9話 大量に拾ったものは、まさかの物でした。
「これは――」
ガルグさんが、手に持った石を見つめながら言った。
私はごくりと唾を飲み込む。
いったい、なんなのだろう。
希少な鉱石?
伝説級の魔石?
もしかしたら、とんでもなく高価な素材なのかもしれない。
私は少しだけ期待した。
そして。
ガルグさんの口から出た言葉は――
「ストーンアントの……うんこだ」
「…………」
私は固まった。
「…………え?」
「だから、ストーンアントのうんこだ」
「…………」
頭の中が真っ白になる。
うんこ。
今、うんこと言った。
私はゆっくりと魔法袋を見る。
中には大量の《???》。
「…………」
そして、昨日の自分を思い出す。
拾った。
拾った。
また拾った。
「…………」
私は震える手を見つめた。
私は。
うんこを拾って。
うんこを集めて。
うんこを眺めていた。
「…………」
顔が熱くなる。
いや、逆だ。
血の気が引いていく。
「う、うそ……」
額から汗が流れる。
「私……」
声が震えた。
「うんこ、拾ってたんですか……?」
「まあ、そういうことだな」
ガルグさんは笑った。
「はっはっは! お前、そんな顔するなよ!」
「だって……」
私は両手で顔を覆う。
「うんこですよ……?」
「まあな」
「私、いっぱい拾いましたよ……?」
「見れば分かる」
「…………」
もう何も言いたくなかった。
昨日の私は、何を考えていたんだろう。
《???》だから気になって。
何かすごいものかもしれないと思って。
見つけるたびに拾って。
拾って。
拾って。
「…………」
穴があったら入りたい。
そんな私を見て、ガルグさんはさらに笑った。
「だがな」
「……?」
ガルグさんが、手の中の石――いや、うんこを持ち上げる。
「こいつは、ただのうんことは違う」
「……?」
「ストーンアントのうんこはな。貴族が好む素材なんだ」
「……うんこを?」
「ああ」
私は信じられない顔でガルグさんを見る。
「磨けばな、宝石みてぇに光る」
「宝石……」
「ストーンアントが何を食ってるかで、色や輝きが変わる。だが、磨くまではどんな色になるか分からん」
ガルグさんはそう言って、石を軽く転がした。
「だから、珍しい色のやつなんかは貴族が欲しがる」
「…………」
私は少しだけ希望を取り戻した。
「じゃあ……」
恐る恐る尋ねる。
「これ、ギルドに持っていけば売れますか?」
「もちろんだ」
「!」
私はぱっと顔を上げた。
「ただしな」
ガルグさんが続ける。
「中身が分からん以上、今のままじゃ高くは買い取ってもらえねぇだろうな」
「……そうなんですか」
「だから――」
ガルグさんはニヤリと笑った。
「このワシが磨いてやろう」
「え?」
「磨けば、どんな石なのか分かる。価値も見えてくる」
「本当ですか?」
「ああ。ただし……」
ガルグさんは指を一本立てた。
「報酬として、一つくれねぇか?」
「一つですか?」
「そうだ」
私は一瞬考えた。
でも。
一つくらいなら。
「はい。もちろんです!」
即答だった。
「よし!」
ガルグさんは満足そうに笑う。
「なら、また数日後にこい! それまでに磨いといてやる!」
「よろしくお願いします!」
私はぺこりと頭を下げた。
そして。
魔法袋を開く。
「じゃあ、これ全部お願いします」
「……全部?」
「はい」
どさっ。
どさっ。
どさっ。
魔法袋から《???》――ストーンアントのうんこが大量に出てくる。
「…………」
ガルグさんが固まった。
「お、お前……」
「いっぱい拾ったので」
「いや、そういう問題じゃねぇ!」
「?」
「どんだけ拾ってんだよ!」
私は首を傾げた。
「いっぱいありましたから……」
ガルグさんは頭を抱えた。
「……とんでもねぇ嬢ちゃんだな」
翌日。
ラウラは昨日採ってきた薬草と赤土を持って、冒険者ギルドへ向かった。
「おはようございます」
「おはようございます、ラウラさん」
受付のお姉さんが笑顔で迎えてくれる。
「昨日もかなり採取されたようですね」
「はい。いっぱい採れました」
まずは薬草から査定してもらう。
一つ。
また一つ。
鑑定が進んでいく。
「……これは高品質ですね」
「高品質?」
「はい。普通の薬草よりも効果が高いです」
「へぇ……」
続いて赤土。
こちらも鑑定される。
「赤土も高品質ですね」
「赤土も……?」
「はい。建築材料としてかなり使いやすい品質です」
私は少し嬉しくなった。
そして、最終的な査定額が出る。
「合計で――金貨4枚になります」
「……!」
金貨4枚。
「ありがとうございます!」
私は両手でお金を受け取った。
ニヤニヤ。
ニヤニヤ。
「えへへ……」
金貨が増えた。
昨日までより、またお金持ちになった。
私は上機嫌でギルドを出た。
「何買おうかなぁ……」
町を歩いていると。
ふと、店先に並んでいるものが目に入った。
「……あ」
かわいい靴だった。
白を基調にした、小さくて可愛らしい靴。
私は吸い寄せられるように近づいた。
「かわいい……」
店員さんに聞いてみる。
「すみません。この靴はいくらですか?」
「金貨2枚です」
「……金貨2枚」
私は靴を見る。
かわいい。
そして、説明書きを見る。
《移動速度上昇》
「…………」
移動速度上昇。
「これ……」
私は少し考える。
速く歩ける。
速く走れる。
つまり。
「採取に行く時間が短くなる……?」
私は目を輝かせた。
「これください!」
「ありがとうございます」
金貨2枚を支払い、さっそく靴を履いてみる。
「……どうかな?」
私は店の外へ出る。
一歩。
二歩。
そして――
「わっ」
思ったより体が軽い。
「速い……!」
私は嬉しくなった。
「これなら、もっと遠くまで行ける!」
残った金貨を大切にしまって。
私は森へ向かった。
森に入ってしばらく。
薬草を探して歩いていると。
「……あ」
目の前に。
ゴブリンがいた。
一匹。
二匹。
三匹。
「…………」
さらに奥。
「いっぱい……」
ゴブリンの群れだった。
「…………」
私はゆっくり後ずさる。
「……こ、こんにちは」
ゴブリンたちがこちらを見る。
「…………」
「…………」
「……失礼します!」
私は全力で走った。
「ギャッ!?」
後ろからゴブリンの声が聞こえる。
「こ、来ないでくださいぃぃぃ!」
私は走る。
逃げる。
とにかく逃げる。
森の中を右へ。
左へ。
木の陰に隠れる。
「……はぁ……はぁ……」
静かになった。
「……撒いた?」
そっと顔を出す。
「……!」
いた。
「なんでぇ!?」
また走る。
逃げる。
隠れる。
見つかる。
逃げる。
隠れる。
見つかる。
逃げる。
「もう嫌ぁぁぁ!」
それから何時間も。
私は森の中を走り続けた。
夕方。
私は町の門をくぐった。
「……はぁ……」
足が重い。
「……疲れたぁ……」
今日は薬草をほとんど採っていない。
ゴブリンから逃げていただけだ。
「……何しに森へ行ったんだろ」
私は宿へ向かいながら、ふらふら歩く。
そしてふと思った。
「でも……いっぱい走ったなぁ」
私は自分の足を見る。
「……ただのダイエットだよぉ」
その瞬間。
――ピコン。
「……ん?」
目の前に文字が浮かんだ。
《ステータスが上昇しました》
「……え?」
私は立ち止まる。
ステータスを確認する。
---
ラウラ
体力:35+10
スタミナ:10+30
魔力:2
力:4
守:6
速度:5+8
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「…………」
私はしばらく眺めた。
「……上がってる?」
体力。
スタミナ。
速度。
「…………」
私は少し考える。
そして。
「……速度が上がって」
「スタミナも増えたってことは……」
目を輝かせる。
「採取に向かう時間が短縮できる!」
さらに考える。
「ってことは……」
「もっと遠くまで行ける!」
「もっといっぱい採れる!」
「もっといっぱい売れる!」
「もっといっぱいお金になる!」
「…………」
私は一人で拳を握った。
「やったぁ!」
嬉しい。
ゴブリンから逃げただけなのに。
結果的に、採取に役立つ能力が上がった。
「明日はもっといっぱい採れるかも……」
私はニコニコしながら宿へ戻った。
今日は本当に疲れた。
ベッドに入る。
布団をかぶる。
「……明日は、いっぱい採ろう……」
そう呟いた直後。
私は深い眠りについた。




