24話 牛から逃げたら馬よりはやくなりました。
光草は金貨10枚。そして洞窟の奥には何かあります
ブングルの街を出て、少し歩いたところ。
ラウラとダリアは、採取場所にやって来ていた。
「さて……」
ラウラは採取道具を確認する。
小型ハンマー。
小型つるはし。
小型ナイフ。
シャベル。
準備は万全だ。
「今日は薬草集めですね!」
「うむ!」
ダリアもやる気満々だ。
「ダンジョンへ行く前に、しっかり稼がねばな!」
「はい!」
二人は採取を始める。
まずは――
「《素材感知》」
ラウラがスキルを発動する。
周囲にある素材の反応が、ラウラの感覚に入ってくる。
「…………」
薬草。
毒草。
麻痺草。
そして――
「……ん?」
ラウラは首を傾げた。
見たことのない反応がある。
「なんでしょう……これ」
「どうした?」
ダリアが振り向く。
「あっちに、知らない素材があります」
「ほう!」
二人で反応を追っていく。
そして――
草むらの中に、淡く光る植物を見つけた。
「…………」
ラウラはしゃがみ込む。
葉も茎も、ほんのりと白く輝いている。
まるで月明かりを閉じ込めたような草だった。
「これは……?」
ラウラがダリアを見る。
「ダリアさん、これ何ですか?」
ダリアは草を見た瞬間――
「ああ!」
声を上げた。
「光草か!」
「光草?」
「また珍しいものを見つけたな、ちみ!」
「そんなに珍しいんですか?」
「うむ!」
ダリアは嬉しそうに頷く。
「聖水や聖灰に使われる素材である!」
「聖水……」
ラウラの目が輝く。
「何に使うんですか?」
「魔物への対策や、浄化などに使われるな」
ダリアは少し得意げに続ける。
「ちなみにだが――」
「はい?」
「ちみがポーションだの毒薬だのを、たんまり作らせるからな」
「……はい」
「薬物生成がレベル3になったのだよ!」
「えっ!?」
ラウラが驚く。
「レベル3……!」
「そう!」
ダリアは胸を張る。
「そのおかげで、聖水も作れるようになっているのだよ!」
「聖水……」
なんだかすごそうだ。
ラウラがそう思っていると――
ダリアがニヤリと笑った。
「いいかい? ちみ!」
「はい?」
「聖水は――」
一拍。
「一つ、金貨十枚だぞ?」
「…………」
ラウラの動きが止まる。
金貨十枚。
一枚でもかなりのお金なのに。
十枚。
「……え?」
「どうかね!」
ダリアが両手を広げる。
「金満腹は、ほんとに金で満腹になると思わんかね!」
「…………」
ラウラの口元が緩む。
「…………ふふ」
「へへへ……」
二人は顔を見合わせる。
そして――
「拾いましょう!」
「拾うぞぉ!」
二人は光草を採り始めた。
もちろん、薬草も。
毒草も。
麻痺草も。
「光草は特にたくさん!」
「うむ!」
「毒草もたくさん!」
「金になるなら全部だ!」
「はい!」
二人はせっせと素材を集めていく。
ラウラの魔法の鞄へ。
どんどん入っていく。
「こんなに採れるなんて……」
ラウラは嬉しそうに呟く。
「聖水をたくさん作ったら……」
金貨。
金貨。
金貨。
頭の中が金貨でいっぱいになる。
「ふふ……」
「へへへ……」
二人の顔は、またしても同じだった。
その時――
「…………ん?」
ダリアが顔を上げた。
遠くから。
何か聞こえる。
「ドドドドドドドド……」
「……?」
ラウラも顔を上げる。
「何でしょう?」
「分からん」
「ドドドドドドドド……」
音がどんどん大きくなる。
地面が微かに揺れている。
「…………」
二人は同時に左右を見る。
キョロキョロ。
キョロキョロ。
「何もいませんね……」
「上か?」
「え?」
二人が顔を上げる。
何もいない。
「じゃあ、後ろ?」
振り返る。
――いた。
「…………」
「…………」
大量の牛。
いや。
普通の牛ではない。
巨大な身体。
太い脚。
鋭い角。
赤黒い目。
その集団が――
こちらへ向かって走ってきていた。
「……あれは?」
ラウラが震える声で聞く。
ダリアが目を細める。
「ワイルドブルだ」
「ワイルド……ブル……」
「牛の魔物だな」
「…………」
「しかも――」
ダリアが言う。
「集団だ」
「…………」
ラウラは立ち上がった。
そして――
「ギャーーーーー!!」
「ギャーーーーー!!」
二人は同時に走り出した。
「ラウラ! 速いぞ!」
「ダリアさんも速いです!」
「当たり前だ!」
「ワイルドブルが来ます!」
「だから走っているのだよ!」
ドドドドドドドド!
後ろから迫ってくる足音。
「来てる!」
「来てるぞ!」
「もっと速く!」
「これ以上どうやって速くするのだ!」
「分かりません!」
二人は必死に走る。
走って。
走って。
さらに走る。
「はぁ……はぁ……」
「ラウラ!」
「はい!」
「まだ追ってきているぞ!」
「いやぁぁぁぁぁ!」
さらに走る。
木々の間を抜ける。
坂を下る。
岩を避ける。
草むらを突っ切る。
そして――
「洞窟!」
ラウラが叫んだ。
少し先に、ぽっかりと開いた穴がある。
「入るぞ!」
「はい!」
二人は洞窟へ飛び込んだ。
そのまま奥へ。
奥へ。
奥へ。
「はぁ……はぁ……」
「もう……来てないか?」
ダリアが入口を見る。
ワイルドブルの姿はない。
足音も聞こえない。
「……逃げ切った?」
「たぶんな」
ラウラはその場に座り込んだ。
「助かった……」
「危なかったな!」
「はい……」
二人はしばらく、その場で息を整える。
やがてラウラは周囲を見回した。
「ここ……」
洞窟の中は、かなり広い。
壁には苔が生えている。
足跡もない。
人が使った形跡もほとんどない。
「誰も来てないんでしょうか?」
「そう見えるな」
「手つかず……」
ラウラが呟く。
その時――
「…………ん?」
突然。
身体の中に、不思議な感覚が走った。
「……?」
ラウラは目を見開く。
ステータス画面が浮かぶ。
「ステータスが……」
ラウラは確認する。
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ラウラ
職業:素材採取士
体力:60+17
スタミナ:60+15
魔力:2
力:4
防御:6
速さ:20+20
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「…………」
速さ。
20から――
40。
「に、二倍……?」
ラウラが呟く。
隣ではダリアもステータスを確認していた。
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ダリア
職業:錬金術師
体力:33+17
スタミナ:50+18
魔力:22
力:2
防御:18
速さ:19+19
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「…………」
ダリアが固まる。
そして――
「ちみ! 見てみよ!」
「はい?」
ダリアが嬉しそうにステータスを見せる。
「速さが、あちしは38!」
「38……」
「馬より速くなってしまったのだよ!」
「ええっ!?」
ラウラは驚いた。
「馬より……?」
「うむ!」
ダリアは満面の笑みだ。
「これなら、逃げるのも楽になるぞ!」
「…………」
ラウラは思った。
確かに。
これなら、もっと安全に採取できるかもしれない。
……たぶん。
「それにしても……」
ラウラが自分の速さを見る。
「ラウラは40です」
「…………」
「…………」
二人は顔を見合わせる。
「ちみ、馬より速いどころではないな」
「そうなんですか?」
「そうだよ!」
ラウラは少しだけ嬉しくなる。
「これなら、魔物から逃げるのも――」
その時だった。
「……あれ?」
ラウラが突然、洞窟の奥を見る。
《素材感知》が反応している。
「どうした?」
ダリアが尋ねる。
ラウラはゆっくり立ち上がる。
「……奥に、何かあります」
「何か?」
「はい」
洞窟の奥。
真っ暗で、先が見えない。
けれど。
確かに感じる。
何かの素材。
しかも――
今まで感じたことのないほど強い反応。
「……行ってみるか?」
ダリアが聞く。
ラウラは少し考えた。
「…………」
怖い。
とても怖い。
でも。
素材がある。
そして――
もしかしたら。
「……お金になるかもしれません」
ラウラの目が、少しだけ輝いた。
「行きましょう!」
「よし!」
二人は洞窟の奥へ向かって歩き始めた。
誰にも知られていない。
手つかずの洞窟。
その奥には――
いったい何が眠っているのだろうか。
二人はまだ知らなかった。




