エピソード5:影の支配者(フリーター)、私欲のために世界を動かす
神々による「共同戦略会議」のファシリテーターという大役を(勝手に)担うようになってから、数週間が経った。
俺こと佐藤健太は、一つの重大な事実に気がついていた。
(こいつら、俺が上手く誘導すれば、世界を俺の都合のいいように変えられるんじゃね……?)
黒江はプライドが高く「キラキラしたもの」と「天空の優位性」に弱い。
チャコは食い意地が張っており「暗くて狭い場所」と「ジャンクフード」に目がない。
この二つの特性を突けば、どんなトンデモ法案でも通せる。俺はその仮説を検証すべく、本日の会議で一つの議案を提出した。
「本日の議題だが、俺から一つ提案がある。『深夜営業のコンビニエンスストア』についてだ」
俺が切り出すと、お茶をすすっていた黒江と、ポテチの袋に顔を突っ込んでいたチャコが同時に顔を上げた。
「ほう。サルの方から議題を提出するとは珍しいな。して、そのコンビニとやらがどうしたのだ?」
「アタシ、コンビニ大好きー! 裏のゴミ箱に廃棄弁当がいっぱいあるもん!」
「いや、チャコ。お前らゴキブリ陣営にとって、深夜のコンビニは本当に都合がいいか? 24時間ずっと煌々と明かりが点いていて、人間がうろうろしている。お前らが一番活動しやすい『深夜の暗闇』が、人間どもに奪われているんじゃないか?」
俺がそう指摘すると、チャコはハッとした顔になった。
「た、確かに……! 最近の人間、夜中まで起きてるから、アタシたちゆっくりお散歩もできないんだよね! 明るいと見つかって丸めた雑誌で叩かれるし!」
お前もこの前叩かれそうになってたもんな。
「黒江も考えてみてくれ。カラスは基本的に昼行性だろう? 人間が夜更かしをして昼間にダラダラしていれば、お前たちが空から人間を監視する効率が落ちるはずだ。それに、人間が夜にスマホばかり見て下を向いているせいで、昼間の公園に『光る落とし物』をする確率が減っているんじゃないか?」
「なっ……! 言われてみればその通りだ! 最近のサルどもは夜型を気取って、我々天空の支配者をないがしろにしている! それに光る落とし物が減るのは死活問題だ!」
よし、食いついた。俺は心の中でガッツポーズをした。
なぜ俺がこんな提案をしたかというと、至極単純な理由だ。
**俺の深夜のコンビニバイトが、酔っ払いの相手ばかりで死ぬほどしんどいからである。**
「そこで提案だ。人間どもに『早寝早起き』を徹底させる。名付けて『超・朝活&深夜完全消灯ブーム』だ」
「なるほど、悪くない。我々の特権である夜の静寂を取り戻し、昼間に人間を働かせて富(光るゴミ)を落とさせるのだな」
「賛成ー! 人間が早く寝てくれれば、夜中はアタシたちのパラダイスだよ!」
「決まりだな。黒江、いつものやつを頼む」
「フン、容易いことだ」
黒江がスマホを叩き、情報操作のパルスをSNSの海へと放つ。
翌日。
俺のバイト先の店長から、グループLINEに悲痛なメッセージが届いた。
『緊急事態です。昨夜から突如として空前の「超・朝活ブーム」が到来し、国民全員が夜9時に就寝するようになりました。深夜帯の客数がゼロになったため、本部からの指示で当面の間、深夜営業を休止します。深夜シフトの佐藤くん、申し訳ないけどしばらく日中に入ってくれない?』
俺はスマホを見つめながら、震える手でガッツポーズをした。
「……勝った」
深夜のクレーマーや酔っ払いの処理から、ついに解放されたのだ。
世界的なライフスタイルの変革。経済への影響は計り知れないだろう。しかし、そんなことは知ったことではない。俺の安眠とストレスフリーな生活が守られたのだから。
『おい健太。お前の提案通りにしてやったぞ。褒美のアルミホイルはまだか?』
『アタシには昨日と同じジャンクフードね! 特大サイズで!』
神々が俺に向かって要求してくる。
俺は「はいはい、今出しますよ」と余裕の笑みを浮かべながら、キッチンへと向かった。
ただ世界に翻弄されるだけの弱者から、神々を操って世界を思い通りに変える「影の支配者」へ。
俺はこの日、ファシリテーターとしての真の喜びに目覚めてしまったのだった。




