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ただ帰りたいはずだったのに、私は壊す者になった  作者: 川浪 オクタ
第3章『壊す者と、壊せなかったもの』

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第3章 21話 絶対、助けるね

 向かいのフィアナの部屋に入ると、二人の医師と、サラがそれぞれ魔法をかけていた。


 侯爵の時と同じ光景で、体の中で冷たい感覚が頭の先からつま先に流れたようだった。

 フィアナは綺麗な顔で眠っているように見えた。


 そして生まれたばかりの子が眠るように寄り添っていた。


 ヴァルゼイン王は祈るように、フィアナの手を握っている。



 晴歌の入室に気づいたティオは晴歌のそばに近づいた。

「ティオ、フィアナは?」


「先ほど、子供は生まれた。

 けれど、フィアナは相変わらず意識は戻らないし、子供も産声をあげない」


「嘘……」


「医師は二人同時に回復魔法をかけ始めたところだ」


「私どうすればいい?」


「……そうだな。エリュナ医師に聞いてみた方が良いと思う」


「わかった」


 晴歌はティオの手をとる。


「!?」


「邪魔にならないように一緒に聞きにいこう」


「俺は……」


「本当は、心配してるし、何かしたいよね」


 ティオは自分の手が震えている事に気づいた。


「……お前、性格変わったんじゃないか?」


「そうかもね」



「はぁ……はぁ……」


「サラさん。少し休まれては?」


「そうですね……攻撃魔法だったらもっとできるんですけど、流石に回復魔法とかは、もう限界かもです」


「あなたに何かあっても、僕たち対応できませんからね!」


 もう一人の若い男性医師に言われ、サラは魔法の手を止める。

「すみません。ここまでです」


「いえ、ありがとうございます。回復薬も用意していますので、少し休んでいてください」


「はい……。あ、お姉ちゃん〜」


 晴歌とティオの二人の姿をみて、サラは晴歌に倒れ込む。


「お疲れ様。私が変わりますね」


 エリュナは、あることに気づき顔を横に振る。


「ヴァルゼイン王、進言よろしいでしょうか」


「……なんだ?」


 泣いたのだろうか。目の周りが赤くなっている。


「ハルカさんの治癒魔法の使用許可をいただいていてもよろしいですか?」


「……どういう意味だ?」


「彼女の力で、治すことができるかもしれません。

 ですが……意図的ではない何かしらの力が働く可能性も起こり得るという事です。

 ーー私のように」


 そうだ。

 私は、他の人も回復させて、竜の番契約をも無くしてしまった。


 その事を知った時から、他人に魔法を使うことが、以前より怖くなった。


 今もそうだ。


 それに竜族になってしまった今の私には、周りにどういう影響を与えてしまうのか分からない。


「……少し考えさせてくれないか」


「かしこまりました」


 エリュナは、ふうっと大きな息を吐き、晴歌の方を見た。


「ごめんなさい。ハルカさん、気を悪くしないでくださいね」


「いえ……エリュナさんの言う通りです。

 正直、今の身体になってから、魔力が変わっているかもっていう不安はあったんです」


「そうですね。

 まだ安定していないかもしれませんが、しばらくすると馴染みますので大丈夫ですよ。

 ーー正直なところ力を借りたいのが本音なのですが」


「そうだ、フィアナはなぜ眠ったままなんですか?」


「おそらく、お腹の子が外に出るための魔力を、急激に必要としたからだと思われます。

 竜族は魔力が足りなくなれば、冬眠のような深い眠りにつく場合がありますので、その時と同じ状況かと」


「魔力が回復すれば、目を覚ますんですか?」


「基本的には、です。

 ただ、フィアナ妃はエルフからの竜族なので、魔力は多いと思ったのですが」


「何か……私にできることって」


「そうですね……」


 エリュナはヴァルゼイン王の方をチラリと見て、考え込んでしまった。


 晴歌はフィアナの方を向き、祈るように両手を握った。


(フィアナは、私がこの世界にきて色々と教えてくれた。

 その後も、助けてくれたり、怒ってくれたり、お姉さん的な人。


 やっと会えたのに、別れたくないよ!)



「ヴァルゼイン王!フィアナ様の生命力が落ちてきています」


 ベッドの横にいた王宮の薬師が叫んだ。


「治癒魔法と、回復魔法、もっと強く出すわよ!

 薬師長、増幅薬飲むわ。四本すぐ飲めるようにして!」


「四本ですか?」


「ええ、あと魔力の回復薬もお願い!」


「わかりました!」


「エリュナ先生、僕は一度に二本飲みます」


「ーーありがとう」


 回復の光が増大し、眩しさで周囲が見えづらくなっている。


 ティオが目の周りに、光よけの魔法を皆にかけてくれ、なんとか周囲の様子を確認することができた。


「フィアナ……。俺は……お前が先に逝っても俺は後を追える……だけど」


「だめです!回復していません」


「もっと……もっと、僕も強くしないと……」


「フィアナさん!!ダメです!ハルカお姉ちゃんにやっと会えたんですよ!!第一王子を合わせるんじゃなかったんですか!」


「ヴァルゼイン王!これ以上強い魔法をかけるのは、フィアナ妃にもよくありません」



 ーー皆は、一生懸命になっているのに、私は何をしているの?


 なんのために、コノセカイニノコッタノ?



「ハルカお姉ちゃん……?」


 サラが晴歌の雰囲気の変化に気づいた。


「サラちゃん。もし、ペンダントが壊れたら急いであの小屋に転移してもらってもいい?」


「え……?」


「ごめんね。少ししか一緒にいられなくて」


「……どういう事ですか?」


 晴歌は手をすっと上にあげた。


 すると強い風が起こり、室内にいる人達は全て宙に浮いた。


「ハルカ!何をする!」


 ヴァルゼイン王が魔力を高め、強い風から抜け出そうとした。


 両開きのドアが開き、廊下に追い出すような形で風が流れた。


 扉は閉まり、室内には晴歌とフィアナ、生まれたばかりの子だけになった。


「どういうことだ、ハルカ!フィアナと子どもをどうする気だ!」


「扉には結界魔法を張りました。私が治します。」


「しかし!」


「ヴァルゼイン王、何かあったら私を恨んでください。

 このまま、フィアナ達を死なせたくないんです」


「……っ!」


 身勝手だと思われてもいい。


 周りの意見も聞かず、力で押さえつけてしまった。


 捕まったっていい。


 大事な人を助けることができるのに、助けることができないなんて、私の自己満かもしれないけど、そんなのは嫌だ。


「フィアナ……ごめんね」


 そっとフィアナの手を握る。

 冷たくなっているけれど、ほのかに命の鼓動が感じられる。


 まだ、間に合う。


「絶対、助けるね」


 晴歌はフィアナと子に手をかざし、治癒と回復魔法をかけた。


 少しずつペンダントの中の光が壊れていく音を聞きながら。


 晴歌の視界の端で、ペンダントの残数を示すウィンドウの数字が、静かに動き出した。



 リュゼル、しばらく会えなくなるけど、ごめんね

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