# エピソード8:四畳半から始まる、対・神様クーデター大作戦
人類滅亡のタイムリミットまで、残り六日と五時間。
俺の四畳半のちゃぶ台の上には、急ごしらえの東京の地図が広げられていた。
「いいか、まずは敵の計画を正確に把握する。黒江、中央統括委員会はどうやって『ウイルス』と『地殻変動』を同時に起こす気だ?」
俺が地図の真ん中を指さして問うと、黒江は腕を組みながら真妙な顔で答えた。
「奴らのやり方はアナログかつ大規模だ。この極東エリアの中心にある巨大な電波塔……人間が『東京スカイツリー』と呼んでいるあの塔の頂上から、我々上位存在にしか聞こえない『特殊な周波数の信号』を発信する」
「なるほど。そのパルスが、地中で眠るウイルスと断層のトリガーを引くってわけか」
「そういうことだ。逆に言えば、スカイツリーからの信号発信を妨害するか、発信機自体を破壊すれば、初期化計画は止まる」
話はシンプルだ。塔のてっぺんをどうにかすればいい。
だが、問題は当然あるはずだ。
「チャコ、敵の警備はどうなってる?」
「うーんとね、最悪だよ! 上空はあの白鳩が率いる『天空近衛兵団』が二四時間体制で監視してるし、地下からのルートも、凶悪な『大ムカデ装甲師団』がびっしり固めてる。アタシたち二人じゃ、近づく前に瞬殺されちゃうね!」
チャコがポテチを齧りながら、とんでもない絶望的情報をあっけらかんと口にした。
「……空も地下も鉄壁か。正攻法じゃ無理だな」
カラス一羽とゴキブリ一匹、そして無力な人間一人。どう考えても戦力差は歴然だ。
しかし、俺には確信があった。俺たちには、中央のジジイどもが持っていない最大の武器がある。
「なあ、お前ら。中央の連中は、人間を『ただの失敗作』だと思って見下してるんだろ?」
「当然だ。我々から見れば、脆くて寿命が短いだけの愚かなサルだからな」
「だからこそ、勝機がある」
俺はちゃぶ台の上に、丸めたアルミホイルと、自分のスマートフォンをドンッと置いた。
「連中は、現代の『人間のテクノロジー』と『数の暴力』を舐めている。俺たちが今までやってきたことを思い出せ」
「……まさか、サルどもを操る気か?」
「そうだ。いいか、作戦のキモは『ノイズ』だ。スカイツリーから発信される特殊なパルスを、大量の電波と光で乱反射させて、トリガーを無効化する」
俺は黒江の方を向いた。
「黒江。お前の情報操作能力で、もう一度SNSに大ブームを仕掛けるんだ。『七日後の夜、スカイツリーの下でメガ・タピ・ネオの無料配布フェス開催! スマホのライトを光らせて集まろう!』とな。数万人の人間が放つスマホの電波とライトの束なら、強力な電波障害を起こせるはずだ」
「なるほど……! 人間の群れを巨大なジャミング装置として使うというわけか! えげつないが、実に論理的だ!」
「それだけじゃない。チャコ、お前は地下ネットワークを使って、都内の配電盤や地下ケーブルを細工しろ。スカイツリー周辺にだけ異常な電力が集まるようにして、一帯の磁場を狂わせるんだ」
「オッケー! 配線をかじるのなんて、アタシたちの大得意分野だよ! ムカデどもに見つかる前に、狭い隙間からこっそりやり遂げてみせる!」
黒江の広域情報操作と、チャコのゲリラ的なインフラ破壊。
そして、それらを束ねて指示を出す俺。
「俺たち三人の力と、何万という人間の『欲望』を合わせれば、神様の計画だってひっくり返せる。——これが、俺たち四畳半同盟の『メガ・タピ・ジャミング作戦』だ」
俺の宣言に、黒江は口角を吊り上げて不敵に笑い、チャコは「名前ダサっ!」と笑いながらハイタッチを求めてきた。
俺も笑って、その手に応える。
世界の運命を決めるのは、白鳩の使者でも、雲の上の長老衆でもない。
この安アパートの四畳半に集った、ポンコツで欲深い三人組だ。
人類滅亡まで、残り六日。俺たちの逆襲が始まった。




