第3章 16話 『六年目で初めて言えた言葉』
「まだ力をコントロールできていないのではないか?」
ヴァルゼイン王は晴歌が地上に留まる条件をサラから聞いて呟いた。
「九十九の光が、今は七十八くらいか? そのくらいだとして、壊れるペースが早い気がする」
「そうですね……そう言われると。まだ一ヶ月も経ってないです」
「だから、強い感情を抑えるための外側からの人物が必要ということか……」
サラは側に晴歌がいない事に不安が込み上げてきた。
再び、六年前のようなダンジョンを作り出してしまったら、彼女はもう本当に一人で生きていくことを選ぶだろう。
恩人で憧れでもあった人にそんな思いはさせたくない。
膝の上に置いた手で、サラは服をぎゅっと握りしめた。
「……まあ。リュゼルと一緒なら大丈夫だろう。魔力に関しては俺よりも上だからな」
サラは驚き、大きく目を見開いてヴァルゼイン王を見た。
「私……ずっと気になっていたことがあります。
あの、初めてお会いしたばかりで、お伺いするのも変かもしれませんが……」
ヴァルゼインは側近に耳打ちをし人払いをした。
部屋には二人だけになり、静寂が広がった。
「……リュゼルが迷惑をかけたからな。話してみろ」
「リュゼルお兄ちゃんとハルカお姉ちゃんの力の差はあると思いますか?
あと、竜の番契約はお姉ちゃんに対して効果というか……契約はできるんですか?
それに……」
「おいおい、いきなりたくさん話されても」
サラはぐっと言いたいことを飲み込み、深く息を吐いた。
「私は二人と違って、そんなに長く生きることはできません。
リュゼルお兄ちゃんもいつかは寿命で、いなくなってしまう。
でも、ハルカお姉ちゃんはずっとずっと、何百年も生き続ける。
竜の番契約ができれば、お姉ちゃんは一人じゃなくなる」
紅茶を一気に飲み干すと、サラはカップをテーブルに勢いよく置いた。
「そうか……ハルカは不老不死との事だったな。正直、わからない。
不老不死なんて作り話だと思っていたし、竜族でもエルフも寿命はある。
竜の番契約は寿命を書き換えるものだけれど、なぜかというのはわからないものだからな。
ただ、この世界では竜族にしかない契約という事しか……」
何かが思いついたような顔で、彼は言葉を途切れさせた。
ヴァルゼイン王はサラの顔をじっと見つめる。
「お前も竜族の者と契約をすれば良いのではないか?」
バンッ!!
ドアが大きく音をたてて開くと、そこには険しい顔をしたエルフの男性が立っていた。
サラは思わず腰を浮かせた。
「ティオさん?」
「ヴァルゼイン王、誰でも彼でも竜族と番契約させるのはいかがかと思いますよ」
◇ ◇ ◇
柔らかな温もりが、晴歌の全身を包んでいた。
幼い頃、父と母の間に無理やり入って眠ろうとしたことがある。
すると兄も間に入ってきて、両親は困ったけれど嬉しそうに笑っていた。
そのまま朝まで父と母と兄に挟まれて寝た事を思い出した。
ずっとこのままの気持ちで眠っていたかった。
「ハルカ、苦しいんだが……」
目をゆっくりと開けると、リュゼルを抱き枕のようにしてぎゅっと抱きしめていたことに気がついた。
いつの間にかベッドに運ばれていたみたいだ。
リュゼルの体に回していた手足をほどき、ベッドの上で正座をする。
「ごめん、リュゼル!私寝ちゃってたんだね」
「ああ、大丈夫だ……」
体を起こし顔を背け、リュゼルは静かに答えた。
耳まで真っ赤になっている。
「……何か寝言言ってた?」
よだれが垂れていなかったか、そっと口元に触れる。
大丈夫そうだ。
「いや……大丈夫だ。ただ、俺の気持ちが整理できていなくて」
「気持ち?」
「……だって、六年もお前に会えていなかったんだ。
でも今は俺の手の届くところにいる。
嬉しくて……嬉しくて……」
リュゼルの背中が小刻みに震えていた。
「嬉しくて……本当に」
晴歌はそっと背中に手を伸ばし、後ろから抱きしめた。
「愛しているんだ。ハルカ。お前の事が……」
手をぎゅっと握りしめられ、その手に冷たいものが一つ一つ当たった。
「……ありがとう。リュゼル。
私をリュゼルの番にしてくれる?」
一瞬、間があった。
リュゼルは晴歌の手を離し、向き合った。
「今、なんて言った?」
「竜の番契約」
「……でも、お前の体に何が起こるか」
「そうだね。私にもわからない。
だけど、私はリュゼルと共に生きたい。
それに……」
「それに?」
「リュゼルの番が現れても、竜の番契約が最優先になるって聞いた。
相手の人には悪いけどリュゼルが他の人と一緒にいるのが嫌っていうか……」
顔が真っ赤な晴歌を見て、リュゼルは微笑んだ。
「その相手は、俺とハルカが番になれば、別の者が番になるから大丈夫」
「……都合いいよね。その番契約って」晴歌もつられて微笑んだ。
「そうだな」
「契約ってどうすれば良いの?」
リュゼルは晴歌の両手を握り、おでこを合わせる。
「リュ……リュゼル!?」
「違う、契約をするためだ。
目を……閉じてもらって良いか?」
「え……」
「……そんな顔されると困るんだが、強い光で目を悪くさせないためだ」
「あ……そう、なんだ。ごめん」
意識しすぎている自分が恥ずかしい。
「じゃあ……始めるぞ」
触れ合っている額からまばゆい光が漏れているのが、瞼を閉じていてもわかる。
少しずつ額から暖かい熱が広がっていくような感覚がした。
「ハルカ、大丈夫か?」
「うん。大丈夫」
暖かくて、幸せな気持ちになって、ふわふわしてくる。
「リュゼル」
「……どうした?大丈夫か?」
「私も愛しているよ。リュゼル」
リュゼルは目を開けそうになったがグッと堪えた。
「……それ、今いう事か?俺もだよ。ハルカ」




