↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ただ帰りたいはずだったのに、私は壊す者になった  作者: 川浪 オクタ
第3章『壊す者と、壊せなかったもの』

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
62/74

第3章 11話『目覚めの朝に』

 パリン――パリン

 何かの弾ける音で目が覚めた。


 まだ、パリン、と音が聞こえる。私の首あたりから。


 体を起こし、ペンダントを見る。視界の隅のウィンドウには、【残り:78】。

 音は、ペンダントの中の光が壊れる音だった。

(無意識に使っちゃったんだ……)


「ハルカお姉ちゃん!!」

 ベッドの横に座ったまま眠っていたサラが、晴歌に気づいて顔を上げた。


「目が覚めたんだね。よかった……!」

 気づけば、客室のベッドに寝かされていた。いつの間にか寝間着にも着替えさせられている。

 窓の外は明るい。一晩、眠っていたのだろうか。


「えっと……侯爵様は……」

 サラがコップを差し出し、晴歌はそれを受け取った。


「侯爵様は大丈夫。少し後遺症は残ってるけど、ちゃんと生きてるよ」

「アティス様は王宮に戻られて……王女殿下も治癒師の人たちも、お城に戻ってる」

「目が覚めたこと、侯爵夫人に伝えてくるね」


 まだ頭がぼうっとして、サラの言葉も半分ほどしか入ってこなかった。


 メイドが近づき、飲み干したコップを受け取る。

「ご無事で安心いたしました。おかわりはいかがですか?」

「あ、大丈夫です。ありがとうございます」


「では、何か軽いお食事でもご用意いたしましょうか。果物がよろしければ、そちらも」

 サラより年上だろうか。もう一人のメイドが、穏やかに声をかけてくる。


「食事ですか……」

 起きたばかりで、お腹が空いているのかどうかも、よくわからなかった。


「四日も眠っていらしたので、体に優しいものをご用意いたしますね」


「四日!?」


「はい。アティスお嬢様も王女殿下も、目を覚ますまではと、ずっと気にかけておいででした」

 ……四日も眠っていたんだ。このだるさは、寝すぎのせいなのかな。


 ◇ ◇ ◇


 目を覚ましてから、二日ほど経った。

 体の調子も戻り、いつも通りまで回復した。


 はじめのうちは、だるさが半端なくて、ベッドから下りるのも一苦労だった。

 すごい量の力を使った反動だろう、というのが侯爵家の医師の見立てだった。

 それでも二日で回復したことに、侍医は目を輝かせて興奮していた。


 明日には王城へ戻る。

 出立の前に侯爵へ挨拶をしたいと、メイドから伝えてもらうよう頼んだ。


 すると、今からでも構わない、との返事だった。

 準備が出来次第、案内の者に従って部屋へ向かう。


 治療のとき、侯爵の部屋はぼろぼろになってしまったので、今は別の部屋で休んでいるという。


 通されたのは、侯爵が休む部屋の隣――以前は美術品が飾られていたという一室だった。

 広々とした空間で、壁にはいくつもの絵画が額に収められて並んでいる。


 ドアが開き、晴歌は侯爵の姿に思わず息を呑んだ。


 左目には眼帯。左手には手袋。そして――車椅子に、座っていた。


(眼帯と、片手だけ手袋……何か、隠してる?)


「待たせたね。まだ、慣れなくて」

 執事が車椅子をテーブルの上座へ進めながら、侯爵は静かに言った。


「明日、王城へ戻るんだってね」

「はい。滞在中は、お世話になりました」

 サラは知っていたのだろう。侯爵が、こうなっていることを。


「アティスに会ったら、様子を見てやってくれないか。あまり、話せなかったものだから」

「あの……侯爵様」


 私の治療は、失敗したんだ。

 謝っても、許してもらえないかもしれない。それでも、言わずにはいられなかった。


「治すことができず……すみませんでした」


 ――しん、と。

 部屋は静まり返り、外の風の音しか聞こえなかった。


 とても長い時間が経った気がした。


「うむ……ハルカ殿。もう一度、君の力で私の中を見てくれないか」

「え……?」

 サラの方を向くと、微笑んで頷く。


「では……」

 晴歌は侯爵の体に、サーチ魔法を展開する。


 今のところ、変わったところはない……?

 ――そうだ。私の破壊の力も、混ぜなくちゃ。

 さらに集中し、深く潜るように魔力を流し込んでいく。


 あれ……?

 どこにも、モヤのようなものがない。

 再度確認しても、足先まで見ても、あのモヤは見つけられなかった。

(なんで?どうして?)


「……ないです。無くなってます。魔物の魔力」


「それは、治ったということにはならないのかな」


「でも……その目と、左手が、まだ使えない状態ですよね」

「そこまで分かるのか」

「え……はい。なんとなく、ですが」


「確かに、体は不便になった。だが、命は長らえた。私は、原因が分かっただけでも良かったと思えているよ」


「……侯爵様は、強いですね」


「強い?」


「はい……強いというか、前向き、という感じで」

「私は、目の前が絶望になったとき、死んでしまいたいって、何度も思いました……。でも、それも出来なくて、苦しくなって、全部、他人のせいにしたときもあって……」



「――私の場合は、ちょっと違ってね」


「?」


「人によって、病とか、辛いときの捉え方には違いがあると思う。私の場合は、苦しいときや痛みがあるときは、このまま死んでしまえばと思っていたよ」


「でもね」

 侯爵は、ふっと目を細めた。


「家族の姿が、目の前にちらつくんだ。ああ……まだ、一緒にいたいなって」

「自分にとって本当に大切なものが、ちゃんとあるんだって。改めて、知らされるというか……」


「……家族の話は、君には酷かもしれないけれど」


「……知っているんですか。私のこと」


「流行り病の対策で、指揮を執らせてもらっているからね。内密に、話は聞かされているよ」

「……そうですか」


「あとは、アティスと恋敵になるかもしれない、とも聞いていたからね」


「!?」

「侯爵様。それはない、と言っているじゃないですか」


「アティスさえ良ければ、ハルカ殿を養女として、家から二人、嫁に出しても」


「他のお家から、苦情と批判が届きますわよ」


 夫人とアーロンが、部屋に入ってきた。

(わたくし)は構いませんけれど」

「ハルカ様が、お義姉様になるのですか!? 嬉しいです」


「え、お二人とも? だから、それは……っ」

 サラが、すっかりあたふたしている。


「ハルカ様。まずは、当主である主人を治していただき、感謝申し上げます」

 夫人の後ろに控えていたアーロン、それに侯爵家の医師、執事、侍女たちも、一斉に頭を下げた。


「そして、私たちまで守っていただいたと、サラから聞きました。なんとお礼を申し上げればよいか」

「……そうなの?」


「そうなんですよ。侯爵の声がして、その後、ハルカお姉ちゃんが侯爵に向けて魔力を放出して……なんだろうと思った瞬間、目の前が真っ白になって。」

「目を開けたら、部屋が爆発のあとみたいになってて、お姉ちゃんは倒れてるし……。」


「でも、リリアン王女と侯爵と、ドアの入り口に結界が張られてたから、私たちは無事だったんです」


「そっか……みんなが無事で、よかったです」


 ペンダントを、ぎゅっと握る。

(この石の光の力も、あったのかな……。本当に、よかった)


「実は私は、重篤な流行り病を克服した第一人者、という意味では……ある種、誇らしくもあってね」


「侯爵様、それは声に出しちゃいけないやつです」

 サラが突っ込むと、侯爵は照れたように笑い、軽く咳払いをした。


 晴歌も、堪えきれず、小さく笑みをこぼした。


 ◇ ◇ ◇


 王城に戻ると、ルディアン王子とアティスとの面会の席が設けられていた。


 のちにリリアン王女も加わり、五人での会談となった。


「ハルカ嬢。戻ってきたばかりで申し訳ないが、お願いしたいことがある」


 その第一声に、晴歌は懐かしさを覚えた。

 ――こんなふうに彼に呼ばれるのは、初めてではない気がした。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。