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ただ帰りたいはずだったのに、私は壊す者になった  作者: 川浪 オクタ
第3章『壊す者と、壊せなかったもの』

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第3章4話『壊れる光』

 ナスタは椅子から立ち上がり、腰の小さな革のバッグの中を開ける。

 そこから取り出したのは、宝石のついたペンダントだった。


「こちらをハルカに」


「うわぁ綺麗だね、ハルカお姉ちゃん」

 サラは目を輝かせながら、晴歌の手の中に収まるそのペンダントをじっと見つめた。


「うん。綺麗だけど……なんか魔力を感じる」


 六角柱の虹色の結晶に、金のチェーンがついている。

 大きさは親指の第一関節ほど。

 結晶の中には、小さな光の粒が浮かんでいる。まるで星のように瞬き、不規則に揺らめいていた。


「初めて見た……」


「それはそうよ。この世界のものじゃないから」


「どういうこと?」


「別世界の鉱物を使用、神二柱の力による作成品だから」


「どういう事ですか?」


(そうだ。サラちゃんはナスタがどういう人物か知らなかった)


 ◇ ◇ ◇


「なるほどです……」


 ナスタがさらりと自分の出自を語ったあと、サラはしばらく呆然としていた。


「神様って……本当にいるんですね」


 小さく呟いたサラの声は、どこか震えていた。


「――で、なんとこのペンダント。ハルカが作り出すダンジョンの出現する力を抑える魔力が内包されています!」


 元の世界にあった、通販番組のような語りに気を取られ、思わず笑いそうになった。


「……もう一回、ゆっくりお願いします」


「あ、ごめんなさい。ちょっと興奮しちゃった。だってこのペンダントの魔力含有量すごくて」


 少し恥ずかしそうに、咳払いをして、彼女は改めて説明を始めた。


 このペンダントは、ハルカの感情の昂りに反応する。

 ダンジョンが発生してしまいそうな時、このペンダントの中の光が破裂し、その代わりに出現を抑える。

 現段階で、光の数は九十九個。ダンジョン一つに対し、一個の目安。

 百個目でこのペンダントの宝石は砕け散る。


「――というものになります」


「なるほど……白い神も一緒に作ってくれたんだ」


 もしかして、こういう誰かの補助的な事が得意なのかも。

 白い神と黒い神とのやり取りを想像すると、心が少し温かくなった。


「そうね。父も喜んでいたわ」


 ナスタも優しそうな瞳をし、微笑んだ。


「晴歌お姉ちゃん。これがあれば、一緒に旅できますか?」


 サラは晴歌をまっすぐ見つめる。


(できるかもしれない)


 でも、それは確実ではない。

 実際試してみたいけれど、今すぐ答えを出せるほど、晴歌には自信がなかった。


「そうね……」


 ナスタは晴歌の目の前に立ち、冷ややかな表情になった。

 ゾッとするような殺意とは違う雰囲気を纏う。


「これを言うのか迷ったけれど、リュゼルが竜の番契約をした」


「え……?」


「あなたが姿を消した間、彼の心は空っぽになった。何も言わずにいなくなったんだものね。それを埋めてくれたエルフの女性と出会い、先ほど番契約をしたようよ」


 ペンダントの光が一個壊れる。


(番契約……リュゼルが、誰かと……?)


 詳しくは知らない。でも、それが大切なものだということは分かる。

 頭の中に、リュゼルの隣に立つ見知らぬ誰かの姿が浮かんでくる。

 顔も姿もはっきりしない。ただ、そこに自分はいない。


「嘘です! 私は何も聞いてないです!」


 二個。三個。


「サラ。あなた地上にいたのはいつ? 最後に知り合いと連絡取ったのは?」


(あの時、リュゼルは私の隣にいてくれた)

 でも今は違う。

(今、リュゼルの隣にいるのは……)


 四個。五個。六個。


「……それは。でも誰もそんなこと!」


「敢えて言わなかったかもしれないわよね。彼女は美しいエルフだそうよ。竜族の番契約――ああ、あなたは詳しく知らないわよね。簡単に言えば、生涯の伴侶を定める誓いよ」


(生涯の……伴侶……?)


 番契約が何なのか、詳しくは知らない。

 でもその言葉の重さだけは、痛いほど胸に突き刺さる。

 リュゼルが誰かと。自分じゃない誰かと。


 七個。八個。


「そうだよ。そうなってもおかしくない。私黙ってリュゼルから離れた……」


 九個。


「お姉ちゃん! 私確かめてくるから、落ち着いて!!」


 サラが晴歌の両腕を掴む。


「あ……。ごめん……サラちゃん。私」


 手の震えと口の震え。うまく話せない。

 でもこういう時は、深呼吸だ。

 自分に無理やり言い聞かせるように。


「大丈夫?」


「うん……ありがとう」


 サラは心配そうに、掴んでいた手をそっと放す。


「――とりあえず、一度地上に戻って連絡取ってみるね。ここ通信用水晶届かないから」


「大丈夫よ」


「何がですか?」


 晴歌を悲しい思いをさせたナスタを睨む。

 それをナスタは確信した顔をして頷く。


「あれは嘘だもの」


「はぁ!?」


「嘘」


「嘘でも言って良いことと悪いことがあるじゃない!」


「でも、そのペンダントの効果は得られたでしょう?」


「あ……」


 晴歌の視界には、

【残り:90】というウィンドウが現れた。


「残り何個?」


「……九十」


「でも、ダンジョンができる時の地鳴りや出現した様子はないようよ」


 ナスタは腰にぶら下げていた懐中時計のようなものを開き確認している。


「……そういえば、お姉ちゃんと会った昨日は」


「リュゼルの話してたでしょう? 少し反応があった」


 本当にこのペンダントを身につけておけば抑えられるんだ。

 念のため、薬も持ち歩いて……。


「あとは、サラも同行することね」


「私ですか?」


「前の時も仲間はいたけれど、力のせいで距離を置いたと思うけど、それぞれ役割があったのと、晴歌に並ぶ力を持つ者が他にいなかったと思うの」


「あとは――サラには何か守護が働いているようなのか、晴歌達とは違う別の力も感じるのよね」


「だから抑え役として一緒に行動してくれる適任というか」


「はい! なります! そのためにAランクまで上げたんです」


「どう、ハルカ?」


 いきなりの申し出にかなり混乱しているが、それでも晴歌の胸の中は高揚感で満ちていた。


「――行きたい。みんなのところに」


 ◇ ◇ ◇


 昼食を終え、ナスタは一度報告のために黒い神の元へ戻った。

 その間、サラに手伝ってもらいながら、旅の支度を行う。

 この小屋へはいつでも転移できるように、ナスタにお願いしているので、必要な荷物を最小限にする予定だ。


「サラちゃんて何か依頼とか受けてる途中じゃないよね?」


「んー大丈夫ですよ。気の長い依頼なので」


「気の長い依頼?」


「えーっと知り合いの貴族からの個人的な依頼で、薬草の入手なんですけど、幻の薬草と言われているくらい、見つけるのが難しいとされているんですよ」


「……そんなのあるんだ」


「国の蔵書に載っているので、あることはあるんだけど、その記載が何百年前で」


「それは……まさに幻の薬草って感じだね」


 旅の支度を進めながら、晴歌は改めて思った。

 ペンダントの力があれば、みんなと一緒にいられる。

 リュゼルにも、ちゃんと会える。


 ナスタが戻ってくるまで、サラと二人で準備を続けた。

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