31話 凶暴な猫さんをやっつけてしまいました。
「「うわぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」」
ラウラとダリアは、全力で走っていた。
背後から迫ってくるのは――。
巨大な猫。
タイガーキャット。
Aランクの魔物である。
「速いですぅぅぅぅ!!」
ラウラの速度は現在、60。
以前なら、ほとんどの魔物を置き去りにできる速度だ。
しかし。
「グルルルルル……!!」
タイガーキャットは、それ以上に速かった。
ラウラが走る。
ダリアも走る。
タイガーキャットも走る。
「ちみ! もっと石なげるのだ!」
ダリアが叫ぶ。
「投げてますよー!」
ラウラは泣きながら叫び返した。
ラウラは走りながら、次々と石を投げている。
右へ。
左へ。
木の間へ。
地面へ。
タイガーキャットの進路を予測して、先回りするように投げる。
しかし――。
「避けたぁぁぁ!」
タイガーキャットは軽々とかわしていく。
「なら毒石だ!」
ラウラは毒石を取り出す。
投げる。
「当たってくださいぃぃぃ!」
ドンッ!
木に当たった。
別の毒石を投げる。
「今度こそ!」
スカッ。
「なんでですかぁぁぁ!」
タイガーキャットは毒石すら避ける。
そして。
仮に当たったとしても――。
「グルルルル……!」
効いていない。
「毒も効かないですぅぅぅ!」
「おかしいぞぉぉぉ!」
ダリアも叫ぶ。
走る。
走る。
走る。
しばらくして。
「はぁ……はぁ……」
「ぜぇ……ぜぇ……」
ラウラとダリアは、かなり疲れていた。
それでもタイガーキャットは元気いっぱいだった。
「これ……ジリ貧ですよ……」
「うむ……」
ラウラが振り返る。
「まだ追ってきています……」
「うむ……」
「どうしましょう……」
「うむ……」
「ダリアさん?」
「うむ……」
ダリアは無言で走っていた。
その顔には、少しずつ疲労が溜まっていく。
そして――。
「うわっ!」
ズサァッ!
ダリアが盛大に転んだ。
「ダリアさん!」
ラウラが叫ぶ。
しかしダリアはすぐに立ち上がった。
「だ、大丈夫なのだ……」
「本当に大丈夫ですか!?」
「大丈夫なのだ!」
ダリアは走り出す。
だが。
ラウラはダリアの顔を見た。
「…………」
そこにいたのは。
先ほどまで元気いっぱいだった錬金術師ではなかった。
目は虚ろ。
口は半開き。
髪は乱れ。
顔は真っ青。
まるで――。
ゾンビだった。
「ダリアさん……」
「…………」
「なんだか……ゾンビみたいです」
「…………」
ダリアは黙って走っていた。
そして。
「もう知らぬ!」
突然、叫んだ。
「あーあ!」
「えっ!?」
「もう怒った!」
ダリアは懐から一本の瓶を取り出した。
そしてラウラに渡す。
「ちみ!」
「はい!」
「これを持つのだ!」
「これは?」
ラウラが瓶を見る。
中には、少し黄色がかった液体が入っていた。
「痺れ草MAXで錬金した――」
ダリアがニヤリと笑う。
「痺れ薬である!」
「痺れ薬……」
「これをあいつになげるがいい!」
「わかりました!」
ラウラは瓶を握る。
走る。
走る。
タイガーキャットが迫る。
「グルァァァァァ!!」
「いきます!」
ラウラは振り返った。
タイガーキャットの顔が見える。
距離は――近い。
「えいっ!」
ブンッ!
瓶が飛ぶ。
「グル――」
バシャァァン!
瓶は。
タイガーキャットの顔面に直撃した。
「…………」
一瞬。
タイガーキャットが止まる。
そして。
「……?」
白目をむいた。
ドサァッ!
巨大な身体が、その場に倒れた。
「…………」
「…………」
ラウラとダリアは立ち止まった。
「…………」
「…………」
ラウラが恐る恐る近づく。
「……倒れました?」
ダリアも近づく。
「倒れたな」
「なにこれ……」
ラウラは呆然と呟いた。
するとダリアが両手を上げる。
「みたか凶暴猫めぇぇぇ!!」
「ダリアさん!?」
ダリアはその場でぴょんぴょん飛び跳ねる。
「どうだ!」
「すごいです!」
「ふはははは!」
そして。
ダリアはタイガーキャットの口元へ近づいた。
「さて……」
「?」
ダリアはそっと瓶を取り出す。
そして。
「これも飲んでおくのだ」
タイガーキャットの口へ、別の液体を流し込む。
「何を飲ませたんですか?」
「毒だ」
「毒!?」
「うむ」
ダリアは満足そうに頷いた。
「終わった」
「…………」
「これで確実なのだよ」
ラウラは倒れているタイガーキャットを見る。
巨大な身体は、ぴくりとも動かない。
「すごい……」
「ふふふ」
ダリアは胸を張る。
「この麻痺MAXと毒MAXはな」
「はい」
「かーーーなり高価なのだよ!」
「……高価」
ラウラの目が変わった。
「いくらですか?」
「そこを気にするのかい!?」
「だってお金ですよ?」
「金貨7枚相当なのだ!だから使いたくなかったのだよ!」
ダリアは頭を抱える。
「かーーーなり高価だから使いたくなかったのだよ! うんうん!」
「でも倒せました」
「それはそう!」
「じゃあ、素材を取りましょう」
「切り替えが早いのだよ……」
ラウラはタイガーキャットの前にしゃがみ込む。
そして。
《素材採取》
発動。
「…………」
「…………」
ラウラの顔が固まった。
「ダリアさん」
「なんだい?」
「これ……」
「うむ」
「素材、多すぎませんか?」
タイガーキャットの身体から。
次々と素材が現れる。
極上品質タイガーキャットの牙。
極上品質タイガーキャットの爪。
極上品質タイガーキャットの肉。
極上品質タイガーキャットの眼球。
極上品質タイガーキャットの皮。
極上品質タイガーキャットの魔石。
さらに――。
「これは……」
ラウラの手に、普通とは違う輝きを持つ結晶が現れた。
「激レア素材……」
《素材感知》が反応する。
「タイガーキャット結晶」
「ほう!」
さらに。
「タイガーキャットの筋繊維」
「おお!」
そして。
「タイガーキャットの上毛皮」
「おおおおお!」
ダリアの目が輝く。
「それ、全部売れるのか?」
「たぶん……」
ラウラは素材を眺める。
「かなり高く売れると思います」
「金になるぞ!」
「金になりますね……!」
二人の目が輝いた。
さっきまで死にそうな顔で走っていた二人とは思えない。
「じゃあ、全部持って帰りましょう!」
「もちろんである!」
ラウラは黙々と素材を回収していく。
牙。
爪。
皮。
毛。
筋繊維。
結晶。
魔石。
肉。
眼球。
その他にも、用途のありそうな素材が次々と取れていく。
「…………」
「…………」
二人とも無言になった。
あまりにも多い。
そして。
ようやく。
「終わりました」
ラウラが立ち上がる。
「よし」
ダリアも頷く。
「では――」
「帰りましょう」
「うむ!」
二人は大量の素材を抱え――。
いや。
正確には魔法の袋へ詰め込み――。
「ギルドへ!」
「金満腹へ!」
二人は意気揚々と歩き出した。
Aランク魔物、タイガーキャット。
その巨大な身体だけを残して。
ラウラとダリアは――。
素材を取るだけ取って、ギルドへ戻るのであった。




