそれだけのことです。お父さん、お母さん、姉さん、みんな、ごめんなさい。これからは僕の分、ライリーを可愛がってやってください」


 ・・・そう書いてあったんだって。その友達はその文面を、携帯にテキストで打ち込んでいてね。・・・もう、会うやつ会うやつに見せびらかしてたんだろうね。僕にも、見せてくれたよ。僕はその時に、複雑な気持ちになってね。そして、今も、僕は複雑な気持ちさ。

 僕は今は高校一年生だ。その頃とは違う。でも、今も僕は複雑な気持ちなんだよ。複雑な。 

 僕は今、高校からの帰路にふいに・・・・・自転車を押しながら、思うんだ。死ぬのならさ・・・何か、明確な理由があって欲しいよね、って・・・。そんな風に、なんの脈絡もなく、自分の意志で死なれたらさ、生きてるこっちはどうしたらいいんだい?・・・一体。

 生きてるってのは大した事だよね。しかし、死ぬ事も大した事かもしれない。・・・何だか、僕の頭はぐるぐるしてくるよ。でも、死ぬってことが、あの廃工場の中で、手首を切るって事なら、僕はごめんだね。・・・多分、僕が今、生きている理由というのはそれなんだよ。つまり、そんな所でそんな風に死にたくはない、っていうさ。

 死ぬなら病院で?・・・。嘘つけよ、あんな死臭の染み付いた場所は嫌だね。死にかけてた祖母の病室に行った事があるけど・・・・・・・この話はやめよう。

 僕は何故だか、そんな風に内省的になっていた。・・・どういう風の吹き回しだろうね。・・・全く。何故だろうね。何故、僕は急に深刻そうになってしまったんだろうね。何故だろうね。何故だろうか・・・。多分、どこのテストにも出る事はないだろうけど、この答えは気になるね。

 何故?。

 その問いはーーーそして、その答えは流星の彼方に消えていったさ。・・・そうさ、今僕の目を射貫くようなあの太陽の裏に一筋の流星が走って行くのを、僕の心の目は見た。・・・・・詩的だろう?。どうだい?。僕は「ポエマー」なんだ。・・・・・ふざけた事を言うのはやめよう。僕は何故か、意気消沈した気持ちで家へ帰ったさ。




 (何故だろう?)


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