↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ただ帰りたいはずだったのに、私は壊す者になった  作者: 川浪 オクタ
第3章『壊す者と、壊せなかったもの』

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
58/74

第3章7話『私、貴女だったら大丈夫かも』

 差し出されたお茶を1口飲む。


 ほのかな柑橘系の香りが、緊張していた心にゆっくりと染み渡る。


「......美味しい」


 つい、ホッとして声に出してしまった。


 黒髪の女性は驚いた顔で私を見ている。


 もしかしてマナー的に良くなかったかも......。


「うん。スッキリしていて美味しい」

「これが以前言っていた、アティス様の領地の特産品ですね」


 隣に座っているサラがフォローしてくれた。

 黒髪の女性はアティス様と言うんだ。


 ルディアンは柔らかく微笑んで頷いた。


「ハルカ、こちらはアティス=チェルゾーヴァ侯爵令嬢。私の婚約者だ」


「婚約者!?」


「ははっ。私はもう25だ。遅いくらいだよ」


 中学校にいた若い先生くらいかな……。

 落ち着いてよく見ると、6年前よりずっと大人びていて、髪も短くなって、芸能人みたいな雰囲気というか……。


「25歳なんですか……」

「いい男になっただろう?」

「え!?」

「ハルカ嬢にそんな熱い視線で見つめられるなんて……嬉しいね」


「ルディアン様!!」


 サラとアティス様が、同時に声を上げた。


「ハルカお姉ちゃん。ここはもうお暇して、リュゼルお兄ちゃんのところに行きましょう!」

「ルディアン様、私という者がいながら……他の女性を口説くのなら、婚約破棄しても構いません!」


「いや、え!?ちょっと、サラちゃん?」


「私が用事があるのはアティス様なので、一度退室しましょう!」


「サラ、アティス、ちょっと待て、冗談だ。ハルカ嬢は全く本気にしていない!!」


 アティス様が私の方を向く。


 紫の大きな瞳に涙が今にも溢れそうになっている。


「……そうなのですか?」

「はい……ただのルディアン王子の戯言です……」


「私は本当の事しか言わないけれどね」


「ルディアン様!!」


 ――この王子はこんなに幼かったかな……。


 ◇ ◇ ◇


 埒が明かないので、アティス様の部屋に場所を移すことになった。


 ちょうど、ルディアン王子の公務があり、時間切れとなった。


「改めて、私はアティス=チェルゾーヴァ。どうぞアティスとお呼びください」


「ハルカです。アティス様、どうぞ私もハルカと」


 侍女が、先ほどとは別のお茶を運んできた。

 このお茶もかすかに甘みが感じられ、自然と顔がほころんだ。

 その様子を見たアティス様が、ふわりと微笑んだ。


「先ほどは失礼いたしました。殿下の事を疑っているわけではありませんが……以前からお話を伺っていましたので」


「お話?」


「側室候補をと」


 お茶を吹き出しそうになった。何を言ったんだあの王子様は……。

 サラは初めて聞いた事みたいで、隣で固まっている。


「アティス様、ハルカお姉ちゃんには別の人が……」


「ええ。伺っております。竜騎士の方でしょう。ですが、この世界は竜の番契約以外であれば、王族は重婚が許されております」

「まだ番契約を行っていないのであれば、可能性がございますもの」


 番契約?

 そういえばナスタもその事を言っていたような気がする。


 ……それに、私は今のリュゼルも昔のリュゼルも詳しくは知らない。


 今も私のことを想ってくれているかどうか、分からない。


「ハルカお姉ちゃん!!」


 サラの声で我にかえる。


「大丈夫だよ。リュゼルお兄ちゃんを信じて」


 温かく淹れ直したカップを差し出され、一口飲む。

「ありがとう。サラちゃん」


 ペンダントの光の数が2個減っていることに気づいた。

 2個で済んでよかった。

 でも、こんな気持ちになるのは今じゃない。


「私は6年前、彼に何も言わずいなくなりました。酷いことをしたと思います……。今も私を想ってくれているかどうか、本人から直接聞いていないので分かりません。だから、自分の目で彼を見て、ちゃんと今の気持ちを伝えたいと思うんです」


「もし、彼と以前みたいになれなくても……それでも、ルディアン王子とは友人でいたいんです」


 アティス様は目をパチパチさせて、しばらくの間、ただ私の顔を見つめていた。


「私、貴女だったら大丈夫かも……」


「え?」


「貴女がルディアン様の側室になっても、ルディアン様に好意を持っても大丈夫そう……」


「アティス様?」


「なんて愛らしいのでしょう……私、今すぐ貴女を着飾って甘やかしてあげたいわ」


 あまりの言葉に、晴歌はサラと顔を見合わせた。


「ルディアン様と一緒にお出かけしても面白そう……フリルのたくさんついた帽子なんか合わせちゃって……」

 アティス様はうっとりと空を見つめている。


「ああもう!! 王族って、変な人ばっかり!!」

 晴歌も、心の底からそう思った。


 ◇ ◇ ◇


「はしたないところをお見せしてしまいました」


「ははは……」

 笑うしかなかった。


「本題に入らないとやばそう」

 サラはボソッと呟き、カバンから布に包まれたものをテーブルの上に置く。

(あれは……私がサラちゃんに渡した薬草のはず)


「アティス様、こちらをお渡しに来ました。チェルゾーヴァ侯爵にお渡しください」

「おそらく、王宮の薬師は調合可能かと思います」


「父に……?」

 アティスは布包みを見て、何かを察したようだった。


「本当に存在したのですか?」


「はい。ハルカお姉ちゃんがいた場所にありました」


「……調合方法は」

「こちらに控えていますが、書物はところどころ朽ちていて読めたところだけ。

 私が薬に詳しくないので、分かる方には分かるかなという感じです」


「……サラ、ありがとう」

 アティス様はサラの手を取り、涙をこぼした。


「お礼は、侯爵様が回復された時に」

「ええ……」


 幻の薬草ということは、もう治らない病気なのかな。

 それだったら急いだほうが……。


「あ、貴族からの個人的な依頼って言ってたのって」


「そうなんです。アティス様からのご依頼だったんです」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。