23話 ダンジョンに行く準備をはじめました。
「そういえば……」
女性は、ふと思い出したように顔を上げた。
「まだ自己紹介してなかったね」
そう言って、にっこり笑う。
「私はギルティ」
「ギルティさん……」
「ガルグの娘だよ」
「…………」
「…………」
ラウラとダリアは、ゆっくりと顔を見合わせた。
そして二人の頭の中に――
ガルグの顔が浮かぶ。
「…………」
「…………」
二人はもう一度、ギルティを見る。
大きな瞳。
筋の通った鼻。
そして、小さくもふくよかな唇。
「……似てます?」
ラウラがおそるおそる聞いた。
「全然だな」
ダリアが即答する。
「ですよね」
「おいおい、本人を前にしてひどいねぇ」
ギルティは笑った。
「私は人間とドワーフの混合だからね」
「ああ!」
ラウラは納得した。
「じゃあ、お母様に似たんですね!」
「そういうこと」
ギルティは楽しそうに笑う。
「父さんとは、あんまり似てないだろ?」
「はい!」
ラウラは素直に頷いた。
「おいおい、そこは少しくらい濁してくれよ」
ギルティが苦笑する。
ダリアは腕を組みながら、
「確かに、ガルグの面影が一つもないな」
「ダリアさんまで……」
ラウラが小声でツッコむ。
ギルティは笑いながら、
「それで、用件はそれだけかい?」
と尋ねた。
「いえ!」
ラウラはすぐに答えた。
「まだあります!」
「まだある?」
ラウラは魔法の鞄を開く。
そして――
「これをお願いします!」
ドサドサドサッ!
「…………」
「…………」
店の床に積み上げられたもの。
大量の――
ストーンアントのうんこ。
山盛りだった。
ギルティは固まった。
「…………」
「…………」
「…………」
「どうしました?」
ラウラが首を傾げる。
「いや……」
ギルティは山を見る。
そしてラウラを見る。
もう一度、山を見る。
「……これ、全部?」
「はい!」
「全部……ストーンアントの……?」
「はい!」
「…………」
ギルティは言葉を失った。
なぜそんなに驚いているのか、ラウラには分からない。
ダリアが横から口を挟む。
「ちみはたくさん拾うから分からんだろうがね」
「?」
「本当はなかなか見つからないものなんだよ」
「へぇー」
ラウラは素直に相槌を打った。
「そうなんですか」
「そうなんだよ」
ダリアはため息をつく。
「ちみは《素材感知》で見つけるからな」
「便利ですよね」
「便利すぎるんだよ」
ギルティはようやく我に返る。
「それで……これ、全部磨くのかい?」
「はい!」
ラウラは即答した。
「全部、お願いします!」
「全部……」
ギルティは山盛りのストーンアントのうんこを見る。
「……分かったよ」
「ありがとうございます!」
「父さんの弟子みたいな子から、こんな仕事が来るとはねぇ」
ギルティは苦笑しながら、素材を店の奥へ運び始めた。
「仕上がったら、また取りに来ておくれ」
「はい!」
ラウラは満足そうに頷いた。
これでまたお金が増える。
そう考えると、自然と頬が緩んでしまう。
「さて……」
ダリアが言った。
「次は伯爵様の屋敷だな」
「はい!」
二人は鍛冶屋を出る。
そして――
カーム伯爵の屋敷へ向かった。
しばらく街を歩く。
やがて見えてきたのは――
大きな屋敷だった。
立派な門。
その前には二人の門番が立っている。
ラウラは少し緊張しながら近づく。
「あのー……」
門番がこちらを見る。
「伯爵様に会いに来たんですが……」
すると門番は、ラウラとダリアを見て尋ねた。
「ラウラ様とダリア様ですか?」
「……!」
ダリアの目が輝いた。
「私もついに……」
拳を握る。
「『様』がついたではないか!」
「そこですか!?」
ラウラが思わずツッコむ。
門番は少し困った顔をしている。
ラウラは慌てて、
「は、はい。ラウラです」
と答えた。
そして、カーム伯爵から渡された手紙を差し出す。
門番は手紙を確認すると、すぐに頭を下げた。
「失礼いたしました。どうぞ、お入りください」
「ありがとうございます」
大きな門が開く。
二人が屋敷へ入ると――
「お待ちしておりました」
そこにはメイドが立っていた。
「ラウラ様、ダリア様ですね」
「はい!」
「カーム様がお待ちです。こちらへどうぞ」
二人はメイドについていく。
屋敷の中は広く、廊下には美しい絵画や装飾品が並んでいる。
ラウラはキョロキョロしながら歩く。
「すごい……」
「おお……」
ダリアも感心している。
しばらく歩くと、執事が現れた。
「こちらです」
案内された部屋の扉が開く。
そこには――
カーム伯爵。
そして、もう一人の少女がいた。
「やあ、来てくれたね」
「お久しぶりです!」
ラウラが頭を下げる。
「待っていたよ」
カーム伯爵は笑う。
そして隣の少女を紹介した。
「こちらは娘のセリアだ」
「セリアです」
少女は丁寧に頭を下げる。
「ラウラです。よろしくお願いします」
「ダリアだ!」
「よろしくお願いします、ダリア様」
「……様!」
ダリアがまた嬉しそうに反応する。
「ダリアさん……」
ラウラは苦笑する。
「ははは!」
カーム伯爵も楽しそうに笑った。
「まずは座ってくれ」
二人は席につく。
セリアも笑顔で二人を見ている。
「改めて、ペンダントを見つけてくれてありがとう」
カーム伯爵が頭を下げる。
セリアも続く。
「本当にありがとうございました」
「いえいえ、そんな……」
ラウラは慌てて手を振る。
「拾っただけですから」
「それでも、だよ」
カーム伯爵は優しく笑った。
そして――
「今日はゆっくりしていってくれ」
その日の夜。
二人はカーム伯爵たちと一緒に晩ごはんを食べた。
豪華な料理。
大きな肉。
新鮮な野菜。
見たことのない料理。
「…………」
ラウラは静かに感動していた。
「おいしい……」
「うむ!」
ダリアも満足そうに食べている。
ラウラは料理を味わいながら思った。
ブングル。
大きな街。
珍しい素材。
そして――
「ダンジョン……」
明日は、いよいよその話を聞きに行く。
その日は屋敷でゆっくり過ごし、二人は眠りについた。
そして翌日。
二人は冒険者ギルドへ向かった。
「ダンジョンに行きたいです!」
ラウラが受付で伝える。
受付嬢は頷いた。
「それでしたら、まずダンジョンの種類について説明しますね」
「お願いします!」
「ブングル周辺のダンジョンは、大きく分けて三つの段階があります」
受付嬢は説明を始めた。
「初級」
「中級」
「上級」
「ほう……」
ダリアが興味深そうに聞く。
「ラウラさんとダリアさんは、今回が初めてですよね?」
「はい」
「でしたら、まずは初級ダンジョンからになります」
「なるほど」
さらに受付嬢が続ける。
「初級ダンジョンの中にも、DランクからAランクまであります」
「DからA……」
「はい。最初はDランクから挑戦していただきます」
「そして?」
ダリアが聞く。
「初級ランクを何度か踏破できれば、中級ダンジョンへ進めます」
「なるほどな!」
ダリアは頷く。
ラウラも説明を聞きながら考える。
初級。
Dランク。
まずはここから。
そして――
「では、準備をしないとですね!」
「準備?」
ダリアが首を傾げる。
ラウラは笑顔で答えた。
「依頼をこなして、お金と素材を集めます!」
「……なるほど」
ダリアもニヤリと笑う。
「それなら、いつものやつだな!」
「はい!」
二人は受付で依頼を受ける。
今回選んだのは――
薬草集め。
そして――
石拾い。
「ダンジョンに行く前に、しっかり準備しないと!」
ラウラは採取道具を確認する。
「薬草も石も、お金になりますからね!」
「うむ!」
二人はギルドを出た。
向かう先は、いつもの採取場所。
ダンジョン攻略の前に――
まずは地道な素材採取。
「さぁ、行きましょう!」
「金儲けだ!」
二人は意気揚々と歩き出した。
ブングルでの新しい生活。
そして――
初めてのダンジョン。
その準備が、始まった。




