16話 指名依頼主はボロ小屋に住む少女でした。
ホワイトバードを単独で倒した。
その話は、思っていた以上に町へ広がっていた。
ギルドに戻ってから数日。
ラウラのもとには、これまでとは少し違う依頼が届くようになっていた。
「……個人的な依頼?」
ギルドの受付嬢から何枚かの依頼書を渡され、ラウラは首を傾げる。
「はい。ホワイトバードを一人で討伐されたという話が広まってまして……」
「一人……」
ラウラは少しだけ気まずそうな顔をする。
本当のところは、一人で戦ったというより、逃げながら毒石を投げただけなのだ。
でも、わざわざ訂正するほどでもない。
「それで、鉱石や薬草、魔物の素材などを直接採ってほしいという依頼が増えています」
「なるほど……」
ラウラは依頼書を見る。
報酬も、普通の採取依頼よりかなり高い。
「どうしよう……」
個人的な依頼というのが少し怖い。
相手がどんな人なのかも分からない。
そこでラウラは、ある人物の顔を思い浮かべた。
「ガルグさんに相談してみようかな」
こういうことなら、鍛冶師のガルグに聞くのが一番安心できそうだった。
「指名依頼?」
鍛冶場で話を聞いたガルグは、腕を組んで考える。
「そういう依頼なら、ギルドを仲介に入れたほうが確実だな」
「やっぱりそうですか?」
「ああ。直接やり取りするより、ギルドを通したほうが報酬も契約もはっきりする。何かあったときにも話が早い」
「なるほど……」
ラウラは頷く。
「なら、指名依頼として受けるのがいいだろう」
「指名依頼……」
「依頼主がラウラを名指しして、ギルドを通して正式に依頼するんだ」
「それなら安心ですね」
「ああ。ラウラは金に関してはしっかりしてそうだからな」
「はい!」
そこだけは自信を持って答えた。
「お金は大事です!」
「……そこは即答なんだな」
ガルグは苦笑した。
ラウラはそのままギルドへ戻った。
「指名依頼で受けたいです!」
「はい。では、こちらで手続きを――」
受付嬢が手続きを進めていく。
そして、依頼一覧を見せてもらった。
「…………」
ラウラは目を丸くした。
「多いですね……」
「そうなんです」
並んでいる依頼は、一つや二つではない。
鉱石の採取。
薬草の大量採取。
魔物の素材。
珍しい素材の捜索。
どれもラウラを指名している。
「報酬も高い……」
通常の依頼よりも、かなり割高だ。
「ラウラさんは素材の品質が高いですから」
「なるほど……」
ラウラは依頼書を一枚ずつ見ていく。
「鉱石……」
「薬草……」
「魔物の素材……」
どれも魅力的だ。
でも――。
「……あれ?」
一枚の依頼書で、ラウラの手が止まった。
「毒草の大量納品……?」
他の依頼とは少し違う。
必要なのは、普通の薬草ではない。
毒草。
しかも大量。
「どうして毒草なんだろう……」
ラウラは依頼書をじっと見る。
毒草。
それは、ラウラがこれまで何度も採取してきた素材だ。
そして最近では、毒草を石に塗りつけて毒石まで作っている。
「加工方法とか知れれば……」
ラウラの目が少し輝く。
「もっと攻撃に使えるかも……」
投てき術。
毒石。
そして毒草。
組み合わせれば、もっと安全に魔物を倒せるかもしれない。
もちろん、できれば逃げながら。
「……これにします」
「毒草の依頼ですか?」
「はい」
ラウラは依頼書を手に取った。
「詳しい依頼主は……」
書かれている場所を見る。
小さな町の外れ。
さらにその先にある――。
「ボロ小屋……?」
少し不安になった。
でも。
毒草の加工方法を知れるかもしれない。
そして、それがもっとお金になるかもしれない。
「行ってみよう」
この世界には、様々な職業が存在する。
剣士。
槍使い。
弓使い。
魔法使い。
魔物を直接倒すことを得意とする職業。
そして――。
素材採取士。
錬金術師。
鍛冶師。
薬師。
魔物を倒す者たちを支える職業もある。
武器を作る。
薬を作る。
素材を加工する。
そして、素材そのものを集める。
どれも冒険者たちにとって欠かせない仕事だ。
ラウラは、その中でも素材採取を担当している。
「毒草……いっぱい採ってこよう」
ラウラはボロ小屋へ向かって歩いていた。
町の外れ。
人通りはほとんどない。
しばらく進むと――。
「あれかな?」
小さな古びた小屋が見えてきた。
壁は少し傾いている。
屋根も年季が入っている。
「本当にボロ小屋だ……」
ラウラは恐る恐る扉を叩いた。
コンコン。
「どうぞー!」
中から元気な声が返ってきた。
ラウラが扉を開ける。
そこには、一人の女の子がいた。
ラウラより少し年上に見える。
髪は少しぼさぼさ。
服もどこか古びている。
しかし、その目だけは妙に輝いていた。
「あらあら、きたですね」
「どうも、ラウラです」
「私はダリアなのだ」
女の子――ダリアは、にっこり笑った。
「ここに来たってことは……」
そして突然。
両手を広げて――。
「あちしは!」
「毒草がほしいのだよ!」
ものすごく元気な声が小屋に響いた。
「取ってきてくれるんだね!」
「は、はい……」
ラウラは少し圧倒される。
「えっと……」
ラウラは依頼書を見る。
毒草を大量に納品。
それは分かる。
でも、一つ気になることがあった。
「何に使うんですか?」
「…………」
ダリアは一瞬だけ黙った。
そして――。
「ふふふ……」
ニヤリと笑う。
「あちしは!」
「この毒草を使って金持ちになりたいのだよ!」
「…………」
ラウラは目を丸くした。
「毒から薬も作れるのだよ!」
「…………」
ラウラはダリアを見る。
そして、なぜか――。
「分かります」
深く頷いた。
「分かるのかい!?」
「はい」
ラウラの目も少し輝いている。
「お金は大事ですから」
「そうなのだよ!」
ダリアが机を叩く。
「毒は怖い!」
「でも薬にもなる!」
「そして薬は売れる!」
「お金になる!」
「その通りです!」
二人の間に、妙な連帯感が生まれた。
「ラウラちゃん!」
「はい!」
「あちしと一緒に金持ちを目指そうではないか!」
「……はい!」
ラウラは力強く頷いた。
ただ、ラウラには一つ気になることがあった。
「でも……」
「なんだい?」
「毒草を採ってくるだけじゃなくて……」
ラウラは少し考える。
「その毒草で、私に毒薬を作ってもらうことはできますか?」
「毒薬?」
「はい」
ラウラは自分の毒石を思い浮かべる。
もっと強い毒が作れるなら。
もっと安全に魔物を倒せるかもしれない。
もちろん――逃げながら。
「それを報酬にしてもらうことはできますか?」
ダリアは目を見開いた。
そして――。
「お金を払わないでいいなら、ありがたいっ!」
バンッ!
勢いよく立ち上がる。
「まかせたまえ!」
「本当ですか?」
「もちろんだとも!」
ダリアは胸を張った。
「あちしは毒の研究には自信があるのだよ!」
「分かりました」
ラウラは頷く。
「では、毒草をいっぱい採ってきます」
「頼んだよ、ラウラちゃん!」
「はい!」
こうしてラウラは、新たな依頼を受けることになった。
目的は――毒草の大量採取。
そしてその報酬は――。
お金ではなく。
ラウラ専用の毒薬だった。
「……どんな毒薬ができるんだろう」
ラウラは少し楽しみになりながら、毒草の採取へ向かった。
もちろん。
素材採取士として。
そして――。
「もっと安全に魔物を倒せるようになるかも……」
ラウラは、少しだけ期待していた。




