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【ハズレ職】素材採取士の私。お金のために採取していたら世界最強になりました。10000pv突破  作者: 異世界文庫 きらっち


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54/58

54話 中級ダンジョン制覇して戻ったら、カーム伯爵が血相をかえておいでなすった!




「……本当に、ここが最後の中級ダンジョンなんですよね?」


ラウラは、目の前に広がる薄暗い洞窟を見つめながら呟いた。


「ギルドの資料では、そうなっていたはずだよ」


ギルティが資料を確認する。


「なら、今回は大丈夫なのだ! この前みたいに上級ダンジョンだったなんてことは、ないはずなのだ!」


メイド服の裾を整えながら、ダリアが胸を張った。


「ダリアさん、フラグみたいなこと言わないでください……」


「フラグってなんなのだ?」


「い、いえ……なんでもありません」


ラウラは気を取り直して、ダンジョンへ足を踏み入れた。


第一階層。


じめじめとした通路を進んでいると、壁の隙間や曲がり角から、次々と魔物が現れた。


「ううう……」


「ぐぅぅ……」


腐った肉をまとったゾンビ。


骨だけの体で歩くスケルトン。


半透明の体を揺らすゴースト。


その数、十体、二十体……いや、もっといる。


「アンデッドですううううっ!」


ラウラが悲鳴を上げた。


「またゾンビなのだあああっ!」


ダリアも叫ぶ。


「数が多すぎるよぉぉぉっ!」


ギルティが後ずさる。


「み、皆さん! 聖水スプレーを使いましょう!」


リリスが慌てて鞄からスプレーを取り出した。


「そうでした……! こういうときのために用意したんです!」


ラウラたちは、迫ってくるアンデッドに向けて一斉に聖水スプレーを噴射した。


シュッ! シュッシュッ!


「ぐおおおお……!」


聖水を浴びたゾンビが崩れ落ちる。


スケルトンは骨をばらばらにして倒れ、ゴーストは煙のように消えていった。


しかも、アンデッドたちの動きは遅い。


距離を取ってスプレーを噴射すれば、ほとんど危険はなかった。


「……あれ?」


ラウラは首を傾げた。


「思ったより、簡単ですね……?」


「そうなのだ! あちしたちも成長したということなのだ!」


ダリアが得意げに胸を張る。


「いや、聖水が相性よすぎるだけじゃないかな……」


ギルティの冷静な指摘は、誰にも聞かれなかった。


アンデッドを一掃したあと、四人はドロップ品を拾い集めた。


第一階層で採取した素材・ドロップ品


- ゾンビの腐肉

- ゾンビの骨片

- 腐敗した魔石

- スケルトンの高品質骨片

- スケルトンの魔石

- 呪われた骨粉

- ゴーストの残留魔力

- 霊魂の欠片

- 淀んだ魔力結晶

- アンデッドの布切れ

- 朽ちた鉄剣

- 古びた銀貨

- 低純度の聖灰


「ふむふむ……。骨粉は薬品の材料に使えそうなのだ」


「霊魂の欠片も、魔導具の研究に役立つかもしれませんね」


リリスが素材を確認する。


「じゃあ、使えそうなものは全部回収しましょう!」


ラウラは、さっそく魔法鞄へ素材を収納した。


第一階層は、危なげなく突破。


金満腹はそのまま第二階層へと進んだ。


     



第二階層は、第一階層とは雰囲気がまるで違っていた。


岩場と草地が入り交じり、広い通路には獣の足跡がいくつも残っている。


そして。


「グルルルル……!」


「ガオオオオッ!」


ホーンウルフの群れが現れた。


額に角を持つ狼型の魔物だ。


さらに、その奥からは巨大な熊型魔物、ビッグベアーまで姿を現した。


「わあああっ! 今度は獣ですうううっ!」


ラウラは即座に小型鉄球を構えた。


「ちみ! 逃げる方向を間違えないのだ!」


「ダリアさんこそ、後ろにビッグベアーがいます!」


「えっ!? いやああああっ!」


四人は叫びながら走り出した。


だが、ただ逃げるだけではない。


ラウラは走りながら振り返り、小型鉄球を投げる。


ヒュンッ!


先頭のホーンウルフの脚を正確に撃ち抜いた。


「ギャンッ!」


転倒したホーンウルフに、後続の群れがつまずく。


そこへダリアのメディーガンが火を噴いた。


シュッ!


麻痺薬が命中する。


「よし! 動きを止めたのだ!」


「次、来ます!」


リリスが叫ぶ。


巨大なビッグベアーが、腕を振り上げて突進してきた。


「ひいいいいっ!」


ラウラは横へ飛び退きながら鉄球を投げた。


ドンッ!


鉄球がビッグベアーの肩に命中する。


体勢が崩れたところへ、ダリアが毒薬を撃ち込んだ。


「これでどうなのだ!」


ビッグベアーは数歩進んだところで膝をつき、やがて倒れた。


「た、倒れました……!」


「よし! 今のうちに次へ行こう!」


ギルティが叫ぶ。


「えっ、素材は!?」


ラウラは振り返った。


「もちろん回収するよ! でも、次が来る前に急いで!」


「わ、分かりました!」


四人は手早く素材を回収して先へ進んだ。


第二階層で採取した素材・ドロップ品


ホーンウルフ

- 極上品質ホーンウルフの毛皮

- ホーンウルフの角

- ホーンウルフの牙

- ホーンウルフの爪

- ホーンウルフの魔石

- 魔力を帯びた狼の腱

- 獣魔力の結晶


ビッグベアー

- 極上品質ビッグベアーの毛皮

- ビッグベアーの爪

- ビッグベアーの牙

- ビッグベアーの脂

- ビッグベアーの魔石

- 強靭な筋繊維

- 巨獣の骨

- 獣王の胆石


道中の採取素材

- 高品質獣骨

- 魔力草

- 野生薬草

- 獣の血液

- 魔力を蓄えた木の実

- 硬質な牙片


「獣王の胆石……。なんだか高く売れそうな名前ですね!」


ラウラの目が輝く。


「ちみは、どんな素材でもお金に換算するのだな……」


ダリアが呆れた。


「だ、だって大切なことですから!」


ラウラは素材を大事そうに魔法鞄へしまった。


     




第三階層へ降りた瞬間、四人は足を止めた。


通路の壁には、鱗のような模様が広がっている。


床には、太い爪で引っかいたような跡。


そして、奥から聞こえてきたのは――。


シャアアアアッ!


「…………」


四人は顔を見合わせた。


曲がり角から現れたのは、巨大なトカゲ型の魔物だった。


全身を硬い鱗で覆い、長い舌をちらつかせている。


その背後から、さらに二体。


毒々しい色の鱗を持つリザードマンまで現れた。


「爬虫類ですうううううっ!」


ラウラが絶叫した。


「トカゲ! でっかいトカゲなのだあああっ!」


ダリアがメイド服のスカートを押さえながら逃げ出す。


「無理無理無理! あの舌が無理ぃぃぃっ!」


ギルティも全力疾走。


「み、皆さん! 待ってくださいぃぃぃっ!」


リリスも後を追った。


金満腹は本格的な爬虫類系魔物と遭遇した。


そのせいか、普段以上に動揺していた。


「ラウラちゃん! 後ろ!」


「ひゃあああっ!」


ラウラは振り返らずに鉄球を投げた。


ゴンッ!


鉄球が魔物の頭部に命中する。


魔物がよろめいたところへ、ダリアがメディーガンを発射した。


「麻痺薬なのだ! 近寄るなあああっ!」


薬液が鱗の隙間に入り込み、魔物の動きが鈍くなる。


「効いてます! 効いてますよ!」


「効いてるなら、そのまま逃げるのだあああっ!」


「はいっ!」


倒しきれなかった魔物は、地形を利用して距離を取り、毒薬と鉄球で仕留めた。


それでも、四人は一度も落ち着くことができなかった。


第三階層で採取した素材・ドロップ品


ロックリザード

- 極上品質ロックリザードの鱗

- ロックリザードの爪

- ロックリザードの牙

- ロックリザードの魔石

- 硬質鱗の欠片

- 岩蜥蜴の尾骨


ポイズンリザード

- ポイズンリザードの毒牙

- ポイズンリザードの毒腺

- 毒鱗

- 毒液袋

- ポイズンリザードの魔石

- 麻痺性粘液


リザードマン

- リザードマンの鱗

- リザードマンの骨

- リザードマンの魔石

- 爬虫類の筋繊維

- 古びた武器の破片

- 魔力を帯びた爪


「……もう、爬虫類の素材はしばらく見たくありません」


ラウラは震える手で魔法鞄の口を閉じた。


「同感なのだ……」


ダリアも珍しく弱々しい声を出した。


「でも、素材はかなり集まりましたね……」


リリスが鞄を確認する。


「素材が集まったのは嬉しいですけど、あの舌はもう見たくないですぅ……」


ギルティが涙目で呟いた。


四人は顔を見合わせ、深く頷いた。


そして、第四階層へ向かった。


     



第四階層以降は、さらに多種多様な魔物が現れた。


第四階層では、岩のような外殻を持つ魔物。


第五階層では、毒針を飛ばす昆虫型の魔物。


第六階層では、魔力を吸収する植物型の魔物。


第七階層では、暗闇に潜む影狼の群れ。


第八階層では、毒沼に棲む両生類型の魔物。


第九階層では、アンデッドと獣魔獣の混成群。


第十階層では、魔力を帯びた大型甲虫。


第十一階層では、幻覚を見せる魔物。


第十二階層では、石像のような守護魔物。


第十三階層では、毒と麻痺を使う魔物。


第十四階層では、複数の魔物が同時に襲いかかってきた。


そして第十五階層。


そこには、今までよりも明らかに強力な魔物が徘徊していた。


しかし、金満腹もただ逃げ回っていたわけではない。


ラウラの投てきが魔物の弱点を撃ち抜き、ダリアのメディーガンが毒と麻痺を与える。


ギルティはハンマーで危険な魔物を押し返し、リリスは魔導具を使って周囲を警戒した。


もちろん、危険を感じれば全員で逃げた。


そして、逃げた先で素材を見つければ採取した。


そんなことを繰り返しているうちに、気づけば第十五階層まで突破していた。


「……なんだか、ここまで来ちゃいましたね」


ラウラが呟く。


「ちみ、今さら何を言っているのだ……」


ダリアは疲れた顔をしていた。


「でも、素材はたくさん集まったよ!」


ギルティが魔法鞄を確認する。


「はい! それに、まだ下があります!」


リリスが先を指差した。


金満腹は、最後の階層へと続く階段を下りていった。


     




第十六階層に足を踏み入れた瞬間。


ラウラの《素材感知》が、強く反応した。


ピコン。


ピコンピコン。


ピコンピコンピコン!


「……え?」


ラウラが立ち止まる。


「どうしたのだ、ちみ?」


「な、なんだか……素材の反応が、ものすごいんです」


ラウラは周囲を見回した。


壁の向こう。


床の下。


崩れた岩の奥。


そして、通路の先。


至るところから、素材の反応が返ってくる。


「……もしかして、隠し部屋がたくさんあるのかもしれません」


「なら、調べてみよう!」


ギルティが壁を確認する。


すると、崩れた岩の陰から小さな部屋が見つかった。


その中には――。


宝箱があった。


「……た、宝箱です!」


ラウラの声が裏返った。


「本当なのだ!?」


ダリアが駆け寄る。


「開けてみましょう!」


リリスが慎重に蓋を開けた。


中に入っていたのは、金色に輝く盾だった。


「こ、これは……!」


発見した宝箱の中身


- 黄金の盾

- 白銀の騎士剣

- ミスリルの短剣

- 魔力増幅の指輪

- 俊足の腕輪

- 魔法防御の首飾り

- 金糸の外套

- 高品質の魔法杖

- 魔力回復の宝珠

- 収納拡張の魔導具

- 宝石を散りばめた王冠

- 古代金貨の袋

- 金貨が詰まった小箱

- 魔力結晶の装飾品

- 未鑑定の魔導具

- 古代文字の刻まれた金属板


「こ、これだけでも、かなりの金額になりそうです……!」


ラウラは黄金の盾を見つめた。


「金貨の袋もあるのだ! 最高なのだ!」


「武器や防具も、かなり高品質だね。装備として使うこともできそう」


ギルティが白銀の騎士剣を調べる。


リリスは魔導具を確認し、ダリアは薬品の素材になりそうな結晶を選り分けた。


だが、驚くのはまだ早かった。


少し進むと、また宝箱。


さらに進むと、もう一つ。


壁の奥に隠された小部屋にも宝箱があり、崩れた柱の下にも宝箱が埋まっていた。


「なんでこんなにあるんですかぁぁぁっ!?」


ラウラは嬉しい悲鳴を上げた。


「宝箱が多いって噂、本当だったんだね……!」


ギルティも目を輝かせる。


「ちみ! 全部開けるのだ! 全部なのだ!」


「もちろんです!」


四人は宝箱を一つずつ確認し、武器、防具、装飾品、金貨、宝石、魔導具を回収していった。


さらに、宝箱の周囲からは希少な素材も見つかった。


第十六階層で採取した素材


鉱石・結晶

- 極上品質ミスリル鉱石

- 高純度魔鉄鉱石

- 黄金結晶

- 白銀結晶

- 魔力増幅結晶

- 古代魔導鉱石

- 星光結晶

- 霊銀鉱石

- 魔力共鳴石

- 魔力保存結晶

- 七色魔晶片

- 封印された魔力核


植物・薬草

- 上級回復薬草

- 魔力回復草

- 清浄葉

- 月光花

- 霊脈の根

- 魔力樹の樹液

- 幻惑花

- 不老苔

- 黄金薬草

- 魔力蓄積果実


魔物由来の素材

- 黄金甲虫の外殻

- 黄金甲虫の魔石

- 魔力狼の毛皮

- 魔力狼の牙

- 霊獣の骨片

- 魔力結晶の羽

- 守護獣の爪

- 魔力吸収膜

- 古代魔物の鱗片


宝箱から回収したお宝

- 黄金の盾

- 白銀の騎士剣

- ミスリルの短剣

- 魔力増幅の指輪

- 俊足の腕輪

- 魔法防御の首飾り

- 金糸の外套

- 高品質の魔法杖

- 魔力回復の宝珠

- 収納拡張の魔導具

- 宝石の王冠

- 古代金貨

- 金貨入りの小箱

- 魔力結晶の装飾品

- 未鑑定の魔導具

- 古代文字の金属板


「……すごいです」


ラウラは、魔法鞄の中身を確認しながら呟いた。


「これだけあれば……これだけあれば……!」


「ちみ、顔がすごいことになっているのだ」


「だ、だって! お金ですよ! お宝ですよ!」


ラウラの目が、きらきらと輝いていた。


そのとき。


ピコンッ!


頭の中に、聞き慣れた音が響いた。


「……え?」


ラウラの視界に、文字が浮かび上がる。


     


《素材採取》Lv4


《素材採取》のスキルがレベルアップしました。


《素材採取》Lv3 → Lv4


新たな能力を獲得。


Lv.4:採取範囲拡大


「……レベル、アップ?」


ラウラは、ぽかんと口を開けた。


「ちみ、どうしたのだ?」


「スキルが……レベルアップしたみたいです」


「ええっ!?」


三人が一斉にラウラを振り返った。


ラウラは表示された説明を確認する。


これまでの《素材採取》は、基本的に目の前にある素材を対象としていた。


近くにある素材を見つけ、触れ、採取する。


その一連の作業を助けるスキルだった。


しかし、Lv4になったことで変化が起きた。


少し離れた場所にある素材にも、《素材採取》が反応するようになったのだ。


しかも――。


ラウラが周囲を見回した瞬間。


視界に、次々と情報が浮かび上がった。


《素材採取》


周辺に採取可能な素材を確認。


- 黄金結晶 × 12

- 極上品質ミスリル鉱石 × 8

- 魔力増幅結晶 × 17

- 月光花 × 23

- 清浄葉 × 31

- 魔力樹の樹液 × 6

- 霊脈の根 × 9

- 黄金薬草 × 4

- 古代魔導鉱石 × 3

- 封印された魔力核 × 1

- ??? × 1


「…………」


ラウラは固まった。


「…………」


ダリアも固まった。


「…………」


ギルティも固まった。


「…………」


リリスも固まった。


「……えっと」


ラウラが、おそるおそる口を開く。


「これ……全部、近くにある素材なんですか?」


「表示を見る限り、そうみたいだね……」


ギルティが答える。


「しかも、まだ採取していないものまで表示されているのですか……?」


リリスは驚きを隠せなかった。


ダリアは、表示の最後にある文字を指差した。


「……ちみ。最後の、なに?」


「……分かりません」


《素材採取》が示した最後の項目。


??? × 1


名称も品質も、用途も分からない。


ただ、そこに何かがあることだけは分かる。


ラウラは、ごくりと唾を飲み込んだ。


(……これ、すごく便利です)


(でも……)


(ちょっと、便利すぎませんか……?)


今までは、目の前にある素材を探して採取していた。


それが今では、周辺に存在する素材の種類や数まで把握できるようになったのだ。


素材採集士としては、とんでもない進化だった。


「……あの」


ラウラは三人を見た。


「これ、山に入っただけで素材の一覧が出るようになったら……」


「……どうなるのだ?」


ダリアが尋ねる。


「……お金を稼ぐのが、もっと簡単になるかもしれません」


「…………!」


三人の目が輝いた。


「それはすごい!」


「ちみ! どんどん使うのだ!」


「魔導具の材料探しにも役立ちそうです!」


「……でも、まずは帰りましょう」


ラウラは、はっと我に返った。


「ここ、ダンジョンですからね……!」


「そうだったのだ!」


金満腹は、宝箱と素材をすべて回収し、さらに奥へと進んだ。


そして、ついに最終階層へ到達した。


     


最終階層、草原のキマイラ


階段を下りた先には、予想もしなかった光景が広がっていた。


広大な草原。


青空のような天井。


遠くには木々が生え、風が草を揺らしている。


ダンジョンの中とは思えないほど、穏やかで美しい空間だった。


「わあ……!」


リリスが感嘆の声を上げた。


「すごい……。本当に、ダンジョンの中なんですか?」


「ここなら、のんびり採取できそうですね……」


ラウラも、少しだけ気持ちが緩んだ。


しかし。


その平穏は、長く続かなかった。


草原の向こうで、何かが動いた。


巨大な影。


獅子のような頭部と胴体。


背中には鳥のような翼。


そして、尻尾の先には蛇の頭がついている。


魔獣キマイラ。


複数の獣の特徴を併せ持つ、恐ろしい魔物だった。


「…………」


ラウラの顔から血の気が引いた。


「…………」


ダリアは、そっとメディーガンを構えた。


「…………」


ギルティは、ハンマーを握りしめた。


「…………」


リリスは、一歩後ずさった。


キマイラが、ゆっくりとこちらを向いた。


その口から、鋭い牙が覗く。


蛇の尻尾が、鎌首をもたげた。


「……逃げます!」


ラウラが叫んだ。


「逃げるのだああああっ!」


ダリアも叫ぶ。


「最後までこれなのぉぉぉっ!?」


ギルティが悲鳴を上げる。


「み、皆さん! 待ってくださあああい!」


リリスも必死に走った。


金満腹は、草原を全力で駆け抜けた。


キマイラは、翼を広げて追いかけてくる。


ドドドドドドッ!


巨体が草原を揺らす。


「速いですううううっ!」


ラウラは七色ブーツの速度を活かし、必死に逃げる。


「ちみ! なんとかするのだ!」


「なんとかって、どうすればいいんですかぁぁぁっ!」


「投げるのだ!」


「わ、分かりました!」


ラウラは走りながら、小型鉄球を取り出した。


これまで数えきれないほど投げてきた、使い慣れた武器。


ラウラは一度だけ振り返り、キマイラの動きを見た。そして両手を大きく振り上げて


「私は野球選手……ルールはわからないですけど!………当たってください!」


全力で投げる。


ヒュンッ!


鉄球が風を切った。


キマイラは、迫り来る鉄球に気づいたようだった。


しかし、避けるには遅すぎた。


ドゴォォォンッ!


鉄球がキマイラの胴体に直撃した。


いや。


直撃しただけではなかった。


鉄球は、キマイラの巨体を貫通した。


「…………え?」


ラウラは走りながら振り返った。


キマイラの体に大きな穴が開いていた。


巨体がよろめき、数歩進んだところで、ゆっくりと地面へ倒れ込む。


ドォォンッ!


草原が揺れた。


そして、キマイラは動かなくなった。


「…………」


「…………」


「…………」


「…………」


四人は、しばらく走り続けた。


ようやく距離を取ったところで、ラウラが足を止めた。


「……あれ?」


ダリアが振り返る。


「……キマイラは?」


ギルティが恐る恐る後ろを見る。


「……倒れてる?」


リリスが目を丸くした。



ギルティが呟く


「多分きちんとした投げ方をしたときだけ威力が増してるきがするな」


ラウラは首を傾ける


「後ろを向きながらとか、横を向きながら適当に投げるんじゃなくて、しっかり相手に体をむけてると貫通してる気がするな」


ギルティがさらに呟く


「……と、とにかく、素材を回収しましょう」


ラウラは恐る恐るキマイラへ近づいた。


《素材採取》を発動すると、素材の情報が次々と頭に流れ込んでくる。


キマイラのドロップ品・採取素材


- 極上品質キマイラの獅子毛皮

- 極上品質キマイラの獅子頭

- キマイラの鋭牙

- キマイラの猛獣爪

- キマイラの魔石

- キマイラの魔核

- キマイラの蛇尾

- キマイラの毒牙

- キマイラの毒腺

- キマイラの鳥翼

- キマイラの風切羽

- キマイラの飛翔骨

- キマイラの強靭な筋繊維

- キマイラの心臓

- キマイラの魔力血管

- キマイラの耐魔皮膜

- 獣魔融合核

- 極上品質キマイラの魔力結晶

- 激レア・キマイラの三相魔核

- 激レア・幻獣の心臓石


「……す、すごい素材ばかりです」


ラウラの目が輝いた。


「これだけの素材なら、かなりの値段になるかもしれません……!」


「倒した直後なのに、もう値段を考えてるのだ!?」


ダリアが叫ぶ。


「だ、だって! これだけの素材ですよ!」


「ラウラちゃんらしいね……」


ギルティは苦笑しながら、周囲を警戒していた。


「でも、ここに長居するのは危険かもしれません。早く帰りましょう!」


リリスの言葉に、全員が頷いた。


四人はキマイラの素材を回収し、ダンジョンを後にした。


こうして金満腹は、最後の中級ダンジョンを攻略したのだった。


本人たちにとっては、ただひたすら逃げ回りながら素材を集めた冒険だったが。


     




ブングルに戻った金満腹は、そのまま冒険者ギルドへ向かった。


受付嬢は四人の姿を見つけると、ほっとしたように息を吐いた。


「お帰りなさい、皆さん! 無事だったんですね!」


「は、はい……。なんとか……」


ラウラは疲れた笑みを浮かべた。


「今回のダンジョンは、どうでしたか?」


「アンデッドがたくさんいて、獣がたくさんいて、爬虫類がたくさんいて……」


「……はい」


「最後には、キマイラがいました」


「…………え?」


受付嬢の笑顔が固まった。


「キ、キマイラ……ですか?」


「はい。鉄を投げたら倒れました」


「…………」


受付嬢は、ゆっくりと資料を取り出した。


そして、ダンジョンの記録と照らし合わせる。


「……確認しました。皆さんが攻略したダンジョンは、これでブングル周辺にある中級ダンジョンの最後の一つです」


「や、やっと終わりましたぁ……」


ラウラは、その場にへたり込みそうになった。


「これまでの攻略実績も確認できましたので、金満腹の皆さんには、上級ダンジョンへの参加資格を認めます」


「…………」


四人の表情が止まった。


「……じょうきゅう?」


ラウラが聞き返す。


「はい。Bランク冒険者として、上級ダンジョンへの参加が認められます」


「い、いやいやいや! 参加資格があるのと、行きたいかどうかは別ですぅぅぅっ!」


ラウラが叫んだ。


「そうなのだ! あちしたちは中級ダンジョンを終えたばかりなのだ!」


ダリアも抗議する。


「しばらくは鍛冶場で落ち着いて作業したいよぉ……」


ギルティは遠い目をした。


「でも、上級ダンジョンには、もっと珍しい素材があるかもしれませんね……」


リリスが小さく呟く。


「……素材」


ラウラの耳がぴくりと動いた。


「……珍しい素材」


ダリアも反応する。


「……お宝」


ギルティまで顔を上げた。


そして、ラウラはゆっくりと立ち上がった。


「……い、いえ! 今は休みましょう!」


「そうなのだ! 休息が必要なのだ!」


「賛成!」


「私もです!」


四人の意見は一致した。


上級ダンジョンのことは、また後で考えればいい。


今は疲れた体を休めたい。


そして、集めた素材を整理したい。


何より。


ラウラは、今回の冒険で得たお宝の価値を、まだ確認していなかった。


(……いったい、いくらになるんでしょう)


その考えが頭をよぎった瞬間、ラウラの足取りが少しだけ軽くなった。


     




宿屋に戻った金満腹は、荷物を置き、装備を外し、ようやく一息ついた。


「はあああ……。疲れましたぁ……」


ラウラはベッドに倒れ込んだ。


「ちみ、少しは体を休めるのだ……」


ダリアも椅子に座り、メイド服のエプロンを整える。


「でも、今日は素材がたくさん手に入ったね!」


ギルティが嬉しそうに魔法鞄を眺めた。


「宝箱のお宝もありますし、リリスさんの魔導具で鑑定すれば、価値が分かるかもしれませんね」


「はい! あとで確認してみましょう!」


リリスも笑顔で頷いた。


ようやく、いつもの金満腹らしい空気が戻ってきた。


そのときだった。


バンッ!


宿屋の扉が勢いよく開いた。


「金満腹の皆さんは、こちらにいるか!?」


聞き覚えのある声。


四人が一斉に振り向く。


そこに立っていたのは――。


「か、カーム伯爵!?」


ラウラが驚いて声を上げた。


カーム伯爵は息を切らし、肩で大きく呼吸していた。


まるで、町中を全力で走ってきたかのようだった。


「はあっ……はあっ……。よかった、間に合った……!」


「ど、どうしたんですか? そんなに慌てて……」


ラウラが不安そうに尋ねる。


カーム伯爵は四人を見渡し、ようやく口を開いた。


「実は――」


その顔は、いつになく真剣だった。


「君たちに、どうしても頼みたいことがある!」


「…………」


金満腹の四人は、そろって固まった。


(……お願いって、なんでしょう)


ラウラは心の中で呟いた。


(……できれば、危険な魔物じゃありませんように)


しかし。


カーム伯爵の表情を見る限り、ただ事ではなさそうだった。


そして、金満腹の休息は――始まる前に、終わりを告げようとしていた。


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