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【ハズレ職】素材採取士の私。お金のために採取していたら世界最強になりました  作者: きらっち


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2話 初心者定番の薬草採取



 職業を授かった翌朝。


 私は朝ご飯を食べながら、ずっと考えていた。


「……お金」


 目の前には、焼いたパン。


 野菜のスープ。


 それから、昨日お母さんが作ってくれた干し肉。


「ラウラ。どうしました?」


「いえ……」


 私はスープを一口飲む。


 おいしい。


 うん。


 おいしいけど。


「お母さん。この家って、いくらくらいするの?」


「家、ですか?」


「はい」


 お母さんが少し驚いた顔をする。


「どうして急にそんなことを?」


「えっと……将来のことを考えてまして」


「まあ」


 お母さんが嬉しそうに笑う。


「ラウラも大人になってきましたね」


「そ、そうですか?」


「ええ。それで、どうして家の値段を?」


「……お金持ちになりたいので」


「ふふっ」


 お母さんは笑った。


「ラウラらしいですね」


 どうやら否定はされないらしい。


 よかった。


 私は少し安心して、お父さんを見る。


「お父さん。この家って、どれくらいのお金が必要ですか?」


「そうだな……」


 お父さんは少し考えてから答えた。


「この家なら、金貨十枚くらいじゃないか?」


「……」


 金貨十枚。


 私は固まった。


「ラウラ?」


「……金貨って」


「ん?」


「一枚、いくら?」


「銀貨百枚だな」


「銀貨一枚は?」


「銅貨十枚」


「銅貨一枚は?」


「……一枚は一枚だが」


「そうじゃなくて……」


 私は前世の記憶を思い出す。


 日本円。


 お札。


 硬貨。


 物価。


 私は頭の中で計算を始めた。


「……仮に、銅貨一枚を百円くらいだとすると」


 銅貨十枚で銀貨一枚。


 つまり――


銀貨一枚=千円。


 銀貨百枚で金貨一枚だから、


金貨一枚=十万円。


 そして。


金貨十枚=百万円。


「…………」


 私は目を丸くした。


「百万円……」


「どうしたんだ?」


「いえ……」


 私は小さく息を吐く。


 前世の感覚で考えるなら、この家はだいたい百万円。


 もちろん、日本の家とは比べられない。


 土地も違うし、建物の造りも違う。


 それでも。


「思っていたより、金貨って大きいんだ……」


 私はテーブルの上に置かれた財布を見る。


 中には、家計用の銅貨と銀貨が少し。


 これまで私は、お金というものをなんとなく知っているつもりだった。


 野菜を売れば銅貨。


 肉を買えば銀貨。


 そんな感覚。


 でも。


 職業を授かったことで、初めてちゃんと考え始めた。


 この世界のお金。


 それは――


銅貨一枚 = だいたい百円


銀貨一枚 = だいたい千円


金貨一枚 = だいたい十万円


 くらいの感覚らしい。


 もちろん物によって値段は変わる。


 でも、ラウラにとってはこれでかなり分かりやすくなった。


「じゃあ、普通のパンっていくらくらいですか?」


「銅貨二枚くらいですね」


「二百円……」


 朝ご飯一食なら、それくらい。


「宿屋は?」


「安いところなら一泊で銀貨一枚くらいでしょうか」


「千円……」


 安い。


 前世の感覚なら、かなり安い。


「薬草は?」


「普通の薬草なら、一束で銅貨三枚くらいじゃないでしょうか」


「三百円……」


 私は考える。


 薬草を十束集めれば三千円。


 百束なら三万円。


 毎日採れば――


「……」


 なんだか、いけそうな気がする。


「ラウラ?」


「ん?」


「どうしてそんなに嬉しそうなんですか?」


「えへへ……」


 私は思わず笑ってしまった。


「なんだか、いっぱいお金を稼げそうだから」


「そうですか」


 お母さんは優しく笑った。


 でも。


 私はまだ知らなかった。


 普通の薬草なんて、ほんの入り口だったことを。


     


 朝食を終えると、私は自分の部屋へ戻った。


 机の上には、昨日もらった職業証明書。


 そこには、はっきりと書かれている。


職業:《素材採集士》


固有スキル:《素材採取》


「……素材採集士」


 私は頬杖をつく。


「やっぱり、悪くないよね」


 周囲からはハズレ職と言われた。


 でも。


 お金になる。


 それなら私にとっては、かなり良い職業だ。


 問題は――


「どうやって素材を売るの?」


 だった。


 薬草なら薬師さん。


 野菜なら市場。


 鉱石なら商人。


 魔物の素材なんて、そもそも誰に売ればいいのか分からない。


「……そういえば」


 昨日、教会で聞いた話を思い出す。


 冒険者。


 ダンジョン。


 魔物。


 素材。


「冒険者ギルド……」


 そこなら素材を買い取ってくれるはず。


 私は椅子から立ち上がった。


「行ってみよう」


 初めてのギルド。


 少し怖い。


 でも――


「お金のためだもんね」


 私は小さく拳を握った。


     


「気をつけて行ってきてくださいね」


「うん!」


「夕方までには帰ってくるんだぞ」


「分かった!」


 家を出る。


 町までは歩いて一時間ほど。


 私は小さなリュックを背負って、ゆっくり歩いた。


 中には、


- 水筒

- パン

- 布袋

- 素材図鑑

- 小さなナイフ

- 少しのお金


が入っている。


 そして腰には、昨日お父さんがくれた小さなシャベル。


「……これで素材を採るんだ」


 私はシャベルを見つめる。


 なんだか冒険者っぽい。


 ……いや。


「冒険者じゃないけど」


 私は一人で小さく笑った。


     


 町に入る。


 人が多い。


 商人。


 農家。


 職人。


 冒険者らしい格好をした人たち。


 大きな剣を背負っている人もいる。


 杖を持っている人もいる。


 私は自然と道の端に寄った。


「……怖い人がいっぱい」


 誰にも聞こえないように呟く。


 すると、通りの先に大きな建物が見えた。


 剣と盾の描かれた看板。


 その下には文字がある。


冒険者ギルド。


「……ここかぁ」


 私は建物を見上げる。


 大きい。


 そして――


「人がいっぱい……」


 扉の向こうから、話し声が聞こえる。


 笑い声。


 食器の音。


 誰かが大声で話す声。


 どう考えても、私が得意な場所ではない。


「……帰ろうかな」


 くるり。


 一歩だけ後ろへ。


「……」


 でも。


 私は財布を見る。


 中には、ほとんどお金がない。


「…………」


 私はもう一度ギルドを見る。


「……入ります」


 お金のためなら。


     


 ギルドの扉を開ける。


 ――ガチャ。


「……っ」


 一斉に視線が集まった気がした。


 私は固まる。


 大きな男の人。


 鎧を着た人。


 魔法使いらしい人。


 受付には、何人もの職員。


「…………」


 帰りたい。


 ものすごく帰りたい。


 でも。


 私は勇気を振り絞って受付へ向かった。


「あ、あの……」


「はい。どうされましたか?」


 受付のお姉さんが優しく笑う。


 私は少し安心した。


「素材を売りたいのですが……」


「はい。素材の買い取りですね」


「はい」


「冒険者登録はお済みでしょうか?」


「まだです」


「それでしたら、先に登録をおすすめします。素材採取をされるのであれば、採取依頼なども受けられますので」


「……登録すると、お金がかかりますか?」


「初回登録料として銀貨一枚です」


「……千円」


 思わず呟いた。


「はい?」


「い、いえ」


 千円。


 ちょっと高い。


 でも、仕事をするための資格だと思えば……。


「お願いします」


「かしこまりました」


 受付のお姉さんが書類を出す。


「こちらにお名前をお願いします」


「はい」


 私はペンを持つ。


 ――ラウラ。


 ゆっくり書く。


「職業は《素材採集士》ですね?」


「はい」


「採取経験はありますか?」


「畑で薬草を少し採ったことがあります」


「なるほど」


 お姉さんが微笑む。


「では、まずは簡単な採取依頼から始めてみるのはいかがでしょう?」


「採取依頼……?」


「はい。町の近くで採れる薬草などですね」


「危なくないですか?」


「比較的安全な場所です」


「……魔物は?」


「弱い魔物が出る可能性はあります」


「……」


 私は黙った。


「大丈夫でしょうか?」


「……逃げてもいいですか?」


「もちろんです」


 即答された。


 私はほっと胸を撫で下ろした。


「それなら……やってみます」


「では、こちらをどうぞ」


 渡されたのは一枚の紙。


【薬草採取】


・対象:青葉草

・必要数:十束

・報酬:銀貨一枚


「……銀貨一枚」


 私は紙をじっと見る。


 つまり――


千円。


 十束採って千円。


 前世の感覚なら、ちょっとしたお小遣い。


 でも。


 私は思った。


「これ……」


「はい?」


「薬草って、もっといっぱい採ってもいいんですか?」


「もちろんです。依頼分以上に採取された場合、買い取りも可能です」


「……!」


 つまり。


 十束で千円。


 それ以上採れば、その分だけ追加で売れる。


 私は紙を両手で握った。


「……やります」


「ありがとうございます」


「いっぱい採ってきます」


 受付のお姉さんが少し笑った。


「お気をつけて行ってらっしゃいませ」


「はい!」


 私はギルドを出る。


 外の空気を吸う。


「ふぅ……」


 初めてのギルド。


 ちょっと怖かった。


 でも――


 依頼を受けた。


 報酬は銀貨一枚。


 そして。


 採った素材は追加で買い取ってもらえる。


 私はシャベルを握り直した。


「……いっぱい採ったら」


 金貨になるかもしれない。


「……えへへ」


 思わず頬が緩む。


 そのとき。


 町の外から、風が吹いた。


 草木が揺れる。


 山の向こうには、私がまだ見たことのない世界が広がっている。


 そして、そのどこかには――


 もっと高価な素材がある。


「……まずは薬草から」


 私は歩き出した。


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