58話 上級ダンジョンの最下層には比較にならないほどの魔力がありました。
第二階層
「……そういえば」
第二階層へ続く階段を下りている途中、ギルティがふと首を傾げた。
「第一階層のキングコバルトなんだけどさ。倒したあと、魔物が消えなかったよね?」
「あっ……!」
ラウラは足を止めた。
そうだった。
これまでのダンジョンでは、魔物を倒すと死体が消え、代わりに魔石や素材などのドロップ品が残ることが多かった。
しかし、第一階層のキングコバルトは違った。
倒したあとも、その巨体は消えずに残っていた。
だからこそ、毛皮や牙、筋繊維などを直接採取できたのだ。
「普通のダンジョンなら、魔物は消えてドロップ品が残るはずなのだよ」
ダリアも不思議そうに腕を組んだ。
「でも、あのキングコバルトは消えなかったのだ」
「上級ダンジョンだから、仕組みが違うのでしょうか?」
リリスが考え込む。
「可能性はあるね。普通のダンジョンとは魔力の濃さも違うし、魔物の種類も違う。何か特殊な仕組みがあるのかもしれない」
ギルティが頷いた。
「……つまり?」
ラウラが三人を見回す。
「上級ダンジョンは特別、ということですね!」
「まあ、そういうことにしておこうか」
「詳しく調べるなら、研究者にでも聞いたほうがいいのだよ。あちしたちは素材を採りに来たのだから!」
「そ、そうですね!」
ラウラはすぐに納得した。
ダンジョンの仕組みを調べるのも大切だろう。
だが、今はもっと重要なことがある。
それは――。
「第二階層にも、珍しい素材があるはずです!」
「ちみは本当にぶれないのだ……」
四人は気を取り直し、第二階層を進み始めた。
第二階層は、第一階層よりも天井が高く、広い空間が続いていた。
壁には赤褐色の鉱石が露出し、地面には太い根のような植物が這っている。
《素材採取》と《素材感知》が、次々と反応した。
「おおっ! これは……!」
ラウラの目が輝く。
『紅鉄鉱石』
品質:上質
特徴:鉄分に加え、微量の火属性魔力を含む鉱石。
用途:耐熱武器、防具、鍛冶素材。
『雷鳴キノコ』
品質:良質
特徴:内部に微弱な雷属性魔力を蓄える。
用途:魔力活性薬、雷属性魔導具の素材。
『眠り草』
品質:上質
特徴:葉から抽出される成分に強い鎮静作用がある。
用途:睡眠薬、麻酔薬、鎮静薬。
『硬殻樹の樹皮』
品質:良質
特徴:非常に硬く、軽量。
用途:盾、鎧、魔導具の外装。
『火蜥蜴の鱗片』
品質:上質
特徴:火属性への耐性を持つ。
用途:耐熱装備、火属性防具、錬金術の触媒。
「紅鉄鉱石に、雷鳴キノコ! それに火蜥蜴の鱗片まで!」
ギルティが紅鉄鉱石を手に取った。
「これはいい鉱石だね。鍛冶場に持ち帰れば、かなり良い装備が作れそうだよ!」
「雷鳴キノコは、あちしがもらうのだ!」
ダリアが素早く反応する。
「薬の研究に使えるのだよ!」
「眠り草もお願いします!」
ラウラは採取道具を取り出した。
「これなら薬の材料としても売却用としても価値がありそうです!」
「ラウラさん、こっちにもありますよ!」
リリスが壁際を指差した。
そこには、青白い結晶がいくつも埋まっていた。
『蒼輝結晶』
品質:上質
特徴:魔力を安定して蓄える性質がある。
用途:魔導具の動力源、魔力回路の補助材。
「わあああっ! これは魔導具に使えそうです!」
リリスの目が輝いた。
四人は、それぞれ得意分野の素材を採取していった。
もちろん、売却用の素材も忘れない。
ラウラは《採取範囲拡大》で周囲を確認し、採取できるものを一覧にしていく。
見落としがないか、何度も確認した。
「……ふふふ。これだけあれば、帰ってからの鑑定が楽しみです」
「ちみ、採取しているときが一番幸せそうなのだよ」
「だって、珍しい素材がこんなにあるんですよ!」
そのときだった。
「グオオオオオッ!」
洞窟の奥から、荒々しい雄叫びが響いた。
「ひゃっ!?」
ラウラが飛び上がる。
岩陰から現れたのは、巨大な豚のような頭を持つ魔物だった。
筋骨隆々の体躯。
分厚い皮膚。
大きな牙。
そして、手には巨大な棍棒が握られている。
『キングオーク』
第二階層のフロアボス。
高い筋力と耐久力を誇り、棍棒による一撃は岩を砕くほどの威力を持つ。
「またフロアボスですかぁぁぁっ!」
ラウラは悲鳴を上げた。
「上級ダンジョンは各階にボスがいるんだったね……!」
ギルティも慌てて後退する。
「よし! あちしが麻痺薬を撃つのだよ!」
ダリアがメディーガンを構えた。
プシュッ!
麻痺薬がキングオークの肩に命中する。
しかし、キングオークは怒り狂ったように棍棒を振り回した。
「グオオオオオッ!」
ドゴォォォン!!
棍棒が地面を砕く。
「ひぃぃぃっ! こっちに来ましたぁぁぁ!」
ラウラは逃げた。
ギルティも逃げた。
リリスも逃げた。
ダリアはメディーガンを撃ちながら逃げた。
「ちょっと! みんな、逃げてばかりじゃないか!」
「ギルティちゃんも逃げてるじゃないですかぁぁぁ!」
「そ、それはそうだけど!」
四人は岩柱の周囲を走り回りながら、キングオークの攻撃を避け続けた。
キングオークは巨体に似合わぬ速さで追いかけてくる。
「うわっ! 速い!」
「こっちです! こっちに来ないでくださいぃぃぃ!」
ラウラは必死に走った。
だが、逃げながらも、相手の動きは見ていた。
大振りの棍棒。
振り下ろしたあとの隙。
麻痺薬によって、少しずつ動きが鈍くなっている腕。
(今なら……!)
ラウラは鉄球を取り出した。
「ラウラちゃん、いける!?」
「わ、わかりません! でも、やるしかありません!」
キングオークが棍棒を振り上げる。
ラウラは横へ跳び、攻撃を避けた。
そして、体勢が崩れた瞬間を狙って鉄球を投げた。
「ええええいっ!」
ヒュンッ!
鉄球はキングオークの胸元へ直撃した。
ドゴォッ!!
分厚い皮膚を貫き、巨体の背中側まで突き抜ける。
「グ……オ……?」
キングオークの動きが止まった。
数秒後。
ズゥゥゥン……!
巨体が地面に倒れ込んだ。
「…………」
ラウラは震えながら、両手を胸の前で握りしめた。
「……た、助かったぁ……」
「また一撃なのだよ……」
ダリアが呆れたように呟く。
「麻痺薬と毒が効いていたから、狙いやすかったんだろうね」
ギルティが冷静に分析した。
「ラウラさん、すごいです!」
リリスは目を輝かせていた。
「すごくないです! 怖かったです!」
ラウラは涙目で訴えた。
そして、倒れたキングオークを見つめる。
「……でも、素材はたくさん取れそうですね」
「切り替えが早いなあ……」
ギルティは苦笑した。
ラウラは、すぐに《素材採取》を発動させた。
『キングオークの剛毛皮』
品質:上質
用途:防具、耐衝撃装備、革加工。
『キングオークの巨大牙』
品質:上質
用途:武器、装飾品、貫通武器の先端。
『キングオークの剛爪』
品質:良質
用途:武器、防具、加工素材。
『キングオークの棍棒腕筋』
品質:上質
用途:強化装備、弦、補強素材。
『キングオークの脂肪』
品質:良質
用途:燃料、加工油、錬金術素材。
『キングオークの魔石』
品質:上質
用途:魔導具、魔力供給。
『キングオークの魔核』
品質:希少
用途:高性能錬金術触媒、魔導具の中核素材。
『キングオークの心臓』
品質:上質
用途:薬品、生命力強化薬の研究素材。
『キングオークの血液』
品質:良質
用途:錬金術、魔物由来の強化薬。
「おおお……! 心臓に血液まで!」
ダリアが嬉しそうに声を上げる。
「これは研究しがいがあるのだよ!」
「毛皮もかなり丈夫だね。加工すれば防具に使えそう」
ギルティも満足そうだ。
リリスは魔石と魔核を確認していた。
「魔力の質も良さそうです。魔導具に使えるかもしれませんね」
四人は協力し、キングオークから素材を採取した。
大きな魔物だけあって、採取できる素材の量も多い。
ラウラは一つずつ丁寧に回収し、魔法袋へ収納していった。
「よし……。第二階層も大収穫です!」
「次は第三階層だね!」
四人は階段を見つけ、さらに下へと進んだ。
第三階層は、湿度の高い森林のような場所だった。
天井は見えないほど高く、巨大な木々が生えている。
地面には苔が広がり、色とりどりのキノコが点在していた。
「……ここ、本当にダンジョンなんですか?」
ラウラが呆然と呟く。
「森みたいだね」
ギルティが周囲を見回した。
「しかも、魔力が濃いのだよ」
ダリアが鼻をひくつかせる。
《素材採取》が次々と反応した。
『月光キノコ』
品質:上質
用途:魔力回復薬、夜間視認薬。
『深緑樹の樹液』
品質:良質
用途:薬品の安定剤、魔導具の接着材。
『風鳴り草』
品質:上質
用途:速度強化薬、風属性魔導具。
『幻惑花』
品質:希少
用途:幻覚薬、精神干渉薬、魔法触媒。
『精霊苔』
品質:上質
用途:魔力回復薬、精霊属性の魔導具。
『巨木虫の甲殻』
品質:良質
用途:軽量防具、硬質素材。
『森狼の毛皮』
品質:上質
用途:防寒具、防具、衣服。
「幻惑花ですか……!」
ダリアが身を乗り出した。
「これは珍しいのだよ! 絶対に採取するのだ!」
「はい! ただし、触ると危険みたいなので、慎重にいきましょう!」
ラウラは手袋を確認し、幻惑花を丁寧に採取した。
その後も、四人は森のような階層を進んでいく。
途中で森狼の群れに遭遇したり、巨大な虫型魔物に追いかけられたりしたが、ダリアの薬とラウラの投てき、ギルティの防御、リリスの魔導具を組み合わせて切り抜けた。
もちろん、全員が何度も悲鳴を上げた。
「虫ぃぃぃっ!」
「こっちに来ないでくださいぃぃぃ!」
「ちみ、そっちに逃げたら行き止まりなのだよ!」
「ええええっ!?」
それでも、素材はしっかり回収した。
第三階層のフロアボスジャイアントキラーも、四人の連携によって撃破。
その後、第四階層へと進んだ。
第四階層へ降りた瞬間、空気が変わった。
冷たい。
じめじめしている。
そして、何よりも――。
「……うっ」
ラウラは鼻を押さえた。
「なんだか、嫌な匂いがします……」
壁には黒い染みが広がり、床には古びた骨が転がっている。
ところどころに青白い炎が浮かび、遠くから不気味な声が聞こえてきた。
「……アンデッド系かな」
ギルティが緊張した声で言った。
その直後。
「ウゥゥゥ……」
通路の奥から、腐敗した身体を引きずるゾンビが現れた。
一体。
二体。
三体。
さらに、天井から半透明の影がふわりと降りてくる。
「ゴーストまでいるのだ!」
ダリアが叫んだ。
「む、無理です! ラウラ、アンデッドは苦手ですぅぅぅ!」
「ちみだけじゃないのだ! あちしだって嫌なのだよ!」
ギルティは顔面蒼白だった。
「ゾンビもゴーストも、鍛冶場にはいらないよぉぉぉ!」
リリスも怯えながら、魔導具を取り出した。
「皆さん、落ち着いてください! こういうときのために、用意してきたものがあります!」
ダリアが魔法袋から取り出したのは、小瓶とスプレーだった。
「まずは聖者の灰なのだよ!」
聖者の灰。
アンデッド系の魔物に対して強い効果を持つ、特殊な素材だ。
ダリアは小瓶を開け、ゴーストの足元へ向けて灰を散布した。
パァァァッ!
白い光が広がる。
ゴーストたちの動きが止まり、身体の表面から黒い煙が上がった。
「ギャアアアアッ!」
ゴーストたちは苦しげな声を上げ、次々と崩れ落ちていく。
「よし! 次はゾンビなのだ!」
ダリアはスプレーを構えた。
中身は、以前のダンジョンで回収した素材をもとに作ったアンデッド対策用の聖水混合液。
引き金を引くと、細かな霧が噴射された。
シュゥゥゥッ!
霧を浴びたゾンビが揺らぐ。
「ギィィィィッ!」
ゾンビは苦しげに身をよじり、そのまま薄れて消えていった。
「す、すごい……!」
ラウラは目を丸くした。
「聖者の灰とスプレーだけで、あんなに効くんですね!」
「もちろん! アンデッド対策は、あちしに任せるのだよ!」
ダリアは得意げに胸を張った。
「ただし、数が多いと消耗するから、無駄遣いは厳禁なのだ!」
「わかりました!」
ラウラは頷き、周囲を確認した。
《素材感知》は、アンデッド以外の素材にも反応している。
「皆さん、こちらに素材があります!」
『墓守草』
品質:上質
用途:浄化薬、アンデッド対策薬。
『霊銀鉱石』
品質:希少
特徴:聖属性の魔力を帯びた鉱石。
用途:対アンデッド武器、聖属性魔導具。
『冥界苔』
品質:良質
用途:霊体感知薬、魔力反応薬。
『幽火花』
品質:上質
用途:霊体視認薬、魔導具の光源。
『腐蝕骨片』
品質:良質
用途:毒薬、腐食薬、特殊な錬金術素材。
『怨念結晶』
品質:希少
用途:呪術対策具、霊体封印具。
『ゴーストの霊核』
品質:上質
用途:霊体魔導具、精神干渉対策具。
「霊銀鉱石!?」
ギルティの目が輝いた。
「これは鍛冶に使えるよ! しかも、対アンデッド用の武器が作れるかもしれない!」
「怨念結晶も珍しい素材なのだよ!」
ダリアも喜んだ。
「薬の研究に使えそうなのだ!」
「ゴーストの霊核は魔導具にも使えますね」
リリスも興味深そうに観察する。
ラウラは、周囲の素材を一つずつ採取していった。
ただし、ゾンビやゴーストが再び現れるたびに、四人は悲鳴を上げながら逃げた。
「また来ましたぁぁぁ!」
「スプレーなのだよ!」
パァァァッ!
「こっちはゾンビです!」
シュゥゥゥッ!
「よし、消えた!」
「素材を拾います!」
「その前に、次が来てるよぉぉぉ!」
こんな調子だった。
それでも、四人は着実に第四階層を進んでいった。
そして、ついにフロアボスのいる広間へたどり着いた。
広間の中央には、古びた玉座が置かれていた。
その上に座っていたのは、王冠をかぶった骸骨の魔物。
黒いローブをまとい、片手には禍々しい杖を持っている。
眼窩には青白い炎が揺らめいていた。
《素材採取》が情報を表示する。
『ワイトキング』
分類:第四階層フロアボス
特徴:高度な闇属性魔法と死霊魔法を操る上位アンデッド。
危険度:極めて高い。
素材:ワイトキングの王冠骨、魔法杖、霊核、闇属性魔石など。
「…………」
ラウラは、そっと後ずさった。
「……あの、帰ってもいいですか?」
「ダメなのだよ! 階段はあの向こうなのだ!」
ダリアが叫んだ。
ワイトキングは、ゆっくりと杖を持ち上げた。
「愚かな生者よ……我が領域に足を踏み入れたこと、後悔するがよい……」
「しゃ、しゃべったぁぁぁぁっ!」
ラウラが悲鳴を上げた。
「喋るアンデッドなんて聞いてないよぉぉぉ!」
ギルティも泣きそうになっている。
ワイトキングの杖から、黒紫色の魔力が噴き出した。
「死霊の奔流よ、すべてを飲み込め!」
ドォォォォン!!
闇属性の魔法が広間を走る。
「逃げてぇぇぇぇっ!」
ラウラたちは四方へ散った。
黒い魔力が床をえぐり、壁を砕く。
「な、なんですか、あの魔法!?」
「上級アンデッドの魔法なのだよ! まともに受けたら危険なのだ!」
ダリアはスプレーを構えながら走る。
しかし、ワイトキングは次々と魔法を放ってきた。
闇の槍。
黒い炎。
死霊の鎖。
広間は瞬く間に危険地帯と化した。
「ギルティさん、なんとかできませんか!?」
ラウラが叫ぶ。
「なんとかって言われても、あたしは鍛冶師だよぉぉぉ!」
ギルティは逃げながら、腰のハンマーを握りしめた。
そのとき。
ワイトキングが巨大な闇の球を作り出した。
「消え去れ、生者ども!」
闇の球が放たれる。
ギルティは、とっさにハンマーを構えた。
「うわぁぁぁっ! 来ないでぇぇぇっ!」
ガキィィィン!!
ハンマーが闇の球に触れた瞬間、甲高い音が響いた。
次の瞬間。
闇の球が、進行方向を変えた。
「……あら?」
ギルティが目を見開く。
反射された闇の球は、そのままワイトキングへと飛んでいった。
ドゴォォォン!!
直撃。
ワイトキングの身体が大きく揺れた。
「な、なんで!?」
ギルティ自身が驚いていた。
「上級魔法も……!」
ラウラが叫ぶ。
「バルログの魔法を反射したときと同じです!」
そう。
ギルティのハンマーには、魔法を反射する性質があった。
バルログとの戦いでも、その能力によって強力な魔法を跳ね返したのだ。
「そ、そうだった!」
ギルティはハンマーを握り直した。
「だったら、もう一回!」
ワイトキングは怒りの声を上げ、再び魔法を放つ。
「愚弄するなぁぁぁっ!」
黒い炎が迫る。
ギルティは目をつぶりながら、ハンマーを振り抜いた。
「来ないでぇぇぇっ!」
ガキィィィン!!
黒い炎が反射され、ワイトキングへ向かっていく。
ドゴォォォン!!
またも直撃。
ワイトキングのローブが焼け、骨の身体にひびが入った。
「グ……オオ……!」
「効いてる!」
リリスが声を上げた。
「ギルティさん、そのまま反射してください!」
「わ、わかった!」
ギルティは半泣きのまま、ハンマーを構え続けた。
ワイトキングが魔法を放つ。
ギルティが反射する。
魔法がワイトキングに直撃する。
それを何度も繰り返した。
「くっ……なぜ、我が魔法が……!」
ワイトキングの身体に、次々とひびが走る。
「今なのだよ!」
ダリアが聖者の灰を投げつけた。
パァァァッ!
白い光がワイトキングを包み込む。
「ぐおおおおおっ! 聖なる力だと!?」
動きが鈍った。
その隙を逃すラウラではない。
「ひゃああああっ! これで終わってくださいぃぃぃ!」
ラウラは鉄球を投げた。
ヒュンッ!!
鉄球がワイトキングの胸部を直撃する。
バキィィィン!!
骨の身体が砕け、王冠が床へ転がった。
ワイトキングは両手を伸ばし、何かを掴もうとするように震えた。
「我が……王国……が……」
そして。
ガラガラガラ……。
ワイトキングの身体は崩れ落ちた。
広間に静寂が戻る。
「…………」
ギルティは、ハンマーを持ったまま固まっていた。
「……た、倒した?」
「倒しましたね……」
リリスが答える。
「ちみ、また勝ったのだよ!」
ダリアが喜びの声を上げた。
「やったぁぁぁ……!」
ラウラはその場に座り込んだ。
「怖かったです……! もうアンデッドは嫌ですぅぅぅ……!」
「でも、勝てたよ!」
ギルティは、ようやく笑顔になった。
「このハンマー、本当にすごいね……!」
「ギルティさんのおかげです!」
ラウラは心からそう言った。
ギルティが魔法を反射してくれなければ、あの強力な魔法を突破することは難しかっただろう。
もちろん、ダリアの聖者の灰も、ラウラの投てきも、勝利に欠かせないものだった。
四人の連携があったからこその勝利だった。
「さて……」
ラウラは立ち上がった。
「素材を採取しましょう!」
「切り替えが早いのだよ!?」
ダリアが叫んだ。
しかし、ラウラにとっては大切なことだ。
せっかく強敵を倒したのに、素材を回収しないなんてもったいない。
ラウラはワイトキングの残骸へ近づいた。
《素材採取》が反応する。
『ワイトキングの王冠骨』
品質:極上
特徴:強い魔力を帯びた特殊な骨。
用途:高位魔導具、呪術対策具、王族向け装飾品。
『ワイトキングの霊核』
品質:希少
用途:霊体魔導具、死霊魔法の研究素材。
『ワイトキングの闇属性魔石』
品質:上質
用途:闇属性魔導具、魔力供給。
『ワイトキングの魔法杖』
品質:上質
特徴:闇属性魔力を増幅する古代の杖。
用途:魔法触媒、魔導具の部品。
『ワイトキングの黒衣』
品質:上質
特徴:物理攻撃と魔法攻撃への耐性を持つ。
用途:防具、魔導具の外装。
『ワイトキングの呪詛骨片』
品質:希少
用途:呪術研究、呪いの解除薬。
『ワイトキングの死霊魔力結晶』
品質:希少
用途:死霊系魔導具、霊体制御装置。
『ワイトキングの王族指輪』
品質:極上
特徴:魔力を蓄積する古代の装飾品。
用途:魔導具の素材、装飾品。
「こ、これは……!」
リリスが王族指輪を手に取った。
「魔力を蓄える仕組みが組み込まれています……! かなり古いもののようですが、修復すれば使えるかもしれません!」
「王冠骨もすごいのだよ!」
ダリアは目を輝かせた。
「呪詛骨片もある! 研究材料が増えたのだ!」
ギルティは黒衣を確認していた。
「これ、加工すれば魔法耐性のある防具にできそうだね」
そしてラウラは、採取した素材を一つずつ魔法袋へ収納していく。
「よし……。第四階層も大収穫です!」
「アンデッドだらけだったけどね……」
ギルティが遠い目をした。
「……あの、帰りは別の道を通れませんか?」
ラウラが恐る恐る尋ねる。
「残念ながら、階段はこの先なのだよ」
「そんなぁぁぁ……!」
それでも、四人は先へ進むことにした。
なにしろ、まだ上級ダンジョンの攻略は始まったばかりなのだから。
第五階層から先も、上級ダンジョンは驚くほど多彩だった。
第五階層は灼熱の洞窟。
『火晶石』
『炎獣の牙』
『耐熱鉱石』
『火焔花』
第六階層は水辺の洞窟。
『水精石』
『泡沫草』
『水竜の鱗片』
『深水真珠』
第七階層では、巨大な昆虫型魔物が群れをなして襲ってきた。
『鋼殻虫の甲殻』
『毒針』
『強酸腺』
『硬質絹糸』
「虫ぃぃぃぃっ!」
ギルティの悲鳴が階層中に響いた。
第八階層では、毒沼に生える希少な薬草を採取。
『紫毒草』
『解毒花』
『沼地魔蛙の毒腺』
『猛毒液袋』
ダリアは大喜びだった。
「この毒腺、薬の研究に使えるのだよ!」
第九階層では、強風の吹き荒れる空洞を進み、風属性の鉱石を回収。
『風晶鉱』
『飛翔鳥の羽根』
『風切り骨』
『空鳴り草』
第十階層のフロアボスは、巨大な鳥型魔物だった。
四人は飛び回る魔物から逃げながら戦い、最後はラウラの鉄球で撃破した。
もちろん、素材もすべて回収した。
第十一階層では、古代遺跡のような空間が広がっていた。
『古代魔導石』
『封印文字板』
『魔力回路片』
『遺跡守護者の金属片』
リリスは興奮し、調査に夢中になった。
第十二階層では、巨大な爬虫類型魔物が出現。
ギルティは悲鳴を上げて逃げた。
ラウラも逃げた。
ダリアも逃げた。
リリスも逃げた。
しかし、最終的には全員で協力し、撃破に成功した。
『岩鱗竜の鱗』
『岩鱗竜の牙』
『岩鱗竜の心臓』
『岩鱗竜の魔核』
第十三階層では、珍しいキノコや植物が大量に見つかった。
第十四階層では、魔力結晶の鉱脈を発見。
第十五階層では、アンデッドの群れを聖者の灰と対策スプレーで突破した。
第十六階層では、隠し部屋を発見。
その中には、古代の魔導具や希少鉱石が眠っていた。
第十七階層では、強力な獣型魔物との戦闘。
第十八階層では、毒と麻痺が入り混じる危険な湿地。
第十九階層では、魔力の嵐が吹き荒れる広大な空洞。
そして第二十階層。
そこでは、これまでに遭遇した魔物とは比べものにならないほど強力なフロアボスが待ち受けていた。
「な、なんですか、あれぇぇぇぇっ!」
ラウラは悲鳴を上げた。
だが、逃げながらも四人は協力し、何とか撃破に成功した。
もちろん、素材も残さず回収した。
その間、ラウラの魔法袋には膨大な量の素材が蓄積されていった。
鉱石。
薬草。
魔物の牙。
毛皮。
魔石。
魔核。
希少な結晶。
未鑑定の魔導具。
そして、見たこともない珍しい素材の数々。
「……す、すごい量ですね」
ラウラは魔法袋の中身を確認しながら、感動に震えていた。
「これ、全部売ったら……」
「ちみ、金貨のことを考えているのだろう?」
ダリアがにやりと笑った。
「は、はい……!」
ラウラは正直に頷いた。
「でも、まだ先があるんだよね」
ギルティが階段の先を見つめた。
「上級ダンジョンって、本当に広いね……」
「はい。まだ見つかっていない素材もあるかもしれません」
リリスも頷く。
四人は一度も帰還せず、各階層で休憩を取りながら進み続けた。
もちろん、無理はしなかった。
危険な魔物が現れれば逃げる。
傷を負えば回復する。
薬品や道具の残量も確認する。
そして、採取できる素材は丁寧に回収する。
そんなことを繰り返しながら、金満腹は着実に階層を下りていった。
やがて。
第二十階層の奥に、さらに下へ続く階段が現れた。
「……ここまで来ましたね」
ラウラが呟く。
階段の向こうから、これまでとは違う気配が漂っていた。
濃密な魔力。
静まり返った空気。
そして、どこか不気味な圧迫感。
リリスが慎重に周囲を確認する。
「……この先、かなり強い魔力を感じます」
「つまり、珍しい素材があるかもしれないのだよ!」
ダリアの目が輝いた。
「いや、強い魔物がいる可能性もあるんだけど……」
ギルティが苦笑する。
「そ、それは……」
ラウラは階段を見つめた。
怖い。
正直、ものすごく怖い。
できれば帰りたい。
しかし、ここまで集めた素材を思い返す。
この先にも、まだ見たことのない素材が眠っているかもしれない。
それに、せっかくここまで来たのだ。
「……い、行きましょう」
ラウラは小さく拳を握った。
「でも、危険だったらすぐに逃げますからね!」
「もちろん!」
ダリアが元気よく答えた。
「それが金満腹なのだよ!」
ギルティとリリスも頷く。
四人は装備を確認し、道具の残量を確かめた。
そして、第二十階層のさらに奥へと続く階段を下りていく。
一段。
また一段。
やがて、階段の終わりにたどり着いた。
目の前には、巨大な扉がそびえ立っていた。
その表面には、見たこともない文字と紋様が刻まれている。
《素材採取》が反応した。
しかし、表示された情報は――。
『?????』
『?????』
『?????』
「……え?」
ラウラは目をこすった。
もう一度、確認する。
だが、表示は変わらない。
《素材採取》Lv4でも、扉に刻まれた文字や素材の正体を判別できないのだ。
「ラウラさん……?」
リリスが不安そうに声をかける。
「この扉の向こう、何があるんでしょう……」
「……わかりません」
ラウラは正直に答えた。
そして、扉を見上げる。
ここが最下層なのか。
それとも、さらに下があるのか。
この先に何が待っているのか。
四人には、まだわからなかった。
ただ、扉の向こうからは、これまでの階層とは比べものにならないほど濃い魔力が漂っていた。
「…………」
ラウラは、そっと仲間たちを見た。
「……みなさん」
「うん?」
「もし、すごく危険な魔物がいたら……」
「逃げるのだよ!」
ダリアが即答した。
「鍛冶場に帰りたいね……」
ギルティも頷く。
「でも、珍しい素材があるなら、確認だけはしたいです……」
リリスも少しだけ前向きだった。
「……ですよね」
ラウラは深呼吸した。
そして、巨大な扉に手をかける。
「それでは……開けます」
ギィィィィ……。
重い音を立てながら、扉がゆっくりと開き始めた。
その向こうに広がる光景は、まだ見えない。
金満腹の四人は、息を呑みながら扉の先を見つめた。
――そして、彼女たちはついに、上級ダンジョンの最下層へとたどり着いたのだった。




