57話 久しぶりの再会と上級ダンジョンのキングコバルトやっつけました!
「うーん……どれにしましょうか」
王都の冒険者ギルド。
ラウラたちは巨大な依頼掲示板の前で、依頼書を一枚ずつ確認していた。
採取依頼、魔物討伐、護衛、ダンジョン調査、希少素材の回収。
王都だけあって、ブングルのギルドよりも依頼の種類が多い。
しかも、報酬の桁が違う。
「こっちは報酬金貨五十枚です! でも、危険度が高いですね……」
「ちみ、こっちは金貨八十枚なのだよ!」
「えっ、八十枚!?」
ラウラは思わず依頼書に顔を近づけた。
金貨八十枚。
前世の感覚で考えれば、とんでもない金額だ。
しかし、依頼内容を読んだ瞬間、ラウラはそっと依頼書を戻した。
「……竜種の討伐ですか。これは無理です。逃げます!」
「まだ受けてもいないのに逃げるの!?」
ダリアが突っ込む。
「だって、竜ですよ!? 私、もう竜には関わりたくありません!」
マグマドラゴンとの戦いを思い出す。
あのときは必死だった。
必死に投げて、必死に逃げて、気づいたら倒していた。
もう一度やれと言われても、絶対に遠慮したい。
「ラウラ、あっちの採取依頼はどう?」
ギルティが別の依頼書を指差す。
「ええと……珍しい薬草の採取ですね。報酬は銀貨五十枚。うーん、悪くないですけど、採取場所が少し遠いですね」
「こっちは魔鉱石の回収だよ。報酬もなかなかだね」
リリスも真剣な顔で依頼書を確認していた。
四人があれこれ相談していると――。
「……あれ?」
不意に、後ろから声がした。
「もしかして、ラウラちゃん?」
「え?」
振り返ると、そこには二人の女性冒険者が立っていた。
一人は剣を腰に下げた、明るい雰囲気の女性。
もう一人は杖を持った魔法使いで、柔らかな笑みを浮かべている。
剣士の女性が嬉しそうに笑った。
「あのとき助けてもらった冒険者よ!」
「私!ミアだよ!」
「ルルシアよ」
「……あっ!」
ラウラはようやく思い出した。
ハイオークに襲われていた冒険者たち。
あのとき、ラウラとダリアが作った薬草由来の万能ポーションを飲んで、窮地を脱した二人だ。
一緒に依頼をこなしたこともある、仲の良い冒険者たちである。
装備も髪型も変えていてラウラは気づかないでいたのだ。
「ミアさん! ルルシアさん! お久しぶりです!」
「やっぱりラウラちゃんだ!」
ミアがぱっと顔を輝かせた。
「まさか王都にラウラちゃんがいるなんてね!」
「本当にびっくりしたわ! 元気そうでよかった!」
ルルシアも嬉しそうに笑う。
ラウラも自然と笑顔になった。
「お二人もお元気そうでよかったです! まさか王都で会えるなんて思いませんでした!」
「こっちの台詞よ!」
ミアは楽しそうに笑った。
「でも、どうして王都に? ブングルを拠点にしていたんじゃなかったの?」
「ええと、実はですね……」
ラウラは少しだけ迷ったあと、素直に答えた。
「国王陛下からお屋敷をいただいたので、王都に引っ越してきたんです」
「…………え?」
ミアの笑顔が固まった。
ルルシアも目を丸くしている。
「お、お屋敷?」
「国王陛下から?」
「はい! お庭もありますし、工房も作れる大きなお屋敷なんです!」
ラウラが嬉しそうに説明すると、二人は顔を見合わせた。
「……ラウラちゃん、何をしたの?」
「ええっ!? な、何もしてませんよ!?」
「何もしていない人が国王陛下から屋敷をもらえるわけないでしょう!?」
「そ、そう言われましても……!」
ラウラは困ったように頬をかいた。
マグマドラゴンやら、クイーンバードやら、バルログやら、キマイラやら。
いろいろあったけれど、できれば細かい説明は省きたい。
特に、竜を倒した話はしたくない。
思い出すだけで逃げ出したくなるからだ。
「えっと……それより、紹介しますね!」
ラウラは話題を変えるように、仲間たちへ手を向けた。
「こちらが、ラウラの大切な仲間です!」
「ダリアなのだよ!」
ダリアが元気よく手を上げた。
「錬金術師だよ! よろしくね!」
「ギルティだよ。鍛冶師をやってるんだ」
「リリスです。魔導具師をしています。よろしくお願いします」
三人がそれぞれ挨拶する。
ミアとルルシアは、順番に四人の顔を見た。
そして。
「……え?」
「ちょ、ちょっと待って?」
ミアが困惑した声を上げた。
「ラウラちゃん、今、なんて言った?」
「え? 仲間を紹介しましたけど……」
「いや、そこじゃなくて!」
ミアはダリアを指差した。
「錬金術師?」
次にギルティを指差す。
「鍛冶師?」
最後にリリスを見た。
「魔導具師!?」
「はい!」
ラウラは元気よく頷いた。
「みなさん、すごいんですよ!」
「いやいやいや! そうじゃなくて!」
ミアが頭を抱えた。
「普通、冒険者パーティーって戦闘職が中心じゃないの!? 剣士とか槍使いとか、そういう人たちは!?」
「魔法使いもいるわよね……?」
ルルシアも困惑している。
「ええと……戦闘職は、いませんね」
「いないの!?」
「でも、大丈夫ですよ!」
ラウラは胸を張った。
「みなさん、とっても強いです!」
「ちみ、そこで胸を張るところはナイスなのだよ!」
ダリアが横から突っ込んだ。
「本当に強いんです!」
ラウラは必死に訴える。
ダリアの薬は強力だし、ギルティの鍛冶技術は一流だし、リリスの魔導具作成能力はとんでもない。
そして、みんな逃げ足も速い。
これほど頼りになる仲間はいない。
ただし、ラウラは仲間たちが本気を出したときの恐ろしさを、まだ十分に理解していなかった。
「そ、そうなんだ……」
ミアは何とも言えない顔をした。
「まあ、ラウラちゃんが言うなら、そうなんだろうけど……」
「でもね、ラウラちゃん!」
ルルシアが気を取り直したように笑った。
「実は私たち、つい最近Cランクになったの!」
「そうそう! ようやくCランクよ!」
ミアも嬉しそうに胸を張る。
「ここまで来るの、結構大変だったんだから!」
「おお! おめでとうございます!」
ラウラはぱちぱちと拍手した。
以前会ったときより、二人とも成長したのだろう。
仲の良い冒険者が昇格したのは、素直に嬉しい。
――すると。
「あちしたちはBランクなのだよ!」
ダリアが、何でもないことのように言った。
「…………え?」
ミアの動きが止まった。
「……Bランク?」
ルルシアも固まった。
「そう! Bランク!」
ダリアは得意げに胸を張る。
「ラウラたち四人は、みんなBランクなのだよ!」
「えええええええっ!?」
ギルド内に、二人の驚愕の声が響き渡った。
「ちょっと待って! ラウラちゃん、前に会ったときは、まだそんなランクじゃなかったよね!?」
「そ、そうよ! 私たちだって頑張って、ようやくCランクになったのに!」
「えへへ……」
ラウラは困ったように笑った。
「いろいろありまして……」
実際、本当にいろいろあった。
ドラゴンに遭遇し、バルログと戦い、キマイラを倒した。
ただし、ラウラの中では、どれも「逃げようとしたら何とかなった」という記憶でしかない。
「いろいろって何なのよ……」
ミアは遠い目をした。
「ラウラちゃん、私たちが知らない間に何をしていたの……?」
「素材を採取していました!」
「素材採取でBランクになれるの!?」
「なれるみたいです!」
「そんなわけある!?」
ミアとルルシアの悲鳴が重なった。
ラウラは首を傾げた。
冒険者ギルドが認めたのだから、なれるものはなれるのだと思う。
実際には、素材採取の途中で倒した魔物や、数々の功績が評価されているのだが。
本人はあまり理解していなかった。
「……まあ、ラウラちゃんが元気そうでよかったわ」
やがて、ルルシアは苦笑しながら息を吐いた。
「それで、これからどこかへ依頼に行くの?」
「はい! まだ決めているところです!」
「そう。だったら、一つだけ忠告しておくわね」
ミアが少し真剣な顔になった。
「王都の南側に火山があるんだけど、最近、そこにドラゴンが出たらしいの」
「……ドラゴン?」
ラウラの笑顔が凍りついた。
「ええ。詳しい種類はわからないけど、かなり危険らしいわ。だから、南側に行くなら気をつけてね。できれば近づかないほうがいいと思う」
「…………」
ドラゴン。
火山。
その二つの単語が、ラウラの脳内で嫌な記憶を呼び起こす。
マグマドラゴン。
毒を塗った黒曜石。
飛び散る鱗。
そして、恐ろしい咆哮。
「わ、わかりました! 絶対に近づきません!」
ラウラは深々と頭を下げた。
「忠告ありがとうございます!」
「ふふっ。気をつけてね、ラウラちゃん」
「また今度、一緒に依頼を受けましょう!」
「はい! ぜひ!」
こうして、懐かしい二人との再会は終わった。
ミアとルルシアに手を振りながら、ラウラたちはギルドの受付へ向かった。
ただし。
ラウラの頭の中には、すでに別の考えが浮かんでいた。
(ドラゴンは絶対に嫌です。でも、王都には珍しい素材がたくさんあるんですよね……)
できれば、危険な魔物とは遭遇せず、希少素材だけを大量に採取したい。
そんな都合のいい場所があれば最高なのだが。
「すみません、受付嬢さん!」
ラウラはカウンターに近づいた。
「王都の近くに、素材をたくさん採取できるダンジョンはありませんか?」
受付嬢はにっこりと笑った。
「ございますよ。皆様は中級ダンジョンを踏破されていると伺っておりますが、間違いありませんか?」
「はい。ブングルの中級ダンジョンは攻略済みです!」
「でしたら、上級ダンジョンへの参加資格がありますね」
「上級ダンジョン!?」
ラウラの目が輝いた。
「はい。王都には複数の上級ダンジョンがございます。希少な鉱石や薬草、通常では入手困難な魔物素材なども採取できますよ」
「本当ですか!?」
「ええ。もちろん、魔物も強力になりますし、各階層にはフロアボスが存在します。危険度は中級ダンジョンとは比べものになりませんので、十分にご注意ください」
受付嬢は説明を続けた。
上級ダンジョンには、まだ踏破されていない場所もあるという。
未発見の素材や、図鑑に記録されていない魔物が見つかる可能性もあるらしい。
「王都に来ていただいた甲斐がありましたね」
受付嬢が微笑む。
「皆様なら、きっと上級ダンジョンでも活躍できると思います」
「……上級ダンジョン」
ラウラは小さく呟いた。
希少素材。
未知の鉱石。
珍しい薬草。
そして、それらを売却したときの金額。
想像するだけで、頬が緩みそうになる。
「行きましょう!」
ラウラは勢いよく振り返った。
「上級ダンジョンで素材採取です!」
「おお! ちみ、やる気満々なのだよ!」
「珍しい素材があるなら、調合の幅も広がりそうだね」
ダリアは嬉しそうにメディーガンを確認する。
「鍛冶に使える鉱石があればいいなあ」
ギルティも期待に胸を膨らませていた。
「魔導具に使える素材も見つかるといいですね!」
リリスも笑顔で頷いた。
四人の目的は一致していた。
名声でも、英雄の称号でもない。
素材と、お金。
そして、快適な新居をさらに充実させるための資金である。
こうして、金満腹の四人は王都の上級ダンジョンへ向かった。
◇
上級ダンジョン・第一階層
「……わあ」
ダンジョンに足を踏み入れた瞬間、ラウラは目を輝かせた。
岩肌がむき出しになった広大な洞窟。
天井には青白く光る鉱石が点在し、壁の隙間からは淡い緑色の植物が生えている。
空気には魔力が満ちていた。
そして。
《素材採取》Lv4が反応する。
《素材感知》も、周囲のあちこちに存在する素材を捉えていた。
(す、すごい……!)
ラウラの視界には、採取可能な素材の情報が次々と浮かび上がる。
『鉄鉱石』
『魔力石』
『青光草』
『硬質岩塩』
『毒性植物』
さらに、これまで見たことのない素材もあった。
『酸液草』
品質:良質
特徴:葉の内部に強い酸性の液体を蓄える植物。
用途:酸性薬液、金属表面処理剤、腐食薬の原料。
採取時の注意:素手で触れると皮膚を傷める危険あり。
「……酸液草?」
ラウラは思わず声を上げた。
「これ、すごい素材ですよ!」
「どれどれ?」
ダリアが横から覗き込む。
「うわっ、本当に酸が採れるんだ! あちしの錬金術なら、いろんな薬液に加工できそうなのだよ!」
「ですよね!」
ラウラは慎重に手袋を装着した。
酸液草の葉を傷つけないよう、専用の採取道具で根元から切り取る。
その下には、透明な液体を蓄えた小さな袋状の部分があった。
「採取成功です!」
ラウラは酸液草を魔法袋へ収納した。
さらに、周囲を調べてみる。
「こっちには青光草が三十株……。あっ、壁の向こう側に魔力石があります! それから、床の下にも鉱石が!」
「壁の向こう側?」
ギルティが首を傾げた。
「はい! 《素材感知》が反応しています!」
「本当に便利なスキルだね……」
リリスが感心したように呟く。
《採取範囲拡大》のおかげで、以前よりも広い範囲の素材を把握できるようになった。
一つずつ探す必要がない。
素材の種類とおおよその量までわかる。
ラウラにとって、これほど素晴らしい能力はなかった。
「今日はたくさん採取できそうです!」
ラウラたちは第一階層を進みながら、次々と素材を回収していった。
鉄鉱石、魔力石、青光草、酸液草、硬質岩塩。
見たことのない苔や、薬の原料になりそうなキノコまである。
魔法袋の容量には、まだまだ余裕がある。
(これだけ集めれば、帰ったあとに整理するのも楽しみですね……!)
ラウラは幸せな気分になった。
――しかし。
上級ダンジョンは、素材採取だけを楽しめる場所ではない。
各階層には必ずフロアボスが存在する。
そして、この第一階層にも。
「グルルルルル……!」
洞窟の奥から、低い唸り声が響いた。
「……え?」
ラウラが顔を上げる。
暗闇の向こうから、巨大な影が現れた。
二本の足で立つ、狼のような魔物。
その身長は三メートルを超えている。
筋肉質な胴体には硬い毛皮が生え、両腕には異様に大きな斧が握られていた。
黄色く光る目が、四人を睨みつける。
《素材採取》が魔物の情報を表示した。
『キングコバルト』
分類:上級ダンジョン・第一階層フロアボス
特徴:高い筋力と耐久力を持つ二足歩行型の狼系魔物。
武器:大型戦斧
危険度:極めて高い
素材:キングコバルトの毛皮、鋭牙、剛爪、斧腕の筋繊維、魔石、魔核など。
「…………」
ラウラは固まった。
大きい。
とにかく大きい。
しかも、斧を持っている。
「む、無理ですぅぅぅぅっ!!」
ラウラは叫んだ。
「逃げます! 全力で逃げます!!」
「ちみ、まだ戦ってもいないのだよ!」
ダリアも叫び返したが、足はすでに逃走態勢に入っていた。
「いやいやいや! あんなのと正面から戦えるわけないでしょ!?」
ギルティも全力で後退する。
「斧が大きすぎます! あれ、鍛冶場のハンマーより大きいですよ!?」
「皆さん、こっちです! 逃げ道を探しましょう!」
リリスも慌てて走り出した。
こうして、金満腹の四人は、上級ダンジョンのフロアボスを前にして全力疾走を開始した。
「グオオオオオオッ!!」
キングコバルトが吠え、斧を振り上げる。
次の瞬間。
ドゴォォォン!!
斧が地面に叩きつけられ、岩盤が砕け散った。
「ひゃあああああっ!!」
ラウラは悲鳴を上げながら横へ跳んだ。
七色ブーツの速度補正によって、身体が驚くほど軽い。
斧の直撃を避けたラウラは、そのまま地面を転がり、岩陰へと滑り込んだ。
「た、助かった……!」
「ラウラ、右!」
ギルティの声が飛ぶ。
「えっ!?」
キングコバルトが、すでに次の攻撃を繰り出していた。
巨大な斧が横薙ぎに振るわれる。
ラウラは慌てて身をかがめた。
頭上を斧が通り過ぎ、背後の岩壁に激突する。
バキィィィン!!
岩壁が大きく砕けた。
「ひぃぃぃっ! 岩が! 岩が壊れましたよぉぉぉっ!」
「わかったから走って、ちみ!」
ダリアが叫びながら、メディーガンを構えた。
「こうなったら、まずは動きを止めるのだよ!」
ダリアはオレンジ色の宝石を装着したメディーガンをキングコバルトへ向ける。
引き金を引いた。
プシュッ!
発射された麻痺薬が、キングコバルトの胴体に命中する。
「グオッ!?」
キングコバルトの動きが一瞬止まった。
だが、すぐに斧を振り回して反撃してくる。
「まだまだ!」
ダリアは素早くメディーガンを切り替えた。
今度は紫色の宝石。
毒液を発射する。
プシュッ! プシュッ!
毒液がキングコバルトの腕と胸元に命中した。
「グルル……グ、グオオッ!?」
キングコバルトの動きが徐々に鈍くなっていく。
麻痺薬が効き始めたのだ。
さらに、毒が体内へと回り始める。
「よし! 効いてるのだよ!」
ダリアが叫んだ。
「ちみ! 今なのだよ!」
「い、今!?」
ラウラは振り返った。
キングコバルトは苦しげに唸りながらも、まだ立っている。
斧を持つ腕が震えていた。
しかし、完全には倒れていない。
「無理です! まだ動いてますぅぅぅっ!」
「大丈夫! もう動きが鈍いよ!」
「大丈夫じゃないですぅぅぅっ!」
叫びながらも、ラウラの手は腰の魔法袋へ伸びていた。
取り出したのは、小型鉄球。
ギルティが高品質の鉄鉱石から作ってくれた、投てき用の武器だ。
ラウラはドラゴンアームで腕を保護し、キングコバルトとの距離を確認する。
(あの大きさなら、胴体を狙えば……でも、外したらもったいないです!)
鉄球だって、ただではない。
せっかくギルティが作ってくれた大切な道具なのだ。
絶対に無駄にはできない。
「ええいっ!」
ラウラは恐怖に震えながら、鉄球を投げた。
ヒュンッ!!
鉄球は一直線に飛んだ。
麻痺と毒によって動きが鈍ったキングコバルトは、回避することができない。
ドゴォッ!!
鉄球がキングコバルトの胴体を貫通した。
「グ……オ……?」
キングコバルトの巨体が、ぐらりと傾く。
そして。
ズゥゥゥン……!
轟音とともに、地面へ倒れ込んだ。
静寂が訪れる。
「…………」
「…………」
「…………」
「…………」
四人は、倒れたキングコバルトを見つめた。
やがて、ラウラが震える声で呟いた。
「……た、倒れました?」
「倒れたね……」
ギルティが答えた。
「ちみ、また一撃なのだよ……」
ダリアはメディーガンを下ろし、呆れたように肩を落とした。
リリスは倒れたキングコバルトと、ラウラの手に残った空の指先を交互に見ていた。
「す、すごいです、ラウラさん……」
「すごくないです! 怖かったです! 今の、絶対に当たらなかったら危なかったですよ!」
ラウラは半泣きだった。
実際には、七色ブーツの速度、素材感知による反応、投てき術の精度、ドラゴンアームの補助、そしてダリアの麻痺薬と毒が完璧に噛み合っていた。
四人の連携による勝利である。
ただし、ラウラ本人は、ひたすら怖かったという感想しか持っていなかった。
「……あ」
ラウラは、はっとした。
キングコバルトの胴体には、大きな穴が開いている。
その向こう側には、投げた鉄球が転がっていた。
「…………」
ラウラは無言で鉄球を拾い上げた。
傷はあるものの、まだ使えそうだ。
「よかった……! 鉄球が無事です!」
「気にするところ、そこ!?」
ギルティが叫んだ。
「だって、鉄球も大切な素材ですから!」
ラウラは真剣だった。
お金をかけて作った道具を使い捨てにするなんて、もったいない。
それに、何度も使えれば、その分だけ節約になる。
「さて……それでは、素材を採取しましょう」
ラウラは気を取り直し、キングコバルトへ近づいた。
《素材採取》Lv4が反応する。
『キングコバルトの毛皮』
品質:上質
用途:防具、耐衝撃装備、魔物素材加工。
『キングコバルトの鋭牙』
品質:良質
用途:武器、装飾品、魔力伝導部品。
『キングコバルトの剛爪』
品質:上質
用途:武器、防具、解体道具。
『キングコバルトの斧腕筋繊維』
品質:上質
用途:弦、補強素材、強化装備。
『キングコバルトの魔石』
品質:上質
用途:魔導具、魔力供給。
『キングコバルトの魔核』
品質:希少
用途:高性能魔導具、錬金術の触媒。
「おお……魔核まであります!」
ラウラの目が輝いた。
「これは高く売れそうですね!」
「ちみ、さっきまで泣きそうだったのに、もう元気なのだよ……」
「素材は別です!」
ラウラはきっぱりと言った。
恐ろしい魔物は嫌いだ。
できれば二度と会いたくない。
でも、素材は大好きだった。
四人は協力して、キングコバルトから採取できる素材を回収した。
毛皮は丁寧に剥ぎ、鋭牙と剛爪を取り外し、斧腕の筋繊維を傷つけないように採取する。
魔石と魔核も忘れずに回収した。
すべて魔法袋へ収納する。
これだけの素材があれば、ギルティは新しい装備を作れるだろうし、ダリアも新しい薬を研究できる。
リリスなら、魔導具に加工できるかもしれない。
もちろん、売却して金貨に変えるのもいい。
「ふふふ……」
ラウラの口元が緩んだ。
「上級ダンジョン、最高ですね……!」
「いや、フロアボスがいるんだけど?」
ギルティが冷静に指摘した。
「……そ、それは、できれば会いたくないです」
ラウラは即答した。
「次の階層に行けば、また別の素材が見つかるはずなのだよ!」
ダリアが元気よく言う。
「そうですね。まだ第一階層ですし、先に進みましょう」
リリスも頷いた。
四人はフロアボスのいた場所を後にし、第二階層へ続く階段を探した。
やがて、岩壁の奥に下り階段が見つかった。
階段の向こうから、ひんやりとした風が吹いてくる。
ラウラは魔法袋の中身を確認した。
鉄鉱石、魔力石、青光草、酸液草、キングコバルトの素材。
第一階層だけで、かなりの収穫だ。
「よし……!」
ラウラは小さく拳を握った。
「第二階層でも、たくさん採取しましょう!」
「おー!」
ダリアが手を上げる。
ギルティとリリスも頷いた。
そして四人は、上級ダンジョンの第二階層へと足を踏み入れた。
まだ、この先にどれほど珍しい素材が眠っているのか。
そして、どれほど恐ろしいフロアボスが待ち受けているのか。
ラウラたちは、知る由もなかった。
ただ一つ確かなことがある。
――金満腹は、今日も素材とお金を求めて進むのだった。




