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ただ帰りたいはずだったのに、私は壊す者になった  作者: 川浪 オクタ
第3章『壊す者と、壊せなかったもの』

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第3章 13話『竜の国へ』

 王城に一夜泊まらせてもらい、竜族の国ザル=エンハール連邦王国にむかう事になった。


 今回は特例として、ヴィルティア王国とザル=エンハール国をつなぐ転移魔法陣で行くことが許可された。

 直接、城の転移魔法陣に着くように座標を調整してもらい、準備が出来たようなので陣に足を踏み入れる。


「ハルカ、サラ。エリュナをお願いしますね」

 リリアナ王女が、ルディアンたちの代わりに見送りに来てくれた。


 ローブを着た治癒師の女性はエリュナ・セリスド。

 晴歌による竜の番契約が解除されたかどうかを、竜王に確認してもらうためだ。


「はい。私たちも送ってもらう事になって助かりました」

「いいえ。こちらも流行病の情報もいただいた事ですし。こちらこそですわ」


「リリアン様、こちらの文書を渡せば良いのですよね」

 サラは、ルディアンから渡された封書を大切に両手で持っている。


「ええ。必ずこちらに文書でお返事をと」


 リリアナに向かって、エリュナは深くお辞儀した。

「王女殿下、このご恩は必ず……!」


 魔法陣の光は強くなり、3人の姿を包み込んでいった。


 ◇ ◇ ◇


「竜王……ヴァルゼイン様。もう少し離れていただけると……」

「何、大丈夫だ」


 一人、陣の前に腕を組み、仁王立ちになっている男がいた。


 少し離れた側近たちは、怪我をしないかひやひやしながら、その巨大な背中を見守ることしかできなかった。


「わざわざ王が出迎えなくても」

 側近の一人がぼやくと、隣の者も頷いた。

「なぜ転移陣から来るのだ」


 ザル=エンハール連邦王国の転移陣は、城の中庭に面しており、周囲には壁もなく屋根もない場所に設置されている。


 徐々に風が強くなり

 竜王の表情も少し歪む。


(魔力が強いものが利用すると、強い風が起こるのだな)


 後ろの側近たちは徐々に大きくなっていく風に耐えられなくなり、何人かは飛ばされていた。

 柱や周囲の屋根に捕まっている者がいるのが見えた。


「おいおい。このような風で飛んでいくやつがあるか」


 しかし風の強さはさらに増し、竜王も膝を曲げ、飛ばされないように体勢を変える。

 周囲の花や木々はあっという間に飛ばされる。

(これは、屋内に設置した方がよかったかな)


 空気の流れがふっと止まり、まるで時が止まったかのようだった。


 そして魔法陣には3人の女性が現れた。

 3人の中に黒髪の少女がいる。


(彼女は確か)


 異世界から来た少女だ。


「名は確か『ハルカ』だったか……」


 ◇ ◇ ◇


 竜王の玉座の間は、天井が高く窓も大きく、外からの光が程よく差し、空の上にいるような感覚になった。


 ヴァルゼインは、ルディアン王太子からの書状に目を通している。


「……なるほど」

 読み終えると席を立ち、エリュナの正面にきてしゃがむ。


 心臓の位置あたりを指差し、短い言葉を発した。

 すると、指先あたりに小さな光が集まり、徐々に大きくなっていく。

 拳くらいの大きさになると、光は消え、竜王はうなづいた。


「――そうだな。確かに番契約は無くなっているようだ」


 エリュナは、驚き、静かに涙した。

 胸元にそっと手を当てる。そこにはもう、何の光も宿っていなかった。


「ありがとう……ございます……」


「これから、どうする?この国に留まるか?」


「いえ……ヴィルティア国に戻り、王宮治癒師として生きていこうと考えています……」


「……そうか、何も力になってやれなくて申し訳なかった。困ったことがあれば、いつでも伝えてくれ」


 竜王はエリュナの肩にそっと手を置き、わずかに加護の力を込めようとした。


 一瞬、エリュナの肩がこわばった。


「……怖いだろうに、すまない」

 竜王が小さく呟く。


 それでも彼女は逃げることなく、ただ静かに、その手を受け入れた。

「はい……ありがとうございます」


 その様子を見ていた晴歌とサラは、彼女に何があったのか知らされていない。

 けれど、悲しい出来事があったのは確かだと思った。

 聞いてはいけない。察しろ。

 そんな雰囲気だった。


 ◇ ◇ ◇


 エリュナは、城の女性騎士に付き添われ、玉座の間を退出していった。


 エリュナの涙を見ながら、晴歌はふと思う。

 ――もし、リュゼルと会えなくなる日が来たら、私もあんなふうに泣くのかな。


 でも、番契約と違って、私には壊すべき"契約"すらない。


 ただ――いつか、リュゼルがいなくなる日が来ても、私だけがずっとこのままなんだ。


 その考えが浮かんだ瞬間、なぜか胸の奥がひやりとした。



 晴歌とサラは、謁見の間へ移動する。

 ソファに座ることを促され、二人は戸惑いつつも従った。


「さて、この度は迷惑をかけた。彼女を連れてきてくれた事に感謝する」

「あの……何かあったんですか?エリュナさん……」


「ヴィルティア王太子から何も聞いていないのか?」


「竜の番契約のことは聞きました。けれど、エリュナさんのことは……」


 ヴァルゼインは座り直し、腕を組んだ。

「そうだな……彼女は」


 次の言葉を言おうとした瞬間、「ギャア ギャア」と声が聞こえた。


「この声は?」

「この部屋の外からだな」

 ヴァルゼインは立ち上がり、ベランダの方に向かう。


 すると窓の外には、深紅の竜が声を上げながら空を旋回していた。


 この竜は確か……。


「イグニシアか。リュゼルはどうした?」

 そうだ。リュゼルの竜だ。


 実はイグニシア、主であるリュゼルが大切にしている晴歌のことを、すっかり気に入っていた。


 その魔力に気づいた瞬間、居ても立ってもいられず、誰にも告げず単独で厩舎を飛び出してきたのだ。


 晴歌の姿を確認したその竜は、こちらに向かって急降下してきた。


「おいおい。待て。他にも客人が……」


 イグニシアは速度を落とすことなく、晴歌の方へ一直線に飛び込んできた。


 竜王は竜に向かって手をかざした瞬間、晴歌は咄嗟に防御魔法を発動させた。


 防御魔法に弾かれたイグニシアは、大きく弧を描くように吹き飛ばされた。


「あ……」


 竜は城の近くの森へと落ちていったようだ。

 木々の折れる音と、地面に叩きつけられる大きな音が、ベランダにまで響いてきた。


 ヴァルゼインと側近、サラは冷ややかな目で晴歌を見ている。


「ハルカお姉ちゃん……助かったけど、ちょっと酷くない?」


「イグニシア……かわいそうにな……」


 好きな人の竜を私は何てことをしてしまったんだろうか……。

 会うのが別の意味で怖くなっていた。

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