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【ハズレ職】素材採取士の私。お金のために採取していたら世界最強になりました  作者: きらっち


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47話 人食い魚を意図せず全滅させてしまいました。

三階層と四階層、湖の魔物ガンガル!


「……三階層、ですか」


階段を下りたラウラたちを待っていたのは、さらに湿気の増した洞窟だった。


ぽたっ。


ぽたぽたっ。


天井から水滴が落ち、地面には小さな水たまりがいくつもできている。


奥へ進むほど、水たまりは増えていった。


「うぅ……なんか、どんどんじめじめしてきたね……」


ギルティがハンマーを両手で握りしめる。


「ちみたち、足元にも気をつけるのだ。こういう場所には、絶対にろくでもない魔物がいるのだ!」


「ダリアちゃん、それ、フラグです……!」


ラウラが小声で訴えた、その直後だった。


カサカサカサカサッ!


「ぎゃあああああああっ!!」


壁の隙間から、黒くて脚の多い虫の魔物が飛び出してきた。


「出たああああっ! 虫ぃぃぃっ!」


ギルティが悲鳴を上げて走り出す。


「ちょっ、待つのだ、ギルティ! あちしを置いていくなぁぁぁ!」


ダリアも全力で走った。


「ラウラも逃げますぅぅぅぅっ!」


ラウラは走りながら、手近な石を拾って投げつけた。


ビシッ!


石は虫の魔物の頭部に命中した。


魔物がひるむ。


「当たりました! でも 逃げます!」


「逃げるのだ!」


「こっちにくるなぁぁぁぁぁあ!」


三人は叫びながら、洞窟の奥へと走っていった。


しばらくすると、背後から聞こえていたカサカサという音が遠ざかっていく。


「はぁっ、はぁっ……。も、もう来てない……?」


「たぶん……」


ギルティが振り返った瞬間。


ぬるっ。


水たまりの中から、別の虫の魔物が顔を出した。


「いやあああああああっ!!」


「またですかぁぁぁぁっ!」


三人は再び走り出した。


戦っているのか、逃げているのか。


もはや本人たちにもよくわからない。


それでも、なんとか魔物を振り切りながら、ラウラたちは三階層を進んでいった。


そして――。


「……あれ?」


ラウラがふと足を止めた。


「どうしたのだ、ちみ?」


「素材感知に反応があります」


ラウラは目を閉じ、周囲の素材の気配を探った。


壁の向こう。


地面の下。


そして、少し先の岩場。


いくつかの反応が浮かび上がってくる。


「これは……」


ラウラの視界に、素材の名前が表示された。


《魔晄結晶》


「魔晄結晶……!」


「えっ、なになに? 珍しい素材なのか?」


ダリアがラウラの肩越しに覗き込む。


「はい! 魔晄結晶は、魔鉱石が魔力の濃い場所で長い時間をかけて変化したものです。普通の魔鉱石よりも希少で、激レア素材なんですよ!」


「激レア……!」


ギルティの目が輝いた。


「魔力の濃い場所でしかできないんだね! これ、鍛冶に使えたら面白そう!」


「錬金術でも利用できそうなのだ! ちみ、どこにあるのだ?」


「こっちです!」


ラウラは素材の反応を頼りに、岩場の近くへ向かった。


湿った岩の隙間に、淡く輝く結晶がいくつも埋まっている。


紫や青、時には緑がかった光が、結晶の内部をゆっくりと流れていた。


「わぁ……綺麗……」


ギルティが思わず息を呑む。


さっきまで虫の魔物に悲鳴を上げていたとは思えないほど、真剣な顔だった。


「これは丁寧に採取しないといけませんね!」


ラウラは採取用の道具を取り出した。


ガリッ、ガリッ。


結晶を傷つけないよう、周囲の岩を少しずつ削っていく。


そして――。


コロン。


《魔晄結晶》を採取しました。


「やりました!」


ラウラは結晶を袋にしまった。


「しかも、まだ反応があります!」


「全部採るのだ!」


「もちろんです!」


三人は周囲の魔晄結晶を、可能な限り丁寧に採取した。


気持ち悪い虫の魔物に追い回された苦労が、少しだけ報われた気がする。


「ふふふ……。激レア素材……。これは、いいお値段になりそうです……」


ラウラの顔が自然と緩んだ。


「ちみ、顔がすっかり商人みたいになってるのだ」


「お金になる素材を見つけたら、誰だってこうなりますよ!」


「ラウラちゃん、そこはぶれないね……」


ギルティが苦笑した。


もちろん、三人とも採取した魔晄結晶の価値を正確には知らない。


だが、激レア素材という時点で期待は十分だった。


お金のためにも、これは絶対に持ち帰らなければならない。


そして、採取を終えた三人は再び洞窟の奥へと進んでいった。


やがて――。


「あっ、階段です!」


ラウラが指さした先に、下へと続く階段が見えた。


「四階層……だね」


ギルティがごくりと喉を鳴らす。


「ここまで来たんだから、進むしかないのだ……。でも、虫はもう勘弁なのだ……」


「ラウラも同じ気持ちです……」


三人は互いに顔を見合わせた。


そして、恐る恐る階段を下りていった。




四階層――地下湖


「……わぁ」


階段を下りた先に広がっていた光景に、ラウラは思わず声を漏らした。


そこは、今までの狭く湿った洞窟とはまるで違う場所だった。


天井は遥か高く、壁には淡く光る鉱石が点在している。


そして、目の前には――。


巨大な湖が広がっていた。


湖面は透き通るほど美しく、青白い光を反射している。


その中央には、反対側へ渡るための細長い道が伸びていた。


まるで、湖の上に橋が架かっているかのようだ。


「すごい……。こんな地下に、こんな大きな湖があるんだ……」


ギルティが感動したように呟いた。


「ここなら、クインバードがいるかもしれませんね!」


ラウラも湖を見渡した。


魔力が濃い場所に住むというクインバード。


美しい湖の近くで目撃されるという話にも、ぴったりの場所だった。


「よし! ちみたち、さっさと向こう側へ渡るのだ! クインバードを見つけて、依頼を終わらせて、お金をもらうのだ!」


「お金をもらうところまで、、、、まだ何も終わってないですよ……?」


「そこは気合いでなんとかするのだ!」


「気合いでお金は増えないと思うけど……」


ギルティが苦笑する。


それでも、三人は慎重に道へ足を踏み入れた。


ちゃぷっ。


道のすぐそばで、水面が揺れた。


「……ん?」


ちゃぷちゃぷっ。


湖のあちこちで、小さな波紋が広がっていく。


ラウラは足を止めた。


嫌な予感がする。


採集士としての経験が告げていた。


こういう静かな場所で、突然水面が揺れ始めたら――。


「……みなさん。ちょっと急いだほうがいいかもしれません」


「えっ?」


その瞬間。


バシャァァァンッ!!


湖から、巨大な魚が飛び出した。


鋭い牙。


大きな口。


ぬめぬめした灰色の体。


そして、こちらを獲物として見定める、ぎらついた目。


「ぎょ、魚ぉぉぉっ!?」


ギルティが悲鳴を上げた。


続けて、別の魚が飛び出す。


バシャァァァンッ!


さらにもう一匹!


バシャッ! バシャバシャッ!


湖面が激しく波立ち、無数の魚影が道の周囲に集まってきた。


「な、なんなのだ、こいつら!?」


慌てて魔物図鑑を取り出した。


そして、魚の姿を確認した途端、顔色を変えた。


「うそでしょ……! こいつ、ガンガルなのです!」


「ガンガル……?」


「人間を食べる魚の魔物なのだ! 集団で獲物を襲う、かなり危険な魔物なのだよ!」


「人間を食べる!?」


ラウラの顔から血の気が引いた。


その言葉を理解した瞬間――。


「ぎゃああああああああっ!!」


三人は一斉に走り出した。


「食べないでくださいぃぃぃぃっ!」


「ちみ、走るの速すぎなのだぁぁぁ!」


「ラウラちゃん、待ってぇぇぇぇっ!」


ガンガルたちは次々と湖から飛び出し、鋭い牙を剥いて追いかけてくる。


バシャッ!


ガブッ!


ガンガルの牙が、ラウラのすぐ後ろの道に食い込んだ。


「ひゃああああっ! 近い! 近いですぅぅぅ!」


ラウラは必死に逃げた。


逃げながら、腰の袋から取り出した毒液の小瓶を握りしめる。


追いつかれたら終わりだ。


とにかく、何かしなければ。


そう思った、そのときだった。


「わわっ!?」


足元の水たまりで滑りかけたラウラの手から、小瓶がすっぽ抜けた。


「あっ! 毒液がぁぁぁっ!」


小瓶は弧を描いて飛び――。


ぽちゃん。


湖の中へ落ちた。


「…………」


ラウラは一瞬、走るのを忘れた。


「……あ」


「ラウラ、止まるなぁぁぁ! 食べられるのだぁぁぁ!」


ダリアの叫びで、ラウラは我に返った。


「す、すみません! 今行きますぅぅぅ!」


三人は再び全力で走った。


背後では、ガンガルたちが湖面を跳ね回っている。


しかし――。


数秒後。


バシャバシャと激しく暴れていた魚たちの動きが、次第に鈍くなっていった。


そして。


一匹。


また一匹。


ガンガルたちが、ぷかり、ぷかりと湖面に浮かび始めた。


「…………え?」


ラウラが走りながら振り返る。


湖の上には、白い腹を見せた魚が次々と浮かんでいた。


十匹。


百匹。


いや、そんな数ではない。


湖のあちこちに、ガンガルが浮かんでいる。


何千匹もの魚が、次々と動かなくなっていた。


「…………」


三人は、ゆっくりと足を止めた。


あまりの光景に、誰も言葉を発せなかった。


やがて、ダリアがぽつりと呟いた。


「……ラウラ」


「は、はいっ!?」


「ちみ……むごいことするのだ……」


「えええええっ!? ち、違います! わざとじゃありません!」


ギルティも、呆然とした顔でラウラを見つめていた。


「ラウラちゃん……。やること、ぶっとんでるね……」


「違いますってばぁぁぁっ!」


ラウラは両手をぶんぶんと振った。


「毒液を落としちゃっただけです! 湖に入れるつもりなんてなかったんです! そもそも、こんなにたくさん魚がいるなんて思わなかったんですぅぅぅ!」


「でも、結果として湖のガンガルが全滅したのだ……」


「結果だけ見ないでくださいぃぃぃ!」


ラウラは涙目になった。


採取するつもりだったわけでもない。


倒すつもりだったわけでもない。


ましてや、湖の魚を何千匹もまとめて倒すなんて、想像すらしていなかった。


ただ、逃げていただけなのだ。


本当に、ただ逃げていただけなのに。


「……あの、みなさん」


ラウラは恐る恐る湖を見た。


「これ……素材として採取したほうがいいんでしょうか?」


「ちみ、今それを聞くのだ!?」


ダリアが叫んだ。


「いや、だって……。魔物の素材ですし……。でも、魚を何千匹も採取するのは大変そうですし……」


「そこを気にするんだ……」


ギルティが遠い目をした。


結局、三人は湖のガンガルを見なかったことにした。


正確には、あまりの数に採取する気力が湧かなかったのである。


それに、毒液がどこまで広がったのかもわからない。


湖の水まで汚染されていたら、何が起こるかわからないのだ。


「……もう、先に進みましょう」


ラウラが弱々しく提案した。


「そうするのだ……」


「うん……。これ以上、何も起きないといいね……」


三人は、湖の上に伸びる道を再び歩き始めた。


背後には、何千匹ものガンガルが浮かぶ湖。


前方には、まだ見ぬ洞窟の奥。


そして、目的の九色鳥クインバードは、いまだ姿を現していない。


「クインバード、、、普通の鳥がいいです……」


ラウラは小さく呟いた。


ただし、この洞窟で『普通』という言葉がどこまで通用するのか。


それは、誰にもわからなかった。


三人は警戒しながら、さらに下の階層へ続く階段を探す。


こうしてラウラたちは、五階層へと向かうのであった。

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