50話 新たな仲間は天才魔導具師でした!
九色鳥クインバードを捕獲したラウラたちは、ようやくアントン伯爵の館へと戻ってきていた。
道中、何度も休憩を挟み、虫やゾンビの恐怖を思い出しては身震いしながら、なんとかたどり着いたのである。
「つ、着きましたぁ……」
「もう二度と、あの洞窟には入りたくないのだ……」
「同感……。あたし、しばらく鍛冶場に引きこもる……」
三人は玄関前で、ぐったりと肩を落とした。
しかし、依頼の報告はしなければならない。
ラウラたちは使用人に案内され、アントン伯爵とカーム伯爵が待つ裏庭へと向かった。
「おお! よく戻ってきてくれた!」
アントン伯爵が嬉しそうに出迎える。
「それで、九色鳥クインバードは……」
「はい。こちらです」
ラウラは魔法鞄を地面に置いた。
そして、ゆっくりと中身を取り出す。
ドスンッ!!
巨大な九色鳥クインバードが、裏庭に姿を現した。
九色の羽毛が美しく輝き、その巨大な翼は、広げれば馬車を何台も覆えそうなほどだった。
「なっ……!?」
「ほ、本当に捕まえてきたのか!?」
アントン伯爵とカーム伯爵は、目を丸くした。
「ほんとに捕まえてる……」
カーム伯爵が、思わず呟く。
「しかも、こんなに大きな個体を……!」
「えっと……実は、少し事情がありまして……」
ラウラは、親鳥のほうへ視線を向けた。
顔面がない。
どう見ても、剥製には向いていない状態だった。
「……こちらが親鳥で、もう一羽は魔法鞄の中に入っています」
「親鳥?」
「はい。こちらは……その……」
ラウラは言葉を濁した。
ダリアが小さく咳払いをする。
「戦闘中に、ちょっとした事故があったのだ」
「ちょっとした事故で顔がなくなるのか!?」
カーム伯爵が思わず叫んだ。
「ラウラちゃんがハンマーを投げたら、こうなったの」
「ハンマーを投げた!?」
「マグマドラゴンの素材で作ったものなのだ。威力がすごかったのだ……」
「そんなものを投げたのか……」
アントン伯爵は、顔面のないクインバードを見つめたあと、深く息を吐いた。
「……まあ、命を落とさずに戻ってきてくれただけでも十分だ。もう一羽が無事なら、剥製にできる可能性もあるだろう」
「はい! そちらは無事です!」
ラウラは慌てて魔法鞄から、麻痺しているクインバードを取り出した。
こちらは顔も翼も傷ついていない。
アントン伯爵は、その姿を見て満足そうに頷いた。
「よし! これなら剥製職人も腕を振るえるはずだ!」
「それでは、クインバードはこちらで預かろう。剥製職人のところへ運んでおく」
カーム伯爵がそう言って、使用人たちに指示を出した。
そして、ラウラたちの前に大きな袋を置いた。
「これは今回の報酬だ」
「報酬……!」
ラウラの目が輝いた。
「金貨千枚だ。三人で分けるなり、必要なことに使うなり、好きにしてくれ」
「「「金貨千枚!?」」」
三人の声が、見事に重なった。
金貨千枚。
庶民が一生かけても手にできないような大金である。
ラウラは震える手で袋を抱きしめた。
「こ、これだけあれば……!」
「家が買えるのだ……!」
「鍛冶場も作れる……!」
三人は顔を見合わせた。
庭付きの家。
ダリアの錬金術研究室。
ギルティの鍛冶場。
そして、ラウラのお金を保管する部屋。
夢が、また一歩近づいた。
「ありがとうございます! 大切に使わせていただきます!」
ラウラたちは何度も頭を下げ、アントン伯爵の館をあとにした。
その後。
宿屋へ戻るために街を歩いていたラウラたちだったが――。
「……あれ?」
ラウラが足を止めた。
「ここ、どこですか?」
「えっ?」
ダリアが周囲を見回す。
「……知らない道なのだ」
「ちょっと待って。あちしたち、さっき大通りを右に曲がったよね?」
「うん。そのあと、細い道を左に……」
「その先で、もう一回右に曲がったのだ」
「……あれ? それって、最初の道に戻ってない?」
三人は顔を見合わせた。
どうやら、見事に道に迷ったらしい。
「うう……。ラウラ、地図を持ってくればよかったです……」
「今さら言っても仕方ないのだ。誰かに道を聞くのだ」
しかし、周囲には人通りが少ない。
建物は古び、道には傷んだ木箱や壊れた家具が積まれていた。
明らかに、裕福な人々が暮らす地区ではない。
「……ここ、貧民街じゃない?」
ギルティが小声で言った。
「えっ!?」
ラウラは慌てて周囲を見回した。
できるだけ早く、この場所を抜けたほうがよさそうだ。
そう思って歩き出そうとした、そのときだった。
「……あの」
か細い声が聞こえた。
三人が振り向くと、道端に一人の少女が座り込んでいた。
年齢は十八歳くらいだろうか。
服は薄汚れており、髪も少し乱れている。
それでも、顔立ちは整っていた。
少女はラウラの姿を見ると、ぱっと表情を明るくした。
「その服……すごく可愛いですね!」
「えっ?」
ラウラは自分の服を見下ろした。
ガルグが作ってくれた、セーラー服風の採取用装備だ。
「ありがとうございます……。これは、知り合いが作ってくれたんです」
「いいなぁ……。そんな可愛い服、あたしも着てみたいな」
少女は、羨ましそうにラウラの服を見つめた。
その目には、飾り気のない憧れが浮かんでいた。
ラウラは少女の様子を見て、なんとなく放っておけなくなった。
「……あの、お腹は空いていませんか?」
「えっ?」
「よかったら、一緒にご飯を食べませんか?」
少女は目を見開いた。
「……いいんですか?」
「はい。ちょうどラウラたちも、ご飯を食べに行くところでしたから」
実際には、宿屋へ戻る途中だったのだが。
お金には余裕がある。
金貨千枚という大金を手にしたばかりなのだから、食事を一人分増やすくらい問題ない。
それに――。
(可愛い服を褒めてくれた人は、いい人です)
ラウラは、そんな単純な理由で少女を気に入っていた。
「じゃあ……お言葉に甘えてもいいですか?」
「もちろんです!」
こうして、ラウラたちは少女を連れて、近くの食堂へ向かった。
食堂に入ると、三人は料理を注文した。
少女は最初こそ遠慮していたものの、料理が運ばれてくると、夢中で食べ始めた。
「おいしい……」
少女の目に、うっすらと涙が浮かぶ。
それを見たラウラたちは、何も言わずに料理を追加した。
やがて、お腹が満たされたところで、少女は姿勢を正した。
「あの……助けてもらって、ありがとうございます。あたし、リリスっていいます。十八歳です」
「ラウラです。こっちはダリアさんとギルティさんです」
「よろしくなのだ!」
「よろしくね!」
リリスは少し迷ったあと、自分の職業について話し始めた。
「あたし、魔導具師なんです」
「魔導具師!?」
ギルティが興味深そうに身を乗り出した。
魔導具師とは、魔力を利用した道具を作り出す職業だ。
生活を便利にする道具から、冒険者が使う特殊な装備まで、その用途は幅広い。
「すごいじゃないですか!」
ラウラが素直に感心すると、リリスは困ったように笑った。
「……でも、全然ダメなんです」
「ダメ?」
「はい。あたしが作る魔導具って、どうしても粗悪品になっちゃうんです。魔力を込めても、うまく機能しなかったり、すぐ壊れたり……」
リリスは指先をぎゅっと握りしめた。
「何度も仕事をもらったんですけど、そのたびに失敗して……。結局、すぐにクビになっちゃいました」
「……そうだったのですか」
「今は仕事もなくて、住むところもなくなって……。どうしたらいいのか、わからなくなっちゃって」
リリスは俯いた。
せっかくの才能があるはずなのに、うまくいかない。
その苦しさは、きっと本人にしかわからないだろう。
ラウラたちは顔を見合わせた。
魔導具師。
魔法を利用した道具を作れる職業。
もし、ちゃんとした魔導具を作れるのなら――。
ラウラたちの生活も、もっと便利になるかもしれない。
魔法鞄のような道具を自分たちで作れれば、素材の運搬も楽になる。
ダリアの錬金術やギルティの鍛冶と組み合わせれば、さらにすごいものができる可能性だってある。
そして何より。
新しい仲間が増えれば、できることも増える。
「……リリスさん」
ラウラが声をかけた。
「もしよかったら、ラウラたちのパーティに入りませんか?」
「……え?」
リリスは、ぽかんと口を開けた。
「パ、パーティ……ですか?」
「はい。ラウラたちは素材を集めて、ダリアさんが薬を作って、ギルティさんが装備を作っています。そこに、魔導具師のリリスさんが加わってくれたら、すごく助かると思うんです」
「でも、あたしは失敗ばかりで……」
「それなら、まずはリリスさんが使いやすい道具を作るところから始めましょう!」
ギルティが力強く頷いた。
「道具の性能が、リリスの能力に合ってない可能性もあるよ。あたしが専用の道具を作ってみる!」
「えっ……専用の道具?」
「そう! リリスが魔導具を作るために必要な道具を、あたしが作るの!」
ギルティの目が輝いた。
珍しい素材を使った新しい道具。
それは鍛冶師にとって、たまらなく魅力的な仕事だった。
「素材はラウラちゃんが集めてくれるし、あたしが加工する。あとはリリスが魔導具を作るだけ!」
「ちみ、すごくいい考えなのだ!」
ダリアも賛同した。
「失敗したからって、能力がないとは限らないのだ。道具が悪いだけかもしれないのだ!」
リリスは三人の顔を順番に見た。
誰も、彼女を笑っていない。
誰も、彼女の失敗を責めていない。
むしろ、彼女の力を信じてくれている。
「……あたしでも、本当にいいんですか?」
「もちろんです!」
ラウラは笑顔で頷いた。
「一緒にお金を稼ぎましょう!」
「……はいっ!」
リリスの目から、ぽろぽろと涙がこぼれた。
「ありがとうございます……! あたし、頑張ります……!」
こうして、金満腹に新たな仲間が加わることになった。
翌日。
ギルティは、さっそくリリス専用の魔導具製作用道具を作り始めた。
材料に使ったのは、ラウラたちがダンジョンで手に入れた魔晄結晶。
さらに、マグマドラゴンの鱗も組み合わせた。
魔晄結晶は、高濃度の魔力にさらされた魔鉱石が変質して生まれる希少素材だ。
魔力を扱う道具との相性は抜群。
そこへ、強い耐久性を持つマグマドラゴンの鱗を組み合わせる。
普通の鍛冶師なら、素材を見ただけで手が震えるような組み合わせだった。
「……よし、できた!」
ギルティが完成した道具を並べた。
魔力を安定させるための台座。
魔力を調整するための細かな器具。
素材の性質を損なわずに加工するための専用工具。
どれも見事な仕上がりだった。
「す、すごい……」
リリスは、目を輝かせながら道具を見つめた。
「これ、全部あたしのために……?」
「そうだよ! 遠慮せずに使って!」
「ありがとうございます……!」
リリスは何度も頭を下げた。
そして、さっそく魔導具の製作に取りかかった。
「まずは……魔法袋を作ってみます」
「魔法袋?」
ラウラが首を傾げた。
「はい。普通の袋よりもたくさんの物を収納できる魔導具です。あたし、これだけは何度も作っているんですけど……」
リリスは、以前から使っていた魔導具師専用の道具を取り出した。
その道具で魔力を調整し、袋の素材に魔力を込めていく。
しばらくして、魔法袋が完成した。
「……できました!」
リリスは嬉しそうに袋を持ち上げた。
「じゃあ、どれくらい入るか試してみよう!」
ギルティが小さな木箱を持ってきた。
リリスは木箱を袋に入れようとする。
しかし――。
「……あれ?」
木箱は、袋の口から半分ほどしか入らなかった。
無理に押し込もうとしても、途中で引っかかってしまう。
「えっと……」
リリスは袋を広げ、何度も確認した。
そして、今度は小さな石を入れてみる。
石は入った。
だが、二個目を入れようとすると、もういっぱいになってしまった。
「…………」
沈黙が流れた。
「……普通の袋のほうが、入るのだ」
ダリアがぽつりと言った。
「ううう……」
リリスは頭を抱えた。
「どうして……? どうして、いつもこうなっちゃうの……?」
せっかく新しい道具をもらったのに。
また失敗してしまった。
リリスの肩が、しょんぼりと落ちる。
「……あたし、やっぱりダメなのかな……」
「そんなことないよ!」
ギルティがすぐに声を上げた。
「道具はまだ調整できるから! 何度でも試そう!」
だが、リリスは首を横に振った。
「今まで何度も試したんです。でも、いつも同じで……。魔力を込めても、袋の中が広がらないんです」
「うーん……」
ダリアも腕を組んで考え込んだ。
魔力が足りないのか。
それとも、作り方に問題があるのか。
普通なら、そこで諦めてしまうところだろう。
しかし、ラウラはふと、リリスが作った魔法袋に目を向けた。
そして、いつものようにスキルを使ってみることにした。
「……素材採取」
ラウラの視界に、魔法袋の情報が浮かび上がった。
最近、ラウラの《素材採取》は、ただ素材を採取するだけではなく、採取に使う道具や素材に関する情報まで読み取れるようになっていた。
だが、今回表示された内容は――。
『魔法袋』
『品質:粗悪』
『収納容量:小』
「……あ」
ラウラは思わず声を漏らした。
「どうしたのだ、ちみ?」
「この魔法袋、品質が粗悪って表示されています……」
「ううっ……」
リリスがさらに落ち込んだ。
しかし、ラウラはそこで終わらなかった。
「……でも、道具を変えたらどうなるんでしょう?」
ちょうどそのとき。
「お待たせ! 追加の道具が完成したよ!」
ギルティが、いくつかの新しい工具を持って戻ってきた。
魔晄結晶とマグマドラゴンの鱗を使い、リリスの作業に合わせて調整した専用道具。
魔力を無駄なく伝え、細かな制御を可能にするための、最高品質の品々だった。
「こ、これで……もう一度、試してみてもいいですか?」
「もちろん!」
リリスは新しい道具を受け取り、深呼吸した。
今度こそ。
そう願いながら、慎重に魔力を流し込んでいく。
魔晄結晶が淡く輝いた。
魔力が工具を通り、袋の素材へと伝わっていく。
これまでなら、途中で魔力が乱れ、失敗していたはずだった。
しかし、今回は違った。
魔力は途切れることなく、安定して流れ続けた。
やがて――。
「……できました!」
リリスが、完成した魔法袋を持ち上げた。
「おおっ!」
ギルティが歓声を上げる。
「さっそく試すのだ!」
ダリアが木箱を持ってきた。
リリスは木箱を袋へ入れる。
すぽん。
あっさり入った。
続けて、石を十個、二十個、三十個と入れていく。
まだまだ入る。
さらに大きな荷物を入れても、袋は膨らまなかった。
「す、すごい……!」
リリスは目を見開いた。
「入ります! ちゃんと入ります! あたしの魔法袋が……!」
その目に、再び涙が浮かんだ。
ラウラも嬉しくなり、魔法袋に向かってスキルを使った。
「素材採取!」
すると、視界に新たな情報が表示された。
『魔法袋++++』
『品質:最高級』
『収納容量:王城一棟相当』
「…………え?」
ラウラは表示された文字を、もう一度見直した。
王城一棟相当。
王城一棟相当。
大事なことなので、二回確認した。
「……あの、リリスさん」
「は、はい?」
「この魔法袋……王城がすっぽり入るくらいの容量があるみたいです」
「…………え?」
リリスの動きが止まった。
ダリアも固まった。
ギルティも口を開けたまま、魔法袋を見つめている。
「王城って……あの王城?」
「はい。あの王城です……」
ダリアが叫ぶ
「いやいやいや! 普通の魔法袋って、そんな容量にならないのだ!」
「ちょっと待って! それ、国宝級どころじゃないんじゃない!?」
ギルティが慌てて魔法袋を確認した。
外見は、どこにでもある普通の袋だ。
だが、中身は王城一棟を収納できるほどの広さがあるという。
「……リリス、ちょっとステータスを見せてもらってもいいかな?」
ダリアが尋ねた。
「え? はい……」
リリスは戸惑いながら、自分のステータスを表示した。
そこに記されていたのは――。
【リリス】
職業:魔導具師
スキル:《魔導具作成》Lv9
その表示を見た三人は、同時に息を呑んだ。
「……レベル9!?」
「うそでしょ……!」
「ちょ、ちょっと待つのだ! 魔導具作成レベル9って、国でもトップレベルの人しか持っていないはずなのだ!」
魔導具作成のスキルは、レベルが上がるほど高度な魔導具を作れるようになる。
レベル9ともなれば、国の中でもごくわずかな者しか到達できない領域だ。
そんな人物が、どうして粗悪品ばかり作っていたのか。
答えは、あまりにも単純だった。
「……今まで使っていた道具が、リリスの能力に追いついていなかったんだね」
ギルティが、納得したように呟いた。
「高レベルの魔導具作成スキルを持っていても、魔力を制御する道具が粗悪だったら、本来の性能を発揮できない。むしろ、能力が高すぎて道具のほうが耐えられなかったのかもしれないね」
「そんな……」
リリスは完成した魔法袋を抱きしめた。
「じゃあ、あたし……ずっと、道具のせいで……?」
「そういうことだと思います」
ラウラは優しく頷いた。
「リリスさんの能力が低かったわけじゃないんです。ちゃんとした道具があれば、こんなにすごい魔導具が作れるんですから」
「……っ」
リリスの目から、大粒の涙がこぼれ落ちた。
「ありがとうございます……!」
彼女は魔法袋を胸に抱いたまま、何度も頭を下げた。
「本当に、ありがとうございます……! あたし、自分には才能がないんだと思ってました……。何を作っても失敗して、どこに行ってもクビになって……。もう、魔導具師をやめようかと思ってたんです……!」
「もう大丈夫なのだ!」
ダリアが、リリスの肩をぽんと叩いた。
「これからは、金満腹の仲間なのだ!」
「うん! 困ったことがあったら、みんなで考えよう!」
ギルティも笑顔で頷いた。
ラウラはリリスに手を差し出した。
「これからよろしくお願いしますね、リリスさん」
「……はいっ!」
リリスは涙を拭い、その手を握り返した。
こうして、魔導具作成レベル9という、とんでもない才能を持つ少女が、金満腹に加わったのである。
その後、ギルティはリリスにも精霊兎靴を用意した。
新しい仲間ができたのだから、装備を整えるのは当然だ。
「はい、リリス。これを履いてみて!」
「えっ、いいんですか!?」
「もちろん! これから一緒に活動するんだからね!」
リリスは恐る恐る靴を受け取り、足に履いた。
すると、身体がふっと軽くなった。
「わっ……! 足が軽いです!」
「精霊兎の素材を使った靴だよ。速度とスタミナが上がるんだ!」
「すごい……!」
ラウラたちは、さっそくリリスのステータスを確認した。
【リリス】
職業:魔導具師
スキル:《魔導具作成》Lv9
- 体力:42+21
- 魔力:44
- 力:17
- 防御:10
- 速さ:33+20
「……うん。これなら、移動も楽になるのだ!」
「スタミナも増えてるし、採取に行くときも安心だね!」
「ありがとうございます! あたし、頑張ります!」
リリスは、期待に満ちた顔で拳を握った。
これからは、優秀な仲間たちと一緒に冒険できる。
素材採取の専門家。
錬金術師。
鍛冶師。
そして、魔導具作成レベル9の魔導具師。
これだけの仲間が揃えば、きっと素晴らしい冒険者生活が待っているはずだ。
リリスは、そう信じていた。
そして、翌日。
「では、今日はみんなで薬草採取に行きましょう!」
ラウラが元気よく宣言した。
「おー!」
ダリアが拳を上げる。
「新しい魔導具も試してみたいしね!」
ギルティも頷いた。
「は、はい! あたし、頑張ります!」
リリスも笑顔で答えた。
目的は、街の近くにある草原で薬草を集めること。
初心者でもできる、簡単な採取依頼だ。
リリスにとって、初めての本格的なパーティ活動だった。
(これから、楽しい冒険が始まるんだ……!)
リリスは胸を弾ませながら、草原へ足を踏み入れた。
そのときだった。
ガサガサガサガサッ!!
草むらが、大きく揺れた。
「……え?」
茂みの奥から現れたのは、巨大な牙を持つ魔物だった。
薬草採取に来たはずなのに。
どうして、こんなところに魔物がいるのだろう。
「グルルルル……!」
「ひっ……」
魔物が唸り声を上げる。
ラウラは顔を青ざめさせた。
「に、逃げますよおおおおおっ!!」
「えええええっ!? 薬草は!?」
リリスが叫ぶ。
「命のほうが大事ですううううっ!」
ラウラは全力で走り出した。
「ちょっと待って! ラウラちゃん、速すぎるのだ!」
「新しい靴があっても、魔物は怖いんだよおおおっ!」
ダリアとギルティも、悲鳴を上げながら続く。
そして――。
「えっ!? えええっ!? あたしも逃げるんですかああああっ!?」
リリスも慌てて走り出した。
魔導具作成レベル9。
王城一棟を収納できる魔法袋を作り上げた天才魔導具師。
そんな彼女の冒険者生活は、華々しい魔導具開発の日々から始まるはずだった。
しかし、現実は違った。
初めての薬草採取で、魔物に追いかけ回される。
しかも、仲間たちは全員、ものすごい勢いで逃げている。
「ま、待ってくださあああい! あたし、冒険ってもっと安全なものだと思ってましたああああっ!」
リリスの悲鳴が、草原に響き渡った。
こうして彼女は、理想とはかけ離れた冒険者生活の第一歩を踏み出すことになったのである。




