第3章 15話 やっと、見てくれたね
掴まれた腕は、熱を帯びていた。
リュゼルに城から連れ出され、今は竜の背に乗り空を飛んでいる。
風が当たって寒いが、リュゼルに抱えられ触れているところは暖かく感じる。
二十分くらいこの状況だけれど、一体どこへ向かって飛んでいるのかは分からない。
聞いても何も返事をしてくれないから。
――やっぱり、怒っているのだろうか。
「リュゼル。どこへ行くの?」
「……」
一度も私を見てくれない。
怒っているなら、言ってほしい。
嫌っているなら、放してほしい。
答えてくれないなら、せめて――せめて、私のことを見てほしい。
やっと逢えたのに、苦しいよ。
パリン。パリン。
何かの音に気づいたリュゼルは、周りを警戒し始めた。
(まさか、ペンダントの光の音?)
視界の隅のウィンドウには、【残り:76】。
(ダメだ。落ち着かなきゃ……)
息を大きく吸い、吐く。
リュゼルの腕が少し緩まり、晴歌はその隙をついて逃れた。
「ハルカ!!」
晴歌が落ちてしまうと思ったのか、リュゼルは慌てて手を伸ばした。
イグニシアも驚いたように翼を翻し、下へ向かおうとするが、晴歌の姿が見えなくなっていた。
「どこ、行ったんだ……?」
影がかかり、見上げると晴歌が宙に浮かんでいた。
「やっと、見てくれたね」
目を大きく見開き、リュゼルは言葉を失った。
晴歌はリュゼルとイグニシアの前にゆっくりと移動する。
「――六年前、急にいなくなってごめんなさい。
巨大ダンジョンを作ってしまうこの気持ちを、コントロールするために一人でいたかった。
元の世界にも帰れたんだけど、やっぱりこのまま帰るのも何か違う気がして……」
声が涙声になってきた。
泣くつもりはなかったけど、気持ちが溢れてきて止まらなかった。
「ごめん。私のこと、もう嫌いになっているかもしれないけど、直接謝りたくて。
もう一度、逢いたくて」
リュゼルは黙ったままだった。
目と目は合わせているのに。
(やっぱり嫌われてるよね……)
涙を拭い、晴歌は精一杯の笑顔で伝えた。
「……もう私に会うのが嫌だったら、会わないようにできるから。大丈夫だよ」
「違う。誰にも渡したくない」
リュゼルが低く呟いた。
「勝手に決めるな!
誰が嫌ってるって?俺だって逢いたかった!」
「確かに、嫌いになろうとも、忘れようともした……。
だけど、できなかったんだ!」
晴歌は小さく息をのんだ。
「……でも、怒ってる」
「当たり前だろ!?怒らずにいられるか!
こっちはプロポーズもしてるのに、お前がいなくなったんだぞ!」
「あっ」
「え?」
そうだ。リュゼルから贈られた髪飾りは大事に持ち歩いていたけど、色々あって……。
「……もしかして、忘れてたか?」
「いや!忘れていたというか、余裕がなかったというかっ!!」
「……まぁ、そうだな」
「ギュアッ」
イグニシアが喜びの声をあげる。
リュゼルは頷き、右手を晴歌に差し出す。
「ハルカ。俺はまだ、お前を愛しているし、ずっと一緒にいたいと思っている。
聞きたいことや言いたいこともあるが、まずは、ちゃんと落ち着いて話し合おう」
「うん。ありがとう、リュゼル。」
晴歌はリュゼルの手を取り、イグニシアの背に乗った。
「どこに向かっているの?」
「もうすぐで着く。俺の家だ」
今度は答えをくれた。
昔に戻ったみたいで、懐かしくて、嬉しくて、気持ちが落ち着いていく。
リュゼルの温もりも感じながら、晴歌は目を閉じた。
◇ ◇ ◇
「お姉ちゃん。大丈夫かな……」
城に残されたサラは、窓の外を眺めながら呟いた。
「一人にしなければ良いんだろう?」
所々しか話を聞いていなかったヴァルゼイン王が問い直すと、サラは晴歌がここにいる条件について、改めて説明した。




