38話 装備のアップグレードと金貨3千枚でした!
ブングルの街。
マグマドラゴンが倒された翌日。
街は、まだその話題で持ちきりだった。
「本当にドラゴンを倒したのか!?」
「しかも一撃だったって話だぞ!」
「あの三人だ!」
「金満腹っていうパーティーらしい!」
「街を救ってくれてありがとう!」
ラウラ、ダリア、ギルティの三人が街を歩くたびに、声をかけられる。
「ありがとうございます!」
ラウラは笑顔で頭を下げる。
「よかったのだ!」
ダリアも手を振る。
「いや、そんな……」
ギルティも照れながら頭を下げる。
街の人たちは三人を英雄のように見ていた。
冒険者たちからも声をかけられる。
「すごかったぞ!」
「俺たちじゃ近づくこともできなかった!」
「ドラゴンを倒すなんてな!」
「本当にありがとう!」
「どういたしまして!」
ラウラは笑顔で答える。
けれど。
心の中では。
「……」
ラウラは冷や汗をかいていた。
言えない。
絶対に言えない。
マグマドラゴンを街まで連れてきたのは――
ラウラたちです。
とは。
言えるわけがない。
言ったら。
「お前たちが連れてきたのか!」
となる。
それだけは避けたい。
「ラウラ?」
「はい?」
ダリアが横から顔を覗き込んでくる。
「なんか顔が引きつってるのだ」
「いえ……」
ラウラは小さく笑った。
「なんでもないですよ」
「そうか?」
「はい」
ギルティも苦笑する。
「……まぁ、言えないよな」
「はい」
「絶対に言えないのだ」
「ですよね」
三人だけが知っている。
マグマドラゴンは――
三人が火山から街まで連れてきた。
そして。
そのドラゴンを。
ラウラが黒曜石で倒した。
街の人たちは、その事実を知らない。
「とりあえず、鍛冶屋へ行こう」
ギルティが言った。
「はい!」
「行くのだ!」
三人は、ギルティが以前いた鍛冶屋へ向かった。
「……さて」
鍛冶屋に入ると、ギルティは自分の道具を眺めた。
ハンマー。
ヤットコ。
金床。
炉。
その他、鍛冶に使う道具。
「これなんだけど」
「はい?」
「アップグレードしたい」
ギルティが言った。
「鍛冶の道具を?」
「うん」
ギルティは少し照れながら笑う。
「マグマドラゴンみたいな素材を扱うなら、普通の道具じゃもったいないんだ」
「なるほど……」
「せっかく手に入れたんだから、素材を売るだけじゃなくて、自分の鍛冶にも使いたい」
ギルティの目が輝いていた。
「私、もっとすごい装備を作りたいんだ」
「ギルティちゃんらしいですね」
「うむ」
ダリアも頷く。
「それなら、使うといいのだ」
ラウラは魔法鞄を開いた。
「このあたりですか?」
取り出したのは。
「マグマドラゴンの鱗」
「!」
「マグマドラゴンの皮」
「おお……」
「マグマドラゴンの魔石」
「……!」
「炎王鉱石」
「えっ」
ギルティが固まる。
さらに。
「黒曜石です」
「……」
ギルティは素材を見つめた。
「ラウラちゃん」
「はい?」
「これ、本当に使っていいの?」
「はい」
ラウラは頷いた。
「ギルティちゃんが鍛冶で使うなら、そのほうがお金になると思います」
「そこなのか……」
「大事ですよ?」
「まぁ、そうだけど」
ギルティは笑った。
「ありがとう」
「いえいえ」
ギルティはさっそく素材を確認し始める。
「鱗を使って耐熱性を上げて……」
「皮なら加工性もいい」
「魔石は炉に組み込めるかもしれない」
「炎王鉱石は金属部分に……」
「黒曜石は刃物系の補助材に……」
ギルティの頭の中では、すでに鍛冶の構想が出来上がっているらしい。
そのときだった。
「――ここにいたか!」
「?」
三人が振り返る。
鍛冶屋の入口。
そこにいたのは。
「カーム伯爵!」
「やあ!」
カーム伯爵だった。
「君たちを探していたんだ!」
「どうしたのですか?」
ラウラが尋ねる。
カーム伯爵は三人を見ると、嬉しそうに笑った。
「まずは言わせてくれ!」
そして。
「君たち、とんでもない偉業だったね!」
「……」
「マグマドラゴンだぞ!」
「はい……」
「しかも、あれほど巨大な個体を討伐した!」
「はい……」
「本当に素晴らしい!」
カーム伯爵は三人を大いに褒めた。
ラウラは照れながら頭を下げる。
「ありがとうございます」
「街の人々も喜んでいる」
「それならよかったです」
「うむ」
カーム伯爵は頷いた。
「それで、少し聞きたいのだが」
「はい?」
「採取した素材についてだ」
ラウラは背筋を伸ばした。
「どのくらい採れた?」
「結構あります」
「炎王鉱石も?」
「あります」
「マグマドラゴンの素材も?」
「あります」
カーム伯爵は少し考えた。
そして。
「実はな」
「はい」
「炎王鉱石と、マグマドラゴン結晶を譲ってもらいたい」
「!」
ラウラの目が輝く。
「おいくらまんえんですか?」
「そこを聞くのか……」
ギルティが苦笑した。
カーム伯爵も笑う。
「そうだな」
少し考えて。
「金貨500枚でどうだ?」
「…………」
ギルティの目が。
見開かれた。
「金貨……500枚……」
ラウラは。
「…………」
にやぁ。
口元が緩んだ。
「金貨500枚……」
「ちみ、顔が怖いのだ」
ダリアが呟く。
しかし。
次の瞬間。
「伯爵!」
「なんだい?」
ダリアが手を上げた。
「500だと分けられないではないか!」
「……」
「600枚ではどうだろうか!」
「ダリアさん!?」
ラウラが驚く。
ギルティも固まった。
「交渉した!?」
「大事なのだ!」
「それは理由になってるのか……?」
カーム伯爵は腕を組んだ。
「600か……」
少し考える。
そして。
「……いいだろう」
「!」
「600枚で手を打とう」
「やったのだ!」
「やったぁ……!」
ラウラの顔が輝く。
「ありがとうございます!」
「こちらこそだ」
カーム伯爵は笑った。
「後ほど、屋敷へ来てくれ」
「はい!」
「そのときに代金を渡そう」
「わかりました!」
カーム伯爵は三人に手を振り、その場を後にした。
「600枚なのだ……」
ダリアが呟く。
「600枚です……」
ラウラも呟く。
「……すごいな」
ギルティが呆れたように言う。
しかし。
その直後。
ダリアがギルティを見る。
「ところでギルティ」
「ん?」
「あちしからお願いがあるのだ!」
「何?」
「液体を飛ばす武器がほしいのだ!」
「…………」
ギルティが固まった。
「液体を?」
「そう!」
「飛ばす?」
「そうなのだ!」
「……そんな武器、見たことないなぁ」
ギルティが首を傾げる。
「どういうものなんだ?」
「えっと……」
ラウラが考える。
「それなら!」
ラウラは紙を取り出した。
そして。
さらさら。
絵を描き始めた。
「こんな感じです」
「…………」
ギルティが絵を見る。
そこには。
拳銃のような形をした武器。
けれど。
普通の拳銃とは違う。
丸みを帯びた本体。
持ち手。
小さな装飾。
そして。
花のような模様。
星のマーク。
女の子が持っても可愛いようなデザイン。
「こう……」
ラウラが線を足す。
「こうして……」
さらに装飾を追加。
「こういう感じで……」
完成。
「……」
ギルティは絵を見つめた。
「なるほど」
そして。
「面白い」
目を輝かせた。
「液体を入れる場所があって」
「はい」
「引き金を引くと」
「はい」
「中の液体を前へ飛ばす」
「そうです!」
「……」
ギルティは腕を組んだ。
「素材はどうしようか」
「何が必要なのだ?」
ギルティは考える。
「液体を扱うなら、普通の金属じゃ腐食する可能性がある」
「なるほど」
「それに、薬品の圧力にも耐えないといけない」
ギルティはラウラが描いた絵を見る。
「でも……」
少し考えて。
「これなら作れそうだ」
「本当ですか!?」
「うん」
ギルティは素材を思い浮かべながら指を折る。
「まず――」
「うん」
「溶岩鉄」
「あります!」
「次に、魔結晶」
「あります!」
「そして――」
ギルティが、マグマドラゴン素材を見る。
「マグマドラゴンの皮」
「あります!」
「マグマドラゴンの鱗」
「あります!」
さらに。
「石蟻珠」
「あります!」
「それから……」
ギルティは少し考えた。
「石蟻宝石」
「何色ですか?」
「うーん……」
ラウラの持っている石蟻宝石を思い浮かべる。
「紫と……オレンジがいい」
「紫とオレンジですね!」
「うん」
ギルティは頷いた。
「それなら、かなり面白いものが作れそうだ」
「お願いします!」
ラウラはすぐに素材を取り出した。
「溶岩鉄」
「ありがとう」
「魔結晶」
「うん」
「マグマドラゴンの皮」
「これも」
「マグマドラゴンの鱗」
「すごいな……」
「石蟻珠」
「よし」
「石蟻宝石の紫」
「綺麗だ」
「石蟻宝石のオレンジ」
「これもいい」
ギルティは一つずつ受け取った。
「これで作ってみる」
「よろしくお願いします!」
「任せて」
そして。
「じゃあ、しばらく別行動だな」
「はい」
「ちみ、あちしたちは何をするのだ?」
ダリアが聞く。
「素材を売ろうと思います」
「おお!」
ダリアの目が輝いた。
「金になるのだな!」
「はい」
三人は一度、鍛冶屋を出た。
そして。
「さて」
ラウラは魔法鞄の中を確認する。
マグマドラゴン。
火山。
ダンジョン。
これまで採ってきた素材。
かなりの量がある。
「ある程度、売りましょう」
「どれを売るのだ?」
「石蟻宝石とレア素材以外、ほとんどです」
「ほとんど!?」
ダリアが目を輝かせる。
「つまり大量に売るのだな!?」
「はい」
「金満腹なのだぁぁぁ!!」
ギルドへ向かう。
受付で素材を次々と並べる。
「これをお願いします」
「……」
受付嬢が固まった。
「え?」
「売却お願いします」
「……こんなに?」
「はい」
「全部ですか?」
「レア素材と石蟻宝石は残します」
「それ以外を……?」
「はい」
受付嬢は素材を確認していく。
鉱石。
魔石。
モンスター素材。
植物。
火山素材。
ダンジョン素材。
そして。
これまでの大量の採取品。
鑑定が終わる。
「……」
受付嬢が金額を確認する。
「合計――」
少し間を置いて。
「金貨3000枚です」
「…………」
「…………」
「…………」
ラウラ。
ダリア。
受付嬢。
そして周囲の冒険者。
全員が固まった。
「……3000?」
ラウラが聞き返す。
「はい」
「金貨……3000枚?」
「はい」
「…………」
ラウラの口元が。
ゆっくり上がった。
「……ふふ」
「ちみ」
ダリアが横から肩を叩く。
「顔が怖いのだ」
「だって……」
ラウラは笑う。
「金貨3000枚ですよ?」
「そうなのだ!」
ダリアも笑う。
「金満腹が金で満腹になるのだ!」
「三人で分けると……」
「1000枚ずつ!」
「……」
二人は顔を見合わせる。
「ふふ」
「ふふふ」
「「……金貨1000枚」」
二人とも。
ニヤニヤしていた。
「ギルティちゃんにも1000枚なのだ!」
「はい!」
そして。
三人は再び鍛冶屋へ戻る。
◇
「戻ったよ」
ギルティが作業をしている。
「どうでした?」
「順調」
ギルティは手を動かしながら答える。
「まだ少しかかるけど、形は見えてきた」
「楽しみです!」
ラウラは鍛冶場を見渡した。
マグマドラゴンの素材。
炎王鉱石。
大量の素材。
新しい武器。
新しい装備。
そして。
金貨。
「…………」
ラウラはふと考えた。
「ギルティちゃん」
「ん?」
「実はですね」
「うん?」
「ラウラ、ちょっと考えていることがあるんです」
「何を?」
ダリアも振り返る。
「ちみ、何か思いついたのか?」
「はい」
ラウラはニコッと笑った。
「とある計画があるんです」
「……」
ギルティが手を止めた。
ダリアも目を輝かせる。
「金になる計画か?」
「たぶん」
「聞くのだ!」
ラウラは鍛冶屋の奥を見ながら。
ゆっくり口を開いた。
「あのですね―」
鍛冶場に。
三人の視線が集まった。
そして。
ギルティは少し笑った。
「……聞かせて」
ラウラは。
さらに笑った。




