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【ハズレ職】素材採取士の私。お金のために採取していたら世界最強になりました。10000pv突破  作者: 異世界文庫 きらっち


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44話 アーマードスコーピオンってめちゃくちゃグロテスクでした

西の森が見えてきた。


「…………」


「…………」


「…………」


 金満腹の三人は、ゆっくりと歩いていた。


 走っていない。


 いや。


 走れないわけではない。


 走れる。


 走れるのだが。


「……体力温存なのだ」


 ダリアが呟く。


「そうですね……」


 ラウラも頷いた。


「魔物と戦うかもしれませんから」


 ギルティも真剣な顔で頷く。


「うん。無駄に体力を使うのはよくない」


 つい先ほどまで、金貨六百枚を求めて全力疾走していた三人とは思えない発言だった。


     


「ところで……」


 ラウラは魔法鞄から図鑑を取り出した。


「今回の魔物について調べておきましょう」


「おお、そうするのだ」


「どんな魔物なの?」


 ギルティが覗き込む。


 ラウラはページをめくった。


「あ、ありました!」


 そこには。


 巨大なサソリの絵が描かれていた。


 全身を覆う分厚い甲殻。


 巨大なハサミ。


 そして、頭上に掲げられた鋭い毒針。


「…………」


「…………」


「…………」


 三人は絵を見つめた。


「……強そうですね」


 ラウラが呟く。


「うむ……」


 ダリアも頷く。


「……すごく硬そう」


 ギルティも顔を引きつらせる。


 ラウラは説明文を読み上げた。


「アーマードスコーピオン。西の森などに生息する大型魔物。全身を覆う甲殻は非常に硬く、通常の武器では傷をつけることすら難しい……」


「…………」


「強力なハサミと、猛毒を持つ尾を備える。危険度は非常に高く、討伐には十分な準備と実力が必要……」


「…………」


「…………」


「…………」


 ラウラはゆっくりと図鑑を閉じた。


「……依頼、受けなければよかったですね」


「本当にそうなのだ……」


「私もそう思う」


 三人は。


 心の底から後悔し始めた。


 しかし。


 もう遅い。


 依頼は受けてしまった。


 カーム伯爵も、この先にいるかもしれない。


 そして何より。


 金貨六百枚。


「…………」


 ラウラは顔を上げる。


「……行きましょう」


「うむ」


「仕方ないね」


 三人は。


 覚悟を決めて森へ入った。


     


 森の中。


 地面には、いくつもの足跡が残っていた。


「……これは」


 ラウラがしゃがみ込む。


「馬の足跡ですね」


「たくさんあるのだ」


 ダリアも周囲を見回した。


 馬車の轍。


 人間の足跡。


 そして、踏み荒らされた草。


「カーム伯爵様たちが通った跡かもしれません」


「なら、追いかけるのだ!」


「はい!」


 三人は馬の足跡をたどって進んでいく。


 しばらく歩いた、その時。


 ガサッ。


「「「!?」」」


 三人の肩が跳ねた。


「な、何!?」


 ギルティがハンマーを構える。


「魔物なのだ!?」


 ダリアはメディーガンを握りしめた。


 ラウラも石を取り出そうとする。


 そして。


 草むらから現れたのは――。


「…………」


「…………」


「…………」


 小さな野ウサギだった。


「…………」


 ぴょん。


「…………」


 ぴょんぴょん。


「…………」


 野ウサギは三人を気にする様子もなく、草を食べている。


「…………」


 ラウラの顔が明るくなった。


「かわいい……!」


「ラウラ?」


「ちょっと見てきますね!」


 ラウラは野ウサギに近づこうとした。


 その瞬間。


「ラウラ!!」


「そこから離れろぉぉぉ!!」


 ダリアとギルティが叫んだ。


「え?」


 二人の声が。


 明らかにおかしい。


 ただ注意しているのではない。


 恐怖。


 心の底からの恐怖が込められていた。


 ラウラは不思議そうに顔を上げる。


 そして。


「…………」


「…………」


「…………」


 野ウサギの向こう側。


 巨大な影が立っていた。


 全身を覆う黒褐色の甲殻。


 ギチギチと動く巨大なハサミ。


 そして。


 ゆっくりと持ち上がる、鋭い毒針。


「…………」


 ラウラは固まった。


「…………」


 ダリアも固まる。


「…………」


 ギルティは白目をむきかけていた。


 ラウラの頭の中で。


 先ほど見た図鑑の絵が再生される。


 アーマードスコーピオン。


 全身を覆う硬い甲殻。


 強力なハサミ。


 猛毒の尾。


 そして。


「…………」


 ラウラは思った。


 図鑑のイラストと実物は違う。


 イラストなら、まだいい。


 実物は。


 むちゃくちゃグロい。


「ぴゃーーーーーーーー!!」


 ラウラは叫んだ。


 そして。


 全力で走り出した。


「逃げるのだぁぁぁぁ!!」


「サソリなんて大嫌いぃぃぃ!!」


 ダリアとギルティも走り出す。


 背後から。


 ガシャガシャガシャガシャ!!


 巨大なサソリが追いかけてきた。


「速い! 速いですぅぅぅ!」


「ラウラ! どうするのだ!?」


「知りませんよぉぉぉ!」


 こうして。


 金満腹とアーマードスコーピオンの追いかけっこが始まった。


     


「作戦会議なのだ!」


 走りながらダリアが叫ぶ。


「このままじゃ追いつかれるのだ!」


「もう少しゆっくり追いかけてほしいですぅぅぅ!」


「そんなお願いが通じるわけないでしょ!」


 ギルティが叫ぶ。


「とにかく、何か攻撃しないと!」


「では!」


 ラウラが振り返る。


「作戦その1です!」


     


作戦その1! メディーガンで毒と麻痺!


「ダリアさん!」


「任せるのだ!」


 ダリアはメディーガンを構えた。


 オレンジの宝石。


 麻痺薬。


 紫の宝石。


 毒薬。


「食らうのだぁぁぁ!!」


 シュッ!


 シュッ!


 シュッ!


 液体がアーマードスコーピオンへ飛んでいく。


 甲殻に命中。


 しかし。


「…………」


「…………」


「…………」


 アーマードスコーピオンは。


 普通に追いかけてきた。


「……あれ?」


 ダリアが首を傾げる。


 シュッ!


 もう一発。


 シュッ!


 さらに一発。


 しかし。


 効かない。


 毒も。


 麻痺も。


 硬い甲殻に阻まれて、ほとんど通っていないようだった。


「うそぉ!?」


「効いてませんよぉぉぉ!」


「毒も麻痺も通らないのだ!?」


「図鑑に書いてありましたよ! 甲殻が硬いって!」


「そういう意味だったのかぁぁぁ!」


 作戦その1。


 失敗。


     


作戦その2! ギルティのハンマーで叩く!


「次は私だね!」


 ギルティがハンマーを握りしめた。


「甲殻が硬いなら、物理的にぶっ壊せばいい!」


「おお!」


「さすがギルティさん!」


 ラウラとダリアが期待の眼差しを向ける。


 ギルティは振り返った。


 そして。


「…………」


 巨大なサソリ。


 動くハサミ。


 うごめく脚。


 持ち上がった毒針。


「…………」


 ギルティの顔が真っ青になる。


「…………」


「ギルティさん?」


「…………」


「ギルティ?」


「…………」


 ギルティは。


 白目をむいていた。


 そして。


 ハンマーを握ったまま。


 全力で走っていた。


「ぴゃあああああああ!!」


「ギルティさん!?」


「戦ってないのだぁぁぁ!!」


「サソリも虫じゃん! 無理だよぉぉぉ!!」


 ギルティは半泣きだった。


 作戦その2。


 実行前に失敗。


     


作戦その3! ラウラの投てき!


「こうなったら!」


 ラウラが石を取り出す。


「ラウラが投げます!」


「頼むのだ!」


「お願い!」


 ラウラは振り返った。


 狙いを定める。


 そして。


「えいっ!」


 ビュンッ!


 石が飛ぶ。


 ガツン!


 アーマードスコーピオンの甲殻に直撃した。


 しかし。


 パキンッ!


「…………」


 石が砕けた。


「…………」


「…………」


「…………」


 ラウラは目を見開いた。


「石が……」


 砕けた。


 あの投てき術で投げた石が。


 硬い甲殻に負けた。


「……うそぉ」


 アーマードスコーピオンは。


 何事もなかったように追いかけてくる。


「石が通じないのだぁぁぁ!」


「どうすればいいの!?」


 ギルティが叫ぶ。


「…………」


 ラウラは。


 魔法鞄に手を入れた。


 そして。


「…………」


 黒い石を取り出した。


「…………」


 黒曜石。


 火山で手に入れた、硬い鉱石。


 そして。


 以前、図鑑で値段を調べた時のことを思い出す。


 銀貨二十枚。


「…………」


 ラウラは黒曜石を握りしめた。


「……さらば、銀貨よ」


「ラウラ!?」


「何をする気なのだ!?」


「これなら……!」


 ラウラは振り返る。


 そして。


「ええええいっ!!」


 全力で投げた。


 ビュオオオオッ!!


 黒曜石が空気を切り裂く。


 ドゴォンッ!!


 黒曜石は。


 アーマードスコーピオンの毒針の付け根に直撃した。


 バキッ!!


 ゴトンッ!!


「…………」


「…………」


「…………」


 巨大な毒針が。


 根元からちぎれ落ちた。


「…………」


 ラウラの目が輝く。


「……いける!」


「おおおおお!」


「やったのだ!」


 しかし。


 次の瞬間。


 アーマードスコーピオンが。


 ギチギチギチギチギチギチッ!!


 怒り狂った。


 毒針を失った怒りなのか。


 凄まじい勢いで三人を追いかけてくる。


「速くなってません!?」


「怒ってるのだぁぁぁ!!」


「ラウラ! 余計なことしたんじゃないの!?」


「だって、尻尾が取れたんですよぉぉぉ!」


「喜ぶのは倒してからにしなさい!」


 三人は再び全力で逃げ始めた。


     


「こうなったら……!」


 ラウラの目が据わる。


「もう、やけくそです!」


「ラウラ!?」


「黒曜石を!」


 魔法鞄から。


 黒曜石を取り出す。


 一つ。


 二つ。


 三つ。


 まだある。


「さらば銀貨二十枚!」


 ビュンッ!


 ドゴッ!


「さらば銀貨二十枚!」


 ビュンッ!


 バキッ!


「さらば銀貨二十枚!」


 ビュンッ!


 ガンッ!


「ラウラ! それ、全部高い石じゃないの!?」


「命には代えられません!」


「いや、さっきまで銀貨って言ってたじゃん!」


「お金は大事ですけど、死ぬのはもっと嫌ですぅぅぅ!」


 投げる。


 投げる。


 ひたすら投げる。


 《投てき術》Lv3。


 虎猫腕力補助。


 そして、黒曜石。


 ラウラの投げた黒曜石が、次々とアーマードスコーピオンに命中していく。


 甲殻が砕ける。


 脚が折れる。


 巨大なハサミに亀裂が走る。


 そして。


 ドゴォォォン!!


 最後の黒曜石が頭部に直撃した。


「…………」


 アーマードスコーピオンの動きが止まる。


 ガシャ……。


 ガシャ……。


 そして。


 ドォォォン!!


 巨大な身体が地面に倒れた。


「…………」


「…………」


「…………」


 三人は走りながら、何度も後ろを振り返った。


 動かない。


 追いかけてこない。


 毒針もない。


 ハサミも動かない。


「…………」


 ラウラが足を止めた。


「……倒しました?」


 ダリアが恐る恐る振り返る。


「……倒したのだ?」


 ギルティも、ハンマーを構えたまま確認する。


「…………」


 動かない。


「…………」


「…………」


「…………」


 そして。


「やったぁぁぁぁ!!」


 三人はその場に座り込んだ。


「こわかったのだぁぁぁ……!」


「もうサソリは嫌です……!」


「私も! 二度と見たくない!」


 ラウラは地面に大の字になる。


「……黒曜石、何個使ったんでしょう」


「今それを気にするのだ!?」


「だって銀貨二十枚ですよ……」


「生きてるんだからいいでしょ!」


「……そうですね」


 ラウラはゆっくり起き上がった。


 そして。


 倒れたアーマードスコーピオンを見る。


「…………」


 目が輝いた。


「……素材」


「「あ」」


 三人は立ち上がった。


「採取しましょう!」


「金になるのだ!」


「よし、手伝うよ!」


 さっきまで恐怖で逃げ回っていた三人が。


 今度は巨大なサソリへ駆け寄っていった。


     


「これは……」


 ラウラは甲殻に触れた。


「すごいですね……」


 硬い。


 普通のナイフでは傷をつけるのも難しそうだ。


 しかし。


 《素材採取》を使えば。


「……よし」


 ラウラは道具を取り出した。


 慎重に。


 丁寧に。


 そして。


「採取します!」


 ラウラの手が動き始めた。


 極上品質アーマードスコーピオンの甲殻。


 極上品質アーマードスコーピオンのハサミ。


 アーマードスコーピオンの脚。


 アーマードスコーピオンの魔石。


 そして。


 珍しい毒腺。


「…………」


 ラウラは次々と素材を取り出していく。


「すごい……」


 ギルティが感心する。


「こんな硬い素材を、こんなに綺麗に採取できるなんて」


「素材採取士ですから!」


 ラウラは胸を張った。


「金になりますね!」


「金になるのだ!」


 ダリアも満面の笑みだ。


 その時。


「お、おい……」


 背後から声がした。


 三人が振り返る。


 そこには。


 カーム伯爵。


 そして、その隣には見知らぬ貴族の男性。


 さらに、護衛や冒険者たちが数人立っていた。


「カーム伯爵様!」


 ラウラが声を上げる。


「ご無事だったんですね!」


「ああ……」


 カーム伯爵は頷いた。


「なんとか無事だ」


 そして。


 倒れているアーマードスコーピオンを見る。


「…………」


「…………」


「…………」


 カーム伯爵の顔が引きつった。


「……これは」


 隣の男性も。


 目を見開いている。


「まさか……アーマードスコーピオン?」


「はい!」


 ラウラが元気よく答える。


「倒しました!」


「…………」


「…………」


 護衛たちが。


 穴だらけになった巨大なサソリを見つめる。


「……倒した?」


「この三人が?」


「どうやって……?」


 冒険者たちは信じられないという顔をしていた。


 カーム伯爵も呆然としている。


「君たちが……これを?」


「はい!」


 ラウラは笑顔で頷いた。


「ちょっと大変でしたけど!」


「ちょっと……?」


 男性が呟く。


 そして。


 カーム伯爵が隣の男性を紹介した。


「こちらは、この街を治めるアントン伯爵だ」


「アントン伯爵様!」


 ラウラたちは頭を下げた。


 アントン伯爵は三人を見つめる。


 そして。


 もう一度、穴だらけのアーマードスコーピオンを見る。


「…………」


「…………」


「…………」


 しばらく沈黙したあと。


「……君たちは、一体何者なのだ?」


 と、呟いた。


 しかし。


「すみません!」


 ラウラはぺこりと頭を下げる。


「まだ採取の途中なので!」


「…………は?」


 ラウラはすぐに作業へ戻った。


 ダリアも。


「毒腺は丁寧に取るのだ!」


 ギルティも。


「この甲殻、加工したら面白そうだね……」


 三人は。


 貴族も。


 護衛も。


 冒険者も。


 完全に放置して。


 素材採取に夢中になっていた。


「…………」


 カーム伯爵は額を押さえた。


「……相変わらずだな」


 アントン伯爵は。


 しばらく三人を見つめていた。


 そして。


「……なるほど」


 小さく頷いた。


「君たちが噂の金満腹か」


「はい!」


 ラウラが振り返る。


「金満腹です!」


「……そうか」


 アントン伯爵は苦笑した。


「ならば、詳しい話は屋敷で聞こう」


「屋敷……?」


 ラウラの手が止まる。


「ご飯が出ますか?」


「もちろんだ」


「行きます!」


「即答か……」


 ギルティが呆れる。


 ダリアも頷いた。


「腹が減っては金儲けはできぬのだ!」


「そうですね!」


 こうして。


 金満腹の三人は、アーマードスコーピオンの素材を採取し終えると、カーム伯爵とアントン伯爵たちとともにアントン伯爵の屋敷へ向かうことになった。


 なお。


 カーム伯爵から金貨六百枚を受け取る話は。


 まだ。


 終わっていない。


 ラウラは歩きながら、そっと呟いた。


「……金貨六百枚」


「まだ言ってるのだ……」


「大事ですから!」


 金満腹の金銭への執念は。


 今日も健在だった。

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