12話 思いついたのは、石を拾って投げる そんな戦法です。
翌日。
ラウラは宿の部屋で、机に向かっていた。
昨日のことを思い出す。
ベアーラビット。
大きなうさぎ。
ものすごく速い。
そして。
怖い。
「…………」
ラウラは腕を組む。
「うーん……」
どうすればいいんだろう。
魔物に近づいたら怖い。
剣なんて持ったら、もっと怖い。
弓も使ったことがない。
魔法も使えない。
「…………」
ラウラは椅子の上で、
片手を顎に。
眉間にしわを寄せる。
「うーん……」
考える。
考える。
ものすごく考える。
「…………」
そして。
「……あ」
目が輝いた。
「石を投げればいい!」
ラウラは勢いよく立ち上がった。
「魔物が近づいてきたら……」
石を拾う。
投げる。
逃げる。
また石を拾う。
投げる。
逃げる。
「これなら近づかなくてもいい!」
ラウラは自分の考えに興奮した。
「すごい……!」
ただ。
一つ問題がある。
「……石、どこに入れよう」
ラウラは今持っている魔法袋を見る。
薬草。
鉱石。
道具。
お金。
いろいろ入っている。
石なんて大量に入れたら、他のものが入らなくなってしまう。
「…………」
ラウラは考える。
「石を入れるための魔法袋が……欲しい」
でも。
お金はある。
とはいえ。
高い買い物は少し怖い。
「…………」
ラウラはお金の魔法袋を見る。
「仕方ないか……」
ラウラは一つのことを決めた。
ラウラは冒険者ギルドへ向かった。
今日売るものは。
以前、ガルグさんに磨いてもらった宝石。
もちろん。
水色。
黄色。
ピンク。
紫。
この四つは売らない。
ラウラの大事な宝物だ。
でも。
残りの宝石なら。
「……ちょっとくらい売ってもいいよね」
石を拾う。
そのために。
石を入れる魔法袋を買う。
必要経費。
うん。
これは必要経費。
そう自分に言い聞かせながら、ギルドへ入る。
「おはようございます」
「おはようございます、ラウラさん」
いつもの受付嬢さんに挨拶する。
「今日は依頼ですか?」
「いえ、その前に……」
ラウラは魔法袋から、いくつかの宝石を取り出した。
「これ、買い取れますか?」
「…………」
受付嬢さんが固まる。
「これは……!」
「?」
「少々お待ちください!」
受付嬢さんが慌てて立ち上がった。
「え?」
奥へ走っていく。
しばらくすると。
大きな箱を抱えて戻ってきた。
「お待たせしました!」
「これは……?」
「魔法鑑定道具です」
「そんなものが……」
受付嬢さんは宝石を一つずつ台の上に置く。
魔道具が淡く光る。
「…………」
しばらくすると。
魔道具の表示が変わった。
「色は……一般的なものですね」
「はい」
「ですが……」
受付嬢さんの顔が変わった。
「品質が上級です」
「上級?」
「はい」
一つ。
二つ。
三つ。
次々と鑑定していく。
「どれも上級品質……」
「そうなんですか?」
「これだけの品質のものが、こんなに……」
受付嬢さんが宝石を数える。
「……三十個ほどありますね」
「はい」
ラウラは頷く。
そして。
受付嬢さんが計算する。
「買い取り価格は……」
ラウラはごくりと唾を飲む。
「……金貨七十枚です」
「…………」
ラウラは固まった。
「……七十?」
「金貨七十枚です」
「…………」
七十。
金貨。
「…………」
ラウラの口元が。
にやぁ。
「…………」
受付嬢さんが少し引いている。
「ラウラさん?」
「……えへへ」
金貨七十枚。
七百万円。
「いっぱい……」
お金。
「いっぱい……!」
ラウラは両手で口元を隠した。
「えへへへ……」
その足で。
ラウラは魔道具店へ向かった。
目的は一つ。
石を大量に入れられる魔法袋。
「すみません」
「いらっしゃいませ」
店員さんに相談する。
「石をたくさん入れられる魔法袋が欲しいんです」
ラウラは店内を見回す。
すると。
「……あれ?」
大きな鞄が置かれている。
普通の鞄より大きい。
しかも。
小さな魔石が埋め込まれている。
「これは?」
「魔法鞄です」
「魔法袋とは違うんですか?」
「ええ。容量はそれほど大きくありませんが、魔法袋の6個分くらいで、出し入れがしやすく、収納した素材の状態も維持できます」
「素材の状態を……」
ラウラは目を輝かせた。
「お値段は?」
「金貨三十枚です」
「…………」
金貨三十枚。
高い。
でも。
ラウラは考える。
薬草。
鉱石。
魔物素材。
これからもっと増える。
「…………」
ラウラは魔法袋を見る。
お金。
石。
そして。
魔法鞄
「……これにしよう!」
ラウラは決めた。
「魔法鞄ください!」
「ありがとうございます」
ラウラは金貨三十枚を支払った。
新しい鞄を肩にかける。
「……いい」
なんだか冒険者っぽい。
ラウラは嬉しくなった。
「これなら、もっといっぱい採取できる!」
そして。
ラウラは冒険者ギルドへ戻った。
掲示板を見る。
「薬草……」
ちょうどいい依頼があった。
《薬草採取》
必要数もそれほど多くない。
「これにしよう」
ラウラは依頼書を持って受付へ。
「こちらの依頼をお願いします」
「はい。薬草採取ですね」
依頼を受ける。
そして。
今日はもう一つ。
ラウラには目的がある。
「……薬草だけじゃなくて」
ラウラは小さく笑う。
「毒草も」
昨日考えた。
石を投げる。
でも。
ただの石だけじゃない。
毒草。
麻痺草。
眠り草。
使える素材はいくらでもある。
「素材は……全部、お金になりますから」
ラウラは魔法鞄を背負う。
石用の魔法袋も持った。
準備は完璧。
森に入る。
「まずは薬草……」
《素材採取》を発動する。
「あった」
青葉草。
採取する。
「これは……」
毒草。
採取する。
「こっちは……」
麻痺草。
採取する。
「そして……」
ラウラは地面を見る。
そこら中に転がっている。
普通の石。
「……石も」
拾う。
一個。
二個。
三個。
魔法袋へ。
「…………」
さらに拾う。
「これも」
拾う。
「これも」
拾う。
気づけば。
魔法袋の中には、石がどんどん増えていた。
「ふふ……」
私は少し嬉しくなった。
「これなら……」
魔物が来ても。
逃げながら。
石を投げられる。
「…………」
ラウラは遠くを見る。
まだ魔物はいない。
でも。
いつか。
ベアーラビットに会っても。
「今度は……」
ラウラは小さな拳を握った。
「逃げるだけじゃありません」
石を一つ取り出す。
「投げます」
そして。
「……逃げます」
そこは変わらなかった。
――続く。




