14話 お金に釣られて来たら、大きすぎる鳥でした。
冒険者ギルド。
ラウラは掲示板の前で、今日の依頼を眺めていた。
「薬草採取……」
昨日と同じ依頼。
「鉱石採取……」
これもいい。
「うーん……」
どれにしようか考えていると。
バンッ!
突然、ギルドの扉が勢いよく開いた。
「大変だ!!」
「えっ?」
振り返る。
冒険者が数人、慌てた様子で入ってきた。
「ホワイトバードが現れたぞ!」
「ホワイトバード!?」
ギルド内がざわめく。
「本当か!?」
「どこに出た!?」
「町の近くの街道だ!」
「まずいぞ……!」
ラウラはきょとんとする。
「…………?」
ホワイトバード。
名前だけ聞くと。
白い鳥。
なんとなく。
「……弱そう」
ラウラは小さく呟いた。
でも。
周囲の冒険者たちは全然そんな雰囲気ではない。
この町は大きな都市ではない。
冒険者の数も少ない。
だからこそ。
Cランクの魔物が現れただけでも、大騒ぎになる。
「ホワイトバードはCランクだぞ!」
「町の近くまで来てるなら危険だ!」
「討伐隊を組まないと!」
「誰か応援を呼べ!」
ギルド内が一気に慌ただしくなる。
「……Cランク」
ラウラは少しだけ考えた。
そして。
受付嬢さんのところへ向かう。
「すみません」
「はい、ラウラさん?」
「ホワイトバードって……」
ラウラは少し身を乗り出した。
「どんな素材が取れますか?」
「え?」
受付嬢さんが目を丸くする。
「素材、ですか?」
「はい」
「えーっと……」
受付嬢さんは資料をめくる。
「皮、羽、くちばし、爪……」
指で項目を確認する。
「そのあたりが普通ですね」
「なるほど……」
ラウラは真剣に聞いている。
「おいくら万円になりますか?」
「…………」
受付嬢さんが固まった。
「ま、まんえん?」
「はい」
「えーっと……」
この世界に円はない。
それでもラウラの言いたいことはなんとなく伝わったらしい。
「素材の状態と……あとは運がよければ」
受付嬢さんが考える。
「金貨一枚になるかなー?」
「…………」
ラウラの目が輝いた。
「金貨一枚……」
金貨一枚。
私の大好きなお金。
「…………」
私はホワイトバードの素材について考える。
皮。
羽。
くちばし。
爪。
「…………」
そして。
私は決めた。
「私が戦います!」
「…………」
ギルド内が静まり返った。
「…………え?」
受付嬢さんが聞き返す。
「私が戦います!」
「ラウラさんが!?」
周囲の冒険者たちも一斉にこちらを見る。
「え!?」
「ラウラが!?」
「いやいやいや!」
「この前までゴブリンから逃げてた子だろ!?」
「え?」
ラウラは少し首を傾げる。
「でも、素材がもらえるんですよね?」
受付嬢さんが戸惑いながら答える。
「は、はい……」
「私が倒したら?」
「討伐した魔物の素材は、基本的に討伐者のものです」
「じゃあ!」
ラウラは嬉しそうに笑った。
「行ってきます!」
「えっ!?」
ラウラはそのまま出口へ向かう。
「ちょ、ちょっと待ってください!」
受付嬢さんが呼び止める。
「ホワイトバードはCランクですよ!?」
「大丈夫です!」
ラウラは胸を張る。
「逃げるのは得意なので!」
「そこじゃないです!」
町を出る。
ラウラは一人で街道を進んでいた。
「ホワイトバード……」
名前からして。
ホワイト。
白い。
バード。
鳥。
「きっと……」
小さい。
ぴよぴよしている。
「……弱そう」
ラウラはのんびり歩いていた。
「ゴブリンより弱かったりして」
そして。
「金貨一枚……」
えへへ。
「素材もいっぱい取れたら、もっとお金になるかも」
完全に油断していた。
やがて。
遠くに何かが見えた。
「……あれかな?」
白い。
大きな影。
「…………」
ラウラは立ち止まった。
少しずつ近づいていく。
「…………」
近づく。
「…………」
さらに近づく。
「…………」
そして。
ラウラは。
後悔した。
「…………」
目の前にいたのは。
白い鳥。
ではなかった。
いや。
鳥ではある。
確かに鳥だ。
だが。
「…………大きい」
ものすごく大きい。
翼を広げれば、家より大きい。
鋭いくちばし。
巨大な爪。
真っ白な羽毛。
そして。
こちらを睨みつける赤い目。
「…………」
ラウラの顔から血の気が引いていく。
「…………」
私は。
「……帰りたい」
心の底から思った。
「こんなの聞いてない……」
ホワイトバードが一歩近づく。
ドンッ。
地面が揺れる。
「ひっ」
もう一歩。
ドンッ。
「…………」
ラウラは震えながら後ずさる。
「ホワイトバードって……」
こんなに。
「大きいんですか……?」
答える者はいない。
もちろん。
教えてくれる人もいない。
私はただ。
目の前の巨大な魔物を見つめる。
「…………」
そして。
後悔する。
「知ってたら……」
絶対に。
「来なかったのに……!」
ホワイトバードが翼を広げる。
巨大な白い翼が、空を覆う。
風圧でラウラの髪が激しく揺れる。
「…………」
ラウラは固まった。
ホワイトバードが。
大きくくちばしを開く。
「――――ギャアアアアアアアアアッ!!」
大地を震わせるような雄叫びが響き渡る。
「ひぃぃぃぃぃぃぃぃっ!!」
ラウラは叫んだ。
そして。
逃げたくなった。
――続く。




