32話 なぜか特例で冒険者ランクBになりました。
ギルドへ戻ると――。
受付嬢が、慌てた様子で駆け寄ってきた。
「ラウラさん! ダリアさん!」
「はい?」
「大丈夫ですか!?」
「え?」
受付嬢は二人の身体を確認する。
「本当に……戻ってきて良かったです。タイガーキャットはまだ西の街道付近にいるはずですから、すぐに別の冒険者を派遣しますので!」
「待つのだ!」
ダリアが大声で叫んだ。
「え?」
「ちゃんと仕留めてきたのだ!」
「…………」
「…………」
ギルド内が静まり返った。
受付嬢が目をぱちぱちさせる。
「……え?」
周囲の冒険者たちも振り返った。
「嘘だろ?」
「本当に言ってるのか?」
「Aランクだぞ?」
「二人だけで?」
「いやいや、そんなわけ……」
ざわざわと声が広がっていく。
ダリアは胸を張った。
「ふっふっふ……」
そしてラウラを見る。
「おい、ちみ! みせてあげたまえ!」
「かしこまりました!」
ラウラは魔法の袋から――。
タイガーキャットの牙を一本取り出した。
ドンッ。
受付カウンターに置く。
「…………」
「…………」
「…………」
ギルド内の全員が固まった。
巨大な牙。
見間違えるはずがない。
「……タイガーキャットの牙」
誰かが呟いた。
「マジかよ……」
「本物だ……」
「本当に倒したのか……?」
そのとき。
奥からギルドマスターが出てきた。
「お前たち……」
ギルドマスターは牙を見る。
そして二人を見る。
「本当にやったんだな……」
「はい!」
ラウラは元気よく答えた。
「どうやって倒したんだ?」
ギルドマスターが尋ねる。
すると。
ダリアがニヤリと笑った。
「ふっふっふっ……聞きたまえ!」
「……」
「……」
ギルド内の視線が集まる。
ダリアは胸を張った。
「あちしが囮になり!」
「ほう」
「ラウラが拳で一撃なのだよ!」
「……拳?」
「そう!」
ダリアは勢いよく頷く。
「そして、ひるんだところを!」
「……」
「二人でボコボコにしてやったのだ!」
「…………」
ギルドマスターは、しばらく黙っていた。
「…………」
そして、少しだけ眉間に皺を寄せた。
「……なるほど」
明らかに何か考えている。
「…………」
「…………」
ラウラは何も言わなかった。
タイガーキャットを拳で一撃。
そんなものはもちろん嘘である。
しかし。
ラウラは何も言わない。
ダリアの横で、黙って立っていた。
やがてギルドマスターが口を開く。
「よし」
「?」
「お前たち、ギルドカードを貸せ」
「はい!」
ラウラとダリアは素直にカードを渡した。
ギルドマスターは二枚のカードを持って奥へ入っていく。
そして。
しばらくすると戻ってきた。
「ほらよ!」
「?」
「新しい、お前たちのギルドカードだ」
ラウラが受け取る。
カードを見る。
そこには――。
冒険者ランク:B
と書かれていた。
「…………」
「…………」
ラウラとダリアは固まった。
「タイガーキャットを殴って討伐できるやつは、そうそういないからな!」
ギルドマスターは豪快に笑う。
「特例だ! 喜べ!」
「……」
「……」
ラウラとダリアは顔を見合わせた。
そして。
「やったー」
「わーい」
二人とも。
ものすごく低いテンションで棒読みした。
「もっと喜べ!」
ギルドマスターが叫ぶ。
「はい……」
「わーい……」
「棒読みじゃねえか!」
ギルドマスターが頭を抱える。
そして。
「まあいい。報酬だが……」
その言葉に。
ラウラとダリアの目が変わった。
二人は顔を見合わせる。
「討伐報酬、金貨30枚」
「……!」
「……!」
二人の顔が一気に明るくなった。
「素材も売るか?」
「素材は売りません!」
ラウラは即答した。
「そうか! わかった!」
ギルドマスターは頷く。
「今回はいい仕事をしてくれた。ありがとう」
「はい!」
ラウラはぺこりと頭を下げる。
するとギルドマスターが、ふと思い出したように尋ねた。
「ところで、お前たちの職業は何なんだ?」
「職業?」
「タイガーキャットを殴って倒したんだ。剣聖か? それとも拳王か?」
「私は素材採取士です」
「……」
「…………」
「……は?」
ラウラは普通に答えた。
「素材採取士です」
そしてダリアも胸を張る。
「あちしは錬金術師なのだ!」
「はーーーーー!?」
ギルド内にいた全員が叫んだ。
「素材採取士!?」
「錬金術師!?」
「じゃあ、さっきの拳は!?」
「だから拳なんて使ってないです」
ラウラが小さく呟く。
「ん?」
ギルドマスターが聞き返す。
「なんでもないです」
ラウラは笑った。
そして。
ラウラとダリアはギルドを出た。
向かった先は――。
ギルティの工房だった。
「ギルティさん!」
「お、二人とも。どうしたんだい?」
ラウラは魔法の袋を開く。
「これを見てください」
ドサッ。
タイガーキャットの素材が並ぶ。
「…………」
ギルティが固まった。
「タイガーキャット……?」
「はい!」
「これ、どうしたんだい?」
「倒しました!」
「…………」
ギルティは頭を抱えた。
「本当に君たちは……」
そして素材を一つずつ確認していく。
「タイガーキャットの魔石」
「はい」
「筋繊維」
「はい」
「上毛皮……」
「はい」
「結晶まであるじゃないか……」
ギルティはタイガーキャット結晶を手に取る。
「これだけあれば、かなり色々作れそうだね」
「速くなる防具はどうですか?」
ラウラが聞く。
ギルティは少し考える。
「うーん……」
「…………」
「速さを上げる防具なら、たぶんフェアリーラット以上のものは今は無理だろうね」
「そうですか……」
ラウラが少し残念そうにする。
「できるとしたら――」
ギルティはタイガーキャットの筋繊維を見る。
「武器……か?」
その言葉に。
ダリアが勢いよく手を上げた。
「それだ!」
「?」
「投てき術に見合う武器を作ればよかろう!」
ダリアは興奮気味に話す。
「投げる威力の上がる、サポート的なやつがあれば――」
ニヤリ。
「鬼に金棒だろぉ!」
「なるほど!」
ラウラも納得する。
「投げる力を補助してくれる武器……」
「そう!」
ダリアが頷く。
「ラウラは石を投げるのが得意なのだ。だったら、それをもっと強くすればいい!」
「いいですね!」
ギルティは二人を見る。
そして。
「じゃあ、なんとかやってみるよ」
ニッと笑った。
ラウラは素材を取り出す。
「お願いします!」
ラウラは――。
タイガーキャットの魔石。
タイガーキャットの筋繊維。
そして。
ランドル鉱石。
それらをギルティへ渡した。
「これで作ってみる」
「よろしくお願いします!」
「任せな!」
二人は工房を後にした。
「次は何を食べるのだ?」
ダリアが聞く。
「お腹すきましたね」
「うむ!」
二人は近くのレストランへ入った。
料理を注文し。
しばらくして。
「いただきます!」
二人は食事を始めた。
ラウラが料理を食べていると――。
「失礼いたします」
一人の男性が店へ入ってきた。
服装からして、貴族の使用人らしい。
「ラウラ様、ダリア様」
「?」
「カーム伯爵様からの使いでございます」
「カーム伯爵?」
ラウラとダリアが顔を上げる。
使いの男性は丁寧に頭を下げた。
「タイガーキャットを討伐されたこと。そして、非常に珍しい素材を入手されていることをお聞きになりまして」
「……」
「カーム伯爵様が、お二人に依頼したいことがあるとのことです」
「依頼……」
「はい」
使いは続ける。
「またお時間のあるときに、屋敷へお越しいただけないでしょうか」
ダリアは料理を頬張りながら頷いた。
「むぐむぐ……」
「…………」
「これを食べたら向かわせてもらうのだ」
「ダリアちゃん」
ラウラが笑う。
「口いっぱいだから何言ってるか分からないよ」
「むぐ……」
ダリアは慌てて口を押さえた。
ラウラは使いの男性を見る。
「これを食べたら向かいますね」
「ありがとうございます」
使いは一礼する。
ラウラとダリアは食事を続ける。
タイガーキャットを倒した。
Bランクになった。
ギルティには新しい武器を頼んだ。
そして今度は――。
カーム伯爵からの依頼。
「……また忙しくなりそうですね」
ラウラが呟く。
しかし。
その顔には――。
ほんの少しだけ。
楽しそうな笑みが浮かんでいた。




