53話 悪魔と戦いました!
「か、完成したよ……!」
ギルティが、ついに最後の仕上げを終えた。
隣ではリリスが、完成した装備の最終確認をしている。
テーブルの上に置かれているのは、一着のメイド服だった。
リッチロードから採れた魔法布を基礎に、アーマードスコーピオンの素材を組み合わせた特製装備。
黒を基調としたワンピースに、白いエプロン。
袖口と裾には可愛らしいフリルがついており、胸元には小さなリボンがあしらわれている。
スカートは動きやすいように調整され、薬品を収納できる専用ポケットもついていた。
さらに、甲殻素材を加工した軽量の防護材が内側に組み込まれている。
可愛い。
実用的。
そして、やたらと高性能。
金満腹らしい装備だった。
「ダリアさん、着てみてください!」
リリスが目を輝かせる。
「う、うむ……! そこまで言うなら、着てやるのだ!」
ダリアは咳払いをすると、メイド服を抱えて別室へ向かった。
そして数分後。
「……ど、どうなのだ?」
ダリアが、恥ずかしそうに姿を現した。
一瞬。
部屋の中が静まり返った。
「…………」
「…………」
「…………」
ダリアの顔が、みるみる赤くなっていく。
「な、なんなのだ!? 何か言うのだ!」
最初に口を開いたのは、ラウラだった。
「か、可愛いです……!」
「うん! すっごく似合ってる!」
ギルティも満面の笑みで頷いた。
「想像以上です! 魔法布の質感も素晴らしいですし、デザインもダリアさんにぴったりです!」
リリスは目を輝かせながら、ぐるりとダリアの周囲を回った。
「えへへ……。そ、そうか? そんなに可愛いか?」
ダリアの口元が緩み始める。
「はい! とっても可愛いです!」
「うんうん! フリルも似合ってるし、リボンもいい感じ!」
「薬品用のポケットも使いやすそうです!」
「……ふ、ふふふ」
ダリアの肩が震えた。
「ふふ……ふふふふ……!」
そして。
「ウハハハハハハッ! そうであろう! そうであろう! あちしは可愛いのだああああっ!」
ついに調子に乗った。
「見たか、ちみたち! これが金満腹の錬金術師、ダリア様なのだ! 可愛さと実力を兼ね備えた、完璧な存在なのだ!」
「ダリアさん、まだ外には出ていませんよ……?」
ラウラが苦笑する。
「問題ないのだ! この可愛さなら、外に出た瞬間に全員が振り返るのだ!」
「それは、ちょっとありそう……」
ギルティが頷く。
「もっと褒めるのだ! あちしは褒められると伸びるタイプなのだ!」
「褒められなくても、十分に伸びている気がします……」
ラウラが小声で呟いた。
「何か言ったのだ?」
「い、いえ! とっても可愛いです!」
「よろしいのだ!」
ダリアは胸を張った。
こうして、メイド服の完成によって、ダリアの機嫌は最高潮に達した。
そして、そのままの勢いで。
「よし! ギルドへ行くのだ!」
「えっ、今からですか?」
「今からなのだ! この可愛さを世界に知らしめるのだ!」
「目的が変わっていますよぉ……!」
ラウラの声は、元気いっぱいのダリアには届かなかった。
ブングルの冒険者ギルド。
扉を開けた瞬間、何人もの冒険者がこちらを振り返った。
「おっ、金満腹だ」
「あの四人、また何かやらかしたのか?」
「……ん? あのメイド服の子、誰だ?」
視線がダリアに集まる。
ダリアは、ゆっくりと胸を張った。
「ふふふ……。見惚れるのも無理はないのだ!」
「ダリアさん、歩き方まで変わってますよ……」
ラウラは恥ずかしそうに顔を伏せた。
受付カウンターにいた受付嬢も、ダリアの姿を見るなり目を丸くした。
「あらっ! ダリアさん、その装備、とっても可愛いですね!」
「ほ、本当か!?」
ダリアの目が輝いた。
「はい! すごく似合っています! メイド服なのに冒険者向けの装備なんですね。細かいところまで作り込まれていて、素敵です!」
「ふふふふふ……!」
ダリアの頬が緩む。
「そうなのだ! これは特別製なのだ! 可愛いだけではなく、実用性も抜群なのだ!」
「まあ、すごいですね!」
「そうであろう! そうであろう!」
ダリアはすっかり有頂天だった。
そこへ、奥からギルドマスターがやってきた。
「おや、金満腹か。今日は何の用だ?」
そしてダリアを見た瞬間、足を止めた。
「おおっ! ダリア、その装備はいいな!」
「なっ……! ギルドマスターまで!」
「よく似合っているぞ。見た目だけじゃなく、実用性も考えられていそうだ。いい装備を作ってもらったな」
ギルドマスターは感心したように頷いた。
「ウハハハハハッ! 聞いたか、ちみたち! ギルドマスターのお墨付きなのだ!」
ダリアはその場でくるりと回った。
白いエプロンがふわりと広がる。
「どうだ! 可愛いであろう! あちし、最高なのだ!」
「ダリアさん、回りすぎると目が回りますよ……」
「大丈夫なのだ! 今のあちしは、何をしても可愛いのだ!」
「それはどうかな……」
ギルティが苦笑する。
リリスも、どこか遠い目をしていた。
ラウラは小さくため息をついた。
(ダリアさん、今日はずっとこの調子なんでしょうか……)
その予感は、見事に的中した。
受付で手続きを済ませている間も、ダリアは何度も装備を褒めてもらおうとしていた。
そしてギルドを出る頃には、すっかり自信満々になっていた。
「よし! この勢いで、残りの中級ダンジョンも攻略するのだ!」
「えっ、もう行くんですか!?」
ラウラが驚く。
「もちろん! 可愛くなったあちしに、怖いものなどないのだ!」
「いや、虫は怖いでしょ……」
ギルティがぼそりと呟いた。
「……虫は別なのだ!」
即答だった。
ギルドマスターから説明を受け、金満腹は残る二つのダンジョンについて確認した。
一つは、特殊な素材が多く採れるダンジョン。
もう一つは、強力な魔物が出現するダンジョンだった。
「特殊素材のダンジョンなら、魔導具作りにも役立ちそうですね!」
リリスが嬉しそうに言う。
「うん。あちしも珍しい薬の材料が欲しいのだ!」
ダリアも頷いた。
「では、まずは特殊素材のダンジョンへ行きましょうか……」
ラウラが提案すると、ギルティも賛成した。
「そうだね。強い魔物が出るほうは、後回しにしたいかな……」
「賛成です……!」
リリスも大きく頷く。
全員の意見は一致していた。
強い魔物が出るダンジョンなんて、できることなら近づきたくない。
ところが。
「ちなみに、強い魔物が出るほうのダンジョンは、宝箱がよく見つかるらしいぞ」
ギルドマスターが何気なく付け加えた。
「…………」
四人の動きが止まった。
「……宝箱?」
ラウラが聞き返す。
「ああ。危険なぶん、珍しい装備や貴重な素材が入っていることもあるらしい」
「……珍しい装備」
リリスの目が輝いた。
「……貴重な素材」
ギルティも反応した。
「……お宝」
ダリアが呟いた。
そして、最後に。
「……お金」
ラウラの目が、きらりと光った。
「よし、両方行きましょう!」
「ちみ、決断が早すぎるのだ!」
ダリアが叫んだ。
「で、でも! 宝箱があるなら、行ってみる価値はありますよね……!」
「さっきまで全員、行きたくないって言ってたのに……」
ギルティは苦笑した。
「お金の力って、すごいですね……」
リリスが感心する。
こうして金満腹は、まず特殊素材のダンジョンへ向かうことになった。
もちろん、宝箱が多いというダンジョンも、いずれ攻略する予定である。
特殊素材のダンジョンは、入り口から不思議な雰囲気に包まれていた。
壁には見たことのない鉱物が混じり、天井からは淡く光る結晶が垂れ下がっている。
空気そのものにも、独特の魔力が漂っていた。
「わあ……。これはすごいですね……!」
ラウラはさっそく《素材感知》を発動した。
すると。
ピコン。
ピコン。
ピコン。
あちらこちらから、素材の反応が返ってきた。
「……いっぱいあります!」
「ちみ、嬉しそうなのだ」
「だ、だって! こんなに反応があるんですよ!」
ラウラは目を輝かせた。
「しかも、知らない素材まであります……!」
「なら、慎重に採取しながら進もう」
ギルティが提案する。
四人は、道中に現れる魔物を避けたり、必要に応じて倒したりしながら進んでいった。
このダンジョンの魔物は数こそ多かったが、これまで遭遇した強敵に比べれば、それほど手強くはない。
ラウラが投げた小型鉄球が魔物に命中し、ダリアのメディーガンが追撃を加える。
ギルティは危険な魔物をハンマーで遠ざけ、リリスは魔導具を使って周囲を警戒した。
「よし、倒したのだ!」
「ドロップ品を回収しますね!」
ラウラは魔物が落とした素材を集め、次々と魔法鞄へ収納していく。
魔物を倒すたびに、ドロップ品が増えていった。
さらに、通路の壁や床、岩の隙間などからも、珍しい素材が見つかった。
「こっちにも反応があります!」
「またなのだ!?」
「今度は壁の向こうです……!」
「壁の向こう!?」
ギルティが驚く。
ラウラは壁に手を触れた。
《素材感知》が、壁の向こうにある空洞を捉えている。
「……ここ、隠し通路かもしれません」
「ちみのスキル、便利すぎないのだ?」
ダリアが呆れた声を出す。
ギルティが壁を慎重に調べ、隠されていた通路を見つけた。
その先には、小さな空間があった。
中には、特殊な鉱石や結晶がいくつも眠っていた。
「やりました……!」
ラウラは満面の笑みを浮かべた。
「これは、かなり価値がありそうです!」
「よし! 全部回収しよう!」
ギルティもやる気満々だ。
リリスは魔導具に使えそうな素材を選び、ダリアは薬品の材料になりそうなものを確保する。
金満腹は採取と探索を繰り返しながら、ダンジョンの奥へと進んでいった。
そして、ついに最終階層へ到達した。
最終階層は、広大な円形の空間だった。
壁には赤黒い結晶が浮かび、床には不気味な模様が刻まれている。
そして、その中央に。
一体の魔物が立っていた。
赤黒い肌。
巨大な角。
背中には悪魔の翼。
手には、燃えるような魔力をまとった武器。
その姿を見た瞬間、ラウラの顔から血の気が引いた。
「……あ」
ダリアも固まった。
「……あれ、絶対に普通の魔物じゃないのだ」
ギルティが震える声で呟く。
リリスは、そっと一歩後ずさった。
「な、なんだか……すごく嫌な感じがします……」
魔物が、ゆっくりと顔を上げた。
その目が、四人を捉える。
そして。
「――人間か」
低く、不気味な声が響いた。
バルログ。
悪魔族に属する、強大な魔物だった。
「に、逃げますうううううっ!」
ラウラが叫んだ。
「逃げるのだああああっ!」
ダリアも叫んだ。
「待って! あいつ、こっちを見てるよおおおっ!」
ギルティが悲鳴を上げる。
「み、みなさん、待ってくださあああい!」
リリスも必死に走った。
しかし、バルログは逃がしてくれなかった。
「逃がすものか」
バルログが手を掲げる。
次の瞬間。
ドゴォォォォンッ!
巨大な火球が、四人のいた場所に炸裂した。
「ひゃあああああっ!」
ラウラは横へ飛び退いた。
爆風で体が吹き飛ばされそうになる。
「なんですか今のぉぉぉっ!?」
「魔法なのだ! しかも、威力がおかしいのだ!」
ダリアが走りながら叫ぶ。
バルログは次々と魔法を放ってきた。
火球。
雷撃。
黒い衝撃波。
地面を裂く魔力の奔流。
四人は走り回り、岩陰に隠れ、床を転がり、必死に攻撃を避け続けた。
「ラウラちゃん! 何かできない!?」
ギルティが叫ぶ。
「投げます! とにかく投げてみます!」
ラウラは小型鉄球を投げた。
ヒュンッ!
鉄球はバルログへ向かって飛んでいく。
しかし。
バルログが片手を振るだけで、鉄球は黒い魔力に弾かれ、あらぬ方向へ飛んでいった。
「ええええっ!? 効かないんですけどおおおっ!」
「なら、あちしのメディーガンなのだ!」
ダリアが引き金を引く。
薬液が飛ぶ。
だが、バルログの周囲に展開された魔力の壁に触れた瞬間、薬液は弾き飛ばされてしまった。
「うそでしょおおおっ!?」
「薬も駄目なのだ!?」
「どうすればいいんですかあああっ!」
四人は逃げ回りながら、必死に打開策を探した。
しかし、バルログの魔法は止まらない。
天井が崩れ、床が砕け、壁に大きな穴が開いていく。
このままでは、いつか逃げ場がなくなる。
そのとき。
ラウラの脳裏に、ある光景が浮かんだ。
リッチロード。
あのとき、ギルティはハンマーで魔法を打ち返した。
魔法を弾き返し、リッチロード自身に直撃させたのだ。
「……ギルティさん!」
ラウラが叫んだ。
「前に、リッチロードの魔法をハンマーで打ち返しましたよね!?」
「……えっ?」
ギルティの顔が引きつった。
「今回も、お願いします!」
「無理無理無理無理! あれと今のは違うよぉぉぉっ!」
「でも、ギルティさんならできます!」
「ちみ! あちしからもお願いするのだ!」
ダリアまで声を上げる。
「このままだと、全員まとめて吹き飛ばされるのだ! 魔法を打ち返すしかないのだ!」
「そんな簡単に言わないでよおおおっ!」
ギルティは泣きそうだった。
しかし、次の瞬間。
バルログの魔法が、四人の逃げ道を塞ぐように炸裂した。
ドゴォォォンッ!
「うわああああっ!」
ギルティは悲鳴を上げながら、ハンマーを握りしめた。
「も、もうっ! どうなっても知らないからねえええっ!」
バルログが放った黒い魔力弾が迫る。
ギルティは目をつぶり、全力でハンマーを振り抜いた。
ガギィィィィンッ!
金属音にも似た轟音が響いた。
黒い魔力弾が、弾き返された。
そのまま一直線に飛び、バルログの胸部へ直撃する。
ドォォォンッ!
「……え?」
ギルティが目を開ける。
「……は、弾き返せた?」
「やりましたああああっ!」
ラウラが歓声を上げた。
「さすがギルティなのだ!」
ダリアも叫ぶ。
しかし、バルログは倒れなかった。
むしろ、怒りに満ちた咆哮を上げた。
「人間ごときが……!」
バルログの全身から、黒い魔力が噴き出す。
空間が震えた。
壁に刻まれた模様が光り、周囲の魔力が一点へ集まっていく。
「……ちょっと待って」
ギルティの声が裏返った。
「なんか、さっきより絶対にヤバいんだけど!?」
バルログが両腕を広げる。
「闇の深淵に沈め――!」
黒い光が、空間全体を覆い始めた。
「闇の最上位魔法……!」
リリスが顔を青くする。
「み、みなさん! これは本当に危険です!」
「ギルティさん! お願いしますううううっ!」
ラウラが叫ぶ。
「ギルティ! 頼むのだああああっ!」
ダリアも叫んだ。
「嫌だあああああっ! 私、鍛冶師なのにいいいいっ!」
ギルティは半泣きになりながら、ハンマーを構えた。
次の瞬間。
闇が、巨大な奔流となって襲いかかってきた。
「うわああああああああっ!」
ギルティは叫びながら、ハンマーを振り抜いた。
ガギィィィィィンッ!
轟音。
黒い奔流が、正面から弾き返された。
まるで巨大な壁にぶつかったかのように、闇の魔法が反転する。
そして。
バルログ自身へと、直撃した。
「な……に……!?」
ドォォォォォォンッ!
黒い光が爆発する。
空間全体が揺れ、魔力の奔流が霧散していく。
バルログはよろめき、片膝をついた。
その体に亀裂が走る。
「馬鹿な……人間に……この力が……」
バルログの体が、黒い粒子へと変わっていった。
やがて、その姿は完全に消えた。
四人は、しばらく動かなかった。
「…………」
「…………」
「…………」
「……た、倒した?」
ラウラが震える声で尋ねた。
「……倒した、みたいだね……」
ギルティはハンマーを握ったまま、へなへなと座り込んだ。
「もう嫌ぁぁぁ……! あんなの二度とやりたくないよぉぉぉっ!」
「お疲れさまなのだ、ギルティ……!」
ダリアは感動したように頷いた。
「ギルティがいなかったら、あちしたち全員、真っ黒焦げだったのだ!」
「本当にありがとうございます……!」
リリスも深々と頭を下げた。
ラウラはギルティの肩をそっと叩いた。
「す、すごかったです……。でも、もう二度とお願いしたくないですね……」
「それはこっちの台詞だよぉぉぉっ!」
ギルティの悲鳴が、静まり返った空間に響いた。
しばらくして、ようやく落ち着きを取り戻した四人。
リリスは、バルログが消えた場所に残されたドロップ品を確認しに向かった。
「みなさん! 素材が残っています!」
その声に、三人も集まる。
そこには、黒い光をまとった素材がいくつも落ちていた。
「こ、これは……!」
リリスが目を輝かせる。
「悪魔族の素材です! しかも、かなり希少なものばかりです!」
ラウラが《素材採取》で確認すると、素材の情報が次々と頭に浮かんできた。
「……す、すごいです。こんな素材、見たことありません……!」
ダリアも素材を覗き込む。
「これだけあれば、かなり強力な薬品が作れそうなのだ!」
ギルティも、疲れ切った顔ながら興味を隠せない。
「装備の材料としても、とんでもない価値がありそうだね……」
「で、でも、あんな魔物がいた場所ですから……。早く回収して帰りましょう……!」
ラウラは急いで素材を魔法鞄に収納した。
四人は周囲を警戒しながら、来た道を戻る。
途中で魔物に遭遇しても、誰も立ち止まろうとはしなかった。
今はとにかく、帰りたい。
ただ、それだけだった。
ブングルへ戻った金満腹は、そのまま冒険者ギルドへ向かった。
受付嬢は四人の姿を見るなり、慌ててカウンターから身を乗り出した。
「あっ、金満腹のみなさん! ちょうど探していたんです!」
「えっ? な、何かありましたか……?」
ラウラが不安そうに尋ねる。
受付嬢は、申し訳なさそうに頭を下げた。
「すみません! 先ほど向かわれたダンジョンについて、確認に時間がかかってしまって……!」
「……はい?」
「実は、あのダンジョン――」
受付嬢は、はっきりと告げた。
「上級ダンジョンでした!」
「…………」
「…………」
「…………」
「…………」
四人は、見事に固まった。
「……じょうきゅう?」
ラウラが、かすれた声で聞き返す。
「はい。中級ダンジョンではなく、上級ダンジョンです。古い記録に誤りがあったようで……本当に申し訳ありません!」
「…………」
ラウラの頭の中が真っ白になった。
(上級……?)
(あそこが……?)
(じゃあ、あの魔物は……?)
その横で、ダリアがぽんと手を打った。
「なるほどなのだ!」
全員がダリアを見る。
「だから、あんなに強かったのだね! 納得なのだ!」
「納得しないでくださいぃぃぃっ!」
ラウラが叫んだ。
「え? でも、もう倒したのだよ?」
ダリアは胸を張った。
「上級ダンジョンだろうが何だろうが、あちしたちにかかれば楽ちんなのだ!」
「倒したのはギルティさんです!」
ラウラが即座に突っ込む。
「そうです! ギルティさんがいなかったら、私たちはどうなっていたことか……!」
リリスも頷いた。
「ちょ、ちょっと! そんなに強調しないでよ! 思い出しただけで手が震えるんだから!」
ギルティはハンマーを抱えて、がたがたと震えた。
受付嬢は、ますます困惑した表情になった。
「……え?」
ダリアは、そんな受付嬢に向かって堂々と告げた。
「ちなみに、倒したのはバルログっていう悪魔の魔物だったのだよ!」
「…………え?」
受付嬢の表情が止まった。
近くで話を聞いていた冒険者たちも、一斉にこちらを振り返った。
「今、バルログって言ったか……?」
「嘘だろ……?」
「バルログって、上級ダンジョンでも最上位クラスの魔物じゃないか!?」
ざわざわと、ギルド内が騒がしくなっていく。
受付嬢は、青ざめた顔で確認した。
「ほ、本当に……バルログを倒したんですか?」
「そうなのだ! あちしのメディーガンは効かなかったけど、ギルティが魔法を打ち返して、ばーん! とやったのだ!」
「説明が大雑把すぎるよぉぉぉっ!」
ギルティが叫んだ。
受付嬢は震える手で資料をめくり、やがて顔を上げた。
「バルログは……上級ダンジョンの中でも、特に危険な魔物です。場合によっては、超級ダンジョンに出現する魔物に匹敵するとまで言われています……」
「…………」
「…………」
「…………」
「…………」
四人は、再び固まった。
そして、ほぼ同時に。
「「「「えええええええええっ!?」」」」
ギルド中に、四人の悲鳴が響き渡った。
「ちょっと待ってください! 超級って何ですか!?」
ラウラが頭を抱える。
「上級でも十分すぎるくらい怖かったのに、さらに上があるのだ!?」
ダリアが叫ぶ。
「もう二度と魔法を打ち返したくないよぉぉぉっ!」
ギルティは涙目だった。
「わ、私たち、本当に無事に帰ってこられたんですね……!」
リリスはへなへなと座り込んだ。
そして、四人はその場に揃って座り込んだ。
「…………」
「…………」
「…………」
「…………」
しばらく、誰も口を開かなかった。
ダリアだけが、ぼそりと呟いた。
「……でも、メイド服は可愛いのだ」
「今はその話じゃないですぅぅぅっ!」
ラウラの叫びが、再びギルドに響き渡った。
あの上級ダンジョンでの一件から、数日が経った。
金満腹は、宿屋で十分に休み、装備の点検と素材の整理を済ませた。
そして今。
四人は、残る最後のダンジョンの入り口に立っていた。
強い魔物が出現するダンジョン。
宝箱がよく見つかるという、危険な場所。
「…………」
ラウラは、入り口を見上げた。
「……本当に、入るんですよね?」
「宝箱があるのだ!」
ダリアはメイド服のスカートを整えながら、堂々と言った。
「お宝があるなら、行くしかないのだ!」
「でも、前のダンジョンは上級でしたよ……?」
「今回はちゃんと確認したから大丈夫……だと思う!」
ギルティが言いかけて、途中で自信を失った。
「ギルティさん、それは大丈夫って言うんでしょうか……?」
リリスが不安そうに尋ねる。
「……分からない」
ギルティは正直に答えた。
ラウラは、深く息を吸った。
怖い。
できることなら帰りたい。
でも、宝箱がある。
珍しい素材があるかもしれない。
大金になるお宝が眠っているかもしれない。
「……い、行きましょう!」
ラウラは小さく拳を握った。
「ただし、危なくなったら全力で逃げますからね!」
「もちろんだよ!」
「当たり前なのだ!」
「はい!」
四人は互いに頷き合い、ダンジョンの入り口へと足を踏み出した。
こうして金満腹は、最後の中級ダンジョン――のはずだった場所へ、挑むことになったのだった。
ダンジョン内で採取できた素材
鉱石・金属系
- 高品質魔鉄鉱石
- 極上品質魔鉱石
- 黒晶石
- 赤晶石
- 青晶石
- 紫晶石
- 魔力銀鉱石
- 魔力金鉱石
- 深淵鉄鉱石
- 霊銀鉱石
- 黒曜魔鉱
- 魔導銅鉱石
- 高密度結晶鉱
- 混沌鉱石
- 星屑鉱石
- 暗黒鋼の原石
結晶・宝石系
- 魔晄結晶
- 高純度魔晄結晶
- 深淵結晶
- 暗黒結晶
- 炎魔結晶
- 雷魔結晶
- 虚空結晶
- 混沌結晶
- 霊魂結晶
- 夢幻水晶
- 星光水晶
- 魔力共鳴石
- 魔力増幅結晶
- 魔力吸収結晶
- 封印結晶
- 黒曜魔晶
- 七色魔晶片
- 未知属性の結晶片
植物・菌類系
- 魔力茸
- 深淵苔
- 暗闇草
- 魔力吸収花
- 幻惑花
- 月影草
- 魔力樹の樹液
- 黒銀の蔓
- 霊脈の根
- 混沌胞子
- 魔力胞子袋
- 光苔
- 闇苔
- 魔力を蓄えた木の実
- 魔力浄化葉
- 夢見草
水・液体・粉末系
- 魔力濃縮水
- 深淵の雫
- 魔力樹液の濃縮液
- 黒晶粉末
- 魔晄粉末
- 魔力安定剤の原液
- 混沌の泥
- 魔力凝縮油
- 霊脈の露
- 暗黒霧の凝縮液
これまでのダンジョン内の魔物から採れた素材
結晶蝙蝠
- 高品質結晶蝙蝠の翼膜
- 結晶蝙蝠の魔石
- 音波器官
- 魔力反響結晶
- 透明な牙
魔晶トカゲ
- 極上品質魔晶トカゲの鱗
- 魔晶トカゲの魔石
- 魔力蓄積袋
- 結晶化した爪
- 魔力循環腺
混沌スライム
- 混沌スライムの核
- 高粘度混沌粘液
- 魔力吸収膜
- 自己再生ゲル
- 属性変換核
影狼
- 影狼の毛皮
- 影狼の魔石
- 影の爪
- 暗視眼
- 影渡りの腱
- 魔力感知器官
魔力甲虫
- 魔力甲虫の外殻
- 高密度魔力殻
- 魔力甲虫の魔石
- 魔力放出角
- 魔力吸収器官
魔法植物系の魔物
- 人喰い蔓の強靭な蔓
- 魔力花の花弁
- 捕食根の根核
- 魔力樹人の樹皮
- 魔力樹人の樹芯
- 毒胞子袋
- 魔力種子
隠し通路で発見した希少素材
- 極上品質高純度魔晄結晶
- 古代魔導鉱石
- 未精製の虚空結晶
- 霊脈結晶核
- 魔力増幅核
- 属性融合結晶
- 魔力保存石
- 魔導回路鉱
- 封印された魔力結晶
- 古代文字入りの黒晶片
- 魔力共鳴鉱
- 深淵の原石
ボス・バルログのドロップ素材
身体素材
- 極上品質バルログの角
- 極上品質バルログの翼
- バルログの黒炎爪
- バルログの牙
- バルログの外皮
- バルログの尾骨
- バルログの心臓
- バルログの血液
- バルログの魔力血管
- バルログの骨片
魔力・悪魔系素材
- 極上品質バルログの魔石
- 悪魔の魔核
- 深淵魔力結晶
- 暗黒魔力の残滓
- 黒炎核
- 闇属性増幅核
- 悪魔の翼膜
- 魔力侵食液
- 呪詛の粉末
- 魔法耐性の皮膜
- 闇魔法の触媒核
- 魔力暴走結晶
特に希少な素材
激レア・バルログの心臓石
激レア・黒炎竜巻核
激レア・深淵の魔角
超激レア・悪魔王の残滓
超激レア・深淵魔力炉
超激レア・バルログの魂晶




