↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

2/10

エピソード2:我が四畳半は、かくして世界の中心(永世中立地帯)となった

「…………は?」


 間抜けな声が自分の口から漏れる。

 ベランダのカラス。部屋の隅のゴキブリ。

 二匹の野生生物が、はっきりと流暢な日本語で喋りかけてきたのだ。


「夢だ。これは夢だ。カップ麺の成分になんかヤバい幻覚剤でも混ざってたんだ」


 俺はギュッと目を閉じ、両手で顔を覆った。しかし、五感は残酷なほど鮮明に現実を突きつけてくる。


『おいサル。現実逃避をしていないで窓を開けろ。エレガントな私が、いつまでもこんな手すりに止まっていられるか』

『あははは! サルが震えてるー! ウケるー!』


「う、うるさい! 俺の部屋から出ていけ!」


 俺は半ばパニックになりながら、手にしていた丸めた週刊誌を部屋の隅のゴキブリ——いや、謎の声の主に向かって力任せに振り下ろした。


『おっと、危なっ!』


 ポンッ、という軽い破裂音のようなものが響いた。

 次の瞬間、俺は週刊誌を振り下ろした姿勢のまま、完全にフリーズした。


 先ほどまで黒光りする虫がいた場所に——**茶色いジャージを着た、小柄な少女**がしゃがみこんでいたのだ。

 頭には、ゴキブリの長い触角を彷彿とさせる二つ結び(ツインテール)が揺れている。


「あぶなーい! いきなり何するのさ、このサル! アタシの自慢の装甲がヘコんだらどうするの!」


 少女は口を尖らせながら、俊敏すぎる動きでカサカサッと壁を這い上がり(!?)、天井の隅に張り付いた。

 ……可愛い顔をしているのに、動きが完全に『ソレ』である。


『やれやれ……。お前は本当に品がないな、地下の特攻隊長殿は』


 ベランダの方から、呆れたようなため息が聞こえた。

 振り返ると、今度はカラスがいた場所に、**漆黒のドレスに身を包んだ、モデルのように背の高い美女**が立っていた。

 流れるような黒髪。見下すような鋭い視線。彼女は長い脚を優雅に上げ、窓枠をまたいで勝手に部屋の中へと入ってきた。


「な、なんだお前ら!? コスプレイヤー!? 不法侵入で警察呼ぶぞ!」


「警察? 我々が作った治安維持システムのことか? 呼んでも無駄だ。彼らの通信網も我々が管理しているのだからな」

「そうそう! 人間なんて、アタシたちのご先祖様がサルのDNAをいじって作った『便利な道具』に過ぎないんだから!」


 黒髪の美女と、天井に張り付くジャージ少女。

 二人は、俺の脳が処理しきれない爆弾発言を平然と言ってのけた。


「……人間が、お前らの作った道具……?」


「いかにも。私は天空・情報管理派、カラス陣営代表の『烏丸(からすま) 黒江(くろえ)』。そこの天井に張り付いている見苦しい輩は、地下・インフラ支配派、ゴキブリ陣営代表の『互川(ごかわ) 茶子(ちゃこ)』だ」

「チャコでいいよ! よろしくね、サル!」


 チャコと呼ばれた少女が天井からポスッと着地し、馴れ馴れしく俺の肩をバンバンと叩いた。


「本来、上位存在である我々がこのような不便な霊長類の姿(ホモ・サピエンス・フォーム)をとる必要はないのだが……どうやら私が落とした『言語翻訳端末』がお前の脳と同期してしまったらしい。しばらくは、お前にも我々の本来の姿(オーラ)と、この擬態が重なって見えてしまうだろう」


 黒江はそう言って、俺の四畳半の部屋を値踏みするように見回した。

 そして、薄い唇を吊り上げ、ひときわ尊大に言い放つ。


「光栄に思え、人間(佐藤健太)。我々、カラス陣営とゴキブリ陣営は長きにわたり、人間社会の流行やインフラをどうコントロールするかで対立してきた。だが、お前が端末と同化したことで、ちょうどいい場所ができた」

「ちょうどいい場所……?」

「今日からこの狭くて薄汚い空間——お前の『四畳半』を、我々の『共同戦略会議の永世中立地帯』に指定する!」

「アタシ、あそこの『押し入れ』もらうね! 暗くて狭くて最高!」


「……勝手に決めるな! そして家賃払え!!」


 かくして、俺の平穏な日常は終わりを告げた。

 家賃三万円のボロアパートは、人間社会の裏側を操る神々(鳥と虫)の秘密基地となり、俺は人類滅亡の危機と隣り合わせの、理不尽な同居生活を送ることになったのだった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。