第3章6話 『6年ぶりの城で』
ヒト族の国、ヴィルティア王国。
各都市に冒険者ギルドがあり、他国からの行き来が多いため、国境や各ギルドなどには巨大な魔力を持つ者が出入りすると、王宮にある管理室に情報が送られるようになっている。
力の弱き者を守り、国の治安を守るため。
空間魔法を応用した、魔道具によって。
◇ ◇ ◇
「ルディアン様! こちらです」
国防の指揮をとる王太子ルディアン・ロア=グレンは、息を切らしながら入室する。
管理室の中央には、巨大な水晶が赤い光を発し、異常を伝えていた。
「……これはいつからだ?」
「つい先ほどです。時々発光してはすぐ消えることもありますが、今回は消えないまま徐々に大きくなっているので、すぐにご報告をと」
今にも水晶が壊れそうな光の発し方だ。
一度、こちらからの魔力を止めるべきか。否か。
「ルディアン様! ご指示を!」
「魔物であれば騎士団の出撃も考えなくてはいけない。——まずは発信点を見つけよう」
「ここです!」
「……ここ?」
「城の転移陣です!」
「城の転移陣に、か?」
「詳しくはまだわかりませんが、おそらく」
「私はそちらに向かう! この件を騎士団にも通知を! 私は魔法で先に行く」
「ルディアン様!? せめて近衛を先に……」
「私の方が早い!」
青白い光の粒がルディアンの姿を包み、次の瞬間にはその姿がかき消えた。
「全く、またですか……何度申し上げれば」
側近が頭を抱えながらも、急いでその後を追った。
通信管理室に残った職員は、席につく。
「ルディアン様……心配です。6年前の出来事から、率先して動くようになったから……」
「そうだな」
せめて巨大水晶が壊れないよう魔力の調整を続けながら、赤い光の原因を調べ、少しでもルディアン様の力になろうと深く決意する職員たちだった。
◇ ◇ ◇
魔法陣のある部屋は、管理室とは城の反対側の端に位置していた。
本来であれば一度外に出なければならないのだが、ルディアンは魔法を使い、転移陣の部屋へ直接飛んだ。
魔法陣は緑色の光を発し、今にも暴走しそうな風を巻き起こしている。まるで受け入れを拒否するかのような、激しい抵抗を感じた。
「転移陣がこうなることは、今まで一度もなかった……」
ヒトであれ魔物であれ、これほどの反応が出たという話は聞いたことがない。
風と光が徐々に荒ぶってくる。天井からぱらぱらと石が落ち始めた。
(どうすれば良い……? 一度ここから離れた方が良いか?)
魔法陣から、金切り声のような音が突如鳴り響く。
魔物の断末魔にも似た音に、まともに立っていられなくなってきた。
(なんだ、この音は……)
「ルディアン様! ご無事ですか!?」
側近らが入口の扉を激しく叩く。
(今、ここを開けては危ない)
「一度、魔法で出る! ここは開けるな」
しかし急いで魔法を発動しようとしても、何も起こらなかった。
「……え?」
何度試しても、同じだ。
やがてルディアンは立っていられなくなる。息苦しさが増し、意識も薄れてきた。
(もう、だめか——)
意識が途絶えかけたその瞬間、時が一瞬止まった感覚がした。
魔法陣の中央に、少女が二人、突如として現れた——
◇ ◇ ◇
「着いた……?」
「ちゃんと着いたようです。ヴィルティア城!」
大きな魔法陣のある部屋には扉が一つ、小さな窓が数個。殺風景だけれど、どこか気品の感じられる空間だった。
「——ねえ、サラちゃん。やっぱり別の場所に移動しない?」
「え? せっかくここまで来たのに?」
「ハルカ!!」
突然、金髪の男性に抱きつかれた。顔は見えないが、身につけている服はとても上等なものだ。
もしかして……。
「ル……ルディアン王子?」
「ハルカ。ハルカ……逢いたかった」
泣いてる……? 肩が、腕が、細かく震えているのを感じる。
見かねたサラが、咳払いをした。
「恐れ入ります、ルディアン王太子殿下。ハルカお姉ちゃんから、離れていただけますでしょうか」
「え? サラ?」
「ハルカお姉ちゃんに会えて嬉しくて抱きつくのはわかりますが……」
「いたのか?」
「……(イラッ)」
「そうか……二人の魔力反応だったのか。納得した」
「納得するのはそこではありません。……チクりますよ」
「……そうだな。私も6年前とは違うしな」
「だったらお姉ちゃんから離れてください!!」
ルディアンの腕が離れ、晴歌は目の前の男性の顔をあらためて確認した。
金髪、緑の瞳、短髪で長身のすらっとした体型。
(まともに顔を合わせられない。王子はカッコよく大人になってるのに。私は……身長も伸びないし、顔もあの時のまま……)
「お……お久しぶりです、ルディアン王子」
「君は変わらないな……初めて会った頃のような、懐かしい気持ちでいっぱいだよ」
(気味悪がられてない……? 黙っていなくなって、怒ってない……?)
再びルディアンが晴歌に抱きつこうとしたので、サラが制止しようとした。そのとき、部屋の扉が勢いよく開き、一人の側近が飛び込んできた。
「ルディアン様? どういうことか、説明していただきましょうか」
◇ ◇ ◇
城に到着してすぐ、二人は湯浴みをさせてもらい、ある一室へと通された。
そこにはテーブルの上座にルディアン、その右隣に一人の女性が座っていた。二人は勧められるまま腰をおろす。
「着いたばかりで落ち着く間もなかったね。申し訳なかった。疲れているところ悪いけれど、話を聞かせてもらえるかな」
晴歌は、ルディアンの隣にいる女性の視線が気になりながらも、努めて穏やかな表情を保った。
黒髪に紫の瞳の、神秘的な雰囲気をたたえた女性だった。
その視線は、ルディアンではなく、ずっと晴歌に向いていた。
そしてもう一人——テーブルの下手側に座る金髪の女性に気づいた瞬間、晴歌は思わず目を瞬かせた。
(セレスティアさん……?)
思いがけない顔見知りの存在に、強張っていた肩から少し力が抜ける。しかしセレスティアは晴歌と目が合うと、かすかに表情を揺らし、すぐに視線を逸らした。




