21話 金のためにダンジョンにも行きます。
「君が……」
そう言ったおじさんは、突然ラウラの前まで歩いてくると――
「君が見つけてくれたのか!」
「えっ?」
がしっ!
「ひゃっ!?」
ラウラの両手を、力強く握った。
「ちょ、ちょっと……!」
突然の握手に、ラウラは目を丸くする。
隣ではダリアも、
「お、おお……?」
と、珍しく戸惑った顔をしていた。
「いやぁ、本当にありがとう!」
「え、えっと……はい……?」
ラウラには何が何だか分からない。
すると、握手をしていたおじさんが、はっとしたように手を離した。
「申し遅れた。私はカームと言う」
「……カーム?」
名前を聞いても、ラウラにはピンとこない。
するとギルドマスターが口を開いた。
「こちらはカーム伯爵だ」
「…………」
「…………」
ラウラとダリアは固まった。
「え?」
「伯爵?」
二人の声が重なる。
目の前のおじさん。
どう見ても、普通のおじさんにしか見えない。
「伯爵って……あの伯爵ですか?」
ラウラがおそるおそる聞くと、
「ははは。そうだよ」
カーム伯爵は笑った。
「いやいやいや……」
ラウラは思わず一歩下がる。
貴族。
しかも伯爵。
そんな人が、なぜギルドマスターの部屋にいるのだろう。
そして、なぜラウラの拾ったペンダントを見て、こんなに喜んでいるのだろう。
するとカーム伯爵は、先ほどのペンダントを大切そうに手に取った。
「これは私の母親が、娘に送ったペンダントでね」
「……お母様が?」
「ああ」
カーム伯爵は、少しだけ懐かしそうな顔をした。
「昔、母が私の娘に贈ったものなんだ。ところが、ある時失くしてしまってね。それからずっと探していたんだ」
そう言って、ペンダントを見つめる。
「まさか、こんなところで見つかるとは思わなかった」
そして、ラウラとダリアを見る。
「君たちには感謝してもしきれない」
「い、いえ……拾っただけなので……」
ラウラは小さく頭を下げた。
するとカーム伯爵は笑顔になった。
「どうだろう?」
「?」
「一度、我が街の屋敷へ来てみないか?」
「え?」
「ぜひ、君たちをもてなしたい」
ラウラとダリアは顔を見合わせる。
「どうする?」
「どうするも何も……」
二人が悩んでいると――
「カーム伯爵の街は、この国でも5本の指に入る大きな街だ」
ギルドマスターが説明を始めた。
「ほう……」
ダリアが興味深そうに聞く。
「それに、あの街にはダンジョンもたくさんある」
「ダンジョン?」
ダリアが反応した。
その瞬間だった。
ラウラの目も、少しだけ輝いた。
「ダンジョンって……何があるんですか?」
ラウラがダリアに尋ねる。
するとダリアは、待ってましたと言わんばかりに口角を上げた。
「ダンジョンといえば――」
ぐっ、と拳を握る。
「ダンジョンにしかない素材の数々!」
「……!」
「そして、それはどれも値が高いのだよ!」
「…………」
ラウラの頭の中に、ある言葉が浮かんだ。
お金になる……。
お金になる。
お金になる……。
「…………」
ラウラの口元が、ゆっくりと緩んでいく。
「ラウラ?」
ダリアが呼びかける。
「行きます!」
「え?」
「ぜひ行きます!」
即答だった。
さっきまで悩んでいたのが嘘のようである。
カーム伯爵も思わず笑った。
「ははは! そうかそうか!」
「ダンジョン……」
ラウラは目を輝かせる。
「ダンジョン限定素材……」
頭の中では、すでに大量の金貨が踊っている。
「これは……行くしかないです!」
「現金な娘だなぁ……」
ギルドマスターが苦笑する。
するとカーム伯爵は、
「では、馬車を用意しよう」
と笑った。
「いつでも良い。君たちの都合の良い時に来てくれ」
そう言うと、机の上にあった紙を一枚取り、さらさらと何かを書き始めた。
そして完成した手紙をラウラへ渡す。
「これを我が屋敷の門番に渡せば、すぐに入れるだろう」
「ありがとうございます!」
ラウラは両手で大切そうに受け取った。
「こちらこそ、本当にありがとう」
カーム伯爵はそう言って、もう一度二人に頭を下げた。
「それでは、また会おう」
そう言い残し、カーム伯爵はギルドを後にした。
扉が閉まる。
「…………」
「…………」
しばらく二人は無言だった。
そして――
「ラウラ」
「はい」
「ダンジョンだぞ」
「はい」
「ダンジョン限定素材だぞ」
「はい」
二人は顔を見合わせる。
「金になる」
「金になります」
がっしりと握手した。
「行くしかない!」
「ですね!」
こうして二人は、カーム伯爵の街へ向かうことになった。
――その前に。
ラウラとダリアは、ギルドを出るとガルグの鍛冶屋へ向かった。
「おう! どうしたラウラ!」
「ガルグさん!」
ラウラはカーム伯爵からもらった手紙を見せながら、事情を説明した。
伯爵に招待されたこと。
大きな街へ行くこと。
そして――
「ダンジョンに行ってきます!」
その言葉を聞いたガルグは、目を丸くした。
「カーム伯爵の街へ行くのか!?」
「はい!」
「しかも、直々に招待されたってのか!?」
「はい!」
ガルグは豪快に笑った。
「すごいなお前たち!」
「えへへ……」
「ブングルの街は良いぞ!」
「ブングル?」
「カーム伯爵の街の名前だ」
ガルグは懐かしそうに遠くを見る。
「あぁ……おれもまた行きてぇなぁ……」
「そんなに良い街なんですか?」
「そりゃあ良いさ!」
ガルグは腕を組む。
「鍛冶屋も多い。珍しい鉱石も集まる。何より――」
そこで少しだけ目を細めた。
「ダンジョンが多い」
「……!」
ラウラの耳がピクリと動く。
「……素材」
「おう」
「高く売れる素材」
「おう」
「たくさん?」
「おう!」
ラウラの顔が、またニヤけた。
「行きます」
「おう。行ってこい!」
するとガルグは、突然何かを思い出したように立ち上がった。
「となれば、準備がいるな!」
「準備?」
「そうだ!」
ガルグは店の奥へ行く。
そして――
「ほら、これを持っていけ」
「……?」
渡されたのは、古びた一本のハンマーだった。
いや。
正確には――
壊れたハンマーだった。
柄は傷だらけ。
金属部分も欠けている。
「これ……壊れてますよね?」
「おう!」
即答だった。
「壊れてる」
「…………」
「だが、これをブングルの街の入口にある鍛冶屋に渡せ」
「鍛冶屋に?」
「ああ」
ガルグはニヤリと笑った。
「これがあれば、すぐに分かるからな!」
「……何がですか?」
「まぁ、行けば分かる!」
「えぇ……」
ラウラはよく分からないまま、壊れたハンマーを魔法の鞄へしまった。
「それじゃあ、行ってきます!」
「おう! 気をつけてな!」
「はい!」
こうして二人は旅の準備を始めた。
食料を買い――
「これもいるよね」
「いる!」
保存食を買い――
「これも!」
「いる!」
さらに食料を買い――
「……ラウラ」
「はい?」
「ちょっと買いすぎではないかね?」
「旅ですから」
「……そうか」
二人の魔法の鞄には、食料がどんどん詰め込まれていった。
そして準備を終える。
ラウラは装備を確認する。
採取道具よし。
石よし。
毒石よし。
魔法の鞄よし。
魔法のリュックよし。
お金よし。
そして――
「ダンジョン限定素材……」
ラウラの口元が緩む。
「いっぱい採れたらいいなぁ……」
ダリアも隣で笑っている。
「ふふふ。金儲けの匂いがするな!」
「ですね!」
二人は町の外へ出た。
目指すは――
カーム伯爵の治める大都市。
ブングルの街。
そこには数多くのダンジョンが存在している。
そして、そこで二人を待っているのは――
珍しい素材。
未知の魔物。
大量のお金。
そして――
「……なんか、また嫌な予感がする」
ラウラはそう呟きながら、ブングルの街へ向かって歩き始めた。




