第3章 17話 『大人になっても』
「晴歌、これやるよ」
「陽翔ありがとう!ってこれ……」
「温泉行った時のヘンテコキーホルダーの第二弾」
「第二弾、出てたんだ」
「お前は白で俺は黒な」
「もしかして……」
「そう、誕生日プレゼント。おめでとう晴歌」
「キーホルダーまた増えちゃった」
「俺はお前の誕生日にはキーホルダーを渡すって決めてるんだ。大人になってもな」
「……ありがとう、陽翔」
◇ ◇ ◇
うっすらと目を開け、霞んだ視界で、まだ夢の中にいるかのようだった。
(ここはどこだろう……)
少しずつ視界も頭もはっきりしてきていた。
部屋はシンプルだけれど、家具などは、貴族の家にいるような高そうなものが置かれている。
(なんていうんだっけ……アンティークってこういうものをいうんだっけ)
黒いワンピースに白いエプロンの女性が、箱から服や帽子を出したり、綺麗に片付けている。
(メイドさんかな。忙しそう。何か手伝えることないかな……)
体を起こそうとした瞬間、全身に痛みが走った。
「いたっ!」
インフルエンザになった時みたいな関節の痛みと、肌を無理やり引き伸ばされているような感覚が同時に襲ってきた。
「大丈夫ですか?ハルカ様」
「……っ」
あまりの痛みに声を出せずにいる姿をみたメイドは、急いでベッドの傍に置いてあるベルを鳴らした。
「今、リュゼル様をお呼びしますね。あぁでも、ここまで来れるかしら」
(……?ここまで、来れる?)
数秒すると、廊下を走る音と叫び声が聞こえてきた。
徐々に音が大きくなっていき、ドアの前で一度静かになった。
「ハルカ!」
「リュゼル!」
ドアが開き、そこにはメイドにお姫様抱っこをされていたリュゼルがいた。
「え……リュゼルってそういう趣味……?」
「違う!俺はそうじゃない!
これは、たまたま彼女が近くにいたからだ!
ハルカ、そんな目で見るな!――それよりも!」
「……それよりも?」
リュゼルは恥ずかしさを隠すように、咳払いをしてから言った。
「鏡、見れるか?」
「え……?」
晴歌の側にいたメイドが手鏡を渡してきた。
腕を動かすのも痛いが、ゆっくり手鏡を顔の正面に持ってきた。
「――なに、これ」
鏡に写っていたのは、青寄りの紫の瞳をもつ、長い黒髪の女性だった。
◇ ◇ ◇
「本当にハルカお姉ちゃんですか?」
一昨日ぶりに会ったサラは、驚いてドアの前で動けずにいた。
「ああああ。でも、面影というか、雰囲気はそのままで、何これ萌えるっ……」
元の世界の推し活をしていた同級生と同じ反応をしている。
「サラ、ドアの前で止まるな。俺が入れん」
「だってヴァルゼイン様、お姉ちゃんは昨日までは私より小さかったんですよ」
サラを押しのけ、室内に入ってきたヴァルゼイン王。
晴歌の姿を見た瞬間、一度固まり、動揺を隠すかのように息を大きく吸った。
「お前は本当に面白いな。色々な番を見てみたが、こんな事は初めてだぞ。
『成長』したのか」
「はは……成長っていうんですかね。」
手鏡で顔を見た晴歌の様子に、リュゼルはかなり焦っていた。
メイドに抱っこされた状態のまま、すぐにヴァルゼイン王へ知らせ、診てもらおうとしている。
(体の痛み、私だけじゃなくてリュゼルにも出てる……?
リュゼルの見た目は全く変わっていないのに、私だけ)
とりあえず、治癒魔法を何回もかけて、今は痛みだけを抑えている状態だった。
時間が経つと痛くなってくるが、再度魔法をかけている。
二人の異変を見た執事やメイドから、竜王に来てもらい診てもらった方が良いと進言され、リュゼルは急いで王城への連絡を指示した。
王は多忙なはずだから、二、三日は耐えるしかないと話し合った。
それから二時間弱――ヴァルゼイン王は本当にサラを連れてリュゼルの家に駆けつけてくれた。
「ハルカはそのままで、リュゼルはハルカの側に寄れ」
ヴァルゼインは、それぞれに向けて両手を向け、小さく呟く。
手のひらから小さな光が集まり、徐々に大きくなっていく。
(エリュナさんの時と同じだ)
光は二人の体を包み込み、三分ほど、そのままでいた。
そして、徐々に小さくなっていき、光は消えていった。
ヴァルゼイン王は何かを考え込んでいるような表情で、二人をじっと見ていた。
「王、どうされたのですか?」
不安になったリュゼルは、王の言葉を待たずに聞いてしまった。
「いや……。体の痛みは癒しておいた。
おそらく、竜の力によるものだと思うから、効くはずだ。ただ」
「ただ?」
「これを言って良いものなのか……。なにせ、俺も初めてだからな……」
「どういう事ですか?」
ヴァルゼイン王は、言うのを躊躇うように口を開いた。
「番契約はできている」
リュゼルはホッとし、晴歌の方を向いて微笑んだ。
その様子をみて、晴歌も微笑んだ。
「ただ、上手く説明できないんだが、リュゼルの契約がハッキリしていて、ハルカのは、微かにわかる感じだな」
「すみません、ちょっと言っていることが良く分からないんですが」
サラが即座に質問した。
「俺の感覚で言うと、お互いの魂の色が分かるんだ。
通常の番契約だと、それが混ざっていたり、包み込んでいたり。
それぞれだが、両方のものが互いに現れるんだ。
ここまではいいか?」
晴歌もリュゼルもサラも黙って、続きを聞こうとしている。
「今回、リュゼルの方には、本人とハルカの色が、ちゃんと混ざり合っている。
けれどハルカのは、リュゼルのものが微かに混ざっている感じだな」
「え……もしかして、それって私のせい……?」
まさか、無意識のうちに番契約まで壊してしまっていたのだろうか。
リュゼルは晴歌の震える手を握った。
「大丈夫だ。俺は、そうなることも予想はしていた」
「リュゼル……」
「いや、契約は成立している」
「え?」
「だから、リュゼルにはちゃんと二人のが混ざっている。
それにハルカにも微かにリュゼルのものがあるからな」
リュゼルは何かに気づいたように、晴歌の手を見つめた。
「もしかして……契約の力が、ハルカの成長に影響したのか?
ハルカの余剰分の力が、俺の方に漏れ出たっていう……」
「ああ、恐らくその通りだろう。番契約は両手と額を直接合わせるからな」
そこまで言って、ヴァルゼインはふと言葉を止めた。
「――いや、待てよ」
ヴァルゼインはしばらく考え込んだ。
「体の痛みはそれで間違いないと思う。
ただ、成長するなら、リュゼルと同い年か、六年経った年齢になると思うんだが……」
「私だと二十一歳くらいですね」
「俺は外見は変わらないけれど、二十九歳か」
リュゼルが呟くと、ヴァルゼインが頷いた。
「確かに、他の番契約した竜族たちも、外見が近くなっていたな」
そんな話は初耳で、晴歌は驚きのあまり何も言えずにいた。
「そういうことだ。だからハルカの場合は特別な例外ということだな」
「そう言うものですか……?」
サラは、疑問を持った表情でヴァルゼイン王をみる。
「――彼も同じ意見だと思うぞ」
「彼?」
「ああ、昨日、城に寄ってもらって一緒に連れてきた。
今は別室で待っていてもらっているが、行けそうか?」




