25話 なにもない洞窟で謎の物体を拾いました
洞窟の奥へ。
ラウラとダリアは、ゆっくりと進んでいた。
「…………」
「…………」
しばらく歩く。
何もない。
さらに歩く。
「…………」
何もない。
「……素材、ないですね」
ラウラが呟く。
「ないな」
ダリアも答える。
さらに進む。
「…………」
「…………」
何もない。
「本当に何もないな……」
ダリアの声が少し弱くなる。
「ダリアさん?」
「…………」
ダリアの顔を見る。
「……顔、青くないですか?」
「うむ」
ダリアは真顔で答えた。
「あちし、ちょっと息苦しい」
「え?」
「酸素が薄いのではないか?」
「ええっ!?」
ラウラも慌てて周囲を見る。
「だ、大丈夫ですか?」
「大丈夫だ」
ダリアは壁に手をつきながら歩く。
「たぶん」
「たぶん……」
「たぶん大丈夫だ」
「絶対大丈夫じゃないですよ!」
ラウラが心配そうに言う。
「戻りますか?」
「いや」
ダリアは首を振る。
「素材があるかもしれん」
「……」
「ここまで来たのだ」
「……」
「何かあるかもしれん」
ラウラは少し考える。
確かに。
ここまで来て何も見つからないのは悲しい。
「じゃあ……もう少しだけ」
「うむ!」
二人はさらに奥へ進んだ。
そして――
「……あ」
ラウラが立ち止まる。
目の前には壁。
「行き止まりですね」
「…………」
ダリアが壁を見る。
「完全な行き止まりだな」
「はい」
左右を見ても道はない。
上にもない。
「何もない……」
ラウラは少し残念そうに呟いた。
せっかくここまで来たのに。
宝箱もない。
珍しい素材もない。
金になるものもない。
「……帰りますか?」
「そうだな」
ダリアも頷く。
「ここには何も――」
「…………」
ラウラがふと、壁を見る。
「待ってください」
「ん?」
「一応……」
ラウラは小型ナイフを取り出した。
「《素材採取》」
スキルを発動する。
すると――
「…………え?」
ラウラの目が見開かれた。
行き止まりの壁。
その一部分だけが――
ぼんやりと光っている。
「ダリアさん」
「なんだ?」
「あそこです」
「……?」
ダリアが見る。
「壁が光っているな」
「はい」
「何かあるのか?」
「分かりません」
ラウラは光っている場所へ近づく。
「掘ってみます」
「おう!」
小型ハンマーを取り出す。
そして――
カンッ!
カンッ!
カンッ!
壁を叩く。
「硬い……」
カンッ!
カンッ!
少しずつ壁が崩れていく。
すると――
「…………」
何かが見えた。
赤い。
「なんでしょう?」
さらに掘る。
カンッ!
カンッ!
そして――
ゴトッ。
「え?」
何かが落ちてきた。
「危ない!」
ダリアが叫ぶ。
ラウラは慌てて両手で受け止める。
「うっ……!」
ずしん。
「お、重い……!」
両手で抱える。
それは――
赤い物体だった。
大きさは、ラウラの顔くらい。
真っ赤な色。
表面は硬く、石のようにも見える。
しかし、石とは少し違う。
「……なんでしょう、これ」
ラウラは《素材感知》を使う。
「…………」
何も分からない。
もう一度。
「《素材感知》」
…………。
反応はある。
けれど。
「分かりません……」
「ほう?」
ダリアが近づいてくる。
「ちみでも分からんのか?」
「はい」
ラウラは赤い物体をじっと見る。
こんなものは初めてだ。
「素材なのかも……分かりません」
「なるほど」
ダリアは赤い物体を眺める。
そして――
ニヤリ。
「あちしは思うのだよ」
「はい?」
「わけわかんないものは――」
ダリアが指を立てる。
「わかるまで、とっておくのが一番なのだ!」
「…………」
ラウラは赤い物体を見る。
確かに。
分からない。
でも。
分からないからこそ、気になる。
「……分かりました」
ラウラは頷いた。
「持って帰ります」
「うむ!」
ラウラは赤い物体を魔法の鞄へ入れた。
「価値があるかもしれんぞ!」
「だといいですね」
ラウラは少しだけ期待する。
しかし。
洞窟の中を見回す。
「でも……」
「うむ」
「お宝、なかったですね」
「なかったな」
二人は少し残念そうに顔を見合わせた。
「せっかくの洞窟だったのに」
「何もない洞窟だったな」
「最後に変なの一個だけでした」
「変なの一個だけだな」
「……帰りましょうか」
「うむ」
二人は洞窟を出る。
外へ出ると――
「…………」
ラウラは大きく息を吸った。
「空気がおいしい……」
「生き返るな!」
ダリアも深呼吸する。
「やはり外が一番だ!」
二人はそのままブングルの街へ戻った。
そして――
冒険者ギルドへ。
「ただいま戻りました」
「おかえりなさい、ラウラさん、ダリアさん」
受付嬢が笑顔で迎える。
「薬草採取の依頼ですね」
「はい!」
ラウラは採取した素材を提出する。
薬草。
毒草。
麻痺草。
そして――
少量の光草。
「光草まで……」
受付嬢が驚く。
「はい。たくさん採れました!」
「これは高く買い取れそうですね」
ラウラは嬉しそうに頷く。
「よろしくお願いします!」
金貨3枚
依頼を終えた二人は、ギルドを出る。
「今日は疲れたな」
「はい……」
「宿を取るか」
「そうしましょう」
二人はブングルの宿を借りることにした。
部屋に入ると――
ラウラはベッドを見る。
「…………」
「どうした?」
「眠いです」
「そうだな」
「もう動けません……」
ラウラはベッドへ倒れ込む。
「おやすみなさい……」
「うむ。おやすみ」
ラウラは、そのまま眠りについた。
すぐに――
「すぅ……」
静かな寝息が聞こえる。
ダリアはベッドで眠るラウラを確認する。
「…………」
そして。
机の上に素材を並べ始めた。
「さて……」
まずは薬草。
そして、これまで集めてきた素材。
ダリアは手をかざす。
「《薬物生成》」
淡い光が広がる。
素材が次々と変化していく。
「万能ポーション……」
一本。
また一本。
さらに一本。
瓶の中に、透き通った液体が満たされていく。
そして――
「次は……」
光草を取り出す。
「聖水だな」
ダリアが笑う。
「金貨十枚……」
ニヤリ。
「これはたくさん作らねば!」
さらに素材を取り出す。
毒草。
麻痺草。
そして、様々な薬草。
「これも……」
「これも使える」
「まだまだ作れるぞ!」
静かな宿の一室。
ラウラが眠っている横で――
ダリアは一人。
せっせと薬を作り続けていた。
「金満腹……」
ダリアは完成した聖水を眺める。
「本当に金で満腹になる日も近いかもしれんな!」
そして――
ラウラは何も知らずに、
「すぅ……」
気持ちよさそうに眠っていた。




