第3章5話『幻の薬草と、転移先の行方』
旅支度は完了し、しばらく留守にする予定なので、食料や薬草など保存が効くものと、できないものの仕分けに移った。
「お姉ちゃんの家にも薬草多いですよね。庭にも植えてるの見ました」
「そうだね。本を見ながら試しに植えてみたら思ったより育って、時々ナスタに売りに行ってもらってたんだ」
「これは解毒の銀葉草で、熱冷ましの銀露草に……」
サラはある根を指差し固まった。
「サラちゃん、どうかした?」
「これ! この根っこ……」
サラの声が震えている。
「サラちゃん?」
「もしかして……幻の薬草の……」
サラは慌てて胸ポケットの手帳を取り出し、挟んであったメモを広げた。
メモには花の全体図が描かれており、根は種のように固く、ダイヤモンドのような形をしている。
「まさか……これ、たまたまこの森で食べ物を探してた時に見つけたものだよ? 薄暗い森の中で微かに光ってたから覚えてるけど」
「形が……メモと同じです」
サラの指先が震えている。
「一つの植物なのに、蜜や花弁、葉や茎で効果が全部違うって……」
私が持っている本にも載っていない植物だった。
「幻の薬草・ルナシル草の根で間違いないかと……」
サラが息を呑む。
「ここの森なんか、誰も気づかないですもんね……」
「そんなに貴重なの?」
「はい……医者でもどうにもできない病に効くって言われてて……でも何百年も見つかってないんです」
「へえ……必要ならあげるけど」
「良いんですか!?」
「うん。育ててみたけど、どう使って良いかわからなくて。匂いがいいから料理に使ってたくらいだし」
「え……料理に?」
「使い方違った?」
「……地上に降りたら、ちゃんと教えますね」
サラはこの幻の薬草の使い方を、晴歌にどう説明しようか考えながら、支度を手伝った。
◇ ◇ ◇
ドアのノックの音がして、ナスタが戻ってきた。
「支度はどう? 進んでいる?」
「うん。大体は」
ナスタは地上に降りることの条件を伝えてくれた。
サラ同伴とペンダント所持は大前提。
試しで一ヶ月の期間。様子を見て徐々に延ばしていく形になるとのこと。
なるべく一人にはならないこと。
ペンダントが壊れた時はここに戻ってくること。
戻るのに間に合わない場合は、薬を服用し、必ずここに戻ること。
「あとは、行ってみてって感じかしら」
「補足で、ここの場所は私たち以外の人に教えてはいけない、という事ね」
「もちろん、リュゼルにも」
「……もし聞かれたら、どう答えればいい?」
「そうね。地下とかはどうかしら」
「地下深くに結界を張って暮らしていたとか。食べなくても死なないからって言えば、これ以上詮索しないわよ」
「直球すぎませんか?」
「事情を知っている人だったら、これくらいの方が良いかと思うけど。ある程度の顔見知りには……森の奥に結界を張って修行していたで良いんじゃない? 6年前の巨大ダンジョンで戦って、自分の無力さに打ちのめされてーー的な」
「修行……ですか」
「大丈夫だよサラちゃん。ある意味修行だし」
「ハルカお姉ちゃんがそれで良いんであれば構いませんけど……」
「サラ。あなたも口を滑らせないように気をつけるのよ。ハルカと旅ができなくなるから」
「分かりました! お姉ちゃんは私が守ります!」
「ははは……(なんか姉妹みたい。この二人)」
この二人の存在があって、私はみんなに会える。
二人の神にも助けられた。
「ありがとう。二人がいてくれて良かった」
「私もです! ハルカお姉ちゃんと再会できて、これから旅もできるなんて夢のようです!」
「私もよ。なかなか神の世界の橋渡しなんてできないから良い経験になったわ」
「ナスタはこの後どうするの?」
「元の冒険者生活に戻るわよ。父からもこの世界の観察を命じられているの。なら冒険者の方が都合がいいのよ」
「そっか。今までありがとう」
晴歌はナスタの手を握る。
白い神にここに連れてきてもらって、誰とも会わない生活をしていた6年間。
時々様子を見に来てくれたり、励ましてもらった。
「もう会えない訳じゃないんだから」
「そうだけど」
二人は微笑みあった。
その様子を見ていたサラも自然と微笑む。
◇ ◇ ◇
晴歌の小屋の前の広々とした箇所に、ナスタが転移魔法陣を刻む。
(最初はどこに行こうかな。リュゼルのところに行きたいけど、びっくりさせちゃうよね)
「サラ。ちょっとこちらへ」
「私ですか?」
「教えて欲しいんだけど……」
二人で小さい声で何かを話し始めた。
(ティオやフィアナの森でもいいな……この森とは違う空気なんだよね)
「ハルカ。お待たせ。あなたも魔法陣の中央に」
「は、はい」
期待と不安で、少しドキドキしている。
ロボットみたいにぎこちない。
「……緊張しているのね」
「だって6年ぶりだよ」
「ふふ。そうね。あまり変わっていないけど、面白いところへ送っていってあげるわ」
「え?」
「サラにはこの場所の座標教えているから、いつでも戻ってきなさい」
「ねえ面白いところってなに? どこ?」
「じゃあ、いってらっしゃーい」
足元の魔法陣から光の強さが増し、ナスタの姿が見えなくなっていく。
「転移先はヴィルティア城よ」
ヴィルティア城?
王族の人たちがいるところ。
6年前、短い期間だけ滞在したことがある。
でも今の私は——6年間、時間が止まったまま。
みんなは大人になって、私だけ15歳のまま。
そんな姿で、いきなりお城に?
「え? ルディアン王子の? ちょっと待っ……」
晴歌とサラの姿は消え、魔法陣の光は静かに消えていった。




