11話 逃げるだけじゃ素材はとれません
数日後。
ラウラは朝からそわそわしていた。
「まだかなぁ……」
今日は、ガルグさんのところへ行く予定の日。
セーラー服。
そして、磨き終わったストーンアントの石。
どんなふうになっているんだろう。
楽しみで仕方がない。
そんなことを考えていると。
宿の受付から声をかけられた。
「ラウラさん、お手紙ですよ」
「私に?」
受け取ってみる。
差出人は――ガルグさん。
「……!」
急いで封を開けた。
そこには短い文章が書かれていた。
『装備と石磨き、終わったぞ。いつでも取りに来い』
「……!」
終わった。
終わったんだ!
「行ってきます!」
手紙を握りしめたまま、勢いよく宿を飛び出した。
「ガルグさん!」
鍛冶屋の扉を開ける。
「おう、来たかラウラ」
ガルグさんが笑う。
「お待ちしてました!」
ラウラは目を輝かせる。
「それで……!」
「まあ、そう焦るな」
ガルグさんは奥からいくつかの箱を持ってきた。
まず一つ。
蓋を開ける。
「ほら」
「…………!」
ラウラは思わず息を呑んだ。
そこにあったのは、磨き上げられた宝石。
光を受けて、きらきらと輝いている。
しかも。
「……四つ?」
「そうだ」
ガルグさんが得意そうに笑う。
「おめぇが拾ってきた中でも、特に珍しい色のやつだ」
一つ目。
澄んだ水のような――水色。
二つ目。
太陽みたいな――黄色。
三つ目。
花びらのような――ピンク。
四つ目。
夜空みたいな――紫。
「…………」
私は完全に見入っていた。
「きれい……」
宝石を一つずつ眺める。
「こんなの……」
光の角度を変えると、色が変わって見える。
「……すごい……」
ラウラはうっとりしてしまった。
「ガルグさん……」
「ああ」
「これ、本当に……あの……」
ラウラは言いにくそうにする。
「うんこだったんですよね……?」
「そうだな」
「…………」
改めて見る。
キラキラ。
もう一度見る。
キラキラ。
「……信じられない」
ガルグさんが豪快に笑った。
「はっはっは! 最初に見たときのお前の顔を思い出すぜ!」
「言わないでください……」
ラウラは恥ずかしくなって俯いた。
「でも……きれい……」
するとガルグさんが、別の箱を取り出した。
「で、こっちが本命だ」
「……?」
蓋が開く。
「…………!」
私は目を見開いた。
そこにあったのは。
紺色を基調にした服。
白いライン。
大きな襟。
赤いリボン。
動きやすいように調整されたスカート。
採取用のポーチ。
腰には道具を取り付けられるベルト。
そして、肩から背中にかけては軽い防護布。
「……セーラー服」
ラウラが呟く。
「そうだ」
ガルグさんは少し照れくさそうに頭を掻いた。
「おめぇが言ってた、せーらー服ってやつだ」
「…………」
かわいい。
かわいすぎる。
「……これ、私の?」
「ああ」
ラウラは服に近づく。
そして。
ガルグさんが、その胸元を指差した。
「それとな」
そこには、小さな青色の宝石が埋め込まれていた。
「この青い石を組み込んだ」
「……!」
宝石が胸元で輝いている。
紺色の布に、青色の宝石。
まるで空と海みたいだった。
「おめぇさんに似合うと思ってな」
「…………」
ラウラは固まった。
そして。
「……かわいい」
もう一度見る。
「かわいい……!」
さらに見る。
「かわいい!!」
ラウラは顔を上げた。
「ガルグさん!」
「お、おう?」
「ありがとうございます!」
ラウラは嬉しさのあまり、ガルグさんに飛びついた。
「最高です!」
「お、おい!」
「こんなかわいい服、初めてです!」
「わ、分かったから離れろ!」
ガルグさんの顔が真っ赤になる。
ラウラはそんなことも気にせず、服を抱きしめる。
「かわいい……」
そして。
「すぐ着てもいいですか?」
「もちろんだ」
「やったぁ!」
ラウラはさっそく奥の試着スペースへ向かった。
「……どうですか?」
着替えて戻ってくる。
ガルグさんが目を丸くした。
「おお……」
ラウラはその場でくるりと一回転する。
スカートがふわっと広がった。
胸元の青色の宝石が光る。
「動きやすい……!」
腕を動かす。
足を上げる。
少し走ってみる。
「すごいです!」
「採取用だからな。見た目だけじゃなく、動きやすさも考えてある」
「最高です!」
ラウラは鏡を見る。
そこに映っているのは。
前世では着られなかった服を着た私。
「……えへへ」
嬉しい。
本当に嬉しい。
「ガルグさん!」
「なんだ?」
「大好きです!」
「ぶっ!」
ガルグさんが盛大にむせた。
「お、お前なぁ……!」
「?」
ラウラは首を傾げる。
「どうしました?」
「……なんでもねぇ」
ガルグさんは顔を背けた。
耳まで赤い。
「変なの……」
ラウラは少し笑った。
そして。
「あ、そうだ」
ラウラは魔法袋を開く。
中から、小さな水色の宝石を取り出した。
「これ」
「ん?」
私はガルグさんの前に差し出す。
「お礼です」
「……!」
ガルグさんが目を見開いた。
「これを?」
「はい」
「いや、だが……」
「服も作ってもらいましたし」
ラウラは宝石を両手で差し出す。
「それに、石もこんなに綺麗に磨いていただきました」
「…………」
ガルグさんはしばらく黙っていた。
そして。
「……ありがとな」
嬉しそうに宝石を受け取った。
「大事にする」
「はい!」
ガルグさんが宝石を眺める。
「こいつはいい色だ……」
「ですよね!」
「よし!」
ガルグさんが拳を握った。
「次もまた、磨いてやるからな!」
「本当ですか?」
「ああ!」
ラウラは嬉しくなって、手を差し出した。
「よろしくお願いします!」
ガルグさんも手を出す。
ぎゅっ。
ラウラたちはしっかり握手を交わした。
鍛冶屋を出る。
「えへへ……」
ラウラは自分の服を見る。
歩く。
スカートが揺れる。
胸元の宝石がきらりと光る。
「かわいい……」
何度見ても嬉しい。
ラウラはそのまま冒険者ギルドへ向かった。
ギルドに入る。
「おはようございます」
「……!」
受付のお姉さんが固まった。
「……ラウラさん?」
「はい」
「その服……」
「作ってもらったんです」
ラウラは少し照れながら、その場でくるりと回った。
「どうでしょう?」
「か、かわいいです!」
受付のお姉さんが目を輝かせる。
「すごく似合ってます!」
「本当ですか?」
「はい! 今までの装備も可愛かったですけど、今日は雰囲気が全然違いますね!」
「えへへ……」
嬉しい。
「しかも、その胸元の宝石……」
「ガルグさんがつけてくれました」
「きれい……」
受付のお姉さんも宝石をじっと見つめる。
「本当に素敵ですね」
「ありがとうございます!」
ラウラはほくほくした気持ちで掲示板へ向かった。
かわいい服。
新しい装備。
これなら今日もいっぱい採取できそう。
「さて……」
依頼書を眺める。
薬草。
鉱石。
木材。
そして。
「……あ」
一枚の依頼書が目に入った。
《魔鉱石・五十個採取》
必要数。
五十個。
報酬。
金貨一枚。
「…………」
金貨。
一枚。
「……これ」
私は依頼書を手に取る。
魔鉱石。
どんな素材なんだろう。
でも。
五十個採れば金貨一枚。
「……受けます」
受付のお姉さんに依頼書を渡す。
「魔鉱石ですね。場所は少し離れていますが、大丈夫ですか?」
「はい」
ラウラは胸元の青色の宝石を見た。
「この服なら……頑張れそうです!」
しばらく歩いた。
森を抜け。
さらに先へ。
やがて。
岩肌がむき出しになった山が見えてきた。
「ここが採取場所かな」
ラウラは山を見上げる。
大きい。
「……魔鉱石、いっぱいあるといいなぁ」
さっそく《素材採取》を発動する。
すると。
「……あ」
視界の中に、いくつもの反応が浮かんだ。
岩の奥。
地面の下。
崖の近く。
「いっぱいある……!」
ラウラは嬉しくなった。
「これなら五十個、すぐ終わるかも」
スコップと小さなツルハシを取り出す。
そして。
採取ポイントへ向かおうとした、そのとき。
「…………?」
何かが動いた。
岩陰。
白いものが見える。
「……うさぎ?」
ラウラは目を細める。
ぴょこん。
出てきた。
大きな耳。
丸い体。
ふわふわした毛。
一見すると。
「かわいい……」
普通のうさぎ。
だった。
でも。
「…………」
大きい。
ものすごく大きい。
私より。
いや。
私の二倍くらいある。
「…………?」
そのうさぎがこちらを見る。
赤い目。
そして。
「グルルルル……」
「…………」
うさぎが唸った。
「…………」
私は一歩下がった。
うさぎも一歩近づく。
「…………」
もう一歩。
「…………」
さらに一歩。
「…………」
ラウラはようやく理解した。
「……ベアーラビット」
熊みたいに巨大なうさぎ。
そして。
とても獰猛な魔物。
「…………」
ベアーラビットが地面を蹴った。
「ひっ!」
ラウラは反射的に走り出した。
「無理ですぅぅぅぅ!!」
ドドドドドッ!
後ろから地面を揺らす音。
「来ないでくださいぃぃぃ!」
ドドドドドドッ!
速い。
ものすごく速い。
「うさぎなのに速すぎますぅぅぅ!」
ラウラは全力で逃げる。
岩を避ける。
木を避ける。
坂を下る。
「はぁっ、はぁっ……!」
それでも追ってくる。
「なんでぇぇぇ!?」
ラウラは必死に走った。
町。
門が見えた。
「町!」
ラウラは最後の力を振り絞る。
「はぁぁぁぁっ!」
町へ飛び込む。
ベアーラビットは、しばらく追ってきたものの、町の手前で止まった。
ラウラはそのままギルドまで走った。
「はぁ……はぁ……」
息を切らしながら椅子に座る。
「……怖かった……」
魔鉱石。
まだ一個も採っていない。
依頼は失敗。
でも。
ラウラは少し考えた。
「…………」
今回も逃げた。
ゴブリンからも逃げた。
ネットスパイダーからも逃げた。
そして今度はベアーラビット。
「…………」
ラウラは拳を握る。
「……逃げるだけじゃ、採取できない」
でも。
戦うのは怖い。
絶対に怖い。
「……じゃあ」
私は真剣に考え始める。
「逃げながら……倒せるようにならないと」
その瞬間。
ラウラの頭の中に、ある考えが浮かんだ。
「……逃げながら攻撃できたら」
遠くから攻撃。
逃げる。
また攻撃。
逃げる。
そして。
「……倒せたら」
魔物に近づかなくてもいい。
採取もできる。
「…………」
ラウラは少しだけ目を輝かせた。
「それなら……私でもできるかも」
こうしてラウラは。
逃げながら戦う方法を考え始めた。
もちろん。
このときのラウラ
はまだ知らない。
その発想が。
後にラウラの戦い方を、大きく変えることになるなんて。




