第3章 1話『森に迷い込んだ少女』
「ここ、一体どこなんだろう……っ、いた」
木々の緑の中で異質に映えるローズピンク色の髪が、荒れた枝に引っかかった。
飛行魔法で旅をしていたが、強風に流され、何かに引き寄せられるように森の奥へ落ちてしまった。
「もう髪、切ろうかな……あの人みたいに、肩くらいでもいいかも」
枝から髪を切ろうとした、その瞬間――
左前方から、草をかき分ける音がした。
(……誰!?)
探索魔法は常に展開していた。
だが、何も引っかからない。
(……おかしい)
いつもなら、周囲の気配が“色”として浮かぶはずなのに――
何も返ってこない。
まるで、森そのものが魔法を飲み込んでいるみたいだった。
(魔法……うまく使えてない? そんなはず……)
もう一度、集中する。
それでも結果は同じだった。
魔法が使えないなら……頼れるのは自分の感覚だけ。
息を殺し、耳を澄ませる。
音が、さらに近づいてくる。
身動きができない代わりに、両手に剣を握る。
(髪が引っかかったままだけど……仕方ない)
木々の隙間から、人影が見えた。
相手も気づいたようで、足を止める。
◇ ◇ ◇
「……あの。大丈夫ですか?」
女の子だ。声の高さからして、自分より年下に思えた。
声には、確かに緊張が混じっている。
周囲に他の人間は――確認できない。
「えっと……髪が木に引っかかっちゃって」
「……取れそうですか?」
「一人じゃ無理そうだから、切っちゃおうかなって」
「え、待って」
声の主は、小走りで近づいてきた。
緩く三つ編みにした黒髪と黒い瞳。
紫色のローブに、若草色のケープを羽織っている。
(嘘……)
六年前、私は彼女に会っている。
助けられている。
髪は肩くらいまで短かったけれど、あの目は間違いない。
(もしかして……)
声が震える。
「ハルカお姉ちゃん……?」
――姿は、あの時から変わっていなかった。
◇ ◇ ◇
「え……?」
黒髪の少女は鋭い目つきでこちらを見つめ、雰囲気が一瞬で変わった。
まるで敵と対峙した時のように、全身に緊張が走る。
(もしかして、気づいていない?)
「貴女。なぜ私を知っているの……?」
その気迫に、言葉が出てこない。
「わ……私は、サラ・フェリオン。六年前にダンジョンで助けてもらった……」
「……六年前?」
「私、宿屋の娘で……お母さんのお見舞いの帰りに……ダンジョンに、迷い込んじゃって……」
少女の表情が変わった。
「……サラ……ちゃん?」




