第3章9話 『壊す力と治す力』
「私はどうなっても良いのです。ただ、王家の人々や他の人たちにもこの病の可能性があるのなら、治していただきたいのです」
「ルディアン様も、それを承知で以前と変わらず私とお会いしてくれています」
「本当は申し訳なくて……」
チェルゾーヴァ侯爵が謎の病にかかっていて、それは他人からうつったということは風邪とか元の世界のインフルエンザみたいなもの?
2年前に完成した薬で緩和するけど、完治にはならない。
時には、侯爵のように酷くなる場合もある。
「ーーとりあえず、侯爵様の様子を見させてもらいますね」
晴歌は侯爵のそばに近づく。
治癒師たちは魔法を止めようとしたが、続けてもらうように頼んだ。
侯爵への治癒魔法を無意識に壊してしまわないか心配だったから。
晴歌が横になっている侯爵に、そっと手をかざした。
元の世界であった、レントゲンをイメージして。
人の魔力の色の中に、ところどころ濃い部分があるのを見つけた。
一番大きく濃い場所は、心臓の位置だ。
他にも濃い部分がある。
今は苦しんでいるので、心臓の動きは速くなっていたり、肺の部分も小刻みに動いている。
でも、サーチ魔法では、特にこれといったものは見つけられなかった。
病気って……風邪とかって、細菌とかウイルスとか体を攻撃するものが入ってくるんだったよね。
体を攻撃……。
細菌とかを私の魔力でできた魔物として考えてみたら……?
私の魔力は壊す力が主で、禁書で蘇生と全属性……。
サーチ魔法に破壊の力を合わせてみれば何か反応あったりする?
淡い期待を胸に、静かに集中して魔力を練り上げた。
ざわ、と魔力が揺れた気がした。
「……これは」
サーチ魔法をさらに私の魔力をなじませると、あるものと同じ魔力を感じられた。
「……嘘でしょ」
あるものと同じ魔力。
魔物。
それも、私が巨大ダンジョンから生み出した魔物に近い。
あながち私が原因という意見も間違いではなかった。
頭・肺・心臓部分に魔物の魔力のモヤのようなものが集まっていて、そこから全身に広がっている。
普通のサーチではわからないかもしれない。
そもそも、この世界の医療は書物と、王宮で少し見させてもらったくらいしか知識がない。
患部に薬や魔法をかけて回復させていた。
体の中をレントゲンみたいにサーチをかけるなんてしないと思う。
私の魔力で、この大きめな「モヤ」を破壊して、治癒魔法で残りを浄化すればいけそうかも?
試しに侯爵の左足の小指に治癒魔法をかけた。
一瞬、モヤは消えたが、何秒もまたず、また元に戻ってしまった。
(血みたいに流れているのかな……)
でもモヤが消えたということは、効果はあるはず。
そのためには大元を消さないとダメかもしれない。
でも、体の中に使うのは初めてで……大丈夫なのか。
晴歌はサーチ魔法を止め、アティスと侯爵夫人の方を見た。
「原因と思われるものが分かりました。私でなら治せそうです」
「本当ですか!? なら早く……」
アティスと侯爵夫人は、晴歌の表情に何かを察したようだった。
「詳しく……お話しした方が、良いかなと思うのですが」
晴歌の声が詰まる。
(魔物の魔力が体の中にあるって伝えても良いものなのか……)
サラも違和感に気づき、晴歌のそばに寄り小声で問いかける。
「お姉ちゃん。原因、言いにくい?」
「……そうだね。原因はおそらく私で間違いないと思う」
体の不調は、魔物の魔力が体にあること。
その魔物は巨大ダンジョンから生まれたもの。つまり、晴歌が作り出したダンジョンの魔物。
サーチ魔法で侯爵の全身を確認したこと。体の重要な箇所に魔物の魔力が集まっていること。
それを完全に消すには、その箇所を破壊しなければならないこと。
「……ただ、私も6年間魔力のコントロールをずっとしてきたから、失敗することは全く無くなったけど、人の中はやったことがなくて……」
サラが静かに続けた。
「でも、他に方法が今のところないですよね」
「そうだね。薬も効かなかったから……」
侯爵は王宮の治癒師二人のおかげで、今は命が保たれているように見える。
でも、魔力も無限じゃない。
王宮から追加で交代の治癒師を派遣してもらうとか……?
でも、この苦しみをずっと続けさせる訳には……。
「そうだったのですね」
二人のそばにはいつの間にか、アティスが立っていた。
「母に説明してきます」
「ちょっとアティス様、待って!!」
晴歌は必死でアティスの腕を捕まえる。
「ーーもしかしたら、侯爵様の体も壊してしまうかもしれない」
再生もできるかもしれないが、むしろ、壊す力の方が強い。
間違って壊してしまったら、侯爵の命もーー。
「ハルカ様」
アティスは晴歌が掴んだ手にそっと触れた。
「お父様であれば、むしろそれを承知でお願いすると思います」
「原因がわかって、治療の仕方も解明されたのですから。あとは実践だと」
「貴方様にしかできないことかもしれませんが、父はこの病の事が二つほどわかっただけでも、この6年間の意味と、自分の病があると言ってくださいますわ」
◇ ◇ ◇
アティスに家族だけで話す時間が欲しいと告げられ、晴歌とサラは静かに部屋を出て、客室で待機することになった。
「サラちゃんは大丈夫?」
「……何がですか?」
「その……体調悪いとかない?」
「……そうですね。今のところ何も」
「私、どうしたらいいのかな。こんな病気作って、広めさせて」
神の世界や、ほぼ6年間一人でいた時、自分がこれほどまでに、長い時間ヒトを苦しめることになるとは思っていなかった。
結局、自分のことしか考えていなかった。
実際そうだった。
魔力や、気持ちのコントロールの事しか考えていなかった。
「ーーなら、最初は侯爵様を治してしまいましょう!」
晴歌が何か言いかける前に、サラが続けた。
「全員救いたい気持ちも分かります。だけど、ああだこうだ考えて誰も救えないよりは、まず近くにいる一人を助けましょう」
サラの笑顔は晴歌の罪悪感を和らげるように、柔らかく降り注いだ。




